モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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十二話 嵐舞

 

 

 

 

「今の咆哮……恐らく、リオレイアが来ますッ」

 

 リオレイアが来る。ハンターになってまだ半年も経ってない新米にとっては死を体現したような存在。

 

 

「……アオイ、あれ」

 

 

 ミドリは震えた声を発しながら、空を指差した。

 空は澄んでいて普段は霞んで見えないような山まで鮮明に見えた。その中に緑色の影。影はこちらに近づくにつれ輪郭がはっきりとし、気品が増していく。

――リオレイア

 空の王者リオレウスと番いを成す陸の女王リオレイア。

 しなやかそうな体を強固な甲殻が包み、可動部はこれまた堅そうな、鱗が覆っている。所々に鋭利そうな針が群集している。そして特に印象に残るのはまるで森林のような緑色、飛竜種である証拠とも言える巨大な翼。一挙一動が不安を煽り、恐怖を植え付ける。

 リオレイアは着地するなり、こちらを睨んだ。思わずすくみあがりそうになるが堪え、身構える。

 リオレイアは体を起こしながら大きく息を吸い

 

 

「……ギャオオオオオッッ!」

 

 

 クルペッコの鳴き真似とは比べ物にならないほどの咆哮。あまりの大音量に、耳を塞いでしまい、動けない。

 リオレイアが地面を蹴った。今までに狩猟したモンスターの突進の中で、恐らくもっとも凶悪で速い突進。

 大きく動いて回避する。咄嗟に後ろを向くとリオレイアがピタッと止まり、もう一度こちらに向いたのが見えた。あの大質量がピタッと止まった。それだけで脚力の凄まじさが伺える。

 

 

「せあああぁッ」

 

 

 メリルがリオレイアに負けないほどの掛け声をだし、リオレイアに斬りかかる。脚に剣が当たり炎を巻き上げながら鱗を斬り飛ばす。そのまま連撃に繋げる。剣を振るう度、炎が舞う。それを煩わしく思ったのかリオレイアがメリルの方を向いた。

 ミドリと一瞬目を合わせ、援護のためリオレイアを狙い、撃つ。だが、弾丸は呆気なく弾かれた。

 続けてミドリもリオレイアの後ろから脚を斬りつけるが脚に剣が当たった瞬間、ミドリの表情が苦痛に歪む。

 こちらの攻撃は全く意に介されず、リオレイアはメリルに噛みついた。

 メリルは軽く後ろに下がり難なく避けたが、顔はひきつっていた。そしてリオレイアの攻撃を巧みに避けながら言った。

 

 

「私が出来るだけ気を引くので余裕をもって攻撃して下さい。隙をつくらせた後、逃げましょう」

 

 

 メリルの指示。指示通りリオレイアはメリル以外を一切気に止めない。そのことに緊張が僅かにほぐれ、視野が広くなった。

 クルペッコは知らない内に逃げだしたようだ。

 ミドリは抜刀して機会を伺っている。

 リオレイアがまたメリルに噛みついた。そのタイミングに合わせて狙い撃つ。弾丸は尻尾の裏に当たった。

――パキッ

 聞きなれない音が聞こえた。尻尾から何かが落ちた。鱗だろうか。

 

 

「アオイッ今すぐ逃げなさいッ」

 

 

 急にとり乱してどうしたのだろうか。メリルは必死の形相で急かしてくる。

 急かされ、武器を背負っている途中、リオレイアがゆっくりと振り向いた。口から火が出ており、目はこちらを見据えている。

 そしてリオレイアは頭を持ち上げながら息を大きく吸い、

 

 

「ギャオオオオオッッ!」

 

 

 さっき聞いた咆哮より幾分か迫力を増した咆哮。口から炎が漏れだしている。リオレイアは咆哮をやめると、地面を蹴り突進してきた。

 体を投げ出すようにして、横に飛び込み突進を避ける。体を起こすと、通り過ぎていったリオレイアは止まり、またこちらを向いた。

 顔を上げ、また息を吸う。――ブレスがくる。瞬時に判断し無理矢理もう一度横に跳ぶ。直後、高熱の炎の塊が通っていった。リオレイアは続けてこちらから見て左側にブレスを吐く。水面に着弾したにも関わらず、熱によって回りの水を全て蒸発させたのか着弾地点が燃え始めた。そして、さらに続けて三発目。こちらを向いてリオレイアはブレスを吐き出した。

 

 

「アオイッ」

 

「アオッ」

 

