モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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十六話 新しい装備を纏って

 早朝。空が黒から紫色に変わり始めた頃。

 

 

「……」

 

 

 焦れったい。いつなのだろうか。早く扉は開かないだろうか。寒い。パジャマのまま来てしまった。

 それはミドリも同じようで手頃な段差に座り貧乏ゆすりをしている。ミドリはうっすらと桃色のパジャマを着ている。胸には小さくデフォルメされたモンスターがあしらわれている。……フルフル?。

 

 

「まだかな……」

 

「後少し、後少しのはず……」

 

 

 

 

 数分、数十分、数時間。朝日が完全に顔をだし、空が透き通るような青色に変わり始めたころに扉は開いた。

 

 

「アオイ、出来たぞー」

 

 

 小柄なおじいさん……クロウさんが目を擦りながら扉を開け出てきた。

 

 

「「クロウさん! おはようござます」」

 

「おはよう二人とも」

 

 

 クロウさんはそう言いながら「入りなさい」と手招きして中に入る。こちらも促されるまま入る。

 

 暗い色の木材でできていて大きめの窓から入ってくる光は心地よい薄暗さをつくり出している。

 奥には鉄製の扉……恐らく工房に続いているのだろう……があり、僅かに熱を感じる。そして中心には大きいテーブル。その上に……

 

 

「ヴァルキリーファイア。ハンターライフルの部品を流用しているから持った感じは余り変化はないじゃろう」

 

 

 ヴァルキリーファイア。砲身や火薬を炸裂させる部分にリオレイアの素材が使われている。だが所々ハンターライフルと同じ部品を使っているためか、クロウさんの言うとおり持った感じは殆ど変化を感じない。

 リオレイアの素材は耐熱性や断熱性に優れているため大火力を扱いやすい。そして新たに速射の機能が加わり弾種も増える。

 しかし、本来はリオレイアを征したものだけが持つことのできるライトボウガン。素材を拾っただけでこれを作ってもらってしまったことに後ろめたさを感じる。

 

 

「まぁ、複雑かもしれんが、命には代えられんじゃろう?」

 

「……はい」

 

 

 命よりは、皆を守れるようになるためという夢と比べれば、後ろめたさは関係ない。……うん。

 唐突にミドリが声をあげる

 

「……あれ? 頭の防具は?」

 

「素材が足りなくて作れなかった。じゃが、ルナさんが代わりになるものをミドリにあげると言っていたはずじゃ」

 

「そう。ちょっと着てきます」

 

 

 そう言い、ミドリは防具を抱えて出ていった。

 

 

「ロングバレルとか、サイレンサー、可変倍率スコープは付けないのか?」

 

「可変倍率スコープは付けたいんですがお金が、ねぇ……」

 

「いくらアオイでもとるもんはとらないとこっちがやってけないからのぉ」

 

 

 クロウさんは笑う。あのスコープ格好いいんだけどな。ヴァルキリーファイアとナイトさんのところでの食事での出費はバカには出来ない。

 

 

「家に戻ったらどうじゃ? ミドリも着た防具を最初に披露したいのはアオイじゃろうし」

 

「え、それどういう意味……」

 

 

 クロウさんは微妙な笑みを浮かべて寝室に繋がってそうな扉を開け、中に入っていった。

 とりあえず家に戻ることにした。

 

 家の扉を開けると

 

 

「あ、ミドリ? 着替え終わったん……」

 

「ん?」

 

 

 彩度の高い黄緑色を基調としていて末端の部分は紫色の羽毛でできている。へそ周りと太ももの部分を防ぐものはなく、白い肌が露になっている。全体的に動きやすそうな感じでミドリの戦闘スタイルにも合っているのだろう。

 

 

「なんか恥ずかしいんだけど」

 

「ご、ごめん……」

 

 

 似合ってる。別に言おうとは思わない。

 

 

「メリルに見せにいったら? 喜ぶと思うよ?」

 

「何か変な気分だけど、いっか」

 

 

 返事を聞き、家に戻ろうとすると

 

 

「あ、メリルはルナちゃんに話があるって言ってあっちに行ったよ?」

 

 

 指さす先は村長の家。村で最も高い位置に佇む。小さい時から住んでいるので慣れているが。

 

 

「アオ、今日暇だよね?」

 

「そうだけど」

 

「じゃあさ……競争しない?」

 

 

 ミドリは足元の石をひとつ拾ってから村長の家を指さす。小さい頃よくミドリとやっていた遊びだ。

 

 

「懐かしいね。今日は勝つよ?」

 

 

 一旦家に戻り、防具を着てミドリと条件を同じ……微妙なところだが揃える。体を軽くほぐしながら武器を担ぎ

 

 

「この石が地面に落ちた瞬間、開始だ……よっ」

 

 

 石は空高く飛び上がり、途中で急速にスピードを失い折り返して地面に向かう。

 目で石を追いながら足に力を入れる。

――落ちた。

 走る。地面を蹴り、坂を駆け上がる。スタートダッシュは勝てた。

 だが高め段差が正面にある。両手を使って出来るだけはやく駆け上がる。ミドリは手を使わずに僅かな隙間に足をかけて登った。ミドリに抜かれた。

 普段は橋で渡る大きめの水路を飛び越える。着地した瞬間体勢を崩すが手を付き無理やり進む。ミドリは前転で衝撃をいなした。

 そして最後の段差。平均的な人間二人分はありそうな高い段差。小さい頃は迂回していた段差。

 ミドリは手頃な高さの岩……それでも子供一人分位の高さだろうが……を踏み跳んだ。一気に段差を乗り越える。こちらも負けじと足をかけ登るが結果は明らかだった。

 

