モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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五十八話 手紙

 ガララアジャラを狩猟し、ルルド村に帰ってくると真っ先にルナが迎えてくれた。

 

 

「お帰り、アオイ」

 

「ただいま、ルナ」

 

「怪我はなさそうだね。ミドリとメリルから手紙が届いているよ。あとアルブスちゃん? からも届いてるけど……誰?」

 

「アルブス……アルフか! 訓練所の友達だよ。久しぶりだなぁ」

 

「アルフから手紙って本当? 私のもある?」

 

「あるわけないじゃん姉さん……」

 

 

 二人がここに来てるなんてアルフが知ってるわけないしね。アルフかぁ。二年ぶり? くらいなのかな。もう少し少ないか。肌も髪も真っ白。眼は紅くて見た目の印象はウサギとか雪の精とかそんな感じの女の子。話し方とか雰囲気は独特。

 

 

「ほらほら読んでみてよ」

 

「いや、手紙を読み上げるのはちょっとね」

 

 

 家に帰ってから部屋で読もうかな。あと装備をクロウさんのところに出しておかないと。他にも依頼達成の報告をティラさんにしないといけないし……マリンさんにも感謝の旨を伝えたいところ。

 やることが多いなぁ。そんなことを考えているとフラムが察してくれた。

 

 

「私が依頼の報告に行ってこようか?」

 

「じゃあフラム、お願い」

 

「うん」

 

 

 フラムは頷き、快諾してくれた。そして、歩き出したのを見届けて、僕は家に歩を進めた。

 吹いてきた風が草の香りを運んでくる。辺りの田んぼには膝くらいの背丈の草が生い茂っている。今年はいつにも増して大規模に農作をしているような気がする。

 もうそろそろ梅雨の時期だからか水路の補強も頻繁に行われている。

 いつも以上の農作、梅雨の前の水路補強。それと数ヵ月後に控えた豊作祭のために働かされているハンター達。ルルド村は今までで一番賑やかなのではないだろうか。

 家に帰り、誰もいないと知りつつもただいま、と呟き、風呂場に直行する。……臭いはとれてるし、消臭玉の副次効果で汚れも残ってないのだが、やっぱり洗い流さないと不快感がある。

 ただ洗うためだけのお風呂に時間はかからない。適当な服を着て武具を持って自室に入り、ベッドに腰かける。

 手紙は二つ。少し迷ってから先にアルフの手紙を開いた。

 時候のの挨拶は面倒だからと省かれていた。親しき仲にも礼儀ありなんかの理由で残り少ないインクを使いたくなかったらしい。

 話し言葉で書かれていて、ラフな文字からアルフの表情や声までも感じられる。

 

 『久しぶりだな、アオイ。非力さは相変わらずかい? 私は可愛らしい女の子二人とパーティを組んでいるんだ。順風満帆だよ。

 星四つのモンスターですら互角以上に戦えるパーティなんだ。それに、聞いて……失敬、読んで驚くなよ? 先程書いた女の子の内一人は二つ名を持っているハンターなんだ。もう片方の師匠らしい。……この話はまたいつか。インクが少なくてね。

 とりあえず、私は元気にやっているよ。できればアオイの近況も聞かせてほしい。宛先は書いておくから暇があればお願いだ。あと、ルーフスとフラムに会ったらよろしく言っておいてくれ。あいつら実家の場所すら教えてくれなかったからな……。機会があれば君の故郷に行こうと思っている。その時は昔のように一緒のベッドで寝ようじゃないか。では、また。』

 

 

 ……フラムもルーフスもここにいるなぁ。というかアルフも女の子なんだから一緒のベッドで寝ようとかその話し方とかどうにかしたらいいのに。せっかく見てくれは良いんだから。

 気がつけば僕はとても穏やかな気持ちになっていた。懐かしさと温かさが心に同居している。

 アルフからの手紙を丁寧に畳み、封筒に戻し、引き出しの中に入れた。

 そして、今度はミドリからの手紙。

 アルフとは対照的でカッチカチの文字で時候の挨拶まで書いてある。

 

 

『その、半年ぶりだねアオ。怪我の具合はどうですか?

 まだ痛んだりしない? その、本当にありがとうね。それと、ごめんなさい。今度は私があなたを守れるように頑張る。

 最近はリオレイアとかナルガクルガみたいな星四つのモンスターをパーティで安定して狩れるようになったんだよ。まだまだメリルに頼りきりな部分もあるけどね。

 今ね、三人でパーティを組んで狩りをしているんだ。

 三人目の子、とっても良い子だからきっとアオイとも仲良くなると思う。この手紙が届いてから……そうだね、二週間後くらいには村に帰ると思う。その時に紹介するね!

