モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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二十七話 白く消される

「ギャルアアアァァアァァ!」

 

 

 大音量の断末魔のような咆哮を天井に張り付いているフルフルが放つ。

 ぞわりと全身が震えるような感覚を覚え、反射的に体を縮こまらせて耳を塞いでしまう。モンスターの咆哮は人間の生存本能に作用するらしく、基本的にしばらく動くことは出来ない。

 本能による行動だからかこの中で最も狩りの経験が豊富なメリルですら耳を塞いでいた。

 爆音が洞窟に木霊しはじめたころにやっと動けるようになる。同時に最初に撃ったペイント弾の香りも辺りに匂いだした。

 下ではメリルが太刀を鞘から出しながらフルフルを睨んだ。その殺気に反応したか、フルフルはメリルにむかって落下した。

 メリルは右に飛んで避けてすぐさま斬りかかる。飛竜刀だっけ、刀身がフルフルの翼に触れた瞬間炎が周囲を照らす。

 

 

「そうだ火炎弾、火炎弾……」

 

 

 慌てて仕込んだ火炎弾を装填して狙いをつける。闘技場気分が抜けきってなかった……。

 フルフルが攻撃した隙に合わせて火炎弾を撃ちこんでいく。翼に、首に、背中に。弾丸が刺さるたびに炎がフルフルを焼く。

 苦手な炎を浴びせ続けたからかフルフルは僕の方を向く。そして首を持ち上げ、尻尾を地面に吸い付かせ……

 

 

「ブレス、きます!」

 

 

 メリルの指示に合わせて高台から飛び降りる。背中の後ろを通っていった球状のブレスに少しだけ静電気的なものを感じる。

 着地と同時にフルフルに銃口をむける。また首を持ち上げているということは……

 

 

「せいッ」

 

 

 奇襲気味に飛び出したミドリがフルフルの首元に剣を振り抜く。しかしフルフルのブヨブヨとした皮に弾きかえされる。

 弾きかえされたが、僅かな隙ができたので範囲から逃げる。

 

 

「あっぶな……」

 

 

 直ぐ側を電撃が通っていった。通っていった所に僅かに電気が残る。

 

 フルフルは動きが鈍く、ミドリとメリルの連携に翻弄されていた。ミドリの双剣はほどんど弾きかえされるが、攻撃が重なるたびにフルフルの体表にゆっくりと血が滲んでいく。

 メリルの太刀は切れ味が良いのか、すんなりと切り傷をつくっていった。

 

 

 

「ミドリ、フルフルから離れて、アオイは攻撃を!」

 

 

 フルフルが身をよじらせると体が電気に包まれた。空気中を走る電気は剣士たちを追い払うには十分な威力だが、ガンナーには隙でしかない。

 撃っては装填をできるだけ素早く行う内に支給品の火炎弾を全て撃ちきる。

 狩りは順調に進んでいく。メリルの的確な指示はフルフルのゆっくりとした動きと相まって効果的だった。

 電気を放出し終わり、少し疲れた様子のフルフルの懐にミドリが潜り込む。鬼人化をして足に連撃を叩き込んだ。反対側に回り込んでいたメリルは抜刀した太刀を翼の下に滑り込ませ切っ先でフルフルの足を切った。

 両側から足を痛めつけられたフルフルは前のめりに転倒した。

 

 

「総攻撃ッ」

 

「言われなくてもッ」

 

 

 ミドリは狩技、【血風独楽】を使う。

 ミドリの持つ双剣、オーダーレイピアの青色と緑色の光が暗い洞窟の中で舞い、フルフルを削り取っていった。血が噴き出すたび、刃風がそれらを吹き飛ばす。

 一方、僕は【ラピッドヘブン】をヴァルキリーファイアに装填、引き金を引く。反動の度に放たれる幾多の弾丸は残光を残しながらどんどんめり込んでいく。

 フルフルは悲鳴ともとれる声をあげながらゆっくりとこちらを向く。よく見ると身体中についた傷から流れた血は凍りつき、白い霜に赤色は霞む。それらはフルフルが体を動かす度に落とされていく。

 完全に起き上がった直後、後ろから地面を蹴る音がする。

 弾丸のように飛び出したメリルは居合いの要領で一閃、返す刀でもう一閃。

 メリルが太刀を納刀した音が洞窟の中に響いたと同時、赤い線が二つ、フルフルの顔に走る。血の珠がいくつも浮かび徐々に血が溢れていく。順調に体力を削れているようだ。

 フルフルは怯みながらも息を吸い、叫んだ。

 

 

「フゴォォ……ギャルアアアァアァアァ!」

 

 

