モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

22 / 113
二十二話 自分を抑えて

「ホロロホルル、討伐しました」

 

「ありが……大丈夫かい?」

 

 

 ホロロホルルの狩猟中最後の最後に油断してしまい、吹き飛ばされて防具が完全に壊れてしまった。防具の損壊のわりに大した怪我をしていないのはクロウさんの腕のおかげだろう。

 

 

「ホロロホルルを討伐してくれたお礼に荷物の積み込みしておきますよ」

 

 

 残念なイケメンさん……ご厚意に対して失礼か。若い学者さんはそう言い、荷車に積んである弾薬を持ち上げた。

 

 

「私たちは飛行船に乗ってよ? その怪我なんだし……」

 

「……でも何か悪いよ……ッ……」

 

 

 腕をつき体重を少しかけただけで鋭い痛みが走る。手伝おうとしてもミドリに止められるまでもなく、痛みで体が思うように動かない。

 そのことを見かねてかミドリは立ち上がり言う。

 

 

「私が手伝ってくるから。アオはそこで休んでて」

 

 

 返事をする前にミドリはキノコを口の中に頬張り走って行った。

 

 学者さんや見張りじゃない方のハンターさんも手伝ってくれ、積荷の移動はすぐに終わった。飛行船から落ちないようにするための固定も済ませてもらい、後は比較的空路が安全になる朝を待つだけとなった。

 

 

「……ミドリ、疲れてないの?」

 

「少しだけ、かな。薬草も使ったし大丈夫」

 

 

 ミドリはなんとなくぎこちない笑みを浮かべる。無理してそうな気がする……。

 それを言おうとすると

 

 

「あの、ハンター様?」

 

 

 気の弱そうな顔つきで、眼鏡をかけた、少し年上に見える女性が話しかけてきた。ここにいる学者さんは全体的に若い人が多いようだ。

 

 

「あちらにテントがあるのでそこで休まれたらどうでしょうか?」

 

「ありがとう。アオ、そこで寝よ?」

 

「そうだね。ありがとうございます」

 

「いえいえ。ごゆっくりどうぞ」

 

 

 素っ気ない返事になってしまった。あたってしまった感じになり、申し訳なく思う。

 

 

「アオ? 行くよ?」

 

「あ、うん……」

 

 

 女性の学者さんは気にした様子もなく、去って行った。

ミドリが差し出してくれた手を取り立ち上がる。立ち上がるとミドリは膝を曲げて此方に顔だけ向けて

 

 

「おぶってあげるよ?」

 

「これでも多分同い年だからね?ちっちゃい子じゃないんだよ?」

 

 

 ホロロホルルに怪我させられてからずっとミドリはこんな調子だ。ちょっとどうかと思う。

 ミドリは薄く笑って言う。

 

 

「それもそっか。ちょっと過保護だったかな。ごめんね」

 

「いやその……ありがとう」

 

「……早く行こ?」

 

「そだね」

 

 

 ぶっきらぼうに答えた。……ミドリはすごく気まずそうな顔してたな。

 

 

 

 

 テントの中は意外と広かった。まず寝袋が二つ。防具と武器を置くのにちょうど良いスペースもある。更にもう一人来ても十分そうな位の空きもある。

 

 

「アオは先に寝ちゃって。私は防具の手入れしてから寝るよ」

 

「うん。分かったよ」

 

 

 ミドリに背を向けて防具を脱ぎ寝袋に潜り込む。防具は殆どの部位で大きな損傷があった。ハンターメイルに関しては一切の防御力が見込めないような状態だった。防具もう壊しちゃったな……。

 モンスターを討伐するまでは最後の最後まで決して油断してはいけない、と始めて本当の意味で分かった気がした。

 

 

 

 

 

 

「ッ……」

 

 

 抑えた声が聞こえた。いつの間にか眠っていたようだ。目を開けるとミドリはまだ起きていた。ぼやけた視界に映ったのは潤んだ青色の瞳、月明かりに照らされ幻想的に揺れる緑髪、仄かに赤い頰。

 そして、右肩に紫色の腫れ。

 

 

「ミドリ、それ……」

 

「ア、アオ⁉︎ 起きたの?」

 

 

 ミドリはビクッと体を震わせて一瞬浮かんだ。直後に手で痣を覆った。

 

 

「あはは。ホロロホルルに弾き飛ばされたときに出来たみたい」

 

「……」

 

 

 ミドリの晴れている部分にに手を伸ばしつつく。そうするとミドリは再び体を震わせる。

 

 

