モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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第三章
四十一話 色の三原色


「ほら、口開けて。あーん」

 

「……えっ?」

 

 

 黒髪に黒い目、儚げで落ち着いた印象の顔。髪は男性にしては長いが、女性にしては短め、といった具合の長さに切られている。声は低いとも高いともつかない、絶妙な音。

 誰にも性別を教えず、皆が悩む様を面白そうに笑っている人、ナイト。

 そのナイトさんが今、僕にスプーンで掬ったお粥を差し出してきている。

 

 

「いや、アオイしばらく手が使えないって聞いたからね」

 

 

 いや、確かに使えないんだけどね。

 

 

「これからしばらく、僕が面倒を見ることになったんだ。これからは手を使わなくても食べれるようにした方が良い?」

 

「是非ともお願いします」

 

 

 ナイトさんは僕の目からは一応女性に見える。ミドリからすると男性に見えるらしい。誰が見るかによって性別が変わる。

 ナイトさんにこれをされると何故かドキドキしてしまう。もしかしたら男かもしれないのに、だ。

 

 

「ほら、顔を真っ赤にしてないで早く食べてね」

 

 

 この人、何者なんだろ。そう思いながらお粥を食べた。……美味しい。

 

 

 

「そういえば、ミドリとメリルはもうドンドルマに行ったみたいだよ」

 

「そうなんだ。まぁしばらくこの付近、モンスター出ないしね」

 

 

 雪が積もるとこの付近のモンスターはどこかに移動したり、冬眠したり。とにかく出なくなる。

 ナイトさんは二口目を僕に食べさせると、どこか楽しげに聞いてきた。

 

 

「……で、アオイ。ミドリとは上手くいってるの?」

 

「うん。たまに喧嘩もあるけど仲良くしているよ」

 

 

 クレアさんと会ってから一週間になるのか。あの件をミドリが良く思ってなければ上手くいってないことになるが、まぁいいだろう。

 

 

「ふふっ。仲良くしているならいいさ」

 

 

 ナイトさんはニコニコしていた。……この顔は楽しんでいる顔だ。でもこっちが勝手に深読みすることを楽しんでいる時もあるから気にしないでよさそうだ。

 

 

「半年、か。まぁしばらく僕の店は休みだし、ちょうど良かったかもね」

 

 

 ナイトさんには半年で治るかも、とアイルーに言われてたことを伝えた。僕の相手をしてくれるし、希望的観測程度の情報も伝えるべきだろう。……といっても左手はもうそろそろ使えるから僕の暇潰し相手になってくれる、というのが正しいか。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じの日々が半年に満たないくらいまで続いたある日。

 

 

 

 

 

 

 

「……ここの水ってやっぱり治癒の効能があるよね」

 

「そうだね。薄々わかってたけど、使いはじめてからみるみる内に治ったからね」

 

 

 ルルド村の水は間違いなく怪我に効く。つい一ヶ月前は少し動かすだけで激痛が走ったのに、ルルド村の水を患部に積極的に使いはじめてから日に日に痛みが薄れ、今ではもう完治してしまった。

 治療してくれたアイルーに来てもらうとやや引いた様子でお前は本当に生き物かニャ、と言ったから完治は間違いないだろう。

 

 

「まぁ、念のためもう一日寝てようか。今日で最後だから辛抱して」

 

「そうだね」

 

 

 ナイトさんはここ二週間くらい、ずっと絵を描いている。何を描いているかは教えてくれない。

 

 

「何を描いているか教えてくれないならせめて絵に関することでも教えてよ」

 

「そうだね……じゃあアオイ……だから色の三原色ってしってるかい?」

 

「何それ?」

 

 

 アオイだから色ってなんかからかわれてる気がする。僕の名前も髪が青かったからアオイらしいし。なんか僕に対する印象が雑な気がする。

 

 

「赤色、青色、黄色……まぁ厳密にはちょっと違うけど、その三色から殆ど全ての色を作れるんだ」

 

「へぇ。もしかしてナイトさんはその三色だけで絵をを描いているの?」

 

「そういうわけではないよ。この色は混ぜる度にどんどん暗い色になっていくんだ。最後には黒色になる。それに一々色を作るなんて面倒じゃないか」

 

 

 ナイトさんはいい笑顔でたくさんの色の絵の具を見せてきた。なんか冒涜的。

 

 ナイトさんはそのまま絵描きに戻った。居心地の良い沈黙。僕は最近譲ってもらった本に手を伸ばした。

 その時、玄関の扉が開く音がした。

 

 

「アオイー! 遊びに来たよーっ!」

 

 

 ……明るい声音、女の子の声。

 

 

「姉さん、アオイ義兄さんに迷惑だから静かに」

 

 

 ……にいさんの発音に違和感のある男の子の声。

 

 

「……フラムとルーフス」

 

「お友達かな。アオイ、やっぱり今日で休養は終わりだね」

 

 

