モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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二十一話 油断

「……あ、さっきのハンターさん達。もうホロロホルルを討伐したのですか?」

 

 

 ベースキャンプに着いて早々に学者の一人が話しかけてきた。金髪で細いフレームの眼鏡をかけている若い人。整った顔立ちで爽やかな印象を受ける。

 周りを見渡すと他に五、六人の学者がいて真剣に話合っている。その側で一人が大剣を研ぎ、もう二人は見張りのためか少し離れた所にいる。

 

 

「まだです。一旦仕切り直すんです」

 

「そうですか。疲れてません?これをどうぞ」

 

 

そう言って学者さんが渡してきたのは二つの瓶だった。中に入っているのは鮮やかな黄色の液……元気ドリンコだった。

飲むと元気が出て眠気がとぶという。ギルド公認のドリンクでレシピも公表されている。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえ。頑張ってくださいね」

 

 

 学者さんは軽くこちらに手を振り、話し合いの輪に入っていった。こちらも手を振り返しているとミドリが何となく顔赤くして言った。

 

 

「気の利く人だね」

 

「うん紳士的な人だね。あ、これ」

 

 

 元気ドリンコを一本渡すうん……と上の空のミドリ。これって……

 

 

「一目惚れ?」

 

「ち、違うもんっ」

 

「ミドリならきっといいお嫁さんにいなれるよ!」

 

 

 激辛料理を作らなければの話だが。と心の中で付け足す。ミドリもそうゆう年頃なんだな〜と老けた感じの思考をしながらもらった元気ドリンコを飲む。

 ニトロダケの刺激的な味をハチミツが包み込んでくれているため飲みやすい。携帯食料とは大違いだ。

 口を拭いミドリの方を見るとジト目をこちらに向けていた。

 

 

「……話聞いてよ」

 

「ごめん……ごめん……」

 

 

 純粋に話を聞かなかったことに対してと、ついさっきも話を聞かずに見当違いのことをしてしまったばかりなのに学習出来てなかったことを謝る。

 

 

「えっとさ、その……」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

 

 ミドリは口をもごもごとさせるだけで中々言おうとしない。ミドリが顔を横に向けてうー、と唸り始めた。

 

 

「……話しにくいことなら別に話さなくていいよ?」

 

 

 話聞いてよと言ったのはそっちなのに、となんとなく不快感を覚える。その直後ミドリは今にも消えそうな声で

 

 

「……あの人……ズボンのチャック……開いてた……」

 

 

 ……。

 

 

「一息ついたし、ホロロホルルを狩りに行こう」

 

「そうだね」

 

 

 互いに棒読みでそう言い、ホロロホルルを狩りに向かった。残念なイケメン……

 

 

 ペイントボールの匂いを頼りに進んでいく内に崖の狭間……あるいは洞窟の天井が崩れた場所に辿り着き、そこにあったとても大きな水晶に目を奪われたりしながら、更に進む。

 視界が開ける。匂いが探し始めてから最大級に強まる。大きな空洞。

 右手の方では天井に大きな穴が開いていて地上から大量の水が流れ込み、今立っている地面より更に下まで続いているようだ。日の光も差し込んでおり、空洞を薄暗く照らしている。

 左手の方は他のエリアに続く道と平地。狩りを行いやすそうだ、くらいの印象しか受けない。

 そして中央には最初に見た時と比べてだいぶ姿の変わったホロロホルルがいた。所々が真っ赤になり、毛も剥がれ落ち、片耳がなくなっている。

 ヴァルキリーファイアを構え、徹甲榴弾を装填する。そのときに生じた僅かな音にホロロホルルが反応する。

大型のモンスターは相手が死ぬのを見届けるまでは警戒を中々解かない。そのためか些細な音にも敏感になっている。

 

 

「ミドリっホロロホルルから少し離れて隙を作って!」

 

「分かった。直ぐに終わらせてよね」

 

 

