モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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十八話 ミドリの苦難

 私はある目的をもってこの旅行に来た。

 別に温泉が茶番だったわけではない。温泉も目的のひとつ。ただ目的の再確認をそこで不本意ながらおこなうことになった。

……アオに私の胸が何回も当たった……厳密には何回かは当てたのだが。なのに、アオイは一度も気付かなかった。隠している素振りも見せなかった。恥ずかしそうにはしてた。でも胸が当たったこととは全く関係なさそうだった。

 胸は牛乳やチーズ……乳製品を食べると成長すると聞いた。

――ベルナ村。この村の特産品はチーズを使った料理。

 胸を大きくしたい。今のままはあまりにも……。

 

 

「ミドリ? どうしたの?」

 

「……ふぇ? な、何でもないよー」

 

 

 目線をそらして空を見る。アオはこういう時あまり詮索しないでくれる。ありがたい。

 この風景にも結構慣れてきた。風は心地よいし、丁度よい明るさの日陰だし。

 眼下には雲海が広がっている。――ここは、空。それも雲より高く、呼吸が辛く感じる程の。

 

 

「……高い」

 

「アオ高い所苦手なの?」

 

 

 私は好きだけど。渓流に行ってアオと飛び降りるのも楽しそう。今度誘おうかな。後、メリルも。高所恐怖症みたいだし。

 

 

「ミドリは……平気なんだね」

 

「うん。メリル連れてきたらきっと面白いだろうなぁー」

 

「ミドリって結構……いや、何でもない」

 

「?」

 

 

 アオは途中で言葉を切ることが多い気がする。そのせいでよく意図が汲み取れない。自己主張が乏しい? 違うか。

 アオは気まずそうに防具を拭き始めた。インナーのままで寒くないのかな。私が寒くないから大丈夫かな。私は防具来ているけど、露出度は同じくらいだし。

 

 

「アオもそろそろ防具変えたら?」

 

 

 アオのハンターシリーズも傷や補修の後が目立ちはじめた。モンスターの攻撃を受けると傷つく。だが、それを避けるために転がったりしても傷つく。飛竜クラスの素材を使わない限りは防具は消耗品とも言える。

 

 

「うーん……でも……」

 

「これからはモンスターの攻撃力も上がし、どうしても被弾も増えるだろうし」

 

 

 被弾が増えるのは間違いない。吹き飛ばされる度に動けなくなるようでは、あっという間に死んでしまう。アオに怪我をしてほしくないというのが本心だけど。

 

 

「ミドリがそう言うなら……次に狩るモンスター素材使って防具つくろうかな」

 

 

 楽しみ。早くモンスターの依頼こないかな?

 あぁ、今日は良い日だな。

 空は青く、雲はやわらかく陽光を返し輝いている。そして逆光となり真っ黒になった鳥は……ッて!?

 

 

「あ、アオッあれってまさかっ」

 

「ミドリ? そんな慌ててどう……!」

 

 

 鳥は飛行船に高度を合わせるためかゆっくりと降りてきた。飛行船の高度に近づく度に黒は薄れ、赤色の体表が目立ち始める。刺々しい甲殻に身が包まれ、大きな翼を使い滑空し、こちらを睨むそれは、空の王者、

 

 

「「リオ、レウス!?」」

 

「ハンターさんっどこかに掴まるニャ! 全速力ニャっ」

 

 

 この飛行船を操作しているアイルーがハンドルの側の紐を引く。するとプロペラは高速で回転し、飛行船は加速し始める。

 

 

――バチィッ

 

 

 突然、雷が鳴った。リオレウスの攻撃かと思ったが、リオレウスにはそんな攻撃なかったはず。リオレウスの方を見ると、リオレウスにうっすらと緑がかった黒い甲殻に透明で綺麗な翼、魚の尾びれにも見える特徴的なしっぽの先端、――今までに聞いたモンスターの特徴と何一つ一致しない、知らないモンスターがリオレウスに襲いかかった。

 

 

「グガァァァッ!」

 

「ギィァァァアッ!」

 

 

 飛竜二匹は目の前でぶつかりあう。激しい衝撃がここまで伝わる。リオレウスは直ぐにブレスを吐くがとっさに黒緑の竜はそれを避け、雷を纏わせた角をリオレウスに叩きつけようとする。空の王者、その名は伊達ではなくリオレウスはそれを紙一重で避け――ここで二匹は雲の中に入り込んだ。

 飛竜同士の縄張り争い。ここまで苛烈だとは思わなかった。

 

 

「ってわっ!」

 

 

 二匹の戦闘に見とれているうちに急に舵をきったようだ。柱? に掴まり、顔を上げると二匹は空中で絡み合い錐もみ状態になって落ちていったところで下の雲海に消えた。

 

 

「すごいの見ちゃったね」

 

「ははは……」

 

 

 どっちかがこの飛行船を攻めてたら結構危なかった。迎撃しようにもアオしか攻撃手段を持っていない。飛行船は火竜のブレスにも耐えるらしいがどれだけの回数耐えるかなんてたかが知れている。それ以前に飛行船が揺れてアオが落ちる。私は多分大丈夫。

 

 

「あの二匹が怖いから、このままのスピードで行くニャー」

 

「はーい」

 

 

 随分余裕ですね。とか言わずに普通に返事をした。こういうことは慣れっこだったりするのかな。隅で震えているアオにも見習ってほしいくらい。

 

 

「ハンターさん達は恋人なのかニャ?」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 急にどうした。驚いて妙に高い声でたし……

