モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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最終章
百一話 水火


 

 

 思いっきり息を吸い、海に飛び込む。

 2ヶ月ほどメリルに鍛えられたおかげで、水中でもある程度動けるようにはなった。イキツギ藻を口に含んでおけば5時間くらい潜ってられる。

 それでも海中での戦闘はできるだけ避けるつもりだった。だけど残り時間に余裕があるわけではないから、追うしかない。

 

 直下にガノトトスがいる。鱗や皮、頭部が頭と酷似しているが二足歩行で陸上を歩け、翼のようなヒレと全身の動きを駆使して泳ぐこともできる魚竜。

 陸上で体力をかなり消耗させたはず。あと少しだ。

 水中では攻撃力は落ちるけど、出血が止まりにくい分ダメージが増えるからある意味、陸上とはあまり変わらない。致命傷を与えにいくというよりかは、手数を増やした方が手堅く戦えそうだ。

 ただガノトトスが尻尾を振るだけでも、地上ほど素早く動けないせいでギリギリの回避になってしまう。反射神経だけじゃ限界がある。動きを先読みし続けないといけない。

 口の中のイキツギ藻を強く噛み、多量の酸素を肺に送る。静かで冷たい海の中ではいつもよりもずっと集中できる。ガノトトスの次に取る行動、その行動への複数ある対処法、その対処法の数だけある、ガノトトスが行いうる攻撃。ひたすら読むしかない。僕には才能がないから、ピンチになってしまうと打開するのはかなり厳しい。詰まないように行動を選択し続けるしかない。狩りの才能がなくても、チェスなら得意だから。

 

 高圧の水のブレスが、海底の砂を巻き上げる。水中でも水の噴射による攻撃は陸上と遜色のない威力で放たれる。力こそめちゃくちゃだけど、なんとなくこいつのクセが分かった。背後を取ると振り向きざまにブレスを撃つことが多いし、下にいると一度海中から飛び出して身を翻して急降下で襲いかかってくる。

 水中に来て、こちらの行動が鈍ったのもあるけど、ガノトトスの行動がかなり早くなった。地上ならこちらの方を向いて、位置を確認してから攻撃してきたけど水中に来てからは居場所が常に把握されている気がする。砂煙に隠れても、岩陰に隠れても瞬時に、正確に居場所を見抜かれる。水中だと視力に頼っていないみたいだ。

 視界が悪くなってきた。お互いに見えづらくなる状況なら、体が小さいぶんハンターに分があるけど、相手が目に頼ってない以上これじゃ一方的に不利だ。

 最後に畳みかけるためにとっておいたけど、火炎弾は今使うべきだな。ガノトトスを瀕死まで追い込んで、巣に逃げてもらおう。

 水のブレスが海底のイキツギ藻や薬草ごと砂を巻き上げたせいで動きにくい。体に絡まったりしたら最悪だ。特にイキツギ藻はネンチャク草くらいベタベタしていて、くっつくから特に気をつけないといけない。

 尻尾を叩き込んでくる攻撃は避けても水流に煽られ、引っ張られるし、横に振れば渦潮のような水流に巻き込まれる。それだけならどうにかなっていたのだが、藻が水流に流されて射線に入ってくるせいで攻撃しづらい。銃口にくっつこうものなら、大きな隙を晒すことになる。

 

 海藻の動きに慣れるのは数分で済んだ。ガノトトスの攻撃と同じ方向にしか海藻は動かないし、どんどん遠くへと流されるおかげでさっきと比べると密度も減った。火炎弾での攻撃をやっとはじめられる。

 水中でも、火炎弾は着弾の衝撃で炎が爆ぜる仕組みだから使える。地上よりかは発火時間は短いけど十分なダメージにはなっていそうだ。

 ヒレを狙おうと照準を合わせると、ガノトトスの少し奥に発光しているものがあった。

 

「……なん……ッ⁉︎」

 

 

 不可解な光景に思わず声が出そうになった。海水が口の中が少し入ってきたせいでひどくしょっぱい。

 水中に火の玉があった。見間違いではなく、間違いなく炎が浮かんでいた。はみ出ている部分を見るに、もしかしてイキツギ藻に火炎弾が着弾して、燃えたのか?

 これは利用できるんじゃないか?

 ガノトトスにもイキツギ藻が所々へばりついている。そこを狙って火炎弾を撃つと、イキツギ藻が燃え上がった。絡んでいる藻を狙って次々に射撃する。たちまちガノトトスが光と気泡に包まれ、姿がはっきりと視認できなくなった。暴れていることだけははっきり分かる。行動が予測できない、チャンスではあるが油断すれば一瞬でピンチになりそうだ。

 不意のブレスや突進に警戒しつつ、射撃する。精密には狙えないが、弾自体はかなり多く持ち込んでいるため、気にせず撃つ。

 ガノトトスは水中を縦横無尽に進みながら暴れ回っている。そのおかげで最初は絡まってなかったようなイキツギ藻もどんどん絡まり、燃焼

が収まらない。といってもほんの2,3分が経ったところで、ガノトトスが深く潜り、勢いよく海底に自分の体を擦り付け始めた。

 鱗もろとも、燃えていた藻が剥がれ落ちていく。暗い海底に無数の光が舞い、消えた。ごく短い時間ではあったが、所々皮が破れ、中の組織が剥き出しになっている。弾丸のダメージも合わさり、おそらくもう瀕死まで追い込めている。

 

