モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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二十話 奇術師、ホロロホルル

 引き込まれそうな不思議な音に私は思わず攻撃の手を止め、聞き入ってしまった。

 ホロロホルルが軽く首を振ったと同時に音が鳴り止み、青いもやのようなものが晴れる。その中で――アオが倒れていた。

 

 

「アオッ……ッ!」

 

 

 今すぐにでも駆け寄りたいけど、ホロロホルルを放置するわけにもいかない。まずはこっちをどうにかしないと。

 目の回りが赤くなって、鼻息を荒げている。どう考えても怒り状態。一人で、アオを守りながら、ホロロホルルを撃退。

 

 

「出来る、はず……」

 

 

 地面を蹴ってホロロホルルの懐に入る。ホロロホルルは咄嗟に左翼で攻撃してきた。

 右翼に右手の剣を突き立てる。その剣の柄を軸にしてホロロホルルの後ろに回り込み剣を抜く。クルペッコより小柄かな。そう考えながら、ホロロホルルの背中を両方の剣で斬る。

 右翼を一瞬上げたような気がした。双剣をもう一度ホロロホルルの背中に降り下ろす。わざと空振りさせながら跳び、前方に回転。両足がホロロホルルの背中に付きそうなタイミングで膝を曲げる。慣性で上体が起きた瞬間、膝を伸ばしてホロロホルルを蹴って跳ぶ。

 回避が目的だから、攻撃はしない。自分にそう言い聞かせながら地面に近づくのを待つ。

 着地したと同時に前転で衝撃をいなして振り向く。ホロロホルルも同じタイミングで振り向く。体を一切動かさずに首だけを回して。

 

 

「……」

 

 

 今回は別に驚かなかった。二回目だし。

 ホロロホルルは体を起こして息を吸う。さっき、アオが倒れる原因になった攻撃かな、と予想して、ホロロホルルの側面まで走り込む。

 また不思議な音がする。ホロロホルルは隙だらけ。鬼人化して、連撃を叩き込む。羽毛を斬る感触が気がつけば肉を斬る感触に変わり、途中、ホロロホルルの中で剣が何かを弾けさせた。

 

 

「ルォ!?」

 

 

 ホロロホルルが怯み、更に隙が出来た。剣を降りながら体を回す。車輪で削るようなイメージでホロロホルルを斬る。

 急に、体に力が湧いてきた。鬼人化を解いてもまだ鬼人化が続いているかのような体の軽さ。

――鬼人強化状態。鬼人化中に攻撃し続けると鬼人化を解いた後でも余韻のように力が残る。鬼人化自体には少し劣るが、体力を一切消費しない。

 

 ひたすら斬り続けた。辺りには青色の羽毛が沢山落ちていて血痕もそれなりにある。勝てそう、そんなことを思った自分に油断してはいけないと叱り、ホロロホルルを睨む。

 

 

「ふぁ……ここどこだ?」

 

「アオっ!」

 

 

 アオが起きた。多分寝てただけみたい。アオの方に振り向き、ホロロホルルが視界から外れた瞬間、肉薄され咄嗟に回避しようとした時には、腰の辺りに衝撃を感じ、吹き飛ばされ、前後左右が全く分からなくなった。

 

 

   ○ ○ ○

 

 

 ミドリが吹き飛ばされた。青色の……そうだミドリとホロロホルルを狩りに来ていたんだ。ミドリは吹き飛ばされてから体の方は無事そうだが足取りがおぼつかず、ふらふらとしている。

……頭を打っているかもしれない。今すぐ手当てをしにおきたいけどホロロホルルが邪魔。……撃退しよう。

ヴァルキリーファイアに散弾を装填する。ヴァルキリーファイアは散弾……レベル一のみだが……の速射に対応している。

 散弾は強力。だがその広すぎる攻撃範囲は仲間との狩りではデメリットになりうる。

 ミドリを散弾の攻撃範囲にいれてしまわないよう注意しながらホロロホルルの周りで隙を待つ。

 ホロロホルルが翼を思いっきり振った。その勢いでホロロホルルはこちらに背をむけた。

 

 

「隙……ッ」

 

 

 引き金を引いた。

 一回引き金を引いただけで三回の射撃音。銃口から放たれた凄まじい数の破片は一つ一つに殺傷力を抱き、ホロロホルルにめり込み、削る。一つ一つの攻撃力があまりに低いからかホロロホルルは気にした様子もなく、悠長に振り向き始める。

 そのタイミングでホロロホルルに肉薄し顔にヴァルキリーファイアの先端を突きつけ、撃つ。

 

 

「ルォッ⁉︎」

 

 

 悲鳴ともとれるホロロホルルの漏らした声。当然である。片耳が半分千切れ飛んだのだから。

 全身に撃ち込まれた無数の粒には大した痛みも感じてないだろう。ただ散弾は一箇所に弾丸集中して当たると、爆弾に匹敵するダメージと成り得る。

 ホロロホルルは怯み動きが一瞬止まったが、今度は翼を大きくはためかせ飛び上がり、そのまま落ちてきた。

 

 

「アオ⁉︎」

 

 

