モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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十九話 観光先は古代林

「ホロロ、ホルル?」

 

 

 ミドリが勝手に受注した依頼の討伐対象の名前。ミドリが依頼を受けたこと自体は問題ない。ただ、ホロロホルル、それは今までに訓練所で読んだ本にも授業にも一切出てこなかった未知のモンスター。

 

 

「はい。えーと……確か青色の大きなふくろうのようなモンスターです」

 

「他には?」

 

「粉や音波攻撃で混乱させてきたり、眠らせてきたりします」

 

 

 混乱させてくる? 眠らせてくるというのは分かるが混乱、というのが分からない。

 

 

「混乱って具体的にはどういう状態なの?」

 

「前後左右か逆に感じられるらしいです」

 

 

 ミドリの質問に……えっとこの人誰?

 

 

「ハンターさん達は今から狩りに行くのしょうかニャ?」

 

「そうなるね」

 

「では、これをどうぞ。狩りに行く途中に食べていただければ幸いですニャ」

 

 

 ニャンコックの手には植物の葉で包まれたおにぎりがあった。中身はさっき頼んだ高原ツチタケノコご飯だろう。

 

 

「企業秘密なのでいえませんが、ちょっとしたものをかけたので、狩りが比較的安全にできるかもしれません」

 

 

 ギルド公認の食事所では狩りを有利に進めることができる効能のある料理を食べることができる。なんらかの粉末をかけているらしいのだが、ギルドは一部の人物にしか公開していない。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 お礼を言い、ミドリとお辞儀をした直後、

 

 

「飛行船は直ぐにだせます。支給品もあります……よろしくお願いいたします」

 

 

 女性は深々と頭を下げ、涙声で言った。

 既に手遅れかもしれない。任せてくださいなどと、無責任なことは言えない。そもそも狩りが成功するとは限らない。何も言えずに、飛行船に乗り込んだ。

 運転手のアイルーが顔を出し、

 

 

「道具の整理は高度が安定するまで待つニャ」

 

「分かった」

 

「すぐに出発するニャ。何かに掴まっているニャ」

 

 

 バーナーから火が吹き出る。温められた空気によって上についているドスファンゴが四頭程入りそうな大きな袋が膨らむ。袋の先端についているプロペラが回りだし、推進力を生む。飛行船が持ち上がり、急な浮遊感に不安を煽られながら、ゆっくりと空に上る。

 未だに女性は頭を下げている。

 

 

「無事だといいね」

 

「うん……」

 

 

 無事だとは正直思えな……いや、学者さん達はとても頭が良いから学者なわけで、言葉をホイホイ信用せずに護衛にハンターを一人や二人雇っていてもおかしくはない。というか、あのレベルのドジを踏む人が普段から失敗していないわけがない。だから大して信用されていないだろう。

 

 

「なんとなく大丈夫な気がしてきた」

 

「奇遇だね。私もアオと同じ結論に辿り着いた気がするよ」

 

 

 金髪で青い服の普段はテンションが高めであろう頭の緩そうな女性をそこはかとなく馬鹿にしつつ武器の整備をする。

 といっても新品なので整備といっても持った感じの確認やスコープの倍率を体感で覚える事くらいしかないのだが。

 ミドリも武器を補強したばかりで、する事がないようでストレッチをして時間を潰している。

 ハンターの仕事は狩りをしたり護衛、防衛など人々の尊敬を集める職と思われがちだが、実際は移動時間や採集、探索、情報収集など地味なことの方が多い。

 

弁当には頼んだものとは別に色とりどりのおかずもあり、とても満足した。心なしか力も湧いてきた気さえする。

 

 

 

「あぁ暇だ……」

 

「ハンターさん達。緊張感なさすぎニャ」

 

「学者さん達は個別できっとハンター雇ってるでしょ?」

 

「あの人達変な所で抜けているから安心しちゃダメニャ」

 

 

 …。

 ……。

 …………あ

 

 

「アオ? 固まっちゃってどうしたの?」

 

 

 学者さん達はとても頭が良い。ただ育ちがいいのか人を疑う事を知らない人がかなりいるらしい。今回のことは騙そうとして安全と言ったわけではないだろう。でもあの人達はあまりにも信じやす過ぎる。

 

 

「最速で古代林に向かって下さい。準備はもう終わりました」

 

「分かったニャ」

 

「え? ちょっと?」

 

 

 プロペラの回転速度が目に見えて早くなる。飛行船は速度を一気に増しかなり強い風が全身に叩きつける。体制を低くして強風に耐える。どうか間に合ってほしい……!

