「うわぁあぁぁあっっ⁉」
「きゃーーーっ!」
「ああぁあぁあーー!」
ドスン……と。僕達三人は地面に足から着地し、そのまま尻餅をついたり手をついたり。
地底洞窟。火山活動でできた空洞にモンスターが住み着いているとか。日射しは差さないが一部鉱石や植物が光を放つため視界は問題なく確保できるらしい。
「地面も空気もちょっと冷たいね」
「アオイ義兄さんからしたらちょっと程度かもしれないけど、僕達は寒色が目に入るせいで余計に涼しいよ」
寒色……? あ、僕の髪と防具じゃないか!
「青色の髪でごめんね」
お返しにねちっこい声音で答える。そうするとフラムが続いた。
「私は暖色も目に入るからちょうど良いよっ」
「暖色……ぁ、そういうこと」
フラムは満面の笑みを僕に向けて言った。励ましてるつもりかもしれないけどルーフスに二次災害が起こってる。被災地に送られた生モノかよ。
「早くゲリョスを狩りにいこうよ」
「そうだね。ティラさんのために早く狩らないとね」
多分、ゲリョスからとれる狂走エキスがティラさんに役立つって言ってるのだと思う。狂走エキスから強走薬を作ることができ、その強走薬は飲むとたちまち疲れが取れその上、五時間くらい全く疲れなくなる代物。ちょっとヤバい薬に思えなくもない。
「高いエリアから順番に下ってこうか」
……今度は登らないといけないのか。ツタが生えてるとは言え――高すぎない?
上からフラム、僕、ルーフスの順で登っている。ツタは掴みやすい太さで、ゴツゴツとした壁はとても足がかけやすい。
「アオイ義兄さん、上を見てみて」
ルーフスの言葉通り顔をあげるとフラムの足からお尻にかけてが視界に飛び込んできた。
「フラムがどうかしたの?」
「あれ? ……アオイ義兄さんちょっとおかしいんじゃないの?」
ルーフスに疑惑の目を向けられる。言いたいことはなんとなく分かる。
気まずくて目を反らすとか、注視するとかそういう反応が男にはあって然るべきと言いたいのだろう。ただフラム相手だと本当に何も感じない。
何でフラムに女の子的な魅力を感じないんだろ。顔もスタイルも文句なしのはずなのに。誘ってくるせいで痴女っぽい印象だからかな。それとも砲撃音に恍惚とした笑みを浮かべているからかな。
そんなどうでもいい思考に浸っている内に登りきった。疲れは大したことない。
右手の方はこの洞窟を見渡せるくらいよく開けているて、左手はゴツゴツとしていて登りやすそうな岩壁。天井があるから登る意味はなさそうだが。
視線を巡らせると自然と真ん中に居座る体表が紫色の生き物に目が止まる。
乾いたゴムのような質感の翼を地面につけ、プニプニしてそう尻尾を引きずりながら這いずるように進んでいく。
よく見ると紫色の結晶のような大きなトゲが生えていて――あれ、ゲリョスってあんなのだっけ。二足歩行で毒とか閃光を使う生き物にはあんまり見えない。
「アオイ義兄さん、もしかしてあのゲリョス、突然変異でもしてるのかな」
「そんな依頼なら僕達に出ないと思うけど……」
「どちらにせよ、吹き飛ばせば一緒だよ!」
フラムがガンランスの柄に手をかけながら突っ込むが途中で足を止める。
「何か……いる?」
――カシャッ、クシャッ。
とても鳥竜種からでるとは思えないような乾いた音が聞こえることに気付く。フラムの言うとおり何かいる。その何かにゲリョスが引きずられているようにも見える。
「アオイ義兄さん、ゲリョスが捕られたら狂走エキスが取れない」
ルーフスの言うことも一理ある。ここで取り返さないとティラさんのために狂走エキスをとることができない。ただ正体の分からないモンスターに挑むのも腰が引ける。今なら逃げることもできるし。
「せめて何か分かればいいんだけど……」
「そういえば、なんでゲリョス運ばれてくんだろ?」
フラムが疑問を口にする。運んでいく、ということは後で食べるつもりなのだろうか。多分そうだ。
