モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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 すみません、一週間遅れました。
 言い訳ではないですが今話は長めです
 


五十七話 模倣

「……ッ!」

 

 

 ルーフスが拘束から逃れようと必死に体をよじっている。しかし、抜けられる気配はない。

 少しでも僕の体が、動けば……。

 

 

「……」

 

 

 ルーフスが弱々しく声を出しているように見えた。声は分からない。

 指がピクリとだが動いた。神経が起き始めたみたいただ。早く全身が動くようになってくれ。今ならまだギリギリ間に合うはず。

 

 時間が早い……いや遅い。指は動く。手首もかりうじて動く。ただ、ボウガンを撃つ動作はできない。

 無意味に感覚は正常になり始める。音も思考も在る。でも、それでも体は石みたいに固まっている。

 罠を壊された時点で逃げるべきだった? 不審に思ったときにもっと警戒するべきだった? 後悔先に立たずとはこのことか。

 ……?

 背後から強く地面を踏みしめる音が近付いてきた。

 

 

「……、……!」

 

 

 フラムが力強く駆けていった。そして、勢いのままガンランスを抜刀し大きく強く一歩踏みこむ。

 ガンランスを地面に突き刺し、棒高跳びの要領で浮き上がる。ポールと違って高くは飛ばないが、それでも二メートルくらいの高さまで、勢いを損なわずに飛んだ。

 体は前に、砲身は後ろを向く。

 そのタイミングでフラムは空中で砲撃をした。

 

 

「はぁぁぁッ!」

 

 

 地上と違い、空中では摩擦は殆どない。

 つまり、フラムは一切の抵抗ができない状態でガンランスの反動を受ける。

 文字通り弾丸のような速度でガララアジャラに詰め寄り、そのまま、ガンランスを縦に振り、勢いごと重さをガララアジャラの頭に叩きつけた。

 まるで大砲でも撃ち込んだかのような威力だ。ガララアジャラはその一撃でフラつき、倒れた。

 とぐろも緩み、ルーフスが脱出した。

 ……あ、動ける。体が動く、動くぞ。音も戻ってきた。

 ガララアジャラが倒れている内に追撃しよう……いや、一回逃げた方が良いのか?

 フラムは砲撃の花を咲かせ、ルーフスは重たい一撃を仕返しとでも言わんばかりに叩き込んでいる。

 よくよく見ればフラムのガンランスの刃が零れ始めていて、ルーフスはいつもより攻撃のキレが悪い。

 

 

「……っと」

 

 

 僕は僕でまだフラつくし、痛みもある。それにフラムやルーフスはそれ以上だろう。

 

 

「フラム、ルーフス、一回逃げよう」

 

「了解」

 

 

 武器をすぐ納め、ガララアジャラにペイントボールを当て、僕は真っ直ぐにエリア境界である崖に向かって走り出した。

 振り返るとルーフスだけが追ってきた。フラムは頭に手を当てて辛そうにしている。

 

 

「ルーフス、先行ってて」

 

「ん? あぁ、それなら僕が運んだ方が……あ、成る程」

 

 

 ルーフスは僕がフラムを担いげないことを懸念したようだが、手に持ってた怪力の種を見て納得してくれた。

 一粒飲み込み、フラムの傍に行き、担ぐ。肩に乗せる感じで。

 

 

「わわわっ」

 

「ば、バランスが! じっとしてお願いっ」

 

「う、うん!」

 

 

 さっさと走らないと。……怪力の種飲んでいるのにフラム重たいなぁ。 

 

 

「変なこと考えてないで早く早くっ。ガララが動き始めてるっ」

 

 

 言われてみれば音が聞こえるような。というか何で考えてることが分かったんだ。

 下り坂を駆け降りる。その度に足にいつも以上の衝撃があり、一歩一歩が重いせいでどんどん加速していく。

 

 

「アオイアオイアオイッ早い怖い止めて止めないでッ」

 

