「なんでここに?」
ハンターシリーズを身にまとった少女…ミドリに訪ねる。その防具は手入れは行き届いているようだが、所々傷がついており、既に何度か狩場に出ていることが見受けられる。
「ルナちゃんにここを使えって言われたの」
ミドリはぎこちない笑みを浮かべ答えた。つられてこちらも苦笑いがこぼれる。村長は昔から強引なとこがあるしな……
「そうか……じゃあなんでそんなの着ているの?」
「ハンターになったからだよ」
ミドリは眉ひとつ動かさず言った。しかしその顔はどこか誇らしげだ。なんで? と聞こうとすると、表情から察したのか
「アオ一人で村を守るのは大変でしょ? ただでさえアオイは非力なんだし」
耳の痛いことを言われ、顔がひきつる。そのことを意にも介さずミドリは続けて
「私は散々歩いて疲れたからもう寝るね。アオイも疲れてるんでしょ?」
「うん……」
ミドリは別室に入っていった。それを見届けてから軽く夕食をとり眠った。六年ぶりのベッドだが、意外とすんなり眠れた。
○ ○ ○
この村に戻ってきて最初の朝。朝日が昇り、窓から光が差す。その光が防具を照らす。寝室を出てすぐ防具に気付く。
「忘れてた……」
左肩の装甲が砕けていて、所々返り血がついている。昨日はミドリに会って驚いた上、疲れていたので手入れを忘れていた。ため息をついていると、部屋からミドリが出てきた。
「ふぁ……おはよう」
「おはようミドリ」
ミドリはあまり眠れなかったのか目が充血している。枕が変わると眠れない人なのだろうか。
「アオ、この後予定ある?」
「防具の手入れかな。後、補強のための素材も集めなきゃ。」
防具の左肩と返り血を見せる。ミドリはうへぇ……と声を漏らす。
「じゃあ私と素材集めに行かない?」
ミドリは急に家を出て村長の家に向かって走り出した。
「ちょっと待ってって」
咄嗟に声をかけながらも慌てて追いかける。声に反応してチラッと振り向くがにんまりするだけで速度は緩まない。
走るとあっという間に村長の家に着いた。移動距離こそ短いが最短ルートを通ったため、運動量は尋常じゃない。この村は起伏が多い。
「ルナちゃん? 起きてる?」
「ここだよー」
縁側から村長が歩いてくる。ミドリとは違い眠気は全くないようだ。
「ルナちゃん採集ツアーって今から行ける?」
「問題ないと思うよ。でも今度からでいいから受付のティラちゃんに言ってね」
「分かった、ありがとう!」
と言い、ミドリは酒場の方向に歩きだした。朝食をとるのだろうか。
「昨夜は楽しかった?」
「疲れてたからすぐ寝ました……」
「なんだつまんない。ティラちゃんには私から言っておくから」
村長はきびすを返し、縁側に戻り始めた。ベッドの手入れきっと村長がやってたんだろうな。
……そうだ、ミドリ。
「なんでミドリが家にいるんですか?」
確かに広めの家である。でも幼馴染みとはいえ、異性と同じ屋根の下はどうかと思う。しかし村長は振り向くなり、
「道具の共有とか、狩りの相談とか同じ家の方が色々便利だよ? きっとね」
さらっと正論っぽいことを言い、縁側に戻っていった。追いかけようとしたところで声がかかる。
「アオイは朝ごはん食べないのー?」
「食べるよ!」
走ってミドリに追い付く。ミドリはどこか楽しげだ。
……言いくるめられた。
○ ○ ○
ルルド村から麓の辺りの渓流にむかう。何かと気が利く村長のおかげですんなりと荷車を貰えた。気が利くとは違うか。
ガーグァが荷車を引き、アイルーが指示を出している。
「ふぅ……」
