モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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十五話 支える

――アオ……

 真っ暗闇の中、不意に声が聞こえた。そして、急に呼吸が出来なく……いや溺れ……!?

 

 

「あぷっ……はぁ、はぁ……?」

 

 

 勢いよく起き上がると顔が濡れていることに気付く。泣いてたわけではない。多分水をかけられた。

 

 

「……変態」

 

「流石に私もそれはどうかと思います」

 

「へ? はい?」

 

 

 ちょっと待った。何があった。

 顔を真っ赤にしてうっすら涙を浮かべているミドリ。まるでゴミでも見ているかのような冷ややかな視線で刺してくるメリル。

 

 

「何かあったの?」

 

 

 とりあえず聞いてみる。本当に何も知らない。心当たりもない。

 

 

「ミドリ、アオイは何の覚えもない……というか、無意識のようです」

 

「……すっごく納得したくないけど、無意識なら……まぁ……」

 

 

 ミドリはとても不服そうだ。というか何があった。

 

 

「……って! いいわけないよッバカッ」

 

 

 ミドリはそう言ってふんっといった感じで歩いていった。

 いつの間にか呆れ顔になっているメリルに見ると。

 

 

「本当に何にも覚えてないんですか?」

 

「何があったすら知らないんだけど」

 

「……可哀想に」

 

「え」

 

 

 どういう意味? と聞こうとしたが、メリルはそれだけを言って肉焼きセットを使った簡易的な調理場に向かった。

 メリルはそのまま料理を始めた。……と言っても切って調味料をかけて味付けして火が通るまで温めるだけだが。

 

 

 

 

――と、思っていた。数秒前までは。

 凄く美味しい。メリルは特別なことをしてないのに凄く美味しい。下味がつけてあったのだろうか。それとも切り方が違うとか? 最適な火加減?

 

 

「感想は?」

 

「うん……凄く美味しいっ」

 

「それは良かったです」

 

 

 メリルは満足そうに微笑む。よくよく考えたらミドリに料理も教えてたのか。

 

 

「……んー美味しいけど刺激が足りないというか……」

 

 

 本当にメリルに教わったのだろうか。いや、ナイトさんが教えたのかもしれない。あの人結構悪戯好きだからなぁ……

 

 

「メリルがミドリに料理を教えたの?」

 

「はい。でもあんな味付け教えた覚えないんですよ……?」

 

 

……犯人はナイトさんか。

 思いを巡らせているとミドリが訝しげな顔で言った。

 

 

「ねぇ何の話?」

 

「なんでもないよ」

 

「そんなことより、今からクルペッコですよ」

 

「あ、はい」

 

 

 そうだ、クルペッコを狩りに来てたんだった。でもリオレイア……と考えていると

 

 

「リオレイアは一様追い払ったのでこの狩場には居ないと思いますが、また来るかもしれませんので短期決戦でいきましょう」

 

「もしまた呼ばれたら?」

 

「呼ばれないようにミドリが頑張るんですよ!」

 

 

 不安げに問うミドリ。何故か自信満々に答えるメリル。メリルに半ば無理やり押し進められベースキャンプを出ることになった。

 

 

 

 朝の陽光を受けて白く輝く川。滝のせいかひんやりとした風は鮮やかに色づいた葉を散らせ、ゆったりと舞わせる。

 その中に周りに溶け込むかのような明るい黄緑色の体表。一層目立つ鮮やかな紫色を含む尾羽。特徴的な形の嘴。――彩鳥クルペッコ。

 モンスターには驚異的な治癒能力がある。表面上の傷は一晩もすれば治ってしまう。クルペッコも例外ではなかった。しかし、それでも治しきれない分のダメージは蓄積していく。傷つけられた憎しみも含めて。

 

 

「クルルッ」

 

 

