モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

32 / 113
三十二話 解れず、気付けない

 一見すると滝が岩肌を流れているように見えた。だが、よく見ると奥に続く道があり、洞窟に繋がっているのが見受けられる。

 メリルは躊躇なくそこに歩いていき、滝の中に姿を消す。僕とミドリもそれに続く。

 更に進んでいくと、急にメリルが止まった。

 

 

「……ッ!」

 

 

 メリルに頭を捕まれ、無理やり伏せさせられる。顔を上げると草原に溶け込みそうな色で、刺々しい尻尾が洞窟内の柱からはみ出ているのが見えた。リオレイアだろう。

 メリルはリオレイアから目を離さずに小声でいった。

 

 

「まず顔に徹甲榴弾を撃ってめくらましを。その後、頭に残りを撃って目眩を誘発させて下さい。私達が近付いたらお願いします」

 

 

 徹甲榴弾を頭に何回か撃ち込むと目眩を誘発させられる。爆発の衝撃を頭に何度も叩き込むと一時にモンスターが気絶するらしいが、よく動く頭に弾丸を撃ち込み続けるというのは……頑張るしかない。

 スコープを覗き、リオレイアの頭の高さに合わせて、リオレイアがこちらを向くのを待つ。

 外してはいけない。外せばまず発射音、弾道で存在に気付かれ、ブレスを撃ち込まれるだろう。

 手が震える。照準が揺れる。滝の音が消え失せ心臓の音が拡張されて聞こえる。

 リオレイアがゆっくりと振り向く。殆ど無意識に照準が頭に合わさる。下顎は鱗に覆われているのだろうか、下の部分は滑らかな曲線を……

 引き金にかけた指に力を込める直前のことだった。反射的にヴァルキリーファイアを振り、着弾地点をずらす。

 弾丸はリオレイアの顔の中心……ではなく、僅かに上、頭を覆う甲殻の先端に突き刺さる。

 リオレイアが銃声に気付いた直後、頭が爆ぜる。

――逆鱗が見えた。折ると龍が怒り狂う部分だ。

 

 

「下顎に逆鱗があるッ気を付けて!」

 

「了解っ」

 

 

 リオレイアの顔の周りの煙が晴れないうちに柱の影に走り込みもう一発装填し、リオレイアの頭を狙う。

 奇襲を仕掛けた二人の剣から甲高い音が響く。流石飛竜といったところか、甲殻はとても硬い。

 走って近付き、頭に一発撃ち込む。反動を利用して勢いを殺し、進行方向を右に変える。

 一撃離脱を繰り返せば、狙いは多少荒くても構わないし、ブレスも撃ち込まれにくくなりそうだ。更に装填する。

 リオレイアが最初に目をつけたのはミドリだったのか、リオレイアがミドリの方を向いた。ミドリはそれに気付くと即座に攻撃を止め、柱に向かって走り出した。

 リオレイアが息を吸うと口から炎が漏れた。ブレスの予備動作だ。

 放たれた火球がミドリを捉える――直前、ミドリは柱を駆け登って反転し、火球を飛び越えるように跳んだ。

 柱が一撃で粉砕され、崩れだしたが、ミドリはそんなのお構い無し、と言わないばかりにリオレイアに突っ込み顔に剣を叩きつけた。

 リオレイアが僅かに怯み隙ができる。リオレイアの顔近くに走り込み、着地を度外視して飛び、すれ違い様に更に一発撃ち込む。

 

 

「あ痛っ」

 

「アオイ、突っ込みすぎですっ冷静に!」

 

 

着弾を確認した直後に柱にぶつかる。ダメージはあまり無いはずだがちょっと痛い。メリルは注意をしつつも狙いは正確で、太刀の切っ先は流れ星みたいな線を描き、左翼爪を切り落とした。

 

 

「ギャオッ⁉」

 

 

