モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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十四話 刺激的

 

 

 

「え……? は……? 温泉?」

 

 

 なんの脈絡もなく、前触れもなく、メリルは温泉があると言った。

 

 

「そこで話をしましょう」

 

 

 ミドリに向けたものだろう。というかなんで三人で入ることが前提になっているのだろうか。

 

 

「この近くにあるユクモ村には、体力を一時的に高めてくれる温泉があるんですよ。それがとても気持ち良くてですね」

 

 

 山を一つ挟んだ程度の距離の所にそんな凄い効能がある温泉があるのか。……ルルド村で湧き出ないかな。

 

 

「では、ついてきてください」

 

 

 そう言ってメリルはひょいひょいっといったかんじで崖を下って行く。ミドリも同じ……とはいかないが、それでもだいぶ早く崖を降りていく。

 それに続いて降りるが二人のようにはいけない。慎重に降りる。

 

 

 

 

「「遅い」」

 

「はぁはぁ……ふたりが、はや、すぎるんだよ!」

 

 

 疲れた。息もきれている。二人の倍近い時間がかかった。

 

 

「……温泉はあっちの方向です」

 

 

 ちょっと不機嫌気味なメリルに案内される。ごめんなさい。

 メリルに合わせて早足で歩いていくと途中で霧が見えはじめ、更に進むと霧から心地良い温かさ感じられるようになり、そして

 

 

「広い……!」

 

 

 広い温泉があった。透明度がとても高く、綺麗ということで有名になりつつあるルルド村の水と比べても遜色ない。

 手で汲んでみると適度に熱かった。家の風呂より気持ち熱いくらいだろうか。

 

 

「さ、さっさと防具を脱ぎましょう」

 

 

 メリルはそう言い、防具を脱ぎ始めた。その光景に思わず体ごと目をそらす。

 

 

「防具しか脱ぎませんよ?」

 

 

 メリルはさも当たり前かのように言うが、訓練所ですら防具の着用は男女分けられていた。

 

 

「ミドリも頬をあかくしてないで、防具を脱いでください。アオイもですよ?」

 

「はい……」

 

 

 観念してさっさと防具を脱ぎ後ろを向く。二人は既に防具を脱ぎ終えていた。

 メリルは胸に白っぽい大きめの布を巻き、小さめの赤いジャケットを羽織った感じ。下は太ももを大胆に露出できる程度に短い赤色の短パン?  

 ミドリは胸元が広めに空いていて腰周りは黒色のコルセットを着けている。赤色の紐で靴紐みたいに結い上げている。下はメリルのズボンと同じくらい短いスカート。胸の部分は白色、それ以外は黒を基調としたデザイン。

 インナーって男女両方似たようなデザインなんだな。

 

 

 メリルが一足先に温泉に入った。そのまま進み、適度な深さの所で座り、肩まで浸かるとふぅ……とため息ををつく。

 

 

「かっポーン……と」

 

 

 メリルが唐突に何か呟いた。なんとなくしっくりときた。

 足を湯につけると手で汲んだときと比べて熱くて一瞬仰け反るが、熱さを我慢して足を入れ、そのままゆるりと肩まで浸かる。

 

 いい湯だな。

 いい湯ですね。

 ほんといい湯。

 

 声も交わさず、視線も合ってないがなんとなくそんな会話をした気分になる。

 

 

 

「えっと……そうだ、話……」

 

「……え」

 

 

 メリルが独り言のように呟くので反応が遅れた。ミドリの表情も一拍おいて引き締まる

 

 

「ミドリ、さっきはごめんなさい」

 

「え?」

 

「私がしっかりしていれば、こんなことにならなかったのに、責任をなすりつけるようなことして……ごめんなさい」

 

「私も約束破ってごめんなさい……」

 

 

 ……

 

 

 何か言うべきなのだろうか。二人はうつむき、言葉では謝りきれませんみたいな表情をしている。

 

 

「えっと、ミドリの狩技はどうなるの?」

 

「……《獣宿し・餓狼》に限れば一生使わせる予定はないです」

 

 

 選ぶ話題を間違えた。むしろ地雷だった気がする。ミドリの表情も更に暗くなった。それに比例してここな雰囲気も重くなった。しかしメリルは、でも、と言い

 