 ミドリは剣を納めホロロホルルの攻撃範囲ギリギリまで近づく。

 ホロロホルルがミドリを狙ってるうちに脚を狙う。脚に負担をかけさせ転倒させるためだ。ホロロホルルは瀕死ではないが元々の体力が少なさそうだし一気に押し切れるかもしれない。

 ミドリがホロロホルルの背後に回り込む。ホロロホルルはそれを追いその場で振り向く。

その間、脚の大まかな位置は殆ど変わらなかった。その短い時間は狙いを定めるには十分すぎるくらいだった。

 引き金を引く。

 銃口から放たれた弾丸は軌跡に砂埃を舞い上がらせながらホロロホルルの脚に深く突き刺さり……大爆発。

 

 

「ルォッ⁉︎」

 

 

 地面に血が飛び散り、ホロロホルルが転倒する。ミドリはその隙を見逃さずホロロホルルにナイフを突き刺しながら乗った。

 ホロロホルルは当然暴れ回り、咆哮した。本来なら熟練のハンターでも竦みあがるそれをミドリは体をホロロホルルに突っ伏すようにして耐えた。そして

 

 

「ルォ……ルォ……」

 

 

 ホロロホルルに疲労の色が見られる。ミドリはすかさずナイフを振るい、ホロロホルルの背中をズタズタに突き、裂いていく。その激痛に耐えられなくなったのかホロロホルルは自らの意思で倒れたかのように倒れる。

 特殊弾を装填、ヴァルキリーファイアを抱えてしゃがみ引き金を引く。

 《ラピッドヘブン》十五発の弾丸が流星群のごとくホロロホルルに突き刺さる。ミドリも踊るように剣を振りホロロホルルを削る。

 そしてホロロホルルは力なく起き上がろうとする。逃げ出すかと思いきやいきなり地面を抉りながらホロロホルルは羽を振りミドリを吹き飛ばした。

 

 

「きゃあああっ⁉︎」

 

 

 ミドリは宙に浮き空中で数回回転し地面に叩きつけられ、さらに転がる。

 

 

「ミドリッ」

 

「大丈夫だよー」

 

 思いの外ゆったりとした声にホッとしたが、ミドリを吹き飛ばした張本人は砂埃に紛れて見えない。

可能な限りのスピードで徹甲榴弾を装填し、砂埃に撃ち込む。引き金を引いた直後、砂埃が晴れ、ホロロホルルが滑空した状態で突っ込んできた。

 反動でろくに動けず、滑空に轢かれ、跳ね飛ばされる。何度も地面に叩きつけられ、防具が……ハンターシリーズがバラバラになり、砕ける。

 痛みで殆ど動けないながら追撃を警戒してホロロホルルを見る。

 滑空で勢いあまって倒れ込んでから一向に動かない。

 

 

「討伐、出来たの?」

 

 

 露出度は高いがさすがというべきかミドリのペッコシリーズは殆ど傷ついていない。ミドリの綺麗な肌に切り傷をつけていなければ完璧だった。

 

 

「な、なにぼうっとしてるの⁉︎ 体じゅう傷だらけじゃないっ」

 

 

 ミドリに応急薬を飲まされ、薬草を塗りたくられる。絶妙な力加減がくすぐったい。

 

 

「ミドリ先に剥ぎ取り……」

 

「私がアオの分もやっておくからそこで座ってて」

 

 

 ミドリは過保護である。これくらいなら十分に動くのに。

でもそのことに何故か嬉しさを覚えた。

 

 

 

「ちょっと獲りすぎじゃない?」

 

「アオの防具壊れちゃったでしょ?だからホロロホルルの素材で作れば良いじゃない」

 

「ありがとう。その気持ちすごい嬉しいよ。でもさその余計に……申し訳ないんだけど」

 

 

 今荷車に乗せられている。ミドリはこの荷車を引いている。

……罪悪感がすごい。降りようとすると怪我人何だからと、止められる。

 女の子に荷車を引かせてその上に乗っているとか……。

 

 

「情けない……」

 

 

 思わず呟いてしまった。でもミドリには聞こえてなかったようだ。

 

 その後もゆっくりと進み、ベースキャンプに着いたのは日が沈んでからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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