「フラム、美味しいミカンを運良く見つけたとして、それをどうやって食べる?」
フラムの好物を例にあげてみる。フラムならモンスターの意図に近い答えを出せるかもしれない。……いや、二人がとても常人には行動原理が理解できないような人ならざるものに近いとか言ってるわけじゃなくて。
「その場で食べるよ」
「食べきれない量だったら?」
「んー。何人かで一緒に食べるよ!」
人間扱いしなくてすいません。それどころかあまりに綺麗な回答に自分の人間性を疑うレベル。
「……えーとね、ゲリョスを運んでいる理由は安全な場所で全部独り占めするためだと思うんだ。あの遅さなのに運んでいるということはここから巣が近いということでもあるはず」
「じゃあこの辺りに巣を作るモンスターが今ゲリョスを運んでいるということ?」
「うん」
「じゃあ地底洞窟に出現するモンスターでゲリョスより強いのがあいつなんだね!」
「うん、そうなるね」
「アオイ義兄さん、姉さん」
横から申し訳なさそうにルーフスに話しかけられる。
「情報、何一つ増えてないよ。あと、感づかれたみたいだよ?」
恐る恐るゲリョスを見てみると、ゲリョスの背中に白くて骨で出来ているかのような足がかけられてた。
そして気味の悪い音と共に大きな蜘蛛這い出てきた。
嫌悪感を覚える光沢の目六つがこちらを舐め回すように揺らぎ、得体のしれない液体でも詰まっているんじゃないかと気色悪さを醸し出す膨らんだ腹が震え、禍々しい色で不快に濡れた背中の棘が存在感を放つ。脚の数が虫であることを示し、その先端は酸化した血でベッタリと赤黒くなっている。
訓練所で習ったこいつは確か――。
「ネルスキュラ……!」
ネルスキュラの危険度はフルフルやリオレイアと同等の星四つだったはず。訓練所では教官が厄介だから気をつけろと言っていたような。
逃げたほうがいいのでは。ゲリョスを相手にするつもりで解毒薬は持ってきてるけど他の対策は何もない。
僕の不安とは裏腹にフラムが自信たっぷりに言った。
「アオイ、私達なら狩れると思うよ」
「……分かった。目標はあくまで撃退だからね」
フラムとルーフスは頷き、ネルスキュラに武器を向ける。僕は担いでいたメテオキャノンを出し、通常弾を装填した。
ネルスキュラはこちらが戦闘態勢に移ったことを察したのか威嚇を始めた。
「キシャアアァァッ!」
フラムが走り、盾を構えてネルスキュラの前に陣取る。その後ろにルーフス。僕は更にその後ろからネルスキュラに狙いをつける。
先に動いたのはネルスキュラ。フラムの前まで動き、牙のようにも見える前足でフラムに切りかかる。ただ、盾を構えていたため金属音を鳴らすに留まる。
ルーフスがその隙に飛び出し、右脚に切りかかる。ただその斬撃はネルスキュラが猛烈な速度で横に動いたために当たらず、ネルスキュラが登った段差を削る。
ネルスキュラが止まったタイミングに射撃を合わせる。が、ネルスキュラは更に動き、段差を上がりながらこれも避けた。……速すぎだろ。ちょっと距離があるっていっても並の反射神経じゃない。正面からじゃ攻撃は当たらないだろう。
ネルスキュラは軽くジャンプし、ルーフスの足元に太い糸を吐き、その糸を利用してルーフスに突進した。
「うわっ」
ルーフスの反応が遅れた。だが、フラムが間に入り、盾でルーフスを守った。ネルスキュラの体が二人を隠し分からない。ただ、こちらに背中を向けている。
二人に当たるのが怖いのでネルスキュラの背中に狙いを合わせ、引き金を引く。
弾丸はネルスキュラの黒っぽい殻に当たり、背中を傷つけた。着弾を確認しながら狙いを少し修正し、背中の棘にもう一発撃つ。
二発目は狙い通り背中の棘に着弾した。僅かに棘を削り、紫色の欠片を飛ばす。
ネルスキュラが此方を向く。こちらを睨む六つの目はとてもおぞましい。
ただ、ネルスキュラの取った行動は今度はフラム達に背中を向けることを意味する。
「はいさっ」