 

 同時に二人の声が聞こえる。

 それに応えるように体を捻り、無理矢理横に転がり、直撃は避けるが、すぐそこにブレスが着弾した。熱に焼かれ、吹き飛ばされる。体が浮き、地面にたたきつけられ何回か転がる。

 体が痛みで全然動かない。頭を打ったのか意識も途切れ途切れな気がする。目だけを動かし防具を見ると所々溶けていた。

 すぐさまメリルが駆け寄ってきた。ミドリは

 

 

「許さない」

 

 

 そう言い、強走薬の容器を投げ捨て、リオレイアに歩みを進めながら双剣を抜いた。赤いオーラがミドリを包み込む。その目には殺意が灯っており、リオレイアは動かずミドリを見据えている。

 

 

「ミドリッ狩技を使ってはいけませんッ」

 

 

 メリルの言葉に返事はなかった。ミドリはある程度距離を詰めると両手の剣を前でクロスさせた。黒色のもやのようなものがミドリを包んでいく。全身にもやがまとわりつくと同時、剣を振った。真っ黒で鬼人化とは違った禍々しいオーラが一層強くなった。

 ゆっくりと一歩目を踏み出し、二歩目が地面を蹴った瞬間、ミドリが消えた。そう錯覚させるほど速く走りだした。人間離れしたスピードでリオレイアの後ろまで駆け抜ける。

 直後、鱗や甲殻の破片らしきものがリオレイアから零れる。すれ違いざまに斬り刻んだらしい

 リオレイアはミドリが最も危険だと判断したのか、ミドリの方を向き、そのまま噛みつこうとした。ミドリは剣でリオレイアのこめかみを斬りつけながら自分の体をスライドさせることで避け、そのままリオレイアの周りを舞うように、一方的に、斬り続ける。

 刃は周囲のすすきごとリオレイアを刻み、破片が落葉のように風に流されながら落ちていく。

 ミドリがリオレイアの股下に潜り込んだ瞬間、リオレイアが脚に力をこめ、いつの間にか近づいてきていたメリルが叫んだ。

 

 

「ミドリッ攻撃を止めて逃げなさいッ」

 

 

 幸い、今回は声が届いたのかミドリは前転で股下から抜け出す。

 その直後、丸太のように太い刺々しい尻尾がさっきまでミドリがいた場所を抉りとった。リオレイアの巨体が縦に回った。

 ミドリはそれを意にも介さず、下がった尻尾を踏みつけ、跳び、背中を斬った。リオレイアの背中に生えている針らしきものが斬り落とされる。

 

 

「グオオオッ!?」

 

 

 リオレイアは驚いたのか声を上げ、バランスを崩し地面に落ちた。

 リオレイアは体を倒し、もがき始めた。ミドリはその

 

 

「うわっ!?」

 

 

 メリルに無理矢理口のなかに液体を流し込まれた。回復薬特有の苦い味と、ハチミツの甘くてほろ苦い味が口の中に広がる。

 

 

「私がリオレイアを引き付けておくので、アオイはミドリを連れてベースキャンプに逃げてください」

 

「わ、わかった」

 

 

 メリルは青色の液体が入ったびんをこちらに投げ渡し、笛を出した。

――角笛。一度吹くだけでその音色を聞いたありとあらゆるモンスターが嫌悪感を覚え、殺意をみなぎらせこちらに向かって来るという危険な笛。

 それをメリルは躊躇せずに吹いた。辺りにやや高めのよく響く音が広がる。

 リオレイアが立ち上がった。鱗や甲殻に傷がついているが、どれも浅い。しかし傷の数が尋常ではなかった。

 リオレイアは体じゅうから鱗や甲殻の破片を散らしながらメリルの方を向いた。

 

 

「早くッミドリを連れていきなさいッ」

 

 

 メリルの表情は何故か焦り一色に染まっていた。言葉に促されるままミドリに向かって走る。

――ミドリは、地面に倒れていた。

 

 

「ミドリッ」

 

 

 駆け寄って、抱き起こす。膝裏と背中に手を回し持ち上げ、ベースキャンプに走る。ミドリは目を閉じ、肩で息をしていて大粒の汗が額にいくつも浮かんでいる。とても苦しそうだ。

 足に一層の力をこめ、ミドリを抱えて走る。

後ろではメリルがリオレイア相手に単機で奮闘しているのだろうか、何回も、何回も、破壊音が聞こえた。

 

 

 




 更新遅くなりました。すいません。

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