モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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二十三話 守りたいもの

「わざわざ飛行船を使わせてくれてありがとう。ネコ嬢ちゃん♪」

 

 

 見た目からは想像できないほどの黒い笑顔を浮かべて村長はネコ嬢さんに言った。直後に視界の隅でミドリが体の向きを変えた。このギスギスとした雰囲気に一人残されたくないのでミドリの肩を掴む。

 

 

「いえ、二人には無理をさせてしまいましたし、これくらいのお礼当然ですよ。ちょうど余ってたものですし」

 

 

 引きつった笑顔でそう言ったネコ嬢。それと、とネコ嬢は表面上は笑顔で続けた。

 

 

「恩返し、いつか、必ず、果たさせてもらいますからね。謝るなら話は別ですよ?」

 

 

 謝るなら話は別ですよ、の一言で恩返しの意味が全く別のものになった。村長は一体、何をしたんだろうか。

なにか心あたりがあるらしい村長は一切の純粋さのない笑みでこう返した。

 

 

「アイルーちゃんたちにはすっごい頑張ってもらいましたね♪。ありがとう」

 

 

 今までに挑んだモンスターのどれよりも恐怖を駆り立てる空気が二人の間で渦巻く。うわぁ……逃げ出したい。でも逃げたら面倒なことになりそうだなー。

 何か出来ないか考えようとしたところで

 

 

「二人の間で何があったの?」

 

 

 ミドリは疑問を口にした。火にニトロダケと火薬草とカクサンデメキンを放り込むようなとんでもない疑問を。

……好奇心はネコをも殺すって言葉があったような。肩を掴むべきではなかった。

 

 

「ちょっとアイルーちゃん達を雇っただけだよ?」

 

「一ヶ月もの間、一日中休みなく働かせて報酬が三食とマタタビ一本で何が雇っただけだよ?ですか」

 

 

 ミドリが大タル爆弾Gの中身を放り込んだせいで空気は重く、鋭くなる。

 この村が僅か十数年間でここまで発達した理由は人には言えないような方法を使ったからのようだ。村長は他にも何か恨みを買ってそうだな……。

 売り言葉に買い言葉、村長が口を開く直前に異常な嫌な予感を感じて

 

 

「ミドリ、逃げよう」

 

「そうだね」

 

 

 戦犯は能天気に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 一週間ぶりの我が家。メリルに留守を任せていたので開けた瞬間、埃が沢山舞うことはないだろう。

 玄関の扉を開けるとリビングの中央のテーブルで椅子に座ったメリルがいた。

 家の中だからか気の抜けた様子のメリルはこちらにゆったりと振り向くと途端に顔を綻ばせ

 

 

「ミドリ〜! 後アオ……イ?」

 

 

 ミドリに抱きつくかと思いきや寸前でメリルは止まった。

 

 

「二人共怪我したんですか? 特にミドリ」

 

「ちょっとホロロホルル討伐してて……」

 

 

 あはははー、とミドリは気まずそうに笑う。そんなミドリの左腕にメリルは顔を近付け

 

 

「折れましたか?」

 

「折れてはないよ」

 

 

メリルは一歩下がり、此方を見据える。

 

 

「二人の表情を見るに、狩りは成功したみたいですけど、怪我の内容からして討伐する少し前くらいに怪我しましたね?」

 

 

 何故分かったし。

 

 

「追い詰めれば追い詰めるほど狩りでは気を引き締め、集中力を研ぎ澄ませなさい」

 

 

 ハンターの負傷や死亡はモンスターを追い詰めてから起きてしまったものがそれなりの割合を占めている。

 毎年多くのハンターが大怪我をしてハンターを辞めたり殉職したりしている。その殆どは慢心や油断……未然に防げた要因らしい。

 それらを知識で知っているだけできちんと理解してなかった自分に腹がたつ。

 

 

「もう懲りてるでしょうし私はこれ以上は言いません。ホロロホルルの討伐、お疲れ様」

 

 

 ぽん、と頭に手を置かれ少し撫でられメリルは外に出て行った。少しの間をおいてからテーブルに何か置いてあることに気付く。近付いて見てみると闘技大会の観戦チケットが二枚置いてあった。

 

 

「メリルが招待されているのかな?」

 

「でも何で二枚なんだ?」

 

「ほら、あの年ならそろそろ恋人がいそうでしょ?」

 

「確か二十一って言ってたっけ。でもメリルには」

 

「彼氏がいなくてごめんなさい?」

 

 

 背中がビクッとはねる。ミドリもはねた。ゆっくりと振り向くとニコニコ笑顔のメリルがいた。拳が固く握り締められて震えているように見えるのは気のせいだろう。

 

 

「観戦チケットはミドリとアオイ宛です。私は出場する側です」

 

 

 メリルは招待状を出しながら言った。招待状は観戦チケットと違って青色の装飾が施されていて素材自体も別物に見える。

 

 

「正直行く気は全くなかったのですが」

 

 

 メリルは玄関から飛行船を見据えて

 

 

「飛行船でこの村がいくつかの村と繋がって、人が訪れやすくなるなら話は別です。ちょっと活躍してこようと思います」

 

 

 うっすらと真剣さを顔に滲ませ笑った。

 

 

 

 

 

「こりゃあ派手に壊れてるのぉ」

 

「あはは……すいません」

 

 

