モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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二十六話 真珠色の影

「ふんふーん♪」

 

 

 ミドリはご機嫌な様子で双剣を磨いている。差し込んだ陽に照らされた刀身はキラキラと輝いている。

 

 

「ミドリ、随分機嫌がいいんだね?」

 

「こんなに綺麗な剣があるんだよ! 当然でしょ。私、一生をこの剣と共にしたい!」

 

「それもいいけど……」

 

 

 ここはドンドルマの宿舎。ギルドに紹介された安価な宿。少し休んでドンドルマでクエストを受けようとしたのだが……

 

 

「三泊目だよ? そろそろ狩りに行こうよ?」

 

 

 ミドリは色々理由をつけて中々武器を使いたがらない。汚したくないとか。……本末転倒な気が。

 メリルは三人分の食事代や宿泊費がかさんでそろそろ懐が寂しくなってきたらしく日に日に必死さが増している。

 

 

「ミドリ、今日こそ狩りに行きますよ」

 

 

 呆れ顔で言うメリルにミドリは余裕そうにかえす。

 

 

「メリル、それは私に二十度目の正直で勝ってからね」

 

 

 メリルはその言葉にカチンと来たのかいつもの丁寧さや冷静さが抜けて声を荒げた。

 

 

「勝てませんっ! 行きますよ」

 

「わーメリルがいじめるー!」

 

 

 メリルもかなりご立腹なようだ。これ以上続けるとミドリが駄目人間になるかもしれないからこれでいいだろう。

 メリルはミドリの腕を引っ張って無理やり宿の外まで引きずり、そのころにやっとミドリが諦め、自分で立ち上がった。

 

 

「……何を狩りに行くのさ」

 

「フルフルです」

 

「フルフル⁉ 今すぐ行こうよ!」

 

 

 うへぇ……フルフルかぁ……。

 

 

 

 

 フルフルは全く人気のないモンスターだ。メリルが言うには、まず見た目がグロテスクなのだ。目がなくて生傷だらけの体で、口はまるで体が裂けているように見え、中には鋭く、ヤスリのような歯が覗いている。

 皮はひたすら不快なぬめりがある上、剥ぎ取りの時は刃が滑って危なかったり。

 咆哮はまるで断末魔。その上、全く気配がないので突然後ろから叫ばれたりして心臓に悪い。 

 だが、その分報酬金は高い傾向にあり、意外と個体の危険度も低い。

 メリルは集会所でフルフル討伐の依頼を受けた。人気がないのは本当なようで、他にも何枚か余ってた。

ギルドの人に何故かペコペコと頭を下げられながら僕たちは荷車に乗せられ、今に至る。

 

 

「今回は私も頑張りますよ!」

 

「ん、そうなの」

 

 

 メリルは手を握って楽しそうに言う。ミドリはわりと冷めた感じで流した。

 

 

「でも、闘技場のナルガクルガ、あんなに早く終わっちゃったけど?」

 

「闘技場のはいざという時直ぐにバリスタで討伐出来るよう、体力のほとんどを奪っているんです」

 

「そーなんだ」

 

 

 それもそうか。闘技場から万が一逃げ出した時、討伐できなければ街が大変なことになる。

メリルは畳んであったコートを羽織り言う。

 

 

「そろそろ寒くなりますよ。ホットドリンクがあっても水に飛び込めば凍死するので気を付けて下さいね」

 

「「はーい」」

 

 

 僕たちは声を揃えて緊張感無く答える。まるでメリルの子供みたいだなと思った。

 

 

「そろそろホットドリンクを飲みたいところですが……」

 

 

 メリルはカタツムリみたいにゆっくりと動き箱からこんがり肉を取り出した。

 そしてその香ばしい匂いが漂うお肉に躊躇なく赤い粉末を……

 

 

「ちょと待った!」

 

「気にしないでメリルっアオイは私が抑えたからっ」

 

 

 身を乗り出した瞬間、ミドリに首に手をまわされて軽く絞められ、押さえられる。位置的に後頭部のあたりに胸があたっているはずだがそれらし……

 

ギュッ

 

「あぷっ……やめっ息が……」

 

 

 急にミドリの腕に力がこめられ洒落にならない絞め技が出来上がる。

 意識が口からでかかったところで力が緩められる。

 

 

「何か失礼なこと考えられた気がしたから……ごめんね」

 

「……」

 

 

 無意識に絞めたのは本当なようで、申し訳無さそうな声音で話される。表情が見えない状態で察するとか。ミドリの怖い。

 

 

「あ……」

 

 

 時既に遅し。トウガラシの粉末にしか見えないものを満遍なくかけられたこんがり肉は真っ赤だった。ここには味オンチしか居ないのか。

 

 

「一見、かけすぎですけどホットドリンクより美味しく防寒出来ますよ?」

 

 