ハンターシリーズの手入れが終わる。左肩の装甲ばっかりはどうにもならなさそうだ。顔をあげるとミドリは双剣……多分ジャギットショテルを研いでいる。それを見て
「本当にハンターになってたんだ……」
思ったことが無意識に口からでる。ミドリはジャギットショテルの研いだ部分を光に当てながら何処か寂しげに言う。
「まだ一人じゃジャギィ位しか狩れないけどね」
「一度に何匹くらい?」
昨日の自分の戦闘を思い出しながら言う。初日で死にかけた。
「五匹が限界。まだまだだよね」
ミドリは苦笑いしている。同年代の女の子に負けているとは、我ながら情けない。その上ミドリが素で言っていることが情けなさに拍車をかける。
「そうだね…」
思わずため息が出る。
「着いたにゃ!」
荷車に揺られること二時間、ベースキャンプに着いた。アイルーはガーグァから飛び降りて
「採集ツアーは明後日の朝までにゃー」
と、言い残し、魚を釣りに行ってしまった。
「さ、行こうよ!」
ミドリはもう地図を持って駆け始めていた。荷車は引いてくれないらしい。
「待ってくれよー!」
急いでガーグァをキャンプにつなぎ直し、荷車を引き、ミドリを追う。ミドリは地図をチラチラみながら、昨日来たエリアと別の方向に行く。圧迫感のある崖間を抜けると、岩場にでる。右手には森が広がっており、奥には竹が見える。
「あれ、鉱石じゃない?」
ミドリが指差す先の岩の割れ目の中に薄い桃色の石が見える。
「ピッケル折らないように気を付けろよ?」
「分かってるって!」
鉱石を掘るときは一般的にはこのような薄い桃色、又は水色の石を目安にすると良質な物がとれやすいらしい。
「よいしょ!」
ミドリは思いっきりピッケルで岩を掘る。ピッケルをふるうたびにピッケルと岩にひびが入る。岩の表面が崩れた瞬間、ピッケルが砕け、鉱石が転がる。鉄鉱石のようだ。
「鉱石はこれだけみたいだね」
ミドリは鉱石を広い集め、荷車に乗せる。かなりの数。素材は半分に分ける約束になっているがそれを考慮しても防具の補修には充分過ぎるくらいだ。
「後は薬草とアオキノコ、ハチミツそれに光蟲を集めれば充分かな?」
ミドリに聞くと、
「後、ジャギィを何匹か狩ろ? 最近増えてるらしいし、その内ドスジャギィに挑むことになるかもしれないしね。」
昨日のことを思い出し、顔がひきつるが頷くことは出来た。ゆっくりと慎重に進む。荷車が坂を勝手に下り、壊れてしまわないように。坂を下りきると、浅い川が見えてくる。紅葉が舞い落ち、滝の音が聞こえ、木漏れ日が川を照らしている。とてもいいけし……
「景色に見とれてないで早く行くよ」
「はい」
ミドリは興味がないようだ。狩場だから気にしないだけなのだろうか。
景色を堪能する間もなく、そのまま森の中に入り込む。少しの間歩くと、開けた場所にでる。中心には大木の切り株があり、他の木は周りに数本ある程度。目をこらすと金色の液体がこぼれ落ちている……
「あっ! ハチミツ!」
ミドリは真っ直ぐ駆け出していく。ミドリの顔が緩んでいる。景色なんてなかった。ミドリは近づくなり、巣を抱えあげ、
「巣ごともってこうよ!」
無邪気な笑みに思わず鼓動が早くなる。あれ、なんか可愛いぞ。
「フゴォォ!」
ブルファンゴが突然横から突っ込んでくる。距離が離れていたせいで見逃したのだろうか。狙いは、――ミドリ
「えっちょっと!?」
ミドリは巣を投げ捨て、横に転がり双剣を構える。咄嗟の判断はハンターらしい。
「フゴォォ!」