 

 

「その反応を見るに……あぁそういうことかニャ」

 

「そういうことってどういうことかな?」

 

 

 頑張って穏やかな口調を繕って、かなうな限りの微笑みを浮かべて、睨み付ける。

 

 

「ニャンデモナイニャー」

 

 

 カタコトでアイルーはそう言い運転に戻った。なんなのこの子……。

 

 

「ミドリ? 取り乱してどうしたのさ」

 

「ふ、不意だったから」

 

「落ち着いて幼なじみですとか言えば……あ、不意だったの」

 

 

 ……。

 

 

「ミドリ?」

 

「むぅ……」

 

 

 幼なじみ。アオにとって、私ってそういう認識なんだ。そうなんだ……。

 

 

「え、もしかして悪いこと言った? それだったらその……ごめん」

 

「いいよ。気にしないで」

 

 

 自分でも分かるくらいぎこちない笑みをつくって答える。……ベルナ村で頑張ればきっと。

 

 

 

「……あ、もうそろそろ着くニャ。予定より早いニャ」

 

「早い分には構わないよ」

 

 

 あ、もう着くんだ。うん。

 アイルーが見る方向を探すと山の中に石でできた建物がちらほらと見受けられるし、牧草地帯が大半を占めているみたいだった。

 噂に聞く龍歴院は村から少し離れた所にある尖った岩のような所にあるものだろうか。

 

 

「あれ? 飛行船思っていたより少ないんだね」

 

「最近つよーいモンスター……この辺りでは二つ名持ちって言うニャ。に目をつけたのか、沢山現れたのか、ハンターさん達は忙しく狩りにむかっているんだニャ」

 

 

 お二人さんとは違って。と言いアイルーは運転に戻る。一言余計。飛行船の運転してなかったら蹴っ飛ばしてたかも。

 

 飛行船は高度を徐々に落としベルナ村の端の方に着陸した。

 着地するなり防具を着けたアイルーが一匹、近付いてきて言った。

 

 

「こんにちわニャ、ハンターさん。ようこそベルナ村へ!」

 

「こんにちわー」

 

「こんにちわ」

 

 

 アイルーはそう言った後、体を後ろに向け、振り返り

 

 

「観光が目的かニャ?」

 

「うん」

 

「じゃあついてくるニャ。いい店を知っているニャ」

 

 

 アイルーはそう言って走り出した。本当は村の建物等を見ながらゆっくりとまわりたいのだが見失っては悪いし、走ってついていく。……はやい。アオを置いていきそうな位に早い。

 

 

 

 

「……はぁ、はぁ……空気が、薄いよぉっ」

 

「確かに、言われて、見ればっ」

 

 

 確かに薄い。ルルド村も結構高い所にあるのだが、ベルナ村はその比ではない。そもそも飛行船で来ること前提なのか、様々な場所に着陸用に作られたと思われる台がある。

 走りながらまわるのも悪くないかも。

 

 

「ぜぇ……はぁ……」

 

 

 アオはそんな余裕はなさそうだけど。まぁ空気が薄いし、多少はね?

 

 

 

 

 全力疾走を続けること二分くらい。大きい鍋の中の白っぽいチーズをかき混ぜているアイルーの着ぐるみをきたおじさんがいた。

 

 

「あの着ぐるみが作る料理?」

 

「着ぐるみじゃないニャ。生身のアイルーだニャ」

 

 

 えっ。……えっ? アイルーがあんなに大きく?

 

 

「サリュ、エル。そんなに走ってどうしたのですかニャ?」

 

「お客さんを連れてきたニャ」

 

 

 ふざけた見た目に反してすごく紳士的そうなアイルーだった。アイルーは見た目じゃないんだね、うん。

 

 

「料理長のニャンコックと申しますニャ。ミィのアイルービストロにお越しいただきまことにありがとうございますニャ!」

 

「えっと、ニャンコックさん。おすすめはなんですか?」

 

「この村に観光に来たのなら高原ツチタケノコご飯をおすすめしますニャ」

 

「じゃあそれを二人前下さい」

 

 

 ニャンコックは一礼をして青空の下、料理を始めた。

 

 

「はぁ……ふぅ……」

 

 

 アオの息がやっと落ち着いてきた。なんとなく申し訳ない。

 

 

「高原米使っているのかな……」

 

「高原米?」

 

「この村で作られていたような……」

 

 

 この村にはチーズ以外にも特産物あるんだ。そういえば最近、今の所この村経由じゃないと行けない孤島……古代林を売りにしようとしているってルナちゃんに聞いたっけ。

 

 

 雑談をしながら待っているとブロンドの髪で青い制服を来た女性が息を切らしながら走ってきて

 

 

「お二人さん、ハンターですよねっ?」

 

「そうですけど」

 

 

 びくっとなってからアオは答えた。急にどうしたのかな。ハンターを探しているってことはなんとなく察しはつくけど。

 

 

「私、今回の調査範囲の中に危険なモンスターがいることを忘れていて、学者さん達に安全ですって送り出してしまいましたっ……」

 

 

 なんというドジだろうか。運が悪ければ既に死傷者がでていそうだ。

 

 

「私達が行きましょうか?」

 

「……!? ありがとうございますっホロロホルルの狩猟、お願いしましたっ」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 ホロロホルルって何?

 

 

 影も形も分からないモンスターの狩猟を承諾してしまった。アオがキョトンとしているのを、私もキョトンとして、見つめている時間がしばらく続いた……

 

 

 

 

 

 


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