原生林。溢れんばかりの自然が手付かずの状態で残る地。狩場の中央には超巨大生物の骨があるのもこの場所の特色と言えるだろう。雨が平均より多いが温暖。
人にとって過ごしやすい気候は当然、モンスターにとっても快適な環境だろう。
「着いたー!」
狩猟目標はガララアジャラ。星四つのモンスターということで、ダイミョウザザミ戦の時より、念入りに準備をしてきた。罠二種と閃光玉、大タル爆弾を持ってきた。他にもう一つとりあえず持ってきた物があるのだが……冷静に考えたら使わないな。
「支給品は……いつも通り地図と応急薬とゲテモノに弾丸……あと痺れ生肉か」
「モンスターに罠肉を食べさせる人なんて本当にいるの?」
「疲労している時がチャンスなんだからそれを回復させてまで隙を作っても意味がないのに」
二人とも罠肉に恨みでもあるのだろうか。まさか食べたことが? 流石にありえないか。
「とりあえず中央のエリアに行こうか」
「うん」
フラムとルーフスがそれぞれ先に進み、僕は荷車を引きながら二人についていった。
○ ○ ○
ジャギィやイーオスといった小型モンスターに会うこともなく、すんなりと中央のエリア……エリア5についた。
見上げるとなんらかの生物の骨が覆い被さるように存在している。高さだけで二、三十メートルくらいあるのでは。骨には苔や草がまとわりついていて、年月を感じさせる。
二つばかり高台があり、奥には紫色をした水面がある。たぶん毒テングダケの成分が染みだしているのだろう。
「あ、イーオス」
「本当だ」
二匹のイーオスが目に入る。まだ気付かれていない。
フラムとルーフスが顔を見合わせ、同時にこちらに向いた。とても目が輝いている。
「どうぞ」
僕がそう言った瞬間、二人が全速力でそれぞれイーオスに接近する。
先に近づいたのはルーフス。イーオスが噛みつきかかったのを避け、そのままイーオスの背後まで走る。
そして、片足を踏み込む。その足を軸にしてスラッシュアックスを抜刀しながら回り、遠心力を活用してイーオスに向かって振り抜く。
ルーフスの振ったスラッシュが振り向いたイーオスの頭部を捉える。一撃でイーオスの頭が赤黒く砕け散り、胴体が血を噴きながら倒れた。
今度はフラムがイーオスに近づく。イーオスはフラムに飛びかかるが、フラムに盾で受けられる。
フラムはイーオスを弾き、接近してイーオスの頭をビンタするように二度、盾で殴りつける。
イーオスが頭部を殴られたせいでふらつく。フラムは足払いをしてイーオスを転倒させて隙を作り、素早く剥ぎ取りナイフで急所を刺した。
「盾がなんとなく使いやすくなった!」
ガード性能とは。哲学的な気分がふっと沸いた。
「二人は周囲の警戒をお願い。中央のあたりにシビレ罠を仕掛けてくるよ」
「かしこまりー」
「了解」
荷車からシビレ罠を取りだし、エリア中央に置く。そして最後に手のひらくらいの大きさのスイッチを押し込む。これでこの罠に何らかの重量がかかれば中の雷光虫がほどほどに圧され、放電する。雷光虫が完全に絶命するまで感電させて拘束できる。
荷車まで戻り、大タル爆弾を下ろし、転がして運ぶ。持ち上げたら疲れるから仕方ない。
どれか一つでも起爆できれば連鎖的に残りが爆発するように調整してから大タル爆弾を設置。
「設置した!」
二人は同時に敬礼をしてから、柱の陰や茂みに身を潜めた。仲いいな。
僕は三つの爆弾をどれでも狙えるような位置に隠れる。しゃがむより伏せた方が良さそうだな。
伏せようとしたとこで、地面が水を含んで泥になっていることに気づく。たっぷり躊躇しつつしっかり伏せる。……感触が冷たくて不快。いかにもナメクジやミミズがいそうな土で気持ちが悪い。我慢しないといけないのか。
早く来てくれガララアジャラ。
風が吹き、付近の葉が揺れる。カラカラと乾いた音が鳴った。なんとなく不穏な雰囲気を感じ、周囲への警戒を強める。
土が僅かに震えた。地中を進んでいるのか。手に僅かに力がこもる。
地面の縦揺れが加速度的に強くなり、地面が割れる。そしてまるで真っ直ぐ天に昇るように蛇竜が飛び出した。
僅かにくすんだ黄色の甲殻がまず目に入った。ガララアジャラは時計回りにとぐろを巻き、狡猾そうな切れ目で周囲を見渡した。こちらは見えていないよう――あるいは眼中にないのか。
後頭部からうなじ……部位の名前これで合ってるのか? ……にかけてに一際大きな甲殻がある。鳴甲、だっけ。あれを震わせて高周波とかを出すらしい。
