モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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五十九話 三度目、陸の女王

 準備は万端。

 フラムはアイアンガンランスを古代式回転銃槍まで強化した。単純に鋭さも増したが、それ以上に砲撃タイプが通常型から拡散型に変わったことが大きいだろう。

 拡散型の砲撃は通常型の二倍以上の威力を持つ。攻撃範囲もグッと広くなる。

 

 ルーフスはガララアジャラの防具を作成した。聴覚保護のスキルがあり、装飾品も駆使することで高級耳栓が発動している。これがあればモンスターの咆哮が殆ど効かなくなる。

 ただ見た目は気に入らないようだ。全身黄色だからね。

 あとアイアンアックスを精鋭討伐隊剣斧に強化した。攻撃力が増していて、切れ味も良くなっている。

 メテオキャノン……今の強化段階では本当はメテオバズーカと言うらしいが。

 

 僕はそれにシールドをつけた。パワーバレルで威力を上げることも考えたが、相手はリオレイア。生存重視でこちらをつけた。

 武具の素材集め中にちゃんと目的の物も用意できたしね。

 

 

「ティラさん、リオレイアの狩猟依頼はある?」

 

「ちゃんと何枚か用意しておきましたよ。森丘、古代林、遺跡平原、未知の樹海……こんな感じですかね。遺跡平原と未知の樹海は狩猟環境不安定のようです」

 

「古代林のを受けるよ」

 

「はい。契約金もピッタリですね……。アオイ、本当に大丈夫? 前はメリルさんがいたけど今回は……」

 

 

 ティラさんは心配そうに僕達を見渡した。

 リオレイアは星四つのモンスターだ。ただ、同ランクのモンスターの中では強力な部類に入る。

 他の星四つモンスターは状態異常を駆使する癖の強いモンスターが多いがリオレイアは基本性能の高さで危険度が高い。

 ブレスもサマーソルトも突進も……何もかもが必殺。

 前衛のフラムとルーフスには負担を強いることになる。

 

 

「アオイ? 作戦と準備を考えたのはアオイなんだから不安そうな顔とかやめてよ」

 

「アオイのやり方に不備があったら僕達は口出しをしたよ。……まぁ不満は少しだけあるけど。でも仕方ないことだから気にしない。自信を持ったら?」

 

「……うん。ありがとう」

 

 

 意識を切り替えるように頬をぺシペシ叩き、胸に手をあてて深呼吸。少しだけ冴えてきた気がする。

 ティラさんはそれを見て安心してくれたのか、そういうことにしてくれてるのか、優しく言った。

 

 

「行ってらっしゃい。無事に帰ってきてね」

 

「うん。行ってきます」

 

 

 僕はただそれだけ言って飛行船へと歩き始めた。武器も道具も防具もちゃんとしてる。

 陸の女王を狩って、早く高みに行かないと。

 

 

 

 

 ……緊張感を移動時間中も維持し続けた結果、途中で切れて眠ってしまっていたらしい。

 固い床だったせいで体がちょっと痛い……。ストレッチでもすればすぐに治るか。

 飛行船から降り、ベースキャンプまで移動し、僕はストレッチを始めた。フラムとルーフスは辺りを物珍しそうに見渡している。

 古代林には始めてなのかな。僕も久々だし、まだ二回目だけどね。

 

 

「林って言うわりにはベースキャンプの立地は高いんだね」

 

「こんな目立つ場所、本当に安全なのか……?」

 

「今のところ襲われてないみたいだし気にしないでいこう」

 

 

 肩掛けバックを担ぎ、荷車を引き、ベースキャンプを出る。

 エリア一の目立たない場所に荷車を置き、首がとても長い草食竜、リモセトス数匹の近くを遠慮気味に早足で進み、エリア一からエリア六に移動する。

 

 エリア六は広い平原で障害物は殆どない。エリア中央の方には別のリモセトスの群れ……親子? がいた。全部で三匹。平和そうに草を食べている。

 

 

「……始末する?」

 

「問題ないよ。それに、リオレイアの気配を察知するのは草食竜の方が上手い」

 

 

 平和な光景を見て最初に出てくる言葉が始末のあたり、ハンターって物騒だなって思う。でもジャギィとかランポスだったら無言で殺ってたし、何も思わなかっただろうけど。

 

 

「二人は開幕で徹底的に削ってね。その後は僕が火力を出すよ」

 

「ん。……リモセトスがそわそわしだした」

 

「……弾こめたから、急にマッカォとかが来た時はお願いね」

 

「分かった。構えとく」

 

 