 フルフルは基本的に暗くて寒いところに生息している。今は氷海と呼ばれる場所に向かっている。

 氷海はとても寒く、体温を上げて防寒ができるホットドリンクがなければあっという間にスタミナを奪い尽くされて凍死してしまう。

 しかしホットドリンクはマズい。にが虫とトウガラシは最悪の組み合わせだと思う。

 

 

「切り分けました。私的にはホットドリンクより味は上等です」

 

 

 そう言い、メリルは……確かホットミートだっけをこちらに渡すと直ぐに自分の分を食べた。あ、涙目で声にならない悲鳴あげはじめた。

 

 

「メリル、リアクションちょっと大きすぎだよ?」

 

 

 ミドリは特段これといったこともなく美味しそうに食べる。ミドリの言う通り、メリルの反応は過剰なのかもしれない。そう思えるくらいミドリは普通に何事もないかのように食べ終わった。

 渡されたこんがり肉を見る。トウガラシがかかっているのは表面だけ。……意外とどうにかなるんじゃないかな。

 

 

 はむっ

 

 

 

 

 

「アオイ、水をどうぞ」

 

「舌がぁ……喉がぁ……」

 

 

 ミドリの作ったものよりマシだが、本当にからい、つらい。確かにこんがり肉らしい旨味もあったが、キツい。

 

 

「アオ、もしかして辛いの苦手?」

 

「得意ではないみたい……」

 

「そう……」

 

 

 ルルド村で沸く水は持ってくるのを忘れた。そのためドンドルマで買った水を持ってきた。水にお金を出すのは正直勿体なく感じるがこれが普通だという。

……美味しくない。

 

 

「……それでは氷海のおさらいをします」

 

「「はーい」」

 

 

「まず、寒いこと。体温が奪われるので、壁などに寄りかからないように……」

 

 

 体温を奪われないようにすること。特に海が危険。

 スクアギルに噛みつかれたら動き回って剥がすこと。

 洞窟の中は怖い何かが凍って閉じ込められているので壁や地面、天井は凝視しないこと。

 ガウシカよりポポが美味しい。

 

 

 まとめるとこんな感じだった。メリルの主観がかなり混じっているがあんなに心をこめて(怖がりながら)言われたらかえって気になる。

 おさらいをして、メリルの氷海での狩りの話を聞いている内に氷海に着いた。

 

 

「やっぱり、ちょっと靴が重い……」

 

「滑って動けないと大変ですし、仕方ないです」

 

 

 靴にはめた滑り止めは少し重い。違和感があるがすぐ慣れるはず。

 ベースキャンプは海に面していて海には沢山の流氷が浮かんでいる。地図を見るに、エリア1に続く道は大きい氷が繋がって出来ていた。

 荷車を慎重に進めながらエリア1に着く。ポポという草食で大きい体格をもち、二つの反り返った牙が特徴的なモンスターの家族連れが居た。他のモンスターはいないようで安全なエリアのようだ。

 

 

「フルフルを先に探しましょう。多分洞窟にいるのでこっちです」 

 

 

 メリルは地図を片手に手招きしている。珍しく景色に興味のある様子のミドリの手を引き、追いかける。

 

 

「ポポノタンってどんな味なんだろ」

 

 

 訂正、いつもどおり。

 

 

 裂け目にも見える入り口を進むと主に寒々しい色の岩でできた洞窟だった。植物も僅かながら生えていて、オルタロスという蟻みたいなモンスターもいた。

 中央には塔みたいにそびえる岩があって更に進んだところに二つの分かれ道がある。

 

 

「いつフルフルが出てくるか分かりません。ここで待ち伏せをしましょう。後方と天井にも意識を」

 

 

 手短にそう言ってメリルはそっと太刀の柄に手をかける。それに習って重心を低くしボウガンに火炎弾をこめる。炎はフルフルのブヨブヨした皮に効率よくダメージを与えられる。

 ミドリが何も言わずに高台を指差す。登っておけ、ということかな。言われた通り登っておく。地の利を生かすのも大切なこと。

 

 

「……フルフルのブレスは壁をも伝うので油断しないように」

 

「はい」

 

 

 静寂が訪れる。つららを伝って落ちる水滴の音、高音の空洞音。遠くから聞こえる風の音。

 あまりに静かで普段は何も思わないような自分の一挙一動で起こる防具の擦れた音が妙に聞こえる。

 この場の音全てを完全に聞こえていると思えた。しかし、唐突にメリルが叫ぶ。

 

 

「アオイの有効射程距離までフルフルが近づいてきましたっ。ミドリは背後に回り込んで、アオイはフルフルが気付くまで攻撃をまって下さい」

 

 

 不気味な真珠色の皮を纏った化け物は視界に入ってからも殆ど足音を立てずに天井を歩いてきた。

 フルフルがこちらに気付き息を吸ったのと僕がラトボウガン、ヴァルキリーファイアの引き金を引いたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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