モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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五十六話 共鳴

 フラムがガンランスを突き出す。溜め砲撃をするのか切っ先から赤い炎が噴き出していた。ガララアジャラはそれを見て咄嗟に体を退いた。

 

 

「らぁぁぁッ!」

 

 

 後退中の体に復帰してきたルーフスのスラッシュアックスが叩き込まれる。フラムの砲撃は回避したが、こちらはクリーンヒット。

 ガララアジャラは怯みながらも、大きく移動して僕たちから距離を取った。

 そして、白い息を吐き出し、怒りで大地を鳴らした。

 

 途方もなく強力な音が響き、耳を塞ぎ、耐えるのに手一杯になる。

 残響がまだ鳴り止む前にガララアジャラは大量に鳴甲を撒いた。

 

 耳の痛みがまだ残ってるが、無理やり動く。

 鳴甲を片っ端から撃って破壊していく。ガララアジャラは壊されるそばから鳴甲をどんどん追加していく。

 そういえば僕の方にばっかり飛んでくるな。でも的は大きい。動きながらでも砕くのに支障はない。

 フラムもルーフスも攻撃しようとはしているが、牽制されたり、避けられたりしている。

 

 これだけ壊されれば普通撒くのを止めると思うのだが。ガララアジャラは狡猾で知能の高いモンスターと聞いている。これに気付かないとは考えられない。

 じゃあ、なんでだ?

 理由を考えようとした時だった。

 ガララアジャラが大きく動き、フラムを囲んだ。

 

 

「何度やったって同じっ」

 

 

 フラムがガンランスから赤色の炎を噴かせ、構えた。竜撃砲はクールタイム中だから溜め砲撃なのだろう。

 フラムが砲口をガララアジャラの頭部に向けた瞬間、ガララアジャラが激しく動いた。

 フラムを囲うのを止め、素早くルーフスを囲んだ。

 ルーフスは一瞬虚を突かれたようだが、すぐに反応し、胴体に斧を叩きつけた。

 効いてはいるようだった。だが、ガララアジャラはスルスルと動き、ルーフスを囲んでいく。

 通常弾をガララアジャラに向けて、撃つ。弾倉が何度も空になり、その度に弾を装填していく。だが、ガララアジャラは動じず、ルーフスを追い込んでいく。

 フラムも攻撃し続けたのだが、一向に怯む気配がなく痺れを切らしたようで、大きく踏み込んだ。

 

 

「せいやぁぁッ!」

 

 

 重たい銃槍を片手で、縦に振り下ろした。叩きつけた瞬間、重たい音が響く。その音は攻撃の威力をありありと示していた。

 だが、それでもガララアジャラは怯まない。

 ガララアジャラが後ろ足を強く踏みしめた。

 

 

「ルーフス、逃げろ!」

 

 

 ルーフスが一か八かで、顔と尾の隙間から逃げようとした時だった。

 ガララアジャラは上半身を勢いよく伸ばし、まるで弾丸のように進み――叩きつけをして隙ができたフラムに噛みついた。

 

 

「フラムッ」

 

 

 金属を切断機にかけたような嫌な音が響いた。ガララアジャラは飛び出した勢いのまま数十メートルを一気に滑っていった。

 

 止まり始めた頃にガララアジャラがフラムを噛み砕こうと顎に力を入れたのが見えた。止めようと次弾を装填し、狙いをつける。その直後にフラムが弾き出された。

 ザザミ防具が堅かったお陰だ。衝撃をうまくいなせたのだろう。

 フラムはその勢いのまま地面を転がり、途中で一度跳ね、うつ伏せになった。動く気配はない。

 ……麻痺毒か。それとも気を失っているのか。どちらにせよガララアジャラをどうにかしないと。

 ガララアジャラを睨む。目が合った。

 切れ目に嘲るような感情が見えた。不意打ちを決めてこちらを嗤っている? ……いや違う。

 