「聞こえない聞こえないっ」

 

 

 最後の止めないでで察した。後ろからガララアジャラが追ってきてるんだね。ヤバい。

 いや、気のせいかもしれない。今止まったら危なそうだからフラムは止めないでって言ったのかも。

 前を走っていたルーフスが少しずつ近づいてきた。

 

 

「アオイも姉さんもガララアジャラを連れてこないでよっ」

 

 

 ルーフスは悲鳴をあげるように叫んだ。どうやら本当にガララアジャラは後ろから追ってきてるらしい。

 

 走っていくと途中で足元に水が流れ始めた。別のエリアだ。まだついてくるガララアジャラがしつこい。

 ルーフスが足でブレーキをかける。足元を水が流れているせいで滑る。ルーフスは止まりきれずに滑りながら、体を動かし反転させた。水しぶきが少し飛ぶ。

 

 

「ルーフス、回復と体勢の立て直しが目的っ」

 

「分かってるって!」

 

 

 ルーフスはポーチから閃光玉を取り出した。

 そのルーフスの横を僕は走り抜けた――直後、石を踏んづけた。

 

 

「わっ」

 

「ちょっとっ」

 

 

 転ぶようなヘマはしなかった。バランスをとるために一歩踏み込んだ。その瞬間、背後から閃光が駆け抜けた。

 

 

「ガララアジャラに閃光、はいった」

 

「ナイス! はやく逃げるよ」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 更にエリアを移動し、そこからベースキャンプまで僕たちは走り抜けた。ちょうど来た道を戻ってきたことになる。

 

 

「目がぁ……耳がぁ……お腹も痛い……頭痛もする……」

 

 

 フラムが半泣きでベッドに横たわっている。

 フラムはルーフスを助ける前のころに、ガララアジャラのブレスが耳元を通っていった。

 そのせいで耳どころか頭まで痛くなったらしい。

 そして、逃げているとき、僕の肩がお腹に食い込んで痛かったらしい。ついでに石を踏んでバランスを崩したときに目を開けてしまい、閃光玉を直視したそうな。

 

 

「姉さん、さっきはありがとう」

 

「……いいんだよー。色んなところが痛い……」

 

 

 回復薬は怪我を治すもの。痛みをとるならマヒダケ。ただその他は自分の体で治すしかない。

 

 

「水飲む? ルルド村の水には治癒の力があるみたいなんだ」

 

「んっ? それって」

 

「飲まない?」

 

「飲む、飲むよ」

 

 

 後頭部のあたりに手を添えて顔を少し持ち上げ、横たわっているフラムの口に水を注ぐ。

 

 

「……まぁ、水だよね。でもなんとなく痛みがひいたきもする。ありがとう」

 

「それなら良かった」

 

 

 回復薬を飲み、元気ドリンコを飲み、武器の手入れを済ませ、ベースキャンプを出る。

 桜色の鳥が一斉に羽ばたいた。鳥達は僕たちの頭上を群れをなして飛ぶ。その光景はまるで桜吹雪のようだった。……鬱陶しいな。フンとか落ちてこないだろうな。

 地図を開き、ルートを考える。このエリアの隣でまいたから、いるとしたら……。

 

 

「ガララアジャラ、私達が逃げた方向を警戒しているみたい。あと、最初に会ったエリアに戻ってる」

 

「そうなんだ。って、なんでそこまで分かるの?」

 

「勘だよ勘。でも当たると思うよ」

 

 

 正面から行ったら迎え撃たれる。奇襲されるよりかはそれでいいのだが、一度視線を切っている以上、どうせなら先制攻撃をしたい。

 

 

「崖から行くのは?」

 

「その辺りにはいないから厳しいかも」

 

 

 フラムが僕の地図を覗きこみ、大体このあたり、と指を指した。その場所はエリア7との境界だった。

 ここに行こうと言おうとしてフラムの方を向くと、フラムも同じ考えに到ったのか、僕と同じタイミングでこっちを向いた。

 