 

「はぁっ……はぁっ」

 

「はぁ……私の勝ちだね」

 

 

 今回も負けた。今までに何度も勝負しているが、今回同様いつも負けている。

 ミドリは手の甲で汗を拭い、言った。

 

 

「こんな朝から汗だくになっちゃったね」 

 

「後でお風呂に入ればいいじゃん」

 

「そうだね……じゃあ村長の家に行こう」

 

 

 そう言うとミドリは訝しげな表情で

 

 

「村長?」

 

「ん?」

 

「昔はル……」

 

 

 ミドリは言葉を切る。

 メリルが門に体重を預けて虚ろな目で虚空を見つめていることに驚いた……或いは戸惑ったからだろう。

 

 

「メリル、何かあったの?」

 

「何かありましたが、ちょっと頭の整理がつかないんです」

 

 

 それだけを言い、メリルはまた視線を空に戻す。

 

 

「……ルナちゃん? いる?」

 

 

 空気に耐えられなくなったのだろう、ミドリは答えの分かっている問いを玄関に向けて言う。

 

 

「……あ、ミドリ? おはよう。クロウに聞いてると思うんだけど、ちょっとこれ着けてみて」

 

 

 村長が取り出したのは、昔から料理をするとき……食材を切るときにいつもつけていた羽飾りだった。

 

 

「隼刃の羽飾り。これミドリにあげるよ」

 

「えっでも……」

 

 

 隼刃の羽飾り。食材を切るとき、これをつけておくと何となく上手に切ることができる一種のお守りのようなもの。でもこれが頭装備の代わり……?

 

 

「クロウに聞いてみたらさ、みきりぷらすにっていうスキルがこれを装備するだけで付与されるらしいの。私が持っているよりミドリが持ってた方がいいでしょ?」

 

 

 見切り+2。武器には会心率という概念があり、これが高いと狙った場所を攻撃しやすくなったり、甲殻の脆弱な部分を突きやすくなったりなどたまにダメージが大きくなるらしい。このスキルはそういった現象を起こりやすくする。

 

 

「……本当にいいの? ルナちゃんの大切なものでしょ?」

 

「いいから、いいから」

 

 

 村長はミドリの手に羽飾りを置き握らせる。

 

 

「そうだ、三人には最近頑張ってもらってるからちょっとした慰安旅行的なことをさせてあげようかなって思っているんだけど」

 

「えっ」

 

 

 慰安旅行? 人使いの荒い村長にしては珍しく労ってくれるのだろうか。

 ミドリは旅行の二文字が聞こえた瞬間見なくても分かるほどそわそわし始めた。

 

 

「ごめんなさい。私は村に残ります。二人で楽しんできてください」

 

 

 メリルはそれだけを言い、坂を下りていった。ミドリと一緒、ってだけで嬉しそうに飛びつくと思ってたのだが。……新調した防具にはメリルは結局ふれなかった。

 

 

「メリルに何があったの?」

 

 

 ミドリも不審に思ったらしく元凶っぽい村長に尋ねる。その語気は強い。

 

 

「二人にもいずれ話すよ。まずは体を癒してもらいたいんだ」

 

 

 心身が疲れているときは本来の実力を出すことはできない。とくに心。狩技だけでなく全ての動作は心が不安定だと上手くいかなくなる。一つの失敗で全てを失うこともありえる。

 だからハンターは他の職と比べて休養が重要なのだ。

 だが……

 

 

「分かった。あ、羽飾りありがとう旅行も楽しみにしてるよ」

 

「言葉間違えてるよ」

 

「えっ」

 

「楽しみにしてるよ、じゃなくて楽しんでくるよ、でしょ」

 

 

 村長は悪戯な笑みを浮かべて

 

 

「今から行くんだよ。いってらっしゃい」

 

 

   ◯ ◯ ◯

 

 

 村の入り口には既に荷車が手配されていた。念のための武具を乗せ軽く挨拶をして村を出た。ナイトさんが無償で朝ごはんをくれるなど色々と違和感があったが気にしないことにした。

 

 

「ユクモ村の温泉かぁ」

 

 

 夢うつつな感じでミドリは呟いた。ユクモ村は温泉と林業で有名な観光地だ。ルルド村も林業は出来ないことはないがこの付近の材木は《ユクモ》の木と名前が統一されるため村長が却下。温泉を掘ることも考えたらしいがこれも二番煎じになるため却下。

――村長はユクモ村が嫌いである。

 そのためユクモ村は近場だが実際に行くのは始めてだ。

 

 

「ルナちゃんユクモ村嫌いだったよね」

 

「うん。観光客を独占してるとか言ってたっけ」

 

「ルルド村の売りなんて風景と野菜、後ナイトさんの作る料理くらいだしね」

 

「全部水に依存しているから万が一止まりでもしたら大変そうだね」

 

 

 そういえば水に癒しの効果があるならそれも観光の材料になるんじゃないか。……村長ならもう考えてそうだな。

 他愛もない雑談をしている内に赤色を基調とした街並みに所々湯気が漂う温泉街――ユクモ村に着いた。

 

 

 

 


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