 ミドリが意識の混濁から回復したのか、叫ぶように危険を教えてくる。

……だがホロロホルルは真上いて、もう落下し始めている。

 余りに急で、一切の前触れもなく、突きつけられたものは到底受け入れられるものではなかった。

 潰されて死ぬ、それだけが頭の中を支配しはじめる。

 メリルにこの狩技を教えてもらっていなかったらそれは現実になっていただろう。

 この狩技を使うためにクロウさんに頼んでグリップにあるスイッチを仕込んでもらった。

 ヴァルキリーファイアを抱えるよう持ちながら後ろに跳びグリップ強く握ることでスイッチを作動させる。

 最大クラスの大きさと質量を誇る弾丸をさっきまで立っていた地面に発射。

 拡散弾を凌駕する反動が空中で発生し体が更に後ろに弾き飛ばされる。

 

 

「うわっ」

 

 

 地面に着地したが、受け身がとれず何回も地面の上を転がってやっと止まる。そしてその途中、一回爆発音が聞こえていた。《バレットゲイザー》後ろに大きく跳び退きながら時間の経過で爆発する弾丸を地面に撃ち込む狩技。回避と攻撃を同時に行える強力なもの。

 ただ、余りに反動が強く、吹き飛ばされた後の受け身とボウガンに必要以上の負担をかけないようにすることにしばらく努力を注ぐことになった。

 練習中には何回も体じゅうを打ち、何度も薬草を塗り、包帯を巻き、村の水で冷やした。

 練習用のクロスボウは二つ壊してしまったが、三つ目に変えた頃にはボウガンにあまり負担をかけないようになり、受け身も安定してきた。今回は失敗したが。

 

 

「アオ、早く起きて。援護するから、お願いっ」

 

 

 ミドリは剣を抜き、走り出した。

 通常弾を装填し、ミドリ同様、ホロロホルルに突っ込む。

 ミドリが横に逸れる。斜線を開けてくれたのだろう。ミドリに当たらないよう慎重に狙いをつけ撃つ。

 正直あまり効いていなさそうだが狩りは諦めないことと、焦らずに積み重ねることが大切とメリルが言っていた。

 

 

 ホロロホルルは近距離では吸い込むと前後左右が分からなくなる……多分、混乱状態だろう……を誘発してくる粉を撒いてくる。遠距離では眠たくなる音波を出してくるようだ。

 近付くのは危険なためガンナー主体で攻撃することになった。ミドリは隙を見て足を重点的に狙っている。

 メリルが居ない、というのがかなり不安で彼女に依存していることを思い知らされる。

 

 

「はぁっはぁ……」

 

 

 モンスターは一番憎い相手を狙う。そのためホロロホルルは必然的にこっちに集中攻撃をしてくる。そろそろ疲れてきた。ミドリもホロロホルルを追い回して疲労の色が見える。

 既に半分以上の通常弾を消費した。大量に持ってきたレベル2の通常弾は使いきってしまい、ちょっと特殊な弾丸……レベル3通常弾を装填する。

 この弾丸は跳弾するため上手く狙えばモンスターに複数回当たる。ただ考えて撃たないと跳弾した弾がミドリに当たるかもしれない。

 ホロロホルルの頭に向かって撃つ。僅かに見えた弾筋は頭にぶつかった後、空を覆うように生い茂る木々の葉を散らした。

 

 

「アオ、どこ狙ってるの?」

 

「跳弾したみたい」

 

「……私に当てないでね」

 

 

 ミドリに怪訝そうな顔を向けられる。跳弾しても大丈夫そうな部位……

 何かないかと考えながらホロロホルルに標準を合わせているとホロロホルルは真っ直ぐ前を向いたまま突然羽をはためかせた。

 近くには――ミドリ。

 

 

「ミドリッ危ないッ」

 

 

 危険を知らせるがミドリは動かない。ポーチに手を突っ込み、何かを取り出すと空中にいるホロロホルルに投げてぶつけた。

 ハデなピンク色と甘い匂い……ペイントボールをぶつけたようだ。

 ホロロホルルはそれを意にも介さずそのまま上に飛び上がっていった。

 

 

「アオ、一旦仕切り直ししよ?」

 

「そんなことより」

 

 

 ミドリは逃げなかった。もしホロロホルルがミドリを狙っていたらあんな悠長な動きをしていたのだから間違いなく……

 

 

「どうして避けなかったの? ペイントボールを当てることが命より大事なの?」

 

「ちょっとまってアオ、誤解してる」

 

「……何を」

 

「ホロロホルル……だっけ? あれは、攻撃する相手を一度睨んでから動くみたい。追いかけ回しているときはずっと観察してたから間違いないと思う」

 

 

 確かにホロロホルルは攻撃するとき一度相手の方に顔を向けていたような気がする。ミドリはそれを攻撃できない間に観察して気付いたようだ。

 

 

「……ごめん。誤解してたみたいで……」

 

「いいよ。私も焦らせるようなことしちゃったし」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

……うわぁきまずい。悪いのは確実にこっち。自分で蒔いた種の責任は自分でとらないといけないだろう。

 しかし、謝っても逆効果、話題を変えても続く気がしない。

 

 

「一旦キャンプに戻ろ?」

 

「うん……」

 

 

 敗走しているかのような重たい雰囲気のまま、古代林の珍しい植物らに目もくれず、ゆっくりと歩いてキャンプに戻った……

 

 

 

 


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