 ついさっきまでとは正反対の、焦りを抱えて古代林に向かった。

 

 

   ◯ ◯ ◯

 

 

「来てくれてありがとう。でも僕たちハンターを三人程雇っているんだ」

 

 

 学者さん達は普通に皆元気そうでハンターも強そうな人達だった。

 

 

「俺たちの依頼はあくまで学者達の護衛だから積極的にホロロホルルを狩るわけにも行かねえんだ」

 

 

 ちょっと強面けど気さくそうな声色のおじさんは暗にホロロホルルをこちらで狩るように頼んできた。ホロロホルルを狩るために来たのだから断る理由はなかった。

 

 厚意で地図を貸してもらい地図を見ながらホロロホルルを探し始め……一時間? くらい。

古代林はルルド村周辺ではまずみられないようなモンスターや植物がたくさんあった。未開拓、そういった印象を受ける。

 ただ人の手が加えられてないからこその、絶景は沢山ありそうだな、とも思う。

……ミドリは全く興味無さそうだ。

 

 

「……アオ、あそこにいるやつじゃない?」

 

 

 ミドリの向く方向に青色でもふもふしてそうな塊が木の二股に分かれた片方に乗っていた。スコープで確認してみるとアイルーの耳のような形のものが頭から出ている。そしてその青色の鳥はこっちを向いた。

……体を一切動かさずに正面から背後に首を動かして

 

 

「「⁉︎」」

 

「クルッ?……キュオオオオオ!」

 

 

 聞いた特徴が一致している。ホロロホルルで間違いないだろう。予想外、常識外の首の可動域の広さに驚いたが構わずにヴァルキリーファイアに通常弾を装填しミドリにやや遅れる形で突撃する。

 ミドリは双剣を抜きすれ違いざまにホロロホルルを斬った。無数の毛が散ったがダメージは無さそうだ。

 

 

「アオ、こいつ見た目より少し小さい!」

 

 

 ミドリは最初から肉を斬るつもりだったらしいが剣が届かなかったのだろう。

 ミドリの忠告どおり外側を抉るのではなく、ホロロホルルの体の中心を狙い、引き金を引く。その瞬間内部でハンターライフルとは比にならない力が爆ぜ、爆炎と共に弾丸が撃ち出される。圧倒的な可動域をみせた首の辺りに弾丸は吸い込まれ、青色の毛に赤が滲む。続けて引き金を引きホロロホルルに弾丸を撃ち込む。

 

 

「クルッ!」

 

 

 ホロロホルルは鬱陶しいから効いているからか此方に振り向きながら翼を振るう。だがガンナーに対してその攻撃はリーチが短すぎた。そして攻撃すべき相手も間違えた。

 

 

「よっと」

 

 

 とても軽い掛け声でミドリはホロロホルルの恐らく尾羽の辺りを踏んで跳んだ。そして空中で横に一回転、いつの間にか納めていた剣を再び抜きながら鬼人化。流れるように、回転しながらホロロホルルを斬る。

 何となく行動で察して一旦離れる。ミドリは着地した直後から更に回転しホロロホルルを削っていく。計三回の高速回転と二回の方向転換の後、ホロロホルルにX字を刻み、回転は終わる。

《血風独楽》ミドリがメリルに新しく習った狩技。《獣宿し【飢狼】》ほどではないが威力はすごかった。ミドリが斬り刻んでいる間、辺りには血と毛で赤と青色の霧がかかっているようにさえ見えた程だった。

ホロロホルルは仰け反り二歩程たじろいでから息を吸い

 

 

「クル……ッキュオオオオオッ!」

 

 

 叫んだ。その小柄な見た目からは想像できないほどの大音量とハンターでさえ竦みあがる本能的な恐怖。ミドリは殆ど反射的にしゃがみこんでしまう。離れていたためミドリほどは恐怖を感じない。

 やや震える手先でホロロホルルの注意をミドリにいかせないため、通常弾よりかなり重い弾――徹甲榴弾を一発装填する。

そしてホロロホルルの顔を狙って撃つ。

 あまりの質量故、普通の弾丸数発分の火薬を使用し撃ちだされるそれは、銃口から排出された爆煙を振り払い、徹甲の名前通り、ホロロホルルの嘴の横に深く突き刺さる。

 徹甲榴弾の代償とも言える反動を体全体を使って無理矢理相殺する。

 ホロロホルルはそれを隙とみたのか此方に何かしようとした。その瞬間

 

 

「ルォ⁉︎」

 

 

 ホロロホルルの顔が爆ぜる。榴弾。そのものとは少し違い、着弾の衝撃で中の着火装置が作動、一拍おいてから爆発。安全性や利便性を考えた結果らしい。

 ホロロホルルの注意をひくには十分過ぎる威力だったようで、立ち上がったミドリには目もくれず、ホロロホルルはこっちを睨んでから音を出した。音波攻撃……! 避けないt…

 

 

ル――――――

 

 

青色のトンネルに包まれた瞬間、音が聞こえた。その心地よく、耳触りのいい音を最後に意識は虚空へと手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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