 クルペッコはじたばたと足踏みをし、喚き、こちらに向かってきた。左側に走ってクルペッコの側面に向かう。ミドリは右側から挟み込むように動く。

 クルペッコは一瞬どちらを狙うかを迷ったのか固まった。その隙を突き攻勢に出る。

 クルペッコの斜め後ろまで走り、振り向きながらハンターライフルを滑り込ませるように右脇腹の辺りを通して構える。直感で銃身を動かしうなじを狙い、撃つ。

 予め装填しておいた通常弾はクルペッコのうなじを捉え、弾痕を残してそらされる。

 その一撃で迷いがなくなったのか、こちらを向いたクルペッコの尾羽に二つの青い光の筋が走り抜ける。

 

 

「クルァッ!?」

 

 

 黄緑と紫の尾羽が散る。それらは尾羽から切り落とされ落ち始めた直後に真っ赤に染まる。

 怯むクルペッコにミドリは更に斬撃を重ねる。

 こちらも便乗して引き金を引き、撃つ。装填分を撃ち終え、走りながら可能な限り素早く装填し、更に撃つ。《ラピッドヘブン》だけが手数を増やすための手段ではない。

 二人でクルペッコの周りを走る。時には互いを追いかけるように、時折すれ違ったりして不規則に走り回る。

 

 刃が振るわれ、銃声が響く度にクルペッコの生命は削れる。そう思える程度にはダメージを与えていく。

 

 

「クァックァッ!」

 

 

 順調に事が進むなか突如、クルペッコが声を荒げた。そして、急にこちらに向かって走りだし……

 

 

「アオッ」

 

 

 なんとか避け、追いかける。だが、クルペッコは滝をバックに後ろを向いて踊り、此方を向いて大きく息を吸う。その瞬間、喉の辺りの赤い袋のようなものが膨らむ。

――ヤバい。もしリオレイアを呼ばれれば次は死ぬかもしれない。

 不安に支配され自然と歩みは遅くなる……

 

 

「せあああああッ」

 

 

 ミドリは鬼人化したのかとてつもない速度で走り、距離を詰め跳んだ。空中で双剣を抜き振り抜いた。赤色と青色の光がクルペッコの赤い袋とすれ違った瞬間、――裂けた。圧縮された空気が一気に抜け裂け目が拡がった。その衝撃波じみた空気がミドリを吹き飛ばす。

 

 

「ミドリッ」

 

 

 地面に落ち、ミドリがうずくまる。

 

 

「私はいいからッ」

 

 

――クルペッコを! それが聞こえる前にはもう振り向き、ラピッドヘブンを装填していた。

 クルペッコは赤黒い体内を露出させ、立ったまま悶えている。

 座り込みクルペッコを標準し、撃つ。

 流星群のように大量の光がクルペッコの赤黒い喉に吸い込まれていく。反動で……地面が滑りやすいとも起因しているのか、後ろに下がっていく。体で反動を受けているのもあるだろう。

……腕で反動を吸収したり相殺するのどはなく、体で反動を受ける。そうすると狙いがぶれにくくなるという。

 鮮血が川をみるみる赤く染めていく。弾丸は徹底的にクルペッコの命を抉る。

――こんな大怪我で死なない辺り、モンスターの生命力の強さが伺える。もしかしたら、袋と気道は別々なのかもしれない。

 クルペッコは声にならない悲鳴をあげながら後ろを向き足を引きずりながら逃げ出し始めた。

 追いかけようとしたがミドリに制され、ペイントボールを投げるにとどまった。

 

 

「ミドリ、大丈夫?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

 

 そう言って腕を回す。だが一瞬顔がひきつったような気が。

 

 

「右腕、薬草塗るから防具とって」

 

「……大丈夫だって」

 

 

 と言いつつもミドリは素直に防具をとった。赤く腫れている。確かに大事ではなさそうだが、双剣は両腕を酷使する。些細な怪我でも動かせば痛みはある。何回も何回も動かせば痛みはどんどん蓄積されてやがて取り返しのつかないものとなる――とか考えたが、実際はただ心配なのだけだが。