 最初に聞いた咆哮の何倍も恐怖を駆り立てる不協和音。慣れられる感じも一切なく、体は強張り、竦む。

 劣勢が一つのきっかけであっという間に逆転するように、優勢もまた簡単に覆る。

 そもそもハンターは小さな攻撃の積み重ねであるのに対して、モンスターは死ぬその瞬間まで致命傷になりうる攻撃を放つことができる。

 こちらが動けない間にフルフルは上に飛び上がり、天井に張り付きミドリの後ろまで歩いていく。

 

 

「どこ?」

 

 

 しかし、ミドリの視界からは完全に消えてしまったためかミドリは背後にフルフルがいることに気づかない。

フルフルは口の辺りに電気を溜め込み……

 

 

「ミドリっ後ろ!」

 

 

 危険を知らせる。だが遅すぎた。

 ミドリが振り向いたと同時にフルフルのブレスが直撃した。

 絞り出したような悲鳴が上がり、ミドリは崩れるように倒れた。

 

 

「ミドリッ!」

 

 

 反射的にフルフルに銃口を向け、引き金を引くが、何も発射されない。

 フルフルは、ゆっくりと天井を歩き、ミドリに近付く。

 打開策はないかとメリルを見る。

 

 

「……」

 

 

 沈黙していた。かたまっているようにも見える。

 

 

「メリル? メリルッ!」

 

 

 呼びかけても反応はない。理由は不明。自分でどうにかしないといけない。

 その瞬間、時間が遅く感じられた。色が消え、音が引き延ばされる。

 その空間の中一心不乱にミドリにむかって駆け出す。自分の動きもゆったりとしたものに感じられる。

 横たわっているミドリの体に片腕をまわす。その瞬間、残っていた電気が僕にも流れた。思わず離しかけた。

 麻痺が解けてある程度動けるようになったのかミドリも僕の体に手をまわし、力を入れてくれた。お陰で落とさなかった。

 唐突に影に覆われる。フルフルが飛びかかってきたのだろう。

 肩当てを自分の胸に当て、進行方向とは真逆に体を捻り、跳ぶ。そして左手でグリップにあるスイッチを押しながら引き金を引いた。

 その瞬間、ヴァルキリーファイアに大タル爆弾の爆発を至近距離で浴びたような反動が発生して、ミドリもろとも洞窟の外まで吹き飛ばされた。

 

 

   ◯ ◯ ◯

 

 

 辺りは一面銀世界。直ぐそばに沢山の氷柱が重なった壁があって、その逆は崖になっている。曇っていてひらひらと雪も降っている。体を起こそうとすると急に色んな所が痛む。

 その内の一つを見ると赤黒く小さめに火傷していた。

 ポーチの中から回復を取り出して飲むとすぐに痛みは和らぎ、傷もある程度治った。

 ねぇ、何これ? ここどこ?

 アオがなんか抱きついてくるから死んだのかなーとか思って私も思いきって抱きついたら急にこの有り様だよ何が起きたの?

 状況を整理してみよう。まず、確かフルフルを倒しに来たんだっけ。あ、色々記憶が鮮明になってきた。

 氷海に来て、フルフルを見つけて……あ、私、麻痺して倒れたんだ。で、多分フルフルが私のことを潰そうとして飛びかかってきたところをアオが……

 

 

「アオ、格好いいとこあるんだ。ありがとう……」

 

 

 さて、肝心のアオはどこにいるのかな。とりあえずこの青くてもふもふしたものから起き上がろう……

 

 

「て、アオっ⁉」

 

 

 私はアオの上で寝ていたようだ。ごめんね。

 顔を覗きこんでみる。整ってて可愛らし……中性的な寝顔がある。頬柔らかそうだな……

 寝息をたてている。でも眠ると体温が下がって凍死しやすくなるとか。頬を叩いてみる。ぺちぺちぺち……

 

 

「ん……ふあああ……?」

 

 

 アオが起きた。眠そうに目をこすりながら体を起こす。途中でちゃんと意識が覚醒したのか、目を見開いて辺りを見渡す。

 

 

「ミドリ……そっか、どうにかなったんだ……」

 

「本当に、ありがとう」

 

 

 深く、頭を下げる。アオが助けてくれなかったらきっと、私は。……涙でてきた。

 涙がおさまるまで頭を下げ続けた。頭をあげると照れくさそうに笑うアオが居た。

 

 

「これくらい当然だよ。ミドリが無事で良かった。メリルを……」

 

 

 アオはそこでかたまる。でもそれは一瞬のことで立ち上がって辺りを見渡す。雪が少し積もったヴァルキリーファイアを持ち上げ雪を落として担ぐ。

 

 

「ミドリ、急ごう」

 

 

 その時のアオの顔は妙に真剣だった。メリルの実力は生半可なものじゃないことを知っているはずなのに。それどころか最善はメリルが一人で狩りをすることなのに。

 私が麻痺して動けない間に何があったの。

 アオの姿が洞窟の闇に溶けていく。残った足跡は急に強くなった吹雪が埋めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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