モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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三十一話 人を追い、手を伸ばし

 心地良い光が僕達を包み込んでいる。微睡みのような、ぬるま湯のようなそんな無意識の内に抜け出すことを拒む心地よさをその光は持っている。

 ひなたぼっこ。その一点においてこの場所は完璧といえよう。

 遠くに聞こえる森のざわめき、可愛らしい小鳥の歌、心を落ち着けてくれる水のさざめき。たまに吹く冷んやりとした風が、日射しによって火照ってしまった体をちょうどよく冷やす。

 僕とミドリはここでただゆったりと過ごしている。お茶をすすり、煎餅を食べ、本を読む。

 最初こそ否定的だったメリルも、今ではルナさんに膝枕をしてあげながらうとうとしている。

 ああ、なんて平和なんだろう。

 

 

 

 

「私の家で何してるんですかッ!」

 

 

 突然の怒声にメリルがびくつく。僕達は慣れているので今更驚くことはない。肩まである癖っ毛の茶髪に栗色の目、真面目そうな印象を与える眼鏡をかけていて、この村でもっとも苦労させられている人、ティラ・スターリィ。

 

 

「……ティラ、温泉見つけたの?」

 

 

 ルナさんが目を擦りながら起き上がり、言う。銀髪赤眼の、幼女みたいな外見の村長はここに来る前に唐突にティラに頼んでいたのだ。

 

 

『温泉を掘っておいて』

 

 

 と。温泉で有名なのはユクモである。この村はユクモ村の近くにあるため温泉を掘ったところで観光客が増える訳ではない。

 ルナさんもそれを熟知している。だがその上でこう言った。

 

 

『私も温泉に入ってみたい』

 

 

 ルナさんはユクモ村がお嫌いな様子で、今までに一度も温泉に入ったことがないのである。しかし、お風呂は好きなようで、大量の入浴剤が置いてあるのを小さい頃に見たことがある。

 

 ティラさんは堪えきれない様子で声を出す。

 

 

「はい、見つかりました。当たり前です……昔に一度湧きましたもんね」

 

「温泉なら大きいのがユクモ村にあるから人集めにならないんだもん。それにあの頃はお金に余裕がなかったしね」

 

「だからって今になって私の仕事を増やさないでください。今ハンターが増えてきて色々と大変なんですから」

 

 

 ティラさんはため息をついた。ティラさんはルナさんに極端に苦労させられている。

 各地のハンターズギルドと連絡をとり、この村の周辺の討伐や採集の依頼を集めている。他にも、村の開発の指揮に貿易、観光客への宿の提供、実質この村の表の顔……最早村長である。

 

 

「ティラ、特性栄養ドリンコ持ってきたよ」

 

 

 ナイトさんがティラさんの後ろから歩いてきた。持っているお盆には栄養ドリンコが入った大きめの瓶とコップが一つ置いてある。

 

 

「わぁ♪これでもう一働き出来ますね! ……私に死ねと?」

 

 

 ナイトさんの栄養ドリンコは一度飲めば疲れが吹き飛び、三時間くらい眠気がスッキリし続ける飲み物だ。実際に疲れが吹き飛ぶ。それでもどこか狂気を感じる怖い飲み物。

 

 

「夕飯、ティラの好きなもの用意しておくから。頑張れ」

 

 

 そう言ってナイトさんは手を振って戻っていく。今日は食事処は休み。代わりに温泉の施設を作っている場所で炊き出しをしている。作業が異様に早いのは多分ご飯に何か入れているからだろう。

 

 

「……ナイトに村のお金を何に使っているか聞きそびれました」

 

「好きに使わせてあげなよ。私の唯一気を置ける人だよ?」

 

「えっ私は……?」

 

 

 ティラさんが寂しそうな顔をする。いつもルナさんにおもちゃにされているのは気のせいだろうか。

 

 

「うそうそ、温泉宿が出来たらしばらく休みがあげるから」

 

 

 そういってルナさんは眠りだした。可愛らしい寝顔だが何故か怖い。

 

 

「宿にするって今初めて聞いたんですが」

 

 

 ティラさんが何か呟いたが僕は目を瞑り、聞かなかったことにした。

 

 

 

 

 流石にティラさんが可哀想なので僕達はティラさんの家を出てルナさんの家にお邪魔する。この村で家、と言っても最低限の設備に部屋が一つという簡素なものだ。だがルナさんの家は村長の家、と言った感じでそれなりに大きい。普段はルナさんと適当に何人かが寝泊まりしている。

 ナイトさんが同居しているらしく、夜中に帰っていくところを見ることがある。

 

 

「ねえ、ルナちゃん、何で弓が立て掛けてあるの?」

 

 

 ミドリは不思議そうに言った。その弓はとても長く、メリルの太刀ほどもあったからだ。

 

 

