モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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三話 山奥で

 よく晴れた日の昼ごろ、アオはハンターになるため訓練所に行くことになった。

 

 

「アオ、行ってらっしゃい」

 

「立派なハンターになって帰ってくる。行ってきます!」

 

 

 アオはそう言い、ガーグァが引く車に乗る。それに反応してアイルーが手綱を引き、進み始める。アオの姿が見えなくなった瞬間、目から涙が零れる。涙を手で拭うと、ルナちゃんが目の前に立っていた。

 

 

「わっ!?」

 

 

 急に出てきたルナちゃんに驚き、尻餅をつく。ルナちゃんは私に手を伸ばしながら、

 

 

「一旦、家に戻ろ?」

 

 

 と、優しく言った。その手を掴み立ち上がると、ルナちゃんは私の手を引き小走りで家に向かった。

 家に入るなり急かされ部屋の適当な場所に座る。

 

 

「どうしたの?」

 

「ちょっとした話があるんだ」

 

 

 ルナちゃんは自分でお茶を淹れて、少し飲んでから話す。

 

 

「アオイは今日から訓練所だね。何年間か知ってる?」

 

「うん、確か六年間……」

 

 

 また悲しさが込み上げてくる。ルナちゃんはもう一度お茶を飲み言った。

 

 

「でもよく考えてみてよ。六年経って帰ってくるとアオイはとっても忙しくなる。」

 

 

 ハンターはとても格好よく、人気の高い職業ということは当然知っている。しかしとても忙しくで、危険な仕事ということも分かってはいる。

 

 

「アオイはうんと忙しくなるからミドリとは一緒にいられないだろうね」

 

「それは、い……やだ」

 

 

 一緒にいられなくなることは嫌だ、しかしそれは無理な願いということは理解していた。アオがハンターになれば当然、モンスターが出れば狩猟に行かなくてはいけない。仕方ないことなのだ。

 

 

「そこでね、ミドリのために私は考えたんだ」

 

 

 ルナちゃんは挑発的な笑みを浮かべた。またお茶を飲むと、部屋の外にむかって珍しく大声を出して言った。

 

 

「スカーレットー!」

 

 

 そう言うと赤い……紅い髪の女性が顔を出した。スカーレットと呼ばれた女の子は私を見るなり、

 

 

「この娘がハンターになりたいって?」

 

 

「へ?」

 

 

 ハンターを志望しているのはアオである。人違いだと言おうとした所で

 

 

「うん。この娘がハンターを志望している――ミドリだよ」

 

 

 ルナちゃんはさも当たり前のことのように私がハンターを志望しているという。何があったのだろうか、ボケたのだろうかと考えた所でルナちゃんは耳元で

 

 

「アオと一緒にいたくないの?」

 

 

 囁いた。それを聞いた瞬間、理解し、言葉を発した。

 

 

「私がミドリです。ハンターになりたいんです!」

 

 

 ルナちゃんは嬉しそうな顔をしていた。スカーレットさんは苦笑いをしていた。

 

 

「ミドリちゃん、今日から、ハンターになるために鍛えてあげる。」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 その日から、ハンターになるための特訓が始まった。

 

 

 

 スカーレット……師匠の特訓はまさに地獄だった。

 まず、文字通り山奥の小屋に連れてかれた。

 

 

「こんな山奥で何をするの?」

 

「特訓です」

 

「訓練所に行かないの?」

 

「ハンターライセンスをとるだけでハンター自体にはなれるのです。そこはあくまで狩場での無駄死にを防ぐための養成所に過ぎません。」

 

「じゃあ今から何をするの?」

 

「ついてきて下さい」

 

 

 師匠は微笑みながら山奥で目印に布を木に巻き付けながら歩いた。数分ほど歩いた後、一周してきた。

 

 

「今通った所を走り続けて下さい。」

 

「はい!」

 

 

 

 動けなくなるまで走らされた。簡易的な料理を食べさせられ、お風呂に入って、死んだように眠った。起きると朝食を食べさせられて、ひたすら勉強させられ、昼食を食べ、また走らされ、眠る。慣れてくると走るルートが変えられ、更にきつくなり、最終的には崖を登板させられた。

 しかし、怪我をしたり、風邪を引いた時は丁寧にかつ愛情を持って接しられた。一年程経つと

 

 

「基礎体力づくりはこれくらいかな」

 