「いたッ……何するの……」

 

「骨に多分ヒビはいっているよね?応急処置するから力抜いて」

 

「……」

 

 

 まず痛み止めがわりにマヒダケの粘液を塗る。ミドリが途中で食べてたキノコってまさかこれだったんじゃ、と思い顔を見る。目をそらされる。

 薬草を塗り込んで包帯を巻き、添え木をして更に巻く。

 

 

「どうしてこんな無理したの?」

 

「ごめんね」

 

「答えになってない。何故を聞いているんだよ?」

 

 

 ミドリは俯いたまま震えている。思わず動いた手を抑えた所で消えそうな声で

 

 

「私のせいでアオが怪我したって思ったんだ。だから、その……」

 

 

 ミドリは顔を上げてゆっくりと言葉を繋いだ。

 

 

「罪滅ぼし、なのかな?」

 

 

 ミドリは自分でもよく分からない、といった様子。その表情を見て唐突に訓練所での出来事を思い出し、そのときの言葉を言う。

 

「自分のせいにばかりしないでよ」

 

「え?」

 

「悪いのはミドリじゃない。ミドリがそうやって何でも自分のせいにするの昔と変わってない。……仲間なんだから、気にしないで」

 

「ありがと……」

 

 

 ミドリはそう言って寝袋に入った。それに習って寝袋に入る。

ゆっくりと眠気が戻ってくる。静寂に包まれ、意識を手放そうとしたところで

 

 

「……アオは変わっちゃったよね。自分から意見言わなくなって、人に委ねる。責任を持つこと、自体から逃げるようになった、みたいな」

 

 

ミドリの言葉に虚を突かれる。様々なことが頭の中を駆け巡り中々眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 今度こそ、起きたら朝だった。

 軽く体を動かすと痛みはほとんどなかった。明日になれば完治するだろう。ミドリの方は完治にしばらくかかりそうだが恐らく問題はないだろう。

 後は帰るだけだ。

 テントは昨日の女性の学者さんに自分たちでやっておくといい言われたのでお言葉に甘えることにした。正直、かたずけ方が分からなかったので助かった。

 飛行船に乗り込み座る。ミドリが隣に座った。アイルーに声をかけると直ぐにプロペラが回り始めた。

 

 

「討伐、ありがとうございました」

 

「研究頑張ってくださいね」

 

 

 学者さん達は見送りに出てきてくれた。飛行船はあっという間に高度を上げ、皆が米粒みたいに小さく見える。

 完全に見えなくなるまで手を振り手を下ろす。

 

 

「また、長い長い飛行船の旅だー」

 

 

 ミドリは渇いた笑顔を浮かべて妙にテンションの高い声で言った。しかし、それがむしろ虚しかったようでがっくりとうなだれた。

 

 

「暇つぶしよ……思考力を鍛えるためのボードゲームがあるニャ。それでもしてるニャ」

 

「将棋、チェス、双六……うわ、囲碁まである……」

 

「お客様達……まあ主に学者だけどニャ、が置いていくのニャ」

 

 

 待ち時間長いし仕方ないから。うん。

 ミドリとともに何回もやったことがあるのでルールは知っている。村長がこの手の遊びが好きだったからもおる。……勝ちはおろか一度も追い込んだことすらないが。

 

 

 

「ちょっアオ、そこだけはっ」

 

 

 直ぐに追い込めた。もうそろそろ勝てそうかな。そう思い得意気に言ってみる。

 

 

「ミドリ、降参したら?」

 

「ふふ。ただの演技だよ?ほら」

 

 

 ミドリの会心の一手に形勢が逆転する。

 

 

「あ。ミドリ待った!」

 

「はい、私の勝ち〜」

 

 

 ミドリは強かった。具体的に言うなら村長の手を真似した手が強かった。村長が悪魔的なまでに強かったため互いにその手をどれだけ模倣できるかで勝負は決まる。あの頃の勝負を思い出しながら時間を潰した。

 

 

 

「また引き分け……」

 

「なんかどっと疲れたね……」

 

「今までここで遊んでいった人の中で一番卑劣な手が多かったニャ」

 

 

 いつの間にか対局を見てたらしいアイルーが感想を言った。学ぶ相手が村長しか居ず、その村長が卑劣な手を打つのだから仕方ない。

 盤上だけじゃなく表情や仕草でも相手を欺き続けるのが村長のやり方だった。勝負が終わってから誘導されていたことに気付き、悔しくなるまでが一連の流れだった。

 

 

「燃料の補給をするから適当に時間を潰しているニャ」

 