 

「決まりだね」

 

「ねー」

 

 

    ○ ○ ○

 

 

 エリア6――

 暗くてじめじめしている。常に日が差さないのか湿り気が多く、キノコが群生している。

 毒テングダケが通常より大きく成長していて、そこからいかにもな色をした液が染み出していた。

 これだけキノコが生えているのは頭上を天井のように覆う蜘蛛の巣のせいもあるだろう。太い糸で作られた巣がこのエリアの暗さに拍車をかけている。

 

 

「その液、踏まないようにね」

 

「分かった。確かここを登るんだよね」

 

「うん。後ろ見とくからフラム、先に行って」

 

「ん」

 

 

 フラムは壁を軽快に上り、安全を確認するとオッケーサインを出していた。

 

 

「相性抜群だね」

 

「なんとなく昔を思い出してきただけだよ」

 

「そういう意味じゃないんだけど」

 

「とりあえずルーフス、後ろ見てて。先に登るから」

 

「了解」

 

 

 個人的にはルーフスとも相性が悪くないつもりなんだけど。でも僕が迷惑をかけることがよくあるから微妙なところ。

 蔦を伝って登りきる。心なしか寒気を覚えつつ、ルーフスに登ることを促す。

 ルーフスが登っている間は蜘蛛の巣ごしにルーフスの足元の索敵。

 特に危険もなく全員、無事に登りきった。

 

 登った先ではより蜘蛛の巣が多くなっていた。木なのか岩なのか判別できないくらいに糸でベタベタになっている無数の柱が糸の天井を支えていた。既に効力を失っているのか、元々そういう作りなのかは知らないが、天井の糸に粘着力はあまりないようだ。

 頑丈そうだし、その上を歩くこともできるだろう。

 

 

「この下でガララアジャラが待ち構えてる」

 

「辛抱強いモンスターだね。僕たちが逃げてから四十分は経ってると思うんだけど」

 

 

 頭が良いモンスターだから僕たちが必ず来ると確信しているのだろうか。それとも探しに行って罠を仕掛けられるのを恐れている?

 どちらにせよ、あのモンスターは上からの攻撃を想定していないはずだ。

 

 

「ルーフスが先に降りて、その後を私が。アオイが最後に飛び降りると良い感じかな」

 

「フラムとルーフスが同時に飛び降りるのじゃ駄目なの?」

 

「私はルーフスよりスピードを出せるから」

 

「……まぁガンランスを背負ってるから仕方ないね」

 

「念のため言うけど、重さは落下速度と関係がないんだよ?」

 

「……先に行ってくる」

 

 

 ルーフスが最初に飛び降りた。その後すぐにフラムが飛び降りた。

 ……体重って落下速度に関係ないのか。じゃあ僕とフラムとルーフスが同時に飛び降りたら大体同じになるのか。体感とちょっと違う。

 崖下を覗きこむと、フラムの悲鳴が響いていた。落ちてるから悲鳴をあげてるんだよね。ガララアジャラに勘づかれてて襲われたわけじゃないよね?

 

 

「さて、降りるか」

 

 

 そう自分に言い聞かせながら、弾を一発装填する。怖いときに声を出すと怖さが軽減するらしい。

 みっともなく行こうか。

 大きく息を吸って……

 

 

「わあぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 大声を出して、僕は真っ直ぐ飛び降りた。

 

 

 

 

 

 真下で砲声がした。フラムのものだろう。まだ着地には早いから空中で撃ったのか。……あぁ、だからフラムはルーフスに追いつくと言ったのか。上に向かって砲撃をすれば、落下の速さは増す。

 速さが増せば勢いを生かした一撃は当然、重たくなる。

 

 ガララアジャラがそろそろ本来の大きさに見えるような距離になってきた。

 そして、フラムとルーフスがガララアジャラの頭に同時に重たい一撃を叩き込んだ。

 