「ナイトがたまに引いているからだよ。そこにあるのはナイトがもう使わないから、って私にくれたんだ」

 

 

 ナイトさん、絶対に笑顔で言ったんだろうな。きっとルナさんはそれに対して何か仕返しをしたんだろうな。

 ……なんで弓なんかナイトさん持ってるんだろ。

 

 

「ナイトさんのこと全く分かんないんだけど」

 

「分かる人なんてこの村にいな……」

 

 

 いた。ミドリと顔を見合せてからルナさんを見る。可愛らしく首を傾けてこっちを見ている幼女。多分色々知っているはず、例えば性別とか。

 

 

「そういえば話さないといけないことがあるんだったね」

 

 

 ほう、ようやくナイトさんについて話してくれるようだ。今までに何回聞いても教えてくれなかったこと。訪ねる度に『言わない方が面白そうだからやだ!』と答えていたルナさんが。

 

 

「まず……この村が作られる前……厳密には作り直される前の話からだね」

 

「……?」

 

 

 ナイトさんのことでは無さそうだ。それ以外、以外……?

 

 

「まず、私が住んでいた村が一度モンスターに襲われたんだ」

 

「えっ」

 

「うそ?」

 

 

 余りにも何でも無さそうに答えたため反応が遅れた。いや、モンスターに襲われるって相当なことなんですが。

 

 

「で、私の両親が死んじゃったから叔父に引き取られてね」

 

「「はいっ?」」

 

 

 本当に何でも無さそうに話すルナさん。話の内容にも驚かされているけどそれ以上に顔色一つ変えないルナさんにも驚く。身内……それも両親が亡くなったのだから他にも何かあるものでは……? あ、僕もいまいち分からないぞ。

 

 

「その引き取られ先の村は、大体この村の下、麓の方にある集落、だったところ」

 

 

 過去形。集落だった、と。つまりその集落は――

 

 

「メリルさんッ」

 

 

 扉が急に開き、肩で息をしているティラさんが入ってきた。メリルはティラさんに近付き言う。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「渓流に……渓流に……リオレイアが!」

 

「リオレイア⁉」

 

 

 リオレイアなら一度メリルが撃退したはず……まさかまた戻ってきた?

 

 

「でも、居るだけなら問題ないでしょう。そもそもユクモ村のハンターで対処出来そうなものですが……」

 

「巣を作ったらしく、気が立っていて普段より危険度が高いんですッ」

 

 

 モンスター達は繁殖期やその後卵を育てている間、凶暴性が増す。中でもリオレイアはその増し方が顕著。恐らく周辺のハンターの中で最も強いのがメリルだからだ。

 

 

「……分かりました、今すぐに向かいます」

 

「メリル、私達は……」

 

 

 ミドリが戸惑いながら言う。メリル一人でもきっと狩れるだろう。でもミドリはきっと手伝いをシタイノテだ。

 

 

「駄目です、リオレイアはまだ二人には荷が重いです」

 

「……巣があるってことはリオレウスも近くにいるはず。一人で二体に遭遇したら一巻の終わりだよ」

 

「……ッ」

 

 

 リオレウスとリオレイアを同時に相手にするのは一人ではまず無理だ。この二体は連携をとり、的確な狩りをするため、単純に二倍強くなるわけではない。軍隊一つ屠るだけの強さがある。

 

 

「ユクモ村に、応援を要請して下さい。後この村の住民を家に避難させて下さい、見つからなければ大丈夫なはずなので」

 

「分かりました。支給品は追加で送っておきます……お願いします」

 

 

 メリルは指示を終えるとこちらをむく。

 

 

「武具を装備した後、ミドリは荷車を、アオイは弾薬を準備して下さい。回復薬関係は私が全て用意しておきます」

 

 

 メリルはそれを言うと走って飛び出していった。

 

 

「僕たちも続こう」

 

「うん」

 

 

 準備のため家に向かって僕達は駆け出した。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 日が真上に昇り、真っ青な空が広がっている。天気は良いが、気分は張り詰めている。これから挑むのはリオレイア。しかも緊急の案件なので他のモンスターがいる可能性も捨てきれない。

 

 

「巣を作った場所は事前に聞いておきました。洞窟にあるようなのでこの道を通って最速で向かいますよ」

 

 

 メリルは地図を指し、こちらに見せる。リオレイア級のモンスターが居ると小型モンスター、特にジャギィは殆ど居なくなる。だからジャギィの多いエリアも突っ切ることができる……と、メリルにここに来る途中に教えられた。

 

 

「ミドリ、何があってもあの狩技だけは使わないでくださいね」

 

「分かってるよ。……そもそも使い方忘れちゃったし」

 

「……。行きますよ」

 

 

 陸の女王、リオレイア。……無事に狩れればいいけど。

 そう考えるながら走り出したメリルにミドリとついていった。


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