モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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五話 乱戦

 

 

 竹林を抜けるとそこにはドスジャギィの姿は既になかった。辺りには甘酸っぱい香り......ペイントボールの匂いが漂っている。この匂いを辿っていけばドスジャギィのもとにいけるはずだ。

 

 

「この辺りかな」

 

 

 匂いのする方向と地図を照らし合わせてドスジャギィの居る場所の見当をつけ、走る。おおまかにしか分からない。それでも今はその場所から直ぐにでも離れたかった。

 

 坂を駆け降り、緩やかな川を下り、先日、ジャギィを討伐するために来て、三匹のジャギィを討伐した場所につく。すすきが生い茂り、雷光虫が飛び回る中、三匹のジャギィを従えたドスジャギィは居た。まだ気づかれてはいないようだ。身を伏せドスジャギィ達に近付く。散弾をこめ、足下の石をとり、……

 

 

――パキッ

 

 

「グ......ギャアッ!」

 

 

 枝を踏み折るという初歩的なミス。気付かれた。ドスジャギィが軽く吠えると三匹のジャギィは素早く走ってくる。石を手放し、ハンターライフルを構える。ギリギリまでジャギィを引き付け、引き金をひく。

 

 

「ギャア······」

 

 

 他の二匹とドスジャギィにはかすりもしなかったが、先頭にいたジャギィは至近距離で撃たれた散弾によって頭部が原形を失い、倒れた。

――勝てる。希望を持つには充分な結果。前回と違い、一発でジャギィを討伐出来たのだ。その事実に思わず口が緩む。二匹目のジャギィが噛みついてくるが難なく避け、側面に回り込む。振り向きざまに 引き金を引く。ジャギィの胸部が所々欠け、真っ赤に染まり倒れる。三匹目から少し距離をとりながらドスジャギィを見る。すると

 

 

「アォーーーッ!」

 

 

 ドスジャギィの遠吠えは辺りに響き渡る。今回は穴を塞いでいない。その遠吠えは群れを呼んだという意味。そして群れは最低で十数匹。一発で一匹。装填数は三発。残弾は四十程度。手数が圧倒的に足りない。さっきまでの余裕が一瞬で焦りに変わる。

 三匹目のジャギィを放心しながらも撃つ。至近距離だったため案の定倒れた。

 しかし、正面にはジャギィの巣や各地に繋がっているであろう穴が、背後と右は池。左からはドスジャギィが迫ってきた。ドスジャギィに対応するため散弾を装填する。近付いてきたドスジャギィは噛みつきかかってきた。後ろに跳んで避け、引き金を引く。至近距離で頭部を火薬の力で砕けた破片が襲う。いくら大型モンスターとは言え、頭部を傷つけられればきっと逃げるのではと淡い期待を抱く。しかし、それは

 

 

「ギャアッ!」

 

 

 ドスジャギィの神経を逆撫でしたに過ぎなかった。ドスジャギィは白い煙のようなものをはき、吠える。

――怒り状態。モンスターが危険を排除するためにリミッターを外した状態。

 ドスジャギィは急に回転して尻尾を振り回す。怒り状態による急な行動に反応できず、尻尾が直撃する。体を衝撃が突き抜け、体の右側から軋む音が聞こえる。激痛が走るがこらえ、もう一回引き金を引く。散弾はミドリが切り刻んだ部分を深く抉る。ドスジャギィは悲鳴をあげ、少しのけ反る。しかし、

 

 

「ギャア!」

 

 

 五匹のジャギィ。穴から立て続けに出てきた。ドスジャギィは大きく後ろに跳び、一吠えでジャギィに指示を出す。ジャギィがこちらの退路を塞ぐように囲み、ゆっくりと追い詰めてくる。ドスジャギィはその後ろから歩いてくる。

 これに対し、後ろに下がるしかなく、たった一発、たった一人では何も出来ないことが今になって心底理解する。こんなとき誰か······ミドリがいればな、と、ついさっき拒絶さたのは自分自身でもあるにも関わらず、身勝手なことを思う。そもそもミドリが怪我をしたのはあの時、自分の合図で突撃させたからであり、責められるのは自分ということに今更、気付く。

 ドスジャギィが指示を出すためか息を吸った。死ぬのかな。こんな始まったばかりで。

 

 

「ミドリ……ごめん……」

 

 

 そう言い、諦めかけた時、

 

 

「せあぁぁぁぁぁ!」

 

 

 急に上から声と共に艶やかな緑髪をなびかせた少女……ミドリが降ってきた。ミドリは赤いオーラを纏っている。ミドリは鬼人化をしていた。鬼人化をすると、身体能力が爆発的に向上し、超高所からの落下ですら、膝を曲げただけで衝撃を吸収しきってしまうらしい。

 着地するや否やミドリはその場で乱舞。ジャギィ二匹を切り刻む。ジャギィ達がミドリに反応した隙を突き、左側のジャギィに零距離で散弾を撃ち込み、絶命させ、包囲網を抜ける。

 

 

「何で……?」

 

 

 余りにも急なことに驚きが隠せない。ミドリは剣を払い、鬼人化を解き言った。

 

 

「私だってアオが傷つくとこなんて見たくないの!」

 

 

 ミドリは納刀しながら片膝を曲げ、続けて言う。

 

 

「それに、私だって戦える!」

 

 