 移動しているうちにかなり広いが、洞穴というか、窪みのようなところに来てしまった。日の光が差さないために暗く、ガノトトスが砂を舞い上げたせいで秒毎に視認性が悪くなっている。距離を詰めるしかない。

 視界が悪くなったところでやることは変わらない。観察はしにくくなったけど、どんな動きをするのかは何となく把握できている。

 

 

 

 火炎弾が尽き、残っていた貫通弾も使い切り、通常弾を撃ち始めてようやくガノトトスを討伐できた。やっと、という感じ。ガノトトスの危険度は星四相当で、リオレイアと肩を並べる強さらしい。

 素材を剥ぎ、帰路につく。狩りをしているときは感じなかったけど、海底付近はかなり水が冷たい。もし狩りが長引いていたら知らず知らずのうちに体力を奪われて危なかったかもしれない。そういえばイキツギ藻の面白い使い方を見つけられたな。単独かつ水中での狩りは得るものが大きかった。

 メリルはこれを見越してたのか? 一人でガノトトスを狩りに行けと言われた時は驚いたけど、どうにかなった。まぁ古龍を狩ろうとしているんだから、こんなところで手こずっている場合じゃないか。むしろ、時間がかかり過ぎているくらいなのかな。ミドリはもっと短い時間でライゼクスを討伐したわけだし。

 

 思ってたほど疲れてはいない。村まで徒歩で帰らなきゃだから良かった。

 村とこのフィールドは橋で繋がっている。徒歩で行けるような距離しかなくて、安全性を心の中で疑っている。実際のところ、安全に難があるようで村に専属のハンター雇われている。

 歩いていると、突然地面が震えだした。

 

「……またか」

 

 地鳴りだ。最近、ここら近辺で起きている。

 孤島が一気に騒がしくなった。木がざわめくのと共に、至る所からモンスターの鳴き声が聞こえる。

 初期の頃は、ラギアクルスという雷属性を使う海竜種が原因だと考えられていた。それをモガの村専属のハンターが討伐したらしいが、未だに地鳴りは止んでいない。

 それに地鳴りが原因なのか、孤島の生態系に歪みが生じている。本来ならもっと別の場所に生息しているようなモンスターが姿を現すようになった。地鳴りの件もあって、モガの村の住民は外出を控えている。

 

 早足で歩いているうちに、孤島と村を繋ぐ門まで来ることができた。太い丸太が何本も横並びに建てられている。結構頑丈そうで、大型モンスターの突進が来ても、ある程度耐えてくれそうだ。

 そろそろ日が沈むようだ。水平線の上に太陽があって、空がオレンジ色に変わっている。この風景を見るとルルド村を思い出す。あちらも朝焼けや夕焼けが綺麗な村だった。門の側にあるかがり火から棒を一本もらい、松明にする。日が沈めば海上はかなり冷える。3日おきだったとはいえ、2ヶ月も通っていたから流石に分かるようになってきた。

 

 村の入り口にあるかがり火に松明を入れ、更に歩く。村の地面が筏のように浮かんでいて、波で少し揺れる。最初は少し酔って気分が悪くなっていたし、ある程度慣れてくると今度は気が抜け、海に落ちるようになった。今となってはハンモックみたいで寝心地が良いなと思い始めた。人は適応するものだな。

 顔見知りになった人たちに挨拶しつつ、メリルに報告しにいく。

 広場から暖簾をくぐり桟橋を渡って少し歩く。家は村から少し離れた場所にあって、人の声よりも波の音がよく聞こえる。

 

「ただいま」

「おかえりなさい。遅かったですね」

「手厳しいね」

 

 メリルは伏せ目で防具の手入れをしていた。メリルと狩りに出ることは少ないけど、狩りの過程で彼女は意外なくらい防具に傷をつける。直撃こそ避けているけど、どんな攻撃も最小限の動作で躱し、その隙を徹底的に咎める、という戦闘スタイルだからよく観察すると、防具に無数の引っ掻き傷がある。

 

「まぁ及第点といったところでしょう。この短期間にしては水中での狩り、随分上手くなりましたね」

「あれだけ鍛えられたらね。メリルの方はどうなの?」

 

 メリルも修行するとか言ってた気がする。でも水中での戦い方を教えるとかいいながら、目の前でラギアクルスを狩っているところ見せられたから、これ以上どう強くなるのか分からない。

 それでもここに来る以前だと、誰よりもメリルが一番実力が変化していた。ジンオウガを討伐してしばらく経った後に、ようやく元の実力に戻れたとか言ってイビルジョー討伐してるし……。

 

「私はモンスターを狩るついでに、ルルド村の周辺の伝承について調べてますね」

「伝承?」

「ええ。古龍にまつわるお話はたくさんありまして、どんな攻撃をするのか、どんな姿なのかが分かれば参考になるかと」

 

 そういいつつも、メリルの表情は明るくない。

 

「アマツマガツチの伝承、もしかしてクシャルダオラを指しているのかなって思っていたんですけど、どうやら違うみたいですし……」

 

 違う名前で伝わっていたが同一のモンスターだった、なんてことは活動域の広いモンスターならたまに起きることだ。昔からルルド村にいる人でも、アマツマガツチの姿をしっかりと見た人はいない。しっかりと視認できる距離にいた人はみんな殺されているからだ。……ルナも僕を抱えながら風に飛ばされないようにするのに必死で、角があることと、なんだかひらひらしていたくらいしか分からなかったらしいし。……ひらひら?

 

「……あっ」

「どうしましたアオイ?」

 

 

「見たことある」

 

 

 

 

 


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