ネルスキュラの足が突然爆発した。フラムの砲撃だ。ルーフスもスラッシュアックスで足を攻撃し、足を刈ろうとする。
ただ、ネルスキュラの足はビクともせず、体勢は殆ど崩せない。
「……足を地面に刺してる」
ルーフスが吐き捨てるように呟く。ネルスキュラは地面に足を刺してルーフスの武器の衝撃を受け止めたために体勢が崩れなかったのか。
「二人とも、ネルスキュラを囲むように立ち回るよっ。後ろをとった人は積極的に攻撃を!」
「はーい!」
「分かった」
ネルスキュラは正面から攻撃しても攻撃が当たらないだろう。二人に指示を出す。
一段登り、真ん中の段に移動し、ネルスキュラに向かって武器を納刀しながら歩く。二人にはああ言ったが、僕はしばらく行動を観察した方がいいかもしれない。とりあえず下手に距離をとるより中距離の方が安全なようだ。それにある程度近い方が後ろに回り込みやすいし。
三人で囲うとネルスキュラはすぐにバックステップをした。その上、お尻から糸の塊を出してルーフスを狙った。蜘蛛なのに跳ぶのは予想外だった。バッタかよ。
「姉さん、足捕られないでね」
「大丈夫だから。また囲むよ」
ルーフスはネルスキュラの左脚側に走り、フラムは正面から盾を構えて近付く。僕もそれに合わせて右脚側に走る。
ネルスキュラは囲ませてはくれなかった。ネルスキュラは天井に向かって糸を飛ばし、空中ブランコのようにしてフラムに正面から突っ込む。
「重っ……」
フラムが盾を構えたまま後退る。見た目のわりに体がそれなりに重いのか、そもそも星四つのモンスターの実力なのか。
ネルスキュラは続けてフラムの足元に糸を飛ばし、背後から未だに反応できないフラムに突進を繰り出し――。
「はぅっ⁉」
僕は走ってフラムに近付き、そのまま抱き締めながネルスキュラの攻撃範囲から跳んだ。
……爪先にちょっとかすった。危ない危ない。
「フラム大丈夫?」
「あ、ありがと」
「義兄さんも姉さんも早く体勢立て直してっ」
ルーフスが檄を飛ばし、ネルスキュラに突撃する。このままじゃ避けられる。ネルスキュラの次の手を予想しればダメージは与えられる。
「フラム、ルーフスの後ろに行って。それなりの距離もとって」
「……ぇ。うん分かった」
僕はさっきのフラムにネルスキュラがやった前から突っ込んですぐに後ろから戻ってくる攻撃に備えてネルスキュラをルーフスとは反対側から攻撃を仕掛ける。
ネルスキュラは単純にルーフスに襲いかかった。読みは外れたようだ。
鎌のような前足をめいっぱい伸ばし、ルーフスに飛びかかった。ルーフスはその空中にいるネルスキュラに半時計回りに振ったスラッシュアックスを叩きつけ、無理矢理軌道を変えた。
ネルスキュラは悲鳴のような軋んだ声をあげ、一段下の地面に着地する。
「フルバースト行くよっ」
フラムはネルスキュラに走り込み、勢いそのままに跳ぶ。そして、アイアンガンランスの刃をネルスキュラに上から叩きつけ、砲撃を放った。
爆発はネルスキュラを僅かに吹き飛ばし、甲殻の破片を散らした。
武器を構え、通常弾を撃つ。的が大きいから当たる当たる。煙が目隠しになっているおかげでネルスキュラは弾を目視できない。当然回避できない。装填していた分全てを直撃させられた。
「アオイ義兄さん! 怒り状態!」
「分かった。フラムも気を付けて!」
「はいはーい」
攻撃は効いてるみたいだ。勝てる見込みは十分にある。はず。
空の弾倉に通常弾を詰める。貫通弾を使おうかと思ったがネルスキュラは割りと小柄だから効果が薄そうだ。
「アオイッ――」
「ん?」
フラムの声に顔をあげると白い塊が僕に向かって飛んできていた。避けられないせめて手で防げ直撃を避け――あれ、あんまり痛くない。
ベッタリと白い糸がくっついていた。主に防ごうとした左手に絡まり、体に僅かに糸が張り付いている。
剥がそうと左手を動かすが殆ど動かない。……固められた?