 ミドリは思いっきり地面を蹴り、ドスジャギィに突っ込む。ジャギィ達の注意がミドリに向いた瞬間、通常弾をこめる。ミドリはドスジャギィの目の前で跳び、ドスジャギィの頭を踏む。そしてドスジャギィが頭を上に振る力を使って、高く跳ぶ。それを見上げているジャギィの隙を突き、こめかみを撃つ。通常弾はジャギィの頭に深々と突き刺さり絶命させる。

 ミドリはそのまま空中で体を捻り、ドスジャギィの背中に乗った。剥ぎ取りナイフをドスジャギィの背中に刺しそれを掴む。

 

 

「ギャア!? ギャアッ!」

 

 

 ドスジャギィには完全に予想外の行動だったようで、一瞬固まった後、ミドリを振り落とそうと滅茶苦茶に暴れる。

 ミドリは両手でナイフを掴み、耐える。

 ドスジャギィを撃ちたいが、ミドリにまで当たっては危険なのでジャギィを撃ち、仕留める。

 滅茶苦茶な動きをしたせいか、ドスジャギィは疲弊し、急に動かなくなる。ミドリはそれを見逃さず、ナイフを抜き、ドスジャギィの背中を滅多刺しにする。

 大量の血が辺りに飛び散り、みるみる地面が赤く染まる。そして急に、

 

 

「ギャアッ……」

 

 

 ドスジャギィが倒れ、もがき始めた。振り落とされたミドリは剣を振り上げ、鬼人化をした。

 ミドリと目を合わせ、一斉攻撃を仕掛ける。もがくドスジャギィの頭に正確に標準を定めて続けて、ひたすら弾丸を撃ち込む。ミドリはひたすらドスジャギィの背中を切り刻む。

 ドスジャギィは背中をおびただしい量の血で赤く染めながらも、起き上がる。身構えた直後、ドスジャギィは後ろを向き、

 

 

「……グ……ギャア……」

 

 

 足を引きずりながら逃げていった。弾丸を装填し直し、座りこむ。ミドリを見ると池の水で顔を洗っていた。返り血が流され、色白で可愛らしい顔が露になった。

 元凶が言うのもなんだが気まずい。ぶっきらぼうに口を開く。

 

 

「その……助けてくれてありがとう」

 

「お礼は終わってから……」

 

 

 ミドリはそういうとどこから出したのか、タオルに顔を埋め、少し荒っぽく水を拭い始めた。

 まだ終わってはいない。油断してはいけない。戒めのように思いだし、携帯食料を、頬張り、水で流し込んだ。

 軽い食事をし、運動をする。準備は整った。

 

 

「……行こう」

 

「うん」

 

 

 大型モンスターの狩猟にしては短い時間。しかし、今まで過ごした時間の中で最も濃密に感じた時間。ドスジャギィとの勝負に、決着をつけに。

 

 

 緩やかな川。かなり離れているが、ドスジャギィが足を引きずり、ゆっくりと巣に向かっているのが確認できた。

 声も出さずにハンターライフルを構え、狙い、撃つ。

 弾丸は亜音速で空気を貫きドスジャギィに刺さる。その瞬間、ドスジャギィはこちらを振り向き、吠える。怒り……必死さが分かる遠吠え。ドスジャギィも生きるために必至なのだろうと直感的に理解する。ドスジャギィがこちらに走ってきた。

 更に二発の弾丸を撃つ。一発はドスジャギィの右側を抉る。二発目は左目を潰す。それでもドスジャギィは速度を緩めない。

 二発目の着弾とほぼ同時にミドリが駆け出す。ドスジャギィの噛みつきをミドリは下を滑り込み避ける。そして振り向きながら抜刀し、両手の剣を振り抜く。

 その剣は滑り込みに反応し、振り向いたドスジャギィの首筋から口にかけてを深く切り裂く。

 ドスジャギィは二、三歩ふらつき、倒れた。背中を切り刻んだ時とは違う倒れ方。さっきまで走ってたのが不思議なくらい突然のことだった。

 

 

「倒した……?」

 

 

 ミドリは力なく座り、放心している。

 

 

「勝てたんだ……」

 

 

 ただ一言そう言い、ミドリに近付く。ミドリは立ち上がり、こちらを見る。

 

 

「剥ぎ取って、村に帰ろう!」

 

「……うん!」

 

 

 ギルドに討伐の報告をするためにも、ドスジャギィというモンスターへの感謝のためにも、剥ぎ取りをする。

 皮を、鱗を、牙を、そしてドスジャギィの証といえるエリマキを、剥ぎ取る。必要最小限の分だけを剥ぎ取り、後は自然に還す。

 ドスジャギィの牙。始めて狩った大型モンスターの素材。それを握りしめ、ベースキャンプに戻った。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

「本当にごめんッ」

 

 

 ミドリに頭を下げる。

 

 

「いいから、頭あげてよ」

 

「でもミドリに怪我させた上、酷い言葉まで……!」

 

「怪我は私の過失だし、酷い言葉は応急処置の分でチャラにしたげるから、頭あげて!」

 

 

 ミドリに乱暴に頭を掴まれ、無理やりあげさせられる。

 

 

「私は、アオが無事ならそれでいいの!」

 

 

 澄んだ青い目でこちらを真剣にみつめられる。目が合い、なんとなく恥ずかしくなり、目を反らしてしまう。ミドリが急に吹き出し、笑う。それにつられ、こちらも笑う。

 

 

「アオ、変わんないね」

 

「ミドリもね」

 

 

 今回はずっと守られていた感が否めないがこの笑顔を守れるようになるためにも、もっと頑張らなければいけない。荷車がルルド村についたころには日はやや傾いていた。

 

 

 

 


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