 

「新しいのを教えます。むしろこちらの方が適切かもしれません」

 

「すっごく気になる! どんなの!」

 

 

 やけに食いついたな。地雷ではなかったようだ。さっきまでの空気どうした。

 

 

「アオイにも新しい狩技、教えますよ」

 

「凄く気になる! 早く教えて!」

 

 

 思考と台詞がほぼ同時だった。狩技? 統一性がないから色々と想像が広がる。ミドリと二人で詰め寄るとメリルは苦笑いをして

 

 

「まずはクルペッコです。明日、がんばりましょー」

 

「「おー」」

 

 

 温泉でゆったりしているせいか、気の抜けた声での宣誓。それを言ってから心地良い静寂が日が傾くまで続いた。だが流石にのぼせてきたため、温泉からあがった。

 

 

「はふぅ……」

 

「あぅー……」

 

 

 恥ずかしくて言おうとは思わないが、ミドリは客観的に見ても結構可愛い部類に入る。そしてメリルは可愛いとは違い、綺麗というか美人という感じ。

 その二人が艶やかな髪で、とろんとした表情で、頬を上気させて、色っぽい声を出した。

 

 

「先に戻って料理の準備してくるッ」

 

 

 このままここにいたら何かヤバい気がする。理性とか。道を踏み外す前に逃げ出すのは当然の選択だと思う。まぁ二人に力で劣るだろうから物理的に道を踏み外すのは不可能だが。

 

 

 

 

 崖を登っている途中、倍以上のスピードで二人が登っていった。そして手早く料理を作ったようで、いい香りまでする。

 

 

「情けないな……」

 

 

 誰に言うでもなく、思ったことを吐き出す。何故、ここまで非力なのだろうか。

 日が傾き夕焼けが見えてからはあっという間に空の色が変わる。ついさっきまで明るかったのに、今は空が赤紫色になり本格的に夜を迎えそうになっている。

 この崖高すぎる……やっとの思いでキャンプに戻れた。下で洗ってきたのにも関わらずもう防具は土で汚れてしまっている。

 

 

「アオー、料理作ったよー」

 

 

 さっきまでの色気はどこへやら。いつもの調子に戻ったミドリは焼き肉セットを使った簡易的な調理台の鍋を指指し言った。いつの間に用意したのかお椀が……二つ?

 

 

「お椀足りないけど?」

 

「私、今はお腹空いてなくて。後で自分で作って食べるので気にしないでください」

 

 

 ミドリはそれを特に気にせずよそい、料理を出した。

 

 

「こんがり肉と野菜を煮込んだスープ。私、料理作れるようになったんだよっ!」

 

「そうなんだ」

 

 

 小さいころはミドリが料理が作れなかったので、基本的に押し付けられていた。たまにル……村長に頼んだが。

 結構美味しそうだ。トマトベースなのか食欲をそそる赤色のスープに程よくやわらかくなっている野菜。スープに旨味を加えているであろうこんがり肉。

 

 

「さ、早く食べてみて」

 

 

 ミドリが目を輝かせ、急かしてくるる。言われなくても、今すぐ食べたい。

 

 

「いただきます」

 

 

 早速、野菜を一口とり、頬張る。メリルならたとえお腹の調子が悪かったとしてもミドリの手料理なら飛び付きそうだけどな、とか思いながら。

 トマトベースだと思っていたがトマトの味はしない。だが野菜の甘味や肉の旨味が口の中にひろが……!?

――その瞬間、口の中が燃えた。厳密には燃えたかのような刺激が襲いかかった。

 辛い。痛みしか感じられない暴力的な味。

 汗が頬を伝う。

 正面には体を乗り出して不安げに味の感想を伺うミドリ。

 なんとか飲み込む。同時、食べ物が喉を焼いた。

 

 

「どう……? 美味しい……?」

 

 

 今にも消えてしまいそうな声。潤む瞳。

 

 

「……おい、しい、よ」

 

 

 辛すぎて体がうけつけないなんてとても言えなかった。

 ミドリの顔は光が差したかのように明るくなり、とても嬉しそうだ。

 

 

「泣くほどおいしいの?」

 