「分かったよー」

 

 

 ベルナ村に着いて早々、運転手は燃料の補給に行ってしまった。

 ミドリに何するか聞こうと振り向く途中、金髪の女の子が近づいてきたことに気付く。

 

 

「もしかして、二人がホロロホルを討伐してくれたハンターさんですか?」

 

「そうですけど」

 

「この度はありがとうございました。お礼といってはなんですがニャンコックの店で料理をご馳走しますよ」

 

 

 

 綺麗な金髪にネコミミのカチューシャをつけ三つ編みを両側から下ろしている。若葉のように生き生きとした色の緑眼。竜人族特有の横に長くて先の尖った耳。

 淡い青のワンピースの上から肉球がデザインされた可愛らしいエプロン。

 竜人族には容姿端麗な者が多い、というのは本当らしい。

 

 

「そんなに見られると、その……恥ずかしいです」

 

「アーオ?」

 

 

 ミドリが怪訝な目を向けてくる。思わず顔を逸らしてしまう。

 その先に顔を赤くしてうつむきもごもご言っている少女の姿……なんて名前だろ。

 

 

「そ、その君の名前は?」

 

「ふぇ? あぁカティと言います。皆にはネコ嬢って呼ばれてます」

 

 

 気軽にそう呼んでくださいとかあなた達の名前は?とかそんな意味を込められてそうな視線を向けられる。

 先に察したのはミドリだった。

 

 

「ミドリっていいます。ミドリ・フロウ」

 

「アオイです。念の為言いますがロリコンではないです」

 

 

 冗談のつもりで言ってみたらミドリから小声でよかったと聞こえた。どうやら言うまでロリコン扱いだったようだ。

 

 

「お二人はきょうだいなんですか?」

 

「いえ。ただの幼馴染です」

 

 

 そう言うとネコ嬢さんは首を傾げる。ただ対したことではなかったのかいつの間にか出されていたお茶を飲む。

 

 

「なんとなく村長みたいだよね」

 

「うん。なんか似ているよね」

 

 

 外見といい、お茶好きといい、見た目の割りに妙に落ち着いていることといい、村長にそっくりだ。

 

 

「二人でこそこそと何を話して……あ、ニャンコック」

 

「サリュ!ハンターにミューズ、ご注文はなんですかニャ?」

 

 

 心なしか前に見た時より嬉しそうなニャンコック。ミューズはネコ嬢のことだろうか。確認しようと目をやるとネコ嬢さんはどこからともなく黄色の紙を取り出した。

 

 

「以前いただいた高級お食事券を使いますね〜」

 

 

 お食事券は使うと腕によりをかけて作ってもらえる上、無料になるという至れり尽くせりの券である。高級お食事券はその上、食材もより厳選したものになる。

 ニャンコックがそれを受け取るとこちらに顔を寄せ、ネコ嬢さんには聞こえなさそうな声で言った。

 

 

「ミューズに失礼ニャことをすれば、我らが黙っていませんよ?」

 

 

 周りを見ると様々な人(主に男性)やアイルーがこちらに視線を向けている。言動に気をつけた方が良さそうだ。

 

 

「お食事券、ありがとう」

 

「いえ。そうですお礼のことなんですが」

 

 

 ネコ嬢は可愛らしく微笑んでから続ける。

 

 

「二人の住んでいる村に飛行船はありますか?」

 

「いえ、ないです」

 

「では結びませんか?二人の村と、ベルナ村を、空路で」

 

 

 村長は観光客を欲しがっている。ハンターの往来が増えればミドリやメリルと共に遠出もしやすくなるだろう。断る理由はない。

 

 

「もちろんです!今すぐにでもやりましょう!」

 

「ちょっと待って、アオ」

 

 

 ミドリは少し心配そうに言う。

 

 

「万が一、だよ?ルナちゃんがだめって言ったらどうするの?」

 

「あ、そっか……。説得力を持たせるためにも一回、飛行船で行ってみることは出来ませんか?」

 

 

 ネコ嬢さんに聞いてみると、すごく気まずそうな顔で

 

 

「もしかして二人の住んでいる村ってルルド村ですか?」

 

「うん」

 

「村長はルナ・アルミスっていう竜人族の女の子?」

 

「うん」

 

 

 ネコ嬢さんは少し何かを考えてから言う。

 

 

「……お礼はしないといけませんしね。食事をしたら早速向かいましょう」

 

 

 明らかに引きつった笑みを浮かべているネコ嬢の棒読みに頷き、ニャンコックの料理を待った。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。