 睡眠弾レベル2装填したままボウガンを担ぎ直す。マリンさんにたっぷりと恩を売って色んなテクニックを教えてもらったおかげで緊張はしても失敗の不安はなかった。

 

 周りを見渡しすと澄みわたる空を一つの影が舞っていた。緑色の甲殻と鱗を纏った陸の女王、リオレイア。

 

 

「来たよ……」

 

 

 自分に言い聞かせるように呟き、ポーチに手を入れる。

 リオレイアがゆっくりと降りてきた。こちらに気づいているが、リオレウスと違い、空中で咆哮をしたり、火球を吐いたりはしない。飛行能力が高くなく、できないからだ。あくまで陸で攻めるのがリオレイア。

 地面まであと三メートルくらいのところでポーチから閃光玉を取りだして投げた。

 強烈な光が広がり、リオレイアを叩き落とした。空中にいる相手に使えば目を眩まし、バランスを崩させ墜落させられる。

 フラムとルーフスが両サイドから突っ込んだ。二人が大火力を出している間に、僕は睡眠弾レベル2をひたすら撃ち込む。視力が戻るまでに少しでも早く眠らせないと。

 

 重たい弾のせいか反動が強い。それでも強力な睡眠毒はほんの数発でリオレイアを眠らせた。

 無言で駆け寄り、落とし穴を設置する。その間にフラムはリオレイアの頭部の方に移動し、ルーフスはリオレイアの背中のあたりに移動した。

 設置した罠が回転し地面に突き刺さる。落とし穴を作るためネットを張る直前、フラムがガンランスを構え、点火した。

 古代式回転銃槍の名前の通り、攻撃時は槍全体が高速で回転する。鋼鉄が唸る。回転数が上がっていき、砲身から火花が散る。

 落とし穴完成目前、といったところで竜撃砲が放たれた。

 蒼い炎が真っ赤に変化し、膨大な圧と熱が共に膨れ上がる。

 爆音が大地を揺らし、残熱が陽炎のようになり、景色を歪めた。

 

 キツい目覚めの一発で頭部の甲殻を何枚か抉られながらリオレイアは立ち上がろうとした。

 立ち上がろうとして踏み出した一歩目で落とし穴を踏み抜き、穴にはまる。抜け出そうと暴れたせいでネットが絡みつき、抜けづらさが倍増。

 フラムとルーフスはすぐに攻撃態勢に移り、ありったけの火力を叩き込みはじめた。

 

 初動は待ち伏せからの閃光玉で打ち落とし→眠らせて爆破からの落とし穴→そのまま麻痺させて最後に閃光玉で目を眩ませて逃げる、と作戦を立てた。

 陸の女王の名前は伊達じゃない。走らせれば何もかもを薙ぎ倒すし、火を吐けば狙われたものは消し炭になる。サマーソルトに要注意? 何もかも直撃したら即死の威力なので問題ないです。

 でもどんなに重たい一撃だって動けなくしていればどうということはない。

 

 四発目くらいだろうか、麻痺弾が着弾し、拳大の黄色い煙が出た。

 その瞬間、リオレイアの体が硬直し、重力に従って地に伏せた。麻痺毒が効いたようだ。

 

 フラムとルーフスがありったけの攻撃を叩き込んでいると、麻痺が解け、落とし穴からリオレイアが飛び出した。そのタイミングで閃光玉を炸裂させ、もう一度地面に叩き落とした。

 

 

「逃げるよっ!」

 

「うん。……ちょっといい、アオイ」

 

「何? ルーフス」

 

 

 リオレイアから走って離れながらルーフスに聞く。

 

 

「最っ高に最低だね! 自然への畏敬の念が欠片もない!」

 

「いや、僕思ったんだよ。なんで正面から挑まないといけないんだろって。そもそも僕達の方が力がないんだからこれくらいのハンデ当然だよ」

 

「私、正直ピッケル振って鉱石とるのと何が違うんだろって思い始めたんだけど」

 

「……気にしない方向で、ね。僕的には不本意だけど完全に拘束するのにも限界があるし。もう少しの辛抱だよ」

 

 

 麻痺させるのも眠らせるのも二度目は現実的じゃない。残りはシビレ罠と徹甲榴弾、あとは調合分含めて五つの閃光玉。あと爆弾。逃げ出したのは罠を準備するため。怒り狂った女王と真っ正面から勝負? 酷い冗句だよ全く。メリルとかマリンさんがいても極力避けたい。

 

 

「今更だけどなんで今日はここまで徹底してるの?」

 

「いや、まぁ色々あるからね」

 

 