 

 余りの辛さに涙がこぼれていたようだ。全神経が口から喉にかけてに集中しているからか全く気付かなかった。

 

 

「強いて、言うなら、もう少し、辛くない方がいいかな……」

 

 

 念のためささやかな批判を添えておく。少しずつ改善してもらいたい。

 

 

「ちょうどいい辛さだと思うけどなー……」

 

 

 ミドリは涼しい顔をしてスープを飲み、野菜やこんがり肉を食べていく。

 料理を食べなかったメリルを見ると大変そうですねー、と棒読みで言いたげな表情だった。こいつ……

 

 

「アオ、もう食べないの?」

 

「え、あ」

 

「……やっぱりあんまり美味しくなかった?」

 

「そ、そんなことないよ、美味しいよ」

 

 

 ちょっと早口気味だったが、納得はしてもらえたようだ。流石に一口しか食べないのはあれなのでもう一口。意を決して。

 

 

「はふっ……ッ……!」

 

 

 辛い。卒倒しそう。

 

 一口食べる度に味覚が麻痺し、辛い以外の味が殺される。そして飲み込む度に喉が焼けたかのような錯覚に陥る。やっとの思いで食べ終わると何も言わずにメリルが水筒を渡してくれた。栓を開け、一気に流し込む。

 

 

「……ぷはっ」

 

 

 口から喉まで火照り、悲鳴をあげているところを水が一気に冷やし、痛みを緩和していく。癒しの水、とでも言おうか。栓を詰め直してメリルに返す。

 

 

「ルルド村の水です。体を癒す効果があるってこにルナさんが言ってました」

 

「へぇ」

 

「私も飲んでいい?」

 

「どうぞ」

 

 

 メリルがそう言うとミドリにそのまま流れるように水筒を渡した。

 ミドリは栓を摘まむと一瞬固まり、こっちをチラッと見てから栓を抜いて水を飲んだ。

 

 

「冷えてて美味しいね」

 

 

 そうなんとなくぶっきらぼうに言ってメリルに水筒を押し付けるように返すとミドリはすぐに後ろを向いて

 

 

「先に寝るね」

 

 

 と言い早足でベッドに向かっていった。

 ミドリがテントを手早く建て、中に入ったところで

 

 

「メリルは、知ってたの?」

 

 

 ジト目でメリルを見る。メリルは咄嗟に視線を反らした。

 

 

「私も一回ありましたし?」 

 

 

 開き直った。

 尋ねてみれば、ミドリの手料理に喜び、サンドイッチを勢いよく頬張り、昇天するかと思ったと言う。

 

 

「ミドリには料理を作らせないようにしよう」

 

「私も手伝います」

 

 

 それ以上は何も言わず、同時に右手を出し、かたい握手を交わした。

 その変な雰囲気のまま二人でテントに入ると

 

 

「狭くない?」

 

 

 ミドリがベッドメイキングを丁度終えたところだった。綺麗に整っているが、テントが小さく、ベッドの大部分が外にはみ出ている。

 

 

「中に三人か……」

 

「ミドリは私の膝の上で眠ってもいいんですよ」

 

「アオ、どうする?」

 

 

 ミドリに無視されたメリルはひきつった笑みのまま涙を流し始めた。この際、もう気にしない。

 ……どうしようか。この大きさに三人だとかなり狭くなりそうだ。

 

 

「……あ、アオは真ん中ね。両端は私とメリルで。」 

 

「え」

 

 

 おそらくミドリはメリルと少し距離を起きたいのだろう。……自らの体を守るために

 

 

「私、もう眠いや」

 

 

 ミドリはなんの躊躇もせずに淡々と事務的に防具を脱ぎ始めた。こちらも正直、全く動じなかった。慣れって怖い。

 

 

「メリルが変なことしようとしてたら起こしてね」

 

 

 ミドリはそれだけ言って横たわり外側を向いて眠った。

 

 

「お休みなさいミドリ、アオイ」

 

 

 いつの間にか防具を脱いだメリルも外側を向いて眠り始めた。

 

 

「……お休み」

 

 

 両側に二人の少女。テントを見上げたのを最後に目を瞑った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……眠れない。

 

 

 

 


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