 リオレイアが短く悲鳴をあげよろめく。しかし、すぐに踏ん張り、メリルに向き、翼を僅かに上げ、地面を蹴った。

 巨体が中に浮き、同時に丸太程もありそうな尻尾が地面を抉りながらメリルを狙う。サマーソルト。リオレイアの動きでブレスに並んで凶悪な威力を持つ。もし直撃すれば即死することもあり、九死に一生を得たとしても毒が体を蝕む。

 メリルは直前でそれをかわし、後ろに回り込んだ。そして、一回転して戻ってきた尻尾に気刃無双斬りを叩き込む。だが、尻尾がとても強靭なようで表面浅い傷をつける程度にとどまる。その代わり、太刀が仄かに白く光り、鋭さをます。

 リオレイアが着地すると風圧でメリルが僅かに押され、着地を狙ったミドリが尻餅をついた。

剣士相手に隙のない攻撃は基本的にガンナーにとっては隙でしかない。徹甲榴弾を顔に一発撃ち、爆発する前に装填、もう一発発射。二回の爆発音が洞窟に響き、水溜まりを揺らし、リオレイアの体勢が崩れ、横に倒れる。気絶――ハンマー等の鈍器の十八番だが、ガンナーでも可能なそれはモンスターにとって大きな隙を晒させることができる。

 ミドリとメリル、二人の剣が赤い光を纏う。鬼人化と気刃斬り。ミドリはリオレイアの身体を滅多切りにしていく。一撃一撃はとても弱いが、手数の桁が違う。みるみるうちに鱗が、甲殻が、削れていく。

 メリルの丁寧でかつ素早い剣技は流れるようにリオレイアに太刀傷をつけていく。翼膜が裂け、背中の毒針が刈られ、肉が甲殻ごと斬られる。

 ガンナーの仕事は援護。攻撃に参加する前に、周囲の索敵が先だ。……見渡すが他にはモンスターはいない。

 しゃがむように体勢を低くしてヘビィボウガン特有の技、しゃがみ撃ちのような状態にする。上手くやれば一度狙ったところに弾丸を撃ちこみ続ける事が出来る。はず。装填と発射を可能な限りのスピードで繰り返す。

 初動は上手くいったといえる。だが狩りの本番はここからだ。

 リオレイアは起き上がると、そのまま上体を持ち上げて咆哮を放つ。

 洞窟が揺れ、空気が震え、鈍い音が走り抜けた。

 

 

「ギャオオオォォォッッッ!」

 

 

 怒り状態。ここからは回避に重きを置き、攻撃は二の次にする必要がある。僕達は武器を仕舞い、一旦様子を見る。

 リオレイアは僕の方を向いた。そして大きく息を吸った。普通のブレスを撃つ時よりはるかに多い量を。

 

 

「走りなさいッ」

 

「分かったっ」

 

 

 メリルの鋭い叫び声に応え、リオレイアを軸にして反時計回りに全力で走る。その直後に背中の後ろを火球が通り、そのまま岩に直撃する。白い光が一瞬辺りを照らし、その直後に真っ赤に溶かされた岩が広範囲に撒き散らかされる。爆風に体をよろめかせたが踏み止まり、更に走る。もう一発は足元に着弾し、今度こそ吹き飛ばされる。

 三発撃つはず。急いで体勢を立て直そうと手を着いた瞬間。

 

 

「ミドリッ避けなさいッ!」

 

 

 メリルがミドリの名を呼ぶ。その声の通り、僕には火球は飛んでこず、代わりに小さな石ころが飛んできた。避けるほどではない。

 砂煙が舞い上がったが、すぐに晴れそこには顔を青くしたミドリが青白い顔をして立っていた。毒をうけてる。

 

 

「ミドリ、下がって。僕達で暫く対処す「二人で一旦下がってくださいッ」

 

 