 薬草を塗るとまず表面的な痛みが引き、出血が止まる。その後、ゆっくりと治癒される。

 ギルドから支給される包帯にも僅かに薬草の成分が含まれており、巻いているだけで僅かに回復が早くなる。

 

 

「なんか妙に慣れているような?」

 

「……? 気のせいだよ」

 

 

 包帯を普通に巻き終えたところで、メリルが来る。

 

 

「今のは結構いい感じでしたね。でも、油断は禁物ですよ」

 

 

 メリルはそう言うと片手剣……イフリートマロウを抜き続けて

 

 

「私も加勢しましょうか? それとも最後まで二人で戦い抜きます?」

 

「ミドリに任せるよ」

 

「……じゃあ最後まで二人で頑張ってみる。ただピンチになった時はお願い」

 

「分かりました。頑張ってくださいね」

 

 

 メリルは微笑み、戻っていった。

 

 

「そろそろ行こ?」

 

「うん」

 

 

 独特の甘い匂いを便りに歩く。……上の方から匂いがするということは……

 

 

 

 

「アオ、メリル、早く来てよ」

 

 

 風で軋む橋、地面は霞んで見えない。また木が絡まって出来たであろう橋に来た。踏む度に橋の形が変わり不安を助長する。

 足をすくませながらやっとの思いで橋を渡りきる。メリルは半泣きである。

 そしてそこにクルペッコはいた。何も言わずにそっとハンターライフルを構える。ミドリは段差をのぼり剣を抜いた。

 狙いをつける。今度は目測ではなくスコープで頭を狙い、撃つ。

 

 

「クルァッ!?」

 

 

 着弾と同時、クルペッコが跳ね起き転がり落ちるように地面に着地する。

 クルペッコは起き上がりながらこちらを見据え、羽についている石を二回打ち付け火花を散らせる。そして羽を大きく広げ、こちらに飛びかかってくる。

 体を仰け反らせ後ろに跳ぶ。直後、目の前で火打石が強く打ち付けられ小さな爆発が起こる。爆風に吹き飛ばされ、僅かに熱で焼かれるが大したダメージではない。

 体を無理やり前に倒し両足とハンターライフルを構えていない左手で踏みとどまる。

 顔を上げると、クルペッコが再度飛びかかってきていた。

 

 

「前ですッくぐり抜けてッ」

 

 

 メリルの怒号じみた声に慌てて反応し、クルペッコの足元に転がり込む。背後で爆発音が聞こえるだが、今回は熱は余り感じず、爆風もなかった。

 回避する際、完璧なタイミングで避けることで、攻撃が直撃したように見えても防具が完璧に衝撃をいなし、ダメージを一切受けないことがあるらしい。それが今だったようだ。

 

 

「また肩借りるよっ」

 

 

 唐突に正面からミドリに肩を踏まれる。反射的に見上げ……かけた。ミドリの足が肩から離れたところで振り向くとミドリはクルペッコの首に掴まりまたがった。

 

 

「クルァッ!?」

 

 

 ミドリは剥ぎ取りナイフを逆手に構え、クルペッコの首に突き刺した。いつもの転倒等を狙ったものではなく、力が弱まっているからこそできる直接、討伐を狙った攻撃。クルペッコは激痛に反応し、暴れまわりミドリを振り落とそうとする。万全の状態なら振り落とせたかもしれない。だが、クルペッコは体じゅうに傷がついている上、昨日のメリルの斬撃による足の傷がまだ回復しておらず、傷が開き血が流れ出す。