概ねそんなことを考えながらネルスキュラを見る。ネルスキュラは突進したりといった動きは見せずこちらを観察しているように見えた。
「フラム、ルーフス構わないで、ネルスキュラに集中を!」
弾こめてて攻撃に気付かなかった僕が言うのもなんですけど。
メテオキャノンを放し、右手で剥ぎ取りナイフを掴む。ネルスキュラがカマキリみたいな前足でごにょごにょしているのが気になるがそんなことは無視だ。
糸にナイフを当てた瞬間、左手が引かれた。いや、左手に絡み付いた糸を引かれた。その糸を辿った先ではネルスキュラの前足には白い糸が緩く巻かれていた。ちょっと待ったこれ一気に距離を詰められるんじゃ――。
残念なことに予想通り距離は詰められた。いや詰めたと言うべきか。
僕は糸に引かれて宙に浮き、ネルスキュラの六つ目向けて手繰り寄せられる。
逃げようとして暴れるがむしろ糸の付着面積を広げるだけで無意味だった。
ネルスキュラの足元に転がされ、顔一杯に虫の裏側の拡大画が広がる。尻尾に赤い斑点が浮かび上がってるとか足の付け根が中々太いなとか現実逃避じみた思考が過る。
……蜘蛛のお尻に針なんてあったっけ? 蜂じゃないからあるわけないと思おうにも結構見えてる。くすんだ水色の液がしたたる針……。
「アオイっじっとしててッ」
「えっ?」
声の方向に顔をあおるように向けるとフラムがアイアンガンランスを振りかぶりながら言った。切っ先の向きは僕。……へ?
思考が追い付かないまま切っ先が僕に迫る。唯一出来たのは目を閉じること。
「アオイ、早く逃げてっ」
フラムの声で現実に戻される。ガンランスの切っ先は僕に刺さることはなく、左手に絡んでいた糸を殆ど切っていた。
体を横に転がし、ネルスキュラの腹下から脱する。
「ぷはぁっ……危なかった」
知らぬ間に止めていた息を吐き出す。すぐ隣をバットを勢いよく振ったような風切り音が聞こえためっちゃ怖い。
すぐに立ち上がってナイフを構える。……武器落としてるでも背中を見せて探すのも怖い。
「武器回収してくる、援護お願いッ」
「援護? 別に倒してし……」
「分かったよー!」
ルーフスの言葉を遮るようにフラムが元気よく答えてくれた。ルーフスの言葉は何故か言わせてはいけない言葉の気がしたから遮ったのはファインプレーかも。
ネルスキュラから目を放して、走って、引っ張られるまでいた場所に……あったあった。
安堵しつつ、メテオキャノンに近付くと黒い影が飛び出した。
「ニャー」
メラルーがメテオキャノンの持ち手のあたりを持ち、引きずり始めた。
「あっ、ちょっ、返せよ」
僕がメテオキャノンを取り返そうと持つとメラルーはくりっとしたつぶらな瞳をこちらに向ける。わぁすごい可愛い。ほっこりするなぁ。
「それとこれとは別だっ」
メテオキャノンを抱えるようにして持ち、銃口から体を反らし、引き金を引く。反動がメラルーの腹を貫く。
「にゃ……ふっ……」
メラルーには悪いけど仕方ない。ごめんね。
メテオキャノンをそのまま引ったくり、ネルスキュラに振り返る。
「ぇへっ……」
「ハッ」
恍惚とした表情を浮かべるフラムと愉快そうにネルスキュラを睨むルーフス。二人とももう出来上がってる様子だった。
「援護ありがとう、足を狙って一気に削るよっ」
二人は頷き、武器を構えた。
ルーフスは後ろから回り込み、フラムは正面から突っ込む。盾をネルスキュラの頭に押し付ける。ネルスキュラはそれを嫌がり、横に動いてそこから逃げる。