 ミドリがもうそろそろ帰ってくるみたいだし、渡したい物もあるし。それに怪我でお留守番はもう嫌だ。

 それに……誰かを守るならまず身近な人から危険を取り除くことから始めるべきだしね。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

「――中距離走だよ! 陸上の格闘技、とか言われてる中距離走だよ!」

 

「800メートル走は小型モンスターを討伐しながら荷車を引く競技じゃないんだよフラム⁉」

 

「アオイは小型モンスター狩りもしてないし荷車を引いてもいないんだから気にしないで!」

 

「荷車を押してはいるんだけど? というか荷車の上の爆弾がガタガタしてて怖いんですけど!」

 

「爆弾はちゃんと信管を抜いてるから落ちても爆発しないよ! そもそも発案はアオイなんだから文句言わないでよ」

 

 

 爆弾を運ぶ速度とは思えない速さで走り続けている。今更ながら実はこの作戦、リオレイアにやられる可能性より爆死する可能性の方が高いのでは。

 この作戦を考えた奴はきっと馬鹿なんだなぁって思う。

 

 

 

「アオイ、そろそろ見えてくるよ」

 

 

 ルーフスが前で速度を落とし、僕達と並行し始めた。

 悪路を悲鳴をあげながら踏破し、洞窟の出口に差し掛かった。

 

 

「荷車はここに置いてく。ペイントは……うん。この先にリオレイアがいないから正々堂々と待ち伏せして奇襲できるね」

 

「うん、しっかりと騎士道精神に中指立てた戦いができるね」

 

「じゃあフラム、ルーフス、作戦通りに」

 

「うん。作戦戦通りに」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 ……誰かを守るとか言いながら危険な役割を人任せにする僕って本当に騎士道精神を侵してる。

 僕が囮になるのを二人は頼りないからって認めてくれなかった。

 二人はきっとしのぎを削るような、戦闘がしたいと思ってハンターになっている。だから率先して受けてくれたのかもしれない。

 

 真っ正面からの勝負は自然に対する礼儀と考えられている。でも根底にある考え方は自然との調和。本質としては乱獲を防ぐためのものに過ぎない。……この罠と毒浸けの手段はあんまり使わない方が良いか。これからは。

 

 荷車から爆弾を運び、フラムやルーフスが通っていった通路の脇に置く。運んでいる間、こころなしかペイントボール特有の甘い匂いが強くなった。

 二人がリオレイアを連れてくるのも近い。

 爆弾の場所を調整し、万が一リオレイアがブレスを吐いても直撃しないようにする。

 そして爆弾から十分に距離をとり、シビレ罠を設置。その五歩後ろくらいで起爆用の貫通弾を装填し、待つ。

 

 

 

 

 

「アオイー! リオレイア連れてきたよー!」

 

「構えてー!」

 

 

 そんなひきつった顔で言われましても。

 まずフラムが僕の横を通りすぎ、すぐにルーフスがその後を追った。

 その直後リオレイアが顔を出した。煮えたぎった瞳は射殺さんとばかりにこちらを睨んでいて、獰猛な口元からは炎が漏れでている。

 

 そんなリオレイアがこちらを見るなり、地面を砕く勢いで蹴り、突進してきた。

 轢き殺そうってか。でもそれは叶わない。

 引き金を引く。貫通弾が音と一緒に駆け抜けていき、リオレイアより微かに後ろにあった爆弾に着弾した。衝撃を与えられた大タル爆弾は大爆発を起こした。

 リオレイアは体をつんのめらせ、顎が地面に擦りつけられる。そして勢いのまま顎で地面を削りながらそのままシビレ罠を踏んだ。

 ビクンっとリオレイアの全身が揺れ、電流が身体中を痙攣させる。

 

 

「ルーフスは尻尾を、フラムは脚をお願いっ」

 

「らじゃー!」

 

「了解」

 

 

 徹甲榴弾を装填し、頭に狙いを定め撃つ。

 徹甲榴弾の爆発は頭に着弾すれば脳を揺らす。複数回繰り返せば気絶させられる。

 このままスタンさせて、タコ殴りにした後、また閃光玉を浴びせて逃走する。

 

 ……僕以外にもこの方法を思いついた人は必ずいるはずなのに、なんで一切教えられたことがないんだろ。

 

 興奮気味だからか妙に時間がゆっくり流れているように感じられる。そのせいで変な思考をしてしまう。……いつかもこんなことをしたせいでピンチになったな。早く思考を切らないと。

 

 首筋を汗が伝っていったのを無視しつつ、僕は淡々と頭を狙い続けた。

 

 


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