 そろそろインクが無くなりそうだから書き足りないけど終わるね。またねアオ。帰ったらすぐ行くね。』

 

 

 僕も謝らないといけなさそう。ミドリは僕がまだ怪我で動けないと思っているのだろう。こりゃミドリが帰ってきたら謝り合戦になるな。

 二週間後か。それまで何をしてようかな。

 ルナの依頼で近場のものをこなしながら待ってればいいか。ミドリの手紙を丁寧に畳み、封に入れて引き出しに入れた。……よく分からないけど大切にしよう。

  

 

 クロウさんのとこに武具を出し、武器はまだ作らんのか、と聞かれて曖昧な笑顔を浮かべたり、マリンさんに教えてもらったことが役に立ったと言えば、じゃあ私が働かされてたことメリルに黙っていてねと口止めされたり。

 

 

 やることが思ってたより少ないなとか考えながら家に戻った。部屋に戻り、またベッドに腰かける。二週間後だっけ。あまり使ってないカレンダーに目を滑らせる。

 ……あれ、二週間後のこの日って確か?

 

 

「アオイっ!」

 

 

 部屋の扉が勢いよく開いた。開けたのはフラムだ。

 びっくりした。手紙読んでいるときだったら手元が狂って破ってんじゃないかと少しだけ肝を冷やす。

 

 

「ノックくらいしてよ……」

 

「ん、ごめんね」

 

「姉さん、男の子の部屋にいきなり入るのはお互いのためにも、駄目なんだよ?」

 

「そういう意味ではないんだけど……」

 

「アオイはいつもノックしてるよね」

 

「……まぁ普通だよね」

 

 

 アルフの部屋に入る時にノックを忘れて扉を開けようとしたんだよな……。鍵が閉まってたからガチャってなってその上、着替えてるから待っててーとか言われた時は恥ずかしさで死にそうになった。

 僕の持論だけど躾に一番いいのは恥だと思う。習慣づけに必要なのは言葉による教育じゃなくて恥ずかしさでの教訓。あれ以来ノックの意識は倍くらいになってる。

 

 

「今の間ってもしかして姉さんは気付いてないだけで、姉さんの部屋をノックせずに開けちゃったことがあるってことなんじゃ?」

 

「ない。それはない」

 

「二重の否定は図星の証拠」

 

「本当にないんだけど」

 

「……アオイ義兄さんってもしかして異性に興味ない?」

 

「その言い方だと同性に興味があるかのように聞こえるんだけど」

 

「……年上好き? 年下好き?」

 

「普通に同年代くらいでいいです」

 

「じゃあ姉さんを」

 

「さっき否定したばっかりじゃないか……」

 

 

 このままじゃ無限ループしそう。はいと答えるまで問われ続けそうで怖い。

 

 

「あのアオイ、ルーフス? 私の意思も尊重して?」

 

 

 幸い、フラムの主張のおかげでこの話は終わりそうだ。そう思ってた。

 

 

「えっ、アオイ義兄さんじゃ駄目なの」

 

「うん。別に悪くはないけど、徹甲榴弾とか拡散弾とかをドンドン使ってくれる人の方がいい」

 

「この通りだよルーフス。僕じゃそんな反動の強い弾、たくさん撃てっこないだろ? そういうのはありえないんだよ」

 

 

 とても自虐的で辛い。フラムもルーフスも納得してしまっているのも辛い。つまり超辛い。

 これ以上話すと僕が自殺しちゃう。いやしないけど。する勇気も動機もない。

 

 

「フラム達は何を言いにきたの?」

 

「そういえばそうだった。えっとね」

 

 

 フラムはとっても魅力的で綺麗な笑顔を浮かべた。

 

 

「リオレイアを狩りに行こう!」

 

 

 ……リオレイア。一回目はメリルとミドリに撃退してもらって二回目はまぐれとメリルのおかげだった。

 僕はあれから成長していない。いや、少しはしていると願いたいけどでもリオレイアにとどいているだろうか。

 一つ一つは避けられないことはないけど、何度も何度と攻撃されれば分からない。

 

 

「どうして急にリオレイアを?」

 

「いや、ね。狩れたらいいなって」

 

「そう」

 

 

 装備を万全に。道具を完全に。情報も十全に。それだけやればきっと……。

 

 

「十日かけて準備をしよう。それだけやったらピンチなんかにきっとならない」

 

「うん、まぁ」 

 

「まずは武器の強化。それから作戦と道具の準備をしよう」

 

「……うん。分かった!」

 

 

 なんとなく不満そうだが、フラムは返事をしてくれた。ルーフスに目を向けると苦々しく笑っていた。

 ……何か原因なのかな。

 

 

 


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