僕はそのネルスキュラの右半身を狙って通常弾を撃つ。
ネルスキュラは更にそれをバックステップで避ける。予想通りだ。
ネルスキュラが逃げた先ではルーフスが大剣を構えて待ち構えている。
「ッハァァァッー!」
ルーフスのスラッシュアックスは強撃瓶のエネルギーを炎のようにほとばしらせる。その剣はネルスキュラの腹部を後部から貫き、甲殻を抉り、肉を喰らう。
ネルスキュラは直ぐにスラッシュアックスから逃げ出そうとした。僕はその行く末を新しく弾を一発装填しながら見守る。
「私も、いるよぉ……!」
フラムはアイアンガンランスから青い炎を噴かせ、切っ先を顎にねじ込んだ。
「熱い? 熱いよねぇ、融けてるもんねぇ、ぁはぁっ!」
フラムは狂気で声を奮わせ、ルーフスは残酷に嗤う。
ネルスキュラが声にならない悲鳴を滲ませた直後にルーフスの大剣が爆ぜ、ネルスキュラの腹部を、甲殻を砕き、体内を流れていた血を噴かせ、黒い皮を炭にした。
その衝撃は、ネルスキュラの体を動かし、フラムのガンランスをより深くめり込ませた。
そのタイミングで、フラムのガンランスが怒号を轟かせる。
大量の炸裂弾がネルスキュラの顎付近で暴れまわり、鎌のような前足を一本吹き飛ばし、黒い皮を溶かし、その下の白い甲殻を赤く歪め、緑の血霧を舞わせた。
当然だが、ここで終わるわけがない。
僕は引き金を引いた。ついさっき装填しておいた《スーパーノヴァ》だ
メテオキャノンが超熱に喘ぎ、軋み、一発の火球を砲身から産んだ。
「フラムは盾を構えて、ルーフス、逃げてっ」
陽炎で景色を歪ませながら、ネルスキュラに球は近付き、やがて体にぶつかり、焔を包んでいた膜が破れた。
膨大な熱と光と赤色がネルスキュラを包む。
地面が黒く焦げた。天井から砂が零れた。ネルスキュラは黒い部分を赤く炭化し、その他の有象無象の色は焦げて黒く染まった。
炎が収まるとすぐにフラムとルーフスがネルスキュラに追撃しようとした。だが制止する。
「一旦、様子を見よう」
深追いは良くない。理由は勘だが、それでも自身を納得させれるくらいには大きかった。深追いしてその他に注意を怠って半壊したパーティはそれなりにあるらしいし。
二人が下がるとネルスキュラはおもむろに明後日の方向を向いて、素早く糸を出してその糸を使って洞窟の奥にとんでいった。
「逃げられたね」
「げ、ゲリョスの狩猟が目標だったんだから別に逃がしてもいいんだよ」
僕のミスばかりの対ネルスキュラは結構な手応えを僕達に感じさせた。
僕達三人は強い敵に対応できたというそこそこの満足感をもったままゲリョスの骸に近付いた。
「狂走エキス、ささっと集めようか」
三人でゲリョスに近付き。剥ぎ取りナイフを出す。狂走エキスがメインだが皮も欲しい。
……でも僕達が狩ったわけでもないものを剥ぎ取るのはなんとなく抵抗があるな。
ゲリョスの死に顔を見る。ネルスキュラに襲われて殺されたわりには原形を結構止めているように思える。
……トカサがあるって聞いてたけどまるで木槌みたいだ。ここから閃光を起こすんだっけ。目は濁ってて虚ろ……あれ今、目が合ったような――
「フラム、ルーフス、こいつから離れ――」
僕の声を遮るようにして死んでいたはずのゲリョスが……死んだフリをしていたゲリョスが奇声をあげながら暴れだした。僕は振り抜かれたゲリョスの頭を避けられず、腹に衝撃を受け、はね飛ばされた。