尻尾にも似た物が生えている。あっちは飛ばしてくるものか。
さぁ、罠にかかれ。
ガララアジャラは身を少しだけ震わせ、顔……というさクチバシを地面に突っ込み、潜りだした。
そして数秒後、ガララアジャラは思いっきり上に向かって飛び出した。宙に黒い何かが舞った。
「……!」
僕の後ろの方にシビレ罠が落下した。雷光虫も絶命したのか、放電し、破裂音に似た音をたてた。
僕はすぐに大タル爆弾に狙いを合わせ、引き金を引いた。失敗の合図みたいな攻撃の爆音。
体を打つような音と衝撃波の圧が同時に来て、咄嗟に顔を反らす。その直後に焚き火に顔を近付けたような痛みを伴う熱さが吹き抜けていった。
突然の爆音のせいか原生林から一瞬音が消えた。
その無音の世界でルーフスとフラムが同時に飛び出す。一歩目は既に踏み込まれていて、二歩目でトップスピードになり、三歩目で武器に手をかけ、四歩目では既に肉薄していて、五歩にてガララアジャラに武器を叩きつけていた。ガララアジャラはそれを尻尾で受ける。
尻尾の鳴甲は硬く、初撃では傷らしい傷は見受けられない。
僕も僅かに遅れて、次弾をガララアジャラに撃ち込んだ。レベル2通常弾だが。
肉質が柔らかそうな部分を狙っていく。セオリー通りなら頭部なのだが、巨体に反して小さい頭に上手く当て続けられるかどうか。
三発目を撃ったところでガララアジャラがルーフスとフラムを追い払うようにその場で一回転。そして、後頭部付近の鳴甲を震わせ、ガララアジャラは吠えた。
ビリビリと空気が震えた。爆音より数段強い響き。人に植え付けられた、恐怖心が刺激される。
思わず両手で頭を抱えるように耳を塞ぎ、しゃがみこんでしまう。駄目だ、怖いものは怖い。
先に動いたのはガララアジャラ。尻尾を振って片手剣の盾くらいの大きさの鳴甲を飛ばしてきた。特に捻りのない攻撃だから難なく避けられる。
ガララアジャラの咆哮とこれが反応するんだっけ。すぐそばでこれが破裂すると気絶させられるらしい。
これに近付くのは危険、気を付けすぎて囲まれると本末転倒。……あ、壊せばいいのか。鳴甲を試しに撃ってみると一発で壊すことができた。飛ばす前の鳴甲と違って脆いようだ。
ガララアジャラが巨体を唸らせ、全身を使って、フラムとルーフスを相手にしている。
フラムの渾身の突きを尻尾で受け止めるが、隙をついたルーフスの攻撃は胴体に叩きこまれる。ガララアジャラはそれをものともせず、ルーフスに噛みきかかる。
横にステップしてルーフスはそれを躱す、だがガララアジャラは全身を奮って無理やり頭を振り、ルーフスを捉えた。
「ッ……!」
ルーフスがはね飛ばされる。ただその表情には驚きがあった。……ダメージなし? じゃあルーフスを投げ飛ばしただけ? なんでだ。
フラムが無理な動きをして隙を作ったガララアジャラを突き、甲殻を割り、更に砲撃を叩き込んだ。ガララアジャラはそれが効いたように横たわった。
最大威力が発揮できる距離まで接近して、通常弾を撃ち込む。
撃つ度に甲殻にヒビが入り、弾痕がついていく。反動がとても頼もしい。
……あれ、ガララアジャラ、動いてないか?
中心にいるのはフラム――
「フラム! 囲まれてる!」
「わ、本当だ」
ガララアジャラがしゅるしゅるとフラムの周りを進む。フラムを一人にして囲みやすくするためにルーフスを飛ばしたのか。
「逃げようとすると噛みつくんだよね」
フラムはガララアジャラに話しかけるように喋った。フラムの言葉に反応したのか、ガララアジャラは一瞬、立ち止まった。フラムはその隙を見て、尻尾と頭の隙間に走り込む。
だが、ガララアジャラはそれを待ってたかのように噛みつきかかった。
「残念、警告したつもりだったのに」
同時、フラムが強く踏み込み、ガンランスを捻って青色の炎を噴かせながらガララアジャラの口に突き刺した。
ガララアジャラが驚きの表情をあげる。
「こういうのは初めて? 人間同士の営みだから仕方ないか」
……フラムにスイッチが入った。今までもたまに兆しは見せてたけど、いよいよ入っちゃった。
砲撃娘さん、こんにちわ。
ガララアジャラは咄嗟に顔を下げ、ガンランスを出そうとしたが、フラムはガンランスをそのまま前に投げ出し、ガンランスの柄を蹴りそのまま口の中に押し込む。
そして、すぐにフラムのアイアンガンランスが爆ぜる。強烈な砲撃がガララアジャラの喉のあたりで炸裂した。
反動でガンランスが勢いよく吐き出され、フラムはそれを片手で受け止めた。
「勝負はここからだね」
フラムはニヒルに笑った。