再度突進。ミドリは軽く右に移動し、右手の剣でブルファンゴのこめかみを斬りつける。そのまま突進を横に回転しながらいなし、更に左手の剣で横っ腹を裂く。ブルファンゴの腹からおびただしい量の血が吹き出す。ミドリは通り抜けたブルファンゴを追いかけながら両手の剣を振りかぶり、
「ハッ!」
振り向いたブルファンゴの頭に剣が刺さり、力まかせに切り裂く。更に血が吹き出し、ブルファンゴは倒れ、そのまま動かなくなった。
「怖かったよぉ……」
ミドリの方が怖い、と言うのをこらえ、巣の蜂を払いながら荷車に巣を置く。辺りには様々な植物にキノコ類、虫もいるようだ。ミドリは周りを見渡した後、採集を始めた。それに続いて辺りの散策を始める。
黙々と採集を続ける。途中でブルファンゴの肉を焼いて食べ、更に採集を続ける。そうするとだんだん日が傾いてくる。
「アオ? もう暗くなってきたし、帰ろうよ?」
「そうだね。これ以上は危険そうだね。」
暗くなるとモンスターの発見が遅れるので奇襲をうけやすくなる。その奇襲を避けて返り討ちにできる程強くはない。
荷車を引いてベースキャンプに戻る。小道を抜けると昨日見た集落のあるエリアに出る。
「あっジャギィ……」
数時間の採集のせいだろうか、ミドリの元気がない。
「狩る?」
正直なとこ、左肩の装甲が今はないのでわざわざ挑みたくない。しかしミドリは双剣に手を添えて
「後ろから襲われたくないし、狩っちゃお」
と言いながら突っ込んでいく。それを見て慌ててハンターライフルをとりだし弾を装填する。前方から四体。ミドリは抜刀せずに先頭のジャギィに向かって……
「え?」
ミドリは思いっきり跳び、ジャギィの胴を踏む。踏まれたジャギィは潰されまいと脚を曲げて耐える。胴を踏んだミドリも脚を曲げる。ジャギィが脚を伸ばしミドリをはねのけようとする。そのタイミングにあわせてミドリも脚を伸ばす。そうすると、とても高くミドリが跳び上がり、双剣を逆手で抜刀し、踏んだジャギィと呆気にとられるジャギィの背中に刺す。
「グギャア!?」
ジャギィ二匹は悲鳴をあげ倒れる。まだ生きているようだが神経を絶ち斬られたのだろうか、脚は全く動いていない。
「ってうわ!?」
二体がこちらに向かって来ていた。即座に狙いをつけ片方の脚を撃つ。一発目は地面に突き刺さり、二発目は左脚を捉える。
「ギャ!?」
片足を撃たれバランスを崩し、倒れる。もう一匹は更に距離を詰め、口を開け、飛びかかってくる。側面に回避すると、さっき脚を撃ったジャギィが立ち上がろうとしているのが目にはいる。
「せいッ」
「ギャ!?」
そのままジャギィに向かって走りタックル。脚を怪我したジャギィはまた倒れる。振り向きながらもう一度狙いをつけ二発撃つ。一発が片目を抉り、口が開いた瞬間、弾丸が飛び込む。後頭部から弾丸と血が飛び出す。
絶命したと判断し、ナイフを抜き、振り返る。突き飛ばしたジャギィに止めを刺すためだ。そうすると、
「よっ……と」
ミドリが止めを刺し、剣を抜いたところだった。ふとさっきの跳躍のことを思い出す。
「そんな体術、訓練所で習ったっけ?」
「後で教えてあげる」
そう言いながら剥ぎ取り始める。皮や鱗などを剥ぐ。昨日の五匹を剥いでいる内にコツを掴んだので、苦戦することもなく、簡単に剥げた。
荷車に素材を乗せベースキャンプに向かう。これといった問題もなくベースキャンプに着く。魚釣りから戻ってきたアイルーに明日の朝に帰ることを伝え、適当な場所に座る。
「私にはね師匠がいたの」
ミドリはポツポツと話始めた。