 

「すぐに離れてッ」

 

 

 メテオキャノンを真下に構え、二人の様子を見つつ、照準を定める。

 弾速、着弾地点、二人の位置を計算に入れて、引き金を引くために指に力を入れた瞬間――フラムの声が響いた。

 

 

「アオッ避けてッ」

 

 

 そんな声が聞こえ、撃つのを一瞬躊躇った。その直後にガララアジャラが僕を睨んだのが見えた。気付かれた、それとも意識された、フラムとルーフスを無視してまで?

 二人が落ちてきたことで上が警戒されたのだろうか。照準をずらして引き金を引き、とっさに落下の軌道を反らす。

 反動が落下の速度と合わさって強烈な衝撃を体に加わる。これ以上は下に落ちるまでは動けない。

 地面との距離を計り、受け身のタイミングを待っていると、不意に横合いからガララアジャラが突進してきた。 

 僕を飲み込まんとばかりに口を大きく開いて。

 地面に落ちる直前。僕は視界が一瞬で真っ暗になった。

 反射的にナイフを突き立てる、が傷はつけられても奥まで刺さらない。ただ、食道? が途中で傾斜をつけ緩やかに曲がっているお陰で勢いが弱まった。

 それなりに狭いおかげで気を抜かなければこれ以上下に落ちることは無さそうだ。伸縮性があるようで、体もある程度なら問題なく動かせる。

 ただ熱いし、息苦しい。あと恐ろしく臭い。

 ガララアジャラにも通用するかは知らないが、ヘビの食事は獲物を丸呑みにする。一週間もすれば骨すら残らないという。防具はモンスターの酸による攻撃も防ぐための加工がしてある。……防具は半日くらい持つだろう。そもそも胃まで落ちなければ消化されることもない。

 酸欠というか、気を失わないようにしないと。

 さて、どうやって出ようか。ポーチの中に何か良いものないか? 弾と水と回復薬……使えないな。えーと。

 

 最初に思い浮かんだのはこのまま肉をかっさばいて外に出る方法。

 ……ついさっき刺したときは数センチもいかなかったのに? 穴を開けるのは時間がかかりすぎる。これは後回しで。

 口から脱出する? ここを登るのか。これはわりといけそうなきがする。ナイフを手がかり足がかりにして慎重に登ればどうにか。

 飲み込もうと脈打ってるからそれに逆らいながら進むから急ぐ必要もあるのか。

 そう考えて、ナイフを突き立てた瞬間、激しく周囲の肉壁が波打った。そして、体が持ち上げられる感覚が湧いた……と思えば今度は上向きの重力……頭を下にして落ちる感覚。あ、待って。ポーチから弾が弾が!

 

 もしかしてガララアジャラは地面に潜ってるのか?

 ガララアジャラの全身……というか体内が激しく動き、地面を突き進んでいく衝撃が伝わってくる。

 ポーチに入っている比較的出番の少ない弾が落ちないように頑張りつつ僕は考える。

 

 なんで地面を……もしかして逃げてる最中? このエリアから下に潜って降りて渓谷を通り、そのまま巣があると思わしき別のエリアまで一気に移動するのかな。

 もう一度上に向かっての移動があれば巣に向かっていると断定できる。

 なんでこのタイミングでエリアから出た? 二人から逃げた? だいぶ体力は削ったけどまだ六、七割くらい。ガララアジャラが大きく不利になったわけではない。

 体が仰向きになった。ということは谷底まで下り終わったのか。そんな思考をしてから数秒後、今度は垂直に上り始。

 二人から逃げたじゃなくて……離れた?

 なんで離れた。攻撃されないため。不利になっていないのになぜ離れた。……有利になるため?

 こいつがさっき、やったことは……?