 フラムとルーフス。訓練所にいたとき僕とパーティを組んでいた友達。二人は姉弟だ。

 僕達の会話が聞こえたのか二人の足音は迷いなく近付いてきた。

 そして、ドアノブに手がかけられたかと思うと勢いよく扉が開く。

 サラサラで艶のある金髪に、まるで光が閉じ込められているかのような金色の瞳、儚げな顔立ちにはお淑やかなお嬢様といった印象のある少女。

 

 

「アオイ、久しぶり!」

 

「うん、久しぶり。フラムは元気そうだね」

 

 

 見た目とは裏腹にに活発な女の子。

 狩猟は出来るし、頭もそれなり、顔もスタイルも高いレベルでまとまっている。性格がやや印象を裏切るが、それでも美少女と言えるだろう。まぁ、彼女はただ一点、欠点があるために一切モテてなかった。それどころかパーティメンバーを組むのに苦労するくらいだった。

 

 

「私、ルーフスとイャンクック討伐したんだよっ!」

 

「そうなんだ。もう初心者脱却したんだ」

 

 

 イャンクックはハンターの登竜門と呼ばれる。イャンクックの動きには飛竜の動きとの共通点がたくさんあるかららしい。

 

 

「姉さん、人の家で騒がないでよ」

 

 

 フラムに声がかかる。フラムの後ろから遠慮がちに顔を覗かせるのはルーフス。赤というよりかは緋色に近い髪にフラムと同じ金色の目、幼い印象を受ける顔立ちの少年。

 

 

「それに、姉さんのせいでイャンクックずっと怒りっぱなしで危なかったんだよ?」

 

「私から爆音をとったら何が残ると思ってるの?」

 

 

 イャンクックは大きな音で失神する。だがその代わりすぐに怒り状態に移行する、

 

 

「それに、いいじゃん。途中から足音出しても気付かれなかったりしたんだし」

 

 

 ……それイャンクックの鼓膜破れてない? 大型モンスターの鼓膜破るとか聞いたことないんだけど。

 

 

「僕もあの後二日くらい音がよく聞こえなかったんだけど?」

 

「耳栓してないのが悪んだよ」

 

 

 フラムは爆発が大好きでいつも爆弾をいくつか使用し、愛用しているガンランスからはしょっちゅう砲撃が吹き出し、火薬草とニトロダケを持ち歩いていることから訓練所時代についたあだ名はボマー。

 弟のルーフスにはバーサーカーが。彼は狩りの時、性格が荒み、自分が怪我しようがお構いなしに攻撃を加えるためにそう呼ばれてた。その二人と同じパーティだっただけで僕はトリガーハッピーとたまに呼ばれてた。不服。

 

 

「随分賑やかな子だね。クッキーでも食べる?」

 

 

 ナイトさんはクッキーののった皿をフラムに差し出した。甘くて香ばしい匂いが僅かに広がる。

 

 

「ん、ありがとう」

 

 

 フラムは一枚食べると顔を綻ばせ、そのまめ二枚目に手を伸ばした。しかし、ナイトさんがひょいっと皿を引いたために手は寂しそうに空を切る。

 

 

「二枚目が食べたかったらアオイに関する面白い話を聞かせてくれないかな?」

 

「えっ、ちょっと?」 

 

「うん、いいよー」

 

 

 懐柔されるの早すぎませんかね。というか、そんなものあったかな……。

 

 

「漢方薬の調合の時に苦虫と光蟲を間違えて絞めて失神したこととか?」

 

「へぇ。他には?」

 

「持ち上げられないからっていう理由でいくつかの武器の訓練できなかったこととか」

 

「ふーん、まだある?」

 

「あ、女の子用のハンター装備が支給されたこともあった!」

 

「へぇ……まだまだありそうだね」

 

「もうやめてよ……」

 

 

 ナイトさんはニヤニヤしながらこっちを見ている。フラムはまだ考えて、捻りだそうとしている。こう言われると急に色々と思い出してしまった。

 

 

「そういえばアオイ義兄さん、なんでここに?」

 

「突っ込みどころが色々あるんだけど……まぁちょっと怪我しちゃってね」

 

 ルーフスは僕のことを義兄さん、と呼ぶ。手のかかる姉を隙を見つけては僕とくっつけようとしてくる。何故か成功を確信しているようで、僕のことをこう呼んでる。

 ルーフスは僕の耳に顔を近付けて囁いた。

 

 

「ふーん。……もう治ったんだよね?」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「治ってないことにしてくれない……?」

 

 

 ん? 意図が分からない。完治してるし、体を動かしたいし。狩りもそろそろしたいかな……。

 

 

「そうだ、アオイ。私達と狩りに行かない?」

 

「ん……。そうだね、行こうかな?」

 

 

 そう言うとフラムは華やかな笑顔を浮かべた。

 ルーフスは絶望を吐き出すように溜め息をついた。

 

 

「じゃあまず水没林でドスフロギィだね!」

 

 

 フラムは楽しそうに拳を握りしめた。

 

 ルーフスの言った言葉の意味をきちんと考えるべきだったと後々後悔することになるとは、まだ知るよしもなかった……。


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