 やがてクルペッコは疲れて動けなくなる。その隙をミドリは見逃さず首に向かってナイフを何回も降り下ろす。

 今回はクルペッコを狙うとミドリに当たる危険もある上、隙をつくる為に乗った訳ではなく止めを刺しにかかっているので、攻撃が出来ない。

 ナイフはクルペッコの首を切り開き、白色の……骨? が露出した瞬間、ミドリはナイフを両手で構え、降り下ろした。硬質で生々しい音が聞こえると同時、大量に血が吹き出し、クルペッコはゆっくりと倒れた。そのまま動かなくなった。

――討伐出来た。

 顔を上げると、頬にベッタリと血をつけ、体の所々……特に手に集中してを真っ赤に染め、鈍く光るナイフを構える……ミドリがいた。怖い。

 

 

「アオ? 顔をひきつらせてどうしたの?」

 

 

 ミドリがゆっくりと近付いてくる。思わず後ずさる。

 

 

「ミドリ、アオイー! 討伐おめでとうッ!?」

 

 

 メリルの声にミドリが振り返った瞬間、メリルは固まった。そして、

 

 

「ご、ごめんなさい何をしてしまっか分からないですけど、謝るので許してくださいっ」

 

 

 メリルは涙目になり許しを乞い始める。

 

 

「……ミドリ、顔洗ってきて」

 

「えっ……? うん?」

 

 

 

 その後は顔を洗ってきて申し訳なさそうなミドリと共に手早く剥ぎ取りを終えた。リオレイアがこの近くにいるのは間違いないからだ。

 橋は渡らずに鉱石を採集しながらベースキャンプに戻り、ガーグァに荷車を引かせ、帰路についた。

 

 

 真っ昼間。空の真ん中に太陽があり、雲も殆どない。だが木がある程度日を遮るので暑くはない。

 帰りの荷車で一つの疑問を訊いた。

 

 

「何でリオレイアはあんなに怒り狂ったの?」

 

「あ、話してませんでしたね」

 

 

 メリルはそう言って今回の依頼で集めた素材の中から

深い緑色の鱗を取り出す。

 

 

「雌火竜の逆鱗。逆鱗を刺激するとモンスターは基本的に怒り狂うんですよね」

 

「えっ」

 

「アオイはこの逆鱗を撃ち抜いたんです」

 

 

 なんという不運だろうか。

 

 

「でもこの逆鱗と私が集めた端材を使えば武器一つくらいなら出来るかもしれませんね」

 

「誰のを作るの?」

 

 

 ミドリは訊かなくても分かっているといった表情で言った。

 

 

「勿論、アオイの武器です」

 

「だよね!」

 

「えっ」

 

 

 何故? ミドリのじゃないの?

 

 

「アオイは武器をほとんど強化してませんし?」

 

「ハンターライフルだっけ。装填数結構少ないんでしょ?」

 

「でも、愛着が」

 

「ハンターライフルの部品を再利用してもらえばいいじゃないですか。それに」

 

 

 メリルの言葉は急に小さくなり消えてしまった。

 

 

「メリルー? 急にどうしたの?」

 

「な、なんでもないですっ」

 

 

 ミドリには聞こえなかったようだ。だが確かにこう言った「早く背中を預けさせて下さい。期待しているんです」と。

 

 

「ありがとう。期待に応えれるよう頑張るよ」

 

「アオ、メリル? 私に何か内緒事? 教えてよっ」

 

 

 微妙な表情で誤魔化す。メリルはそっぽを向いている。

 

 村に戻るまでミドリはしつこく問いただしてきたがひたすら誤魔化し続けた。

 村に戻るとミドリは駆け足で討伐の報告に行った。寂しげな表情で。 

 

 

「悪いことしちゃいましたね」

 

「え? そう、なのか?」

 

 

 メリルはおもむろに数歩進み、こちらを向いて思わず惹き付けられるような笑顔で

 

 

「私もアオイのことを守りますからね。本気で期待しているんですよ?」

 

 

 と、言ってミドリを追いかけた。

 いつになればメリルに背中を任せてもらえるのだろうか。そう思いながらメリルに続いた。

 

 

 


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