 成る程。この後の行動も読めた。 

 背面にあるヘビィボウガンに通常弾レベル3を装填する。もちろん中では撃たない。跳弾するし、反動でバランスを崩して胃まで滑り落ちても困る。そもそも装填するのにひと苦労。

 

 準備が終わった頃に重力の感覚がいつも通りになってきた。移動が終わったのだろう。

 ガララアジャラの体内が再び脈打つ。それを合図に呼吸を止め、目を閉じた。

 足元から猛烈な勢いで胃酸がせりあがってきた。それと一緒に僕もガララアジャラの中の運動で口元へと一気に運ばれ、胃酸と一緒に吐かれた。

 

 

「ぷはっ!」

 

 

 悪臭からは解放されてないが、少しだけマシにはなった。全身にへばりつく粘液を払いつつボウガンを構える。

 ガララアジャラのやっていることは各個撃破。さっきは二人の身動きをとれなくして残った一人を殺そうとした。今回は一人を無理やり孤立させて邪魔されない場所で撃破しよう、といった算段か。

 

 

「二人が来るまで、持久戦かな」

 

 

 飛び降りれば逃げられるだろうが、それをさせてくれそうには思えない。ダウンをとってもそれが演技の可能性すら脳裏にちらつく。非現実的なことにさえ備える。

 ガララアジャラは早速、僕を囲いこむように動く。予想通りだ。僕は当たり障りのない行動をして、そのまま囲わせた。

 ここから上手くいくかどうかは分からない。ただ、一心不乱に頭を働かせて、見えない場所も見て、弾道をシミュレーションして。

 ここはガララアジャラによって囲われた、閉鎖した空間。上と下以外ならどこに撃ってもダメージを蓄積させられる。自分に当たってはいけない。

 馬鹿だし、狂ってるし、無謀。でも不思議と成功すると思ってるし、他の策もないと直感している。

 迷いは気がつけばなくなっていた。

 どこまでも澄んだ気持ちで僕は引き金を引いた。

 

 初弾がガララアジャラの胴体にめり込む。次弾の発射はそれと同時だった。

 初弾が跳弾し、僕の真横を掠め、また胴体に着弾。二発目の弾はそのころには跳弾しはじめていた。

 三発、四発、五発。

 僕を中心としたガララアジャラの囲いの中で弾丸が暴れまわる。何発も何発も僕の視界を横切っていく。

 恐怖は秒刻みで増えていく。それも加速度的に。

 でもそれ以上に自分が高揚しているのを感じた。

 みるみるうちにガララアジャラの甲殻や鱗が弾けとび、肉に弾丸がめり込む。

 ガララアジャラは怯んでも囲うのを止めない。

 僕に対しての有効な攻撃手段が他にないのか?

 ブレスはモーションが長すぎるから初見じゃなければまず当たらない。鳴甲はもう通じないことを悟っているはず。一度受けた罠をたかだか一時間程度で忘れる訳がない。

 もしかして本当に攻撃が出尽くしたのかな。

 囲ってくれるならマリンさんの狩りで予習したこれが役に立つ。跳弾をフルに生かして、回避不能の弾幕を張ること。今やってるのはそれの応用だけど。

 囲むために範囲を絞れば、それだけ弾幕の威力は増す。連射量を維持し続ければ拮抗させられる。

 

 僕はマリンさんほど経験はない。なんならフラムやルーフスより少ない。そもそも平均の下。運だけが悪くない。

 ただ、マリンさんの業を見てうっすらと思ったことがひとつある。模倣くらいなら、できるのではないかと、と。

 今の僕だと常に三発程度の弾が空中にある状態までいけた。マリンさんはこの三倍はやっていたけど。

 

 無心でいればいいものを、余計なこと、いらないことを考えたせいで手元が僅かに狂う。

 角度がずれた弾丸がガララアジャラの甲殻に当たり、跳弾し、その弾丸が空中で別の弾と衝突した。

 空中で弾が跳弾し、その一発が普通の倍くらいの勢いで僕の腰に着弾した。

 

 

「ッ――!」

 

 

 防具のおかげでいくらかダメージは緩和されているが、それでも普通の弾より幾分も速くて重い。

 ただ空中でぶつかった弾のもう一方はガララアジャラの頭部にめり込み、ガララアジャラを怯ませてくれた。

 弾丸同士がぶつかると勢いが増す?