「やったー!」

 

 

 走り込みはしなくて良いことになった。基礎体力づくりという名の地獄は終了したが、その後はひたすら体術を叩き込まれた。それも三年間みっちりと。

 期間が経てば経つほど体術は磨かれていった。それに比例して、師匠の愛は大きくなっていった。

 

 

「ミドリちゃん? 今日は私と一緒に……」

 

「もう私は寝ます。お休みなさい。」

 

「あぅ……」

 

 

 特訓中とは人が変わったような態度だった。私が言うのもなんだが、すごい溺愛っぷりだった。

 

 体術を大体マスターした後は色々な武器を使い、一番しっくりきた武器……双剣を使うことになった。二年で体術を織り混ぜた動きが出来るようになり、最後の二ヶ月は実際に狩りもした。正直なとこ、ジャギィと初めて相対した時はかなり弱く感じた。

 

 それで、アオが村に帰る前の日、

 

 

「私はもう一人前のハンターです! 村に帰らせて下さい!」

 

 

 私は師匠に頭を下げた。もう今ので今日何回目かも分からない。

 

 

「まだまだ半人前です。後二年は修行してもらいます。」

 

 

 師匠は頑なに村に戻ることを許さない。

 

 

「ハンターライセンスも貰いました! 小型モンスターも充分に狩れます!だから何故……」

 

「それが半人前と言っているんです。その程度ではまだまだ一人前ではありません。」

 

「もういいですっ」

 

「待ちなさい!」

 

 

 私は思いっきり山を駆け降りた。師匠はきっと私が狩場に降りることを察しているはずだから、武器、防具を準備するために少し出遅れる。

 

 

「その間に……実力を示すもん!」

 

 

 そのまま麓の渓流……それもジャギィの巣まで駆けきった。

 

 巣には五匹のジャギィがいた。こちらに気付くなり一斉に襲いかかってくる。咄嗟に双剣を構える。先頭のジャギィが口を開けた瞬間、そこに右手の剣を振る。数センチ程を切り裂き、剣を振り抜く。ジャギィは悲鳴をあげたが、まだまだ死ななさそうだ。

 二匹目が飛び掛かってくる。咄嗟に左手に構えた剣の柄で殴り、急いで距離をとる。囲まれたら危ない。周りを見渡すと背後には池が左右は崖がそびえたち、正面には六匹のジャギィ。

 三匹目のジャギィが飛び掛かってくる。横にステップして避けて、タックルで池に突き落とした。急に深くなっていたようで一瞬沈みきった後、水面に顔を出しもがいている。

 その間に四匹のジャギィに囲まれる。四匹が威嚇をしてくる。ミドリは双剣を振り上げ

 

 

「せいッ」

 

 

――鬼人化。スタミナを浪費するが、短い間、鬼が乗り移ったかのような強さを得ることができる。そして隙を見せたと判断したのか飛び掛かってきたジャギィに

 

 

「ハァッ!」

 

 

 瞬き程度の時間に三連撃。頭と首から大量の血が吹き出し、倒れる。恐怖を感じたのだろうか、二匹は後退りをし、一匹は逃げ出す。後退りをしたジャギィに対し滑り込むように距離を詰め、乱舞。凄まじいスピードでジャギィを切り刻み、絶命させる。そして最後に水面から上がってきたジャギィを斬り伏せ、辺りは静かになった。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 疲労困憊。鬼人化の代償。使いすぎると全く動けなくなる。仰向けに倒れこんだ直後、足音が聞こえてくる。上体を起こすと五匹程度のジャギィを引き連れたドスジャギィが走ってきた。仲間を殺された怒りだろうか、ドスジャギィは咆哮をあげる。

 あっという間にジャギィ囲まれ、ドスジャギィが近付いてくる。その直後、私の目の前にビンが投げ込まれた。ビン割れた瞬間、光の嵐が辺りを覆った。

 その直後、首に衝撃が走り、意識が途絶えた。

 

 

 

   ○ ○ ○

 

 

「――それで目が覚めると、私はルナちゃんの家で寝かされていたの」

 

 

 ミドリの目には涙が浮かんでいる。ミドリが手の甲で拭ってもとめどなく溢れてくる。

 

 

「ありがとうもさよならも言わなかった……」

 

 

 子どものように泣きじゃくるミドリの隣に座り、ミドリが泣き止むまで背中をさすり続けた。

 


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