 

「ルーフスっまだ何かあるッ」

 

「……分かった」

 

 

 僕たちがまだ気づいていない罠が何かある。早く見つけないとまずい。

 徹甲榴弾を装填する。分かるまでは威力を叩き込もう。

 ルーフスもとりあえず火力を叩き込む考えに至ったのか、スラッシュアックスを変形させ斧から大剣に変えた。

 ルーフスが肉薄し、ガララアジャラに斬りかかる。

 ガララアジャラはそれを尻尾で受け止めるが、重たくなった攻撃を完璧には受けられず隙を作った。

 その隙だらけのガララアジャラに徹甲榴弾を撃つ。

 普通に撃てば防がれていただろう。だが徹甲榴弾はガララアジャラに避けることも受けをすることも許さず、腹に突き刺さり、激しく爆ぜた。

 

 ガララアジャラは苦しそうにしながらもすぐに体勢を立て直し、大きく息を吸い、口元をこちらに向けた。

 

 

「……ッ」

 

 

 咄嗟に横に飛んだ。マリンさんが言ってたな。一応ブレスを撃つって。ブレスは視認出来なかったが反応が遅れたのは確か。見えない何かが横腹を掠めた。

 叩かれたようなヒリヒリとした痛みと圧されたような鈍い痛みが残る。爆風と似ている。熱があるかないかの違いはあるが。

 残響が耳鳴りみたいな音をたてて辺りに吸い込まれていった。

 

 ふつふつと周囲の細かいものが動いた。

 地面が揺れているのかと思ったがそうではない。

 震えているものはついさっきまでガララアジャラがたくさん飛ばしてきた鳴甲の残骸。

 それが全て、ほぼ同時に破裂した。

 

 

 

 

 

 

 マリンさんは言った。鳴甲には近付くな、と。壊せなんて一言も言っていない。

 鳴甲はさっきのブレス……音の塊の高音に反応して内部で音を反射させて増幅させる。それは鳴甲の耐久を音の力が上回るまで続く。

 結果、封じ込めきれなくなった音の力が爆発する。

 

 平衡感覚が消え、音が単一になった。

 視界には空と地面が縦に半々になって映り、頬に冷たい土の感触があった。

 ……体が重い。錆びだらけの歯車にでもなったような気分だ。硬くて動かない。

 

 

 ルーフスがこちらを向いて口を動かしている。

 ガララアジャラが引き寄せるように尻尾を動かした。

 ルーフスがそれを回避できず、ガララアジャラのとぐろの中心まで吹っ飛ばされる。

 ガララアジャラはそのルーフス囲うのではなく、とぐろを小さく絞り、締め上げた。

 

 

 体を動かさないといけないのに。

 

 目の前にいる人間も助けられずに何が誰かを守る、だ。

 

 ……マリンさんが言ってたな。二つ名を持つハンターはパーティの壊滅経験があると。

 こういうところで一歩を踏み出せるから彼ら彼女らは二つ名を与えられ、英雄になっていくのだろう。

 

 ――僕もそうなりたかった。そうありたかった。

 

 しかし、願っても願っても体はピクリとも動かない。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 背伸びをしてポストの蓋を開けた。

 

 

「あ、ミドリからアオイ宛の手紙だ! ……アルブス・ペーパスさんもアオイ宛の手紙?」

 

 

 ミドリからの手紙はがっちがちに緊張して書いたような小綺麗で丁寧な宛名が書かれていて、アルブス・ペーパスさんからの手紙はいたって普通の行書で書かれていた。アルブスさんはアオイの友達かな。

 

 

「私宛のは……ユクモとベルナ村からのは後ででいっか。ドンドルマからは……ミドリからのと、メリルからもきてる」

 

 

 私の分もあったんだね。封筒を丁寧に開けて中の紙を開く。

 なになに、拝啓ルナ・アルミス様~。

 