 試すのは……無理。現実的じゃない。

 今やっていることを堅実とは呼ばないけど、欲を必要以上に出さなければガララアジャラにジリ貧を押しつけられる。

 レベル3通常弾を装填しなおす……。あれ? ない。弾がない。

 まだ四十満たないくらいしか撃ってない……あぁ落とした弾丸もしかして殆どレベル3通常弾だったのか。

 ついでに徹甲榴弾もない。あるのは防具に仕込んであるレベル2通常弾だけ。

 さっきまでみたいに博打が上手くいってようやく五分。今は博打すら打てない。いやさっきのよりずっと低い勝率に賭けるしかない。

 

 

「やってやる――」

 

「あ、アオイが無事だ!」

 

「でも頭を打ってるみたいだ」

 

 

 フラムとルーフスが崖を登ってエリアに入ってきていた。いやルーフス失礼だな。

 二人は僕の横まで進み、武器を抜いた。

 ガララアジャラは鳴甲を振動させ始めた。

 

 

「ここで倒す!」

 

 

 フラムの掛け声とガララアジャラの咆哮が原生林に同時に響き渡った――。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

「……いや、アオイ義兄さん。それはないよ」

 

「討伐するところだよね」

 

「……そうかな?」

 

 

 二人が突撃した瞬間、僕は落とし穴を仕掛けた。ガララアジャラもこの期に及んで罠を仕掛けるわけがないと思ってるって信じつつ。

 罠を仕掛けてから戦闘すること数十秒、ガララアジャラは自ら罠を踏み、そこに僕は捕獲用麻酔玉を投げて眠らせた。

 いや、捕獲した方が早いし安全じゃない。

 

 

「……なんかアオイ、臭いよ?」

 

「さっきまで飲まれてたしね。落葉草探すの手伝ってくれる?」

 

「別にいいけど……。よく冷静だったよね」

 

「途中でつっかえたから胃までいかなかったからかな。すぐには命の危険がないってわかれば大丈夫だったよ。そっちこそ意外と冷静だったね」

 

「蛇の胃は獲物を溶かすのに時間がかかるってルーフスが知ってたから。でもちょっと怖かったんだよ?」

 

「うん……ごめん」

 

 

 思っていたより数段申し訳なさそうな声が出た。それを聞いて反省してると思ったのか、空気を切り替えるようにフラムは楽しそうに呟いた。

 

 

「アオイを食べるなんてガララアジャラは健康的なのかな」

 

「あはは。だからフラムが食べられなかったのかな?」

 

「……太ってないもん。というか私と同じくらいでしょ?」

 

 

 むー、とフラムが唸る。どうだっけか、と考えてるうちに落陽草を見つけた。

 

 

「見つけたー。調合して、と」

 

 

 調合して消臭玉を作り、地面に叩きつける。うっすらと冷たい香りがし、悪臭があっという間に消えていく。

 

 

「あの、アオイ義兄さん」

 

「ん、何?」

 

「今さらなんだけどさ」

 

 

 ルーフスはガララアジャラの黄色い甲殻に触れる。

 

 

「この色の防具、なんか嫌なんだけど」

 

 

 

 

 僕達は無事にガララアジャラの狩猟クエストを終えた。星四つのモンスターでも僕達はちゃんと狩れた。

 ……いや、運が良かっただけか。もっと慎重に、安全に狩りにいくべきだな。危ない場面が何回もあった。

 

 ガララアジャラの防具のデザインって個性的で良いと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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