 メリルに急に割り込まれる。僕は大した怪我をしていないし、ミドリが解毒する間だけでいいのに、何故? ただ、言われた通りにしたほうがいいと今までの経験が告げている。

 ミドリがよろめきながら柱の陰に隠れたのを確認し、リオレイアに注意を払う。

 

 やっぱりメリルは強い。攻撃と回避の切り替えがあまりにも早く、メリルが攻撃し続けているようにも見えるし、回避し続けているようにも見える。

 ただ最近になって気付いたことがある。メリルの戦い方は一度相手にしたことがある時や、よく似た敵にはめっぽう強い。その代わり、初見の敵にはタイミングや癖、間合いを知ることから始めないといけない。要するにメリルがジンオウガを一人では狩れないと判断したのは《ブシドー》という戦闘スタイルと今は噛み合っていないからだろう。

 

 

「アオ、早く援護に行くよ!」

 

 

 解毒薬や回復薬を飲み終わったようで、元気そうな顔に戻ったミドリはリオレイアに向かって駆け出す。僕も転倒を狙うために脚に照準を合わせて引き金を引いていく。背後を僕とミドリに晒している以上、反応はできない。狙いが合っていれば必中だ。

 弾丸が突き刺さった直後にメリルがリオレイアの脚の隙間から出てくる。そのままメリルは片足を軸にして回り、リオレイアの脚を斬りつける。

 

 

「肩借りるよっ」

 

 

 ミドリがメリルの肩を踏みもう一度跳躍、リオレイアの背中に張り付く。

 

 

 リオレイアはミドリの事を振り落とそうとして暴れようとしたが、メリルが斬りつけた脚から血が吹き出て悲鳴をあげながら転倒した。

 

 

「一気に畳み掛けますッ」

 

 

 

 

 狩りは驚くほど順調だった。陸の女王とも呼ばれるあのリオレイアが殆ど一方的に攻撃され続けているのだから。

 二回目のリオレイアの移動、或いは逃走後、僕達はベースキャンプに戻った。

 

 

「リオレイアは体を休めているはずなので私達も休みましょう」

 

「でも食べ物がないよ?」

 

「ナチュラルに携帯食料を省くのはやめてあげてください」

 

 

 食べ物がないのである。これは明日は朝から狩りだというのに由々しき事態だ。

 でも解決する手段があるのかミドリはポーチから小さな袋を取り出し言う。

 

 

「……これとガーグァの肉と薬草を、携帯食料に入っている香辛料を使えば簡単にそれなりのものになるってナイトに聞いた」

 

「鍋があるね。水は雨水が溜まっているし、ガーグァはここに戻る途中に見かけた。薬草は持っているね」

 

「二人とも携帯食料嫌いすぎですよ。……まぁ私も不味いと思いますけど」

 

 

 

 雑に剥ぎ取ったガーグァの肉を薬草と一緒に沸騰したお湯の中に放り込んで煮る。

 

 

「そういえばさ、ミドリが毒をうけたとき何で二人で下がるように言ったの?」

 

「毒状態の時は小型モンスターですら脅威になりえます」

 

「そういう事だったんだ。ありがとうメリル」

 

「いえ。あ、そろそろいい感じですよ」

 

 

 最後に香辛料をふりかけ、袋の中の粉を入れて混ぜただけで美味しそうなものが出来てしまった。ナイトさん恐い。

 

 

「ガーグァ特有の匂いが消えてますね」

 

「携帯食料の香辛料ってこんな丁度いい辛味だったんだね」

 

「美味しいね」

 

 

 お肉はほろほろと柔らかく、薬草は旨味を吸い、渋みが消えていて、スープはこってりとしているのにさらさらと飲める。そして香辛料の辛さは体を心地よく温めてくれる。

 ついさっきまで、或いは明日の朝からリオレイアを狩らないといけない、そんな緊張が感じられない食事を終え、僕達は眠りについた。

初めて狩場でぐっすり眠ったかもしれない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。