 メリルは前半で近況を淡々と報告してきた。後半はミドリへの愛が詰まってて砂糖吐くかと思った。

 私はハンターじゃないからよく分からないけど、手紙からは健全なペースで依頼をこなしていることが伺えた。

 ミドリはちょくちょく怪我をしているようだけどそんなに大きいものはなくて掠り傷とかちょっとしたものみたい。唾つけとけば治りそうな怪我ですら仔細に説明されていて引いた。

 ミドリからの手紙はメリルと概ね同じ内容を主観をたっぷり交えて書いてあった。狩りを生き生きと満喫している姿が目に浮かぶ。

 

 私もちょっとミドリに手紙を送ってみようかな。アオイが怪我から復帰したこと、絶対に知らないだろうし。

 

 そう考えた瞬間、唐突に扉が開いた。

 

 

「珍しいですね、ルナが手紙をまともに読んでいるなんて」

 

「ミドリとメリルから手紙がきたからね」

 

「そうですか。そういえば、本当に良いんですか?」

 

「ん、何が?」

 

「ドンドルマの一角を買ってしまっても」

 

「買う準備をして唾つけておくだけだよ」

 

 

 ドンドルマは大陸最大の大都市。三方を険しい山に囲まれ、唯一平地に面する部分は強力な防衛設備で固めている。この世界で最も堅牢な場所だろう。

 精度の良い古龍観測や才能と努力を手に駆け上がった傑物もゴロゴロいる。対モンスターなら最高の防衛力を持っている。

 恐らく、ここが陥落することはない。

 

 だから避難場所としてこれ以上のところはない。

 

 

「もう来なければいいんですけどね」

 

「そうだね。でもいずれ必ず来るよ」

 

 

 備えあれば憂いなしとは言うけれど完璧に準備しても災いがくるのは心配だ。

 

 

「ルナの大量出費の理由は分かったよ。でもナイトの二枚のコインって何?」

 

「川がデザインされているものと女の子が書かれているものだったかな。特注らしいよ」

 

 

 表も裏も全く同じなんだっけ。イカサマに便利そうだね。このコインの表はこっちだ、とか言ってコインをすり替えれば別の絵柄を出すだけで騙せる。

 ナイトのコイントスには気をつけておこうかな。

 

 

「この程度の謎の出費は日常茶飯事ですし? いつも通り売り上げから抜き取りましたけど」

 

 

 ティラは置いてある手紙を手にとって宛名を眺めながら素っ気なく言った。

 四通目を手に取ったところで急に目の色を変えた。

 

 

「ベルナ村のネコ嬢さんからの手紙……文字から怒りが読み取れるんですが。また何かしたんですか?」

 

「まだ何もしてないよ。ちょっとまた借りるね! って内容の手紙送っただけだから」

 

「この村を作るときに散々使い倒したのに懲りずにまた借りるなんて言えば流石に怒りますよ」

 

「アイルーちゃんたちには満足してもらってるつもりなんだけどな」

 

 

 マタタビとサシミウオだけで働いてくれるから人間を雇うよりずっと安いから仕方ないね。器用だからやり方を教えると期待通りにやってくれる。

 ……今度はマタタビ、薄めずに振る舞うくらいはしようかな。

 

 

「アオイ達、最近よく狩りに行ってるね」

 

「おかげで私は助かってますよ。心なしかここ村、ハンターは来てくれても料理を食べて水を飲んでそのまま帰っちゃいますし」

 

 

 この村は料理が美味しくて治癒効果のある水が売りって印象を持たれているみたい。

 そろそろこの村を流れてる水、調べた方が良いのかな……。

 

 

「また怪我したりしないといいんですけど……」

 

「うん。弱いのに頑固で無謀なところあるからね」

 

 

 私は自分の顔の口角が上がったのを感じる。きっと微笑みの表情を浮かべている。しかし、何故だろうか。全く、心の底からは笑えなかった。

 

 


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