 クロウさんは笑いながら言った。クロウは防具の所々に細工をして衝撃を可能な限り体が受けないようにしたらしい。だから壊れかたの割りには体は怪我を負わなかったらしい。

 案の定、防具の修理は不可能に近かった。最早修理というよりかはただ廃材を素材として持ってきただけと言える程の壊れかただった。

 

 

「ヴァルキリーファイアは少し手入れしてやるだけで大丈夫かの。流石は火竜、と言ったところじゃ」

 

「そうだ、ホロロホルルの素材で防具作ってもらいたいんですけど」

 

 

 荷車を使って運んできた素材の一部を見せる。

 

 

「ミドリが剥ぎとったものじゃな?」

 

「……何で分かるんです?」

 

 

 レア度四以上の素材の譲渡はギルドが禁止している。一応、申請をしれば二人で素材を全て共有できるらしい。見つからなければ申請しなくても大丈夫だろう。今ばれたが。

 

 

「ミドリは剥ぎ取りナイフの使い方がアオイと比べてちょっと荒っぽいんじゃ」

 

 

 まぁ両方ヘタクソじゃがのぉとクロウは笑う。この村に住んでいる人はこの村で過ごした時間が長ければ長いほど辛辣な気がする。

 

 

「作れそうじゃが、お金は大丈夫か? 防具を売れない分、負担は結構なもんじゃぞ?」

 

「……無理そうですね」

 

「払うのは後でもいい。その代わり完成は遅くなるがの」

 

「ありがとうございます」 

 

 

 同じ村に住んでいるからこそのことかもしれない。これがツケというやつか。

 

 

「アオイ、少し身長が伸びとるかもしれん。時間があるなら計らせてくれないか?」

 

 

 

 鍛冶屋から出ると太陽が真上にあった。思いの外、時間は経っていないようだ。……お腹すいた。

 そう言えば村に着いてから何も食べてないような。食費浮かせたいし家で作るか。

 素材を全て鍛冶屋に置き、身軽になった荷車を引いて自宅に戻る。

 

 

 

 久しぶりの台所。前に見たときより綺麗になっている気がする。道具の配置も変わっているが以前よりずっと使いやすくなっている。メリルが自分より明らかにこの台所に適応している。流石。

 準備をしていると丁寧で凛とした声で話しかけられる。

 

 

「あれ、アオイは料理できるんですか」

 

「うん。村長に仕込まれたね」

 

「昔ルナさんと過ごす時間が多かったんですか?」

 

 

 ミドリから聞いていそうなものだが。ちょっとだけ恥ずかしさと気まずさ感じつつ野菜を切りながら答える。

 

 

「過ごすも何も村長と一つ屋根の下だったよ」

 

 

 ふーんと答えるメリル。頷いただけでそれ以上は聞いてこない。聞かれるんだろうなという覚悟が空振りに終わって自分から言ってしまう。

 

 

「何でそうなったか聞かないの?」

 

 

 両親は物心つく前に病気で亡くなったらしい。ル……村長にはそう聞かされている。

 それを聞かされたとき悲しさは不思議と感じなかった。寂しさも感じなかった。

 野菜を切り終わり次は生肉を食べやすい大きさに切る。

 

 

「何となく予想は出来ます。辛い過去を掘り起こす趣味はありません」

 

「あはは、気にしないで。可哀想に思われるようなことではないよ」

 

「……もしも、ですよ?」

 

 

 メリルが妙に真面目な顔で言った。温めておいたフライパンに肉を入れてからメリルの方を向く。

 

 

「もしも両親が生きていたらどうしますか?」

 

「……どうもしないよ。僕を育ててくれたのはこの村……ルルド村とルナ・アルミス。産んでくれたことには感謝しているけどそれだけは変わらないよ」

 

「そう、ですか」

 

 

 メリルは重々しく頷き、続ける。

 

 

「じゃあ何故村長と呼ぶんです? お母さん、とかじゃダメなんですか?」

 

「なんか抵抗がある。その……見た目がね……」

 

「さん付けも違和感があるような人ですしね」

 

 

 メリルは薄っすら笑い、でも、と付け足した。

 

 

「ルナさんはアオイに村長って呼ばれることに寂しがってましたよ? 後そろそろお肉が焦げそうです」

 

 

 メリルに言われて反射的にフライパンを見る。食べる分には問題はなさそうな程度に焦げていた。ちょっとカリカリなだけか。

 野菜を入れて炒める。調味料で味付けをする。

 凝った料理でなければ大体の物を作れる。これくらいは出来ないと調合が出来ない。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 急に玄関から間延びした優しげないつもの声がした。振り向くと声の主である銀髪紅眼の少女と姉にも見える緑髪碧眼の少女。

 

 

「ミドリに……ルナ、匂いにでもつられてきたの?」

 

「……ア、アオイが料理してるとこ久しぶりに見たよ。食べてもいい?」

 

「あっ私も食べたいな?」

 

「私も食べさせてください」

 

 

 食い意地を張っているようにも見える三人に苦笑いで応じる。それを了承とみたのか三人は席に座る。メリルの横にルナが座る。ルナが何かを言いメリルはとぼけた顔をした。

 晩御飯の分もまとめて作ったつもりだったので量は足りそうだ。四人分よそいテーブルに並べる。

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

 楽しく、みんなで和気藹々と食卓を囲う。まるで家族みたいだと……僕は思う。

 改めて、何を守るハンターになったのかを思いそれを深く心の中で誓った。

 

 

 

 

 


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