モンスターに掴まって遺跡平原から森丘までフライトして、5人でモンスターを3体を討伐した。そういった趣旨の説明をして、納得してもらうのが中々大変だった。ついでに、集会所でリオレウスに掴まって飛んだパーティがいるという噂が広まった。
予想外に時間がかかったのもあって、家に帰る頃には日が昇り始めていた。明るくはあったけど、疲れもあってすぐに寝てしまった。
「朝に寝たのに、起きても朝……?」
寝る前に見た太陽より少しだけ昇っていた。疲れはスッキリしているから、どうやら丸一日以上寝たらしい。
「おはよう、アオイ」
「……おはよう、ルナ」
ベッドの横の椅子にルナが座っていた。傍に置かれた本を見るに、1、2時間はここにいたらしい。
「本を読み終えたら起こしてあげようって思っていたけど、大丈夫だったね」
「用事なんてあったかな」
「アオイはやっぱり気付いていないんだね」
何か重要な用事なんてあったっけ……? 考えても思い出せない。頭はスッキリしているはずなんだけどな。
「今日は何があるの?」
「それはね」
ルナはたっぷりもったいぶってから、言った。
「アオイの誕生日だよ」
「……えっ?」
僕とミドリは自分の誕生日を知らない。だいぶ昔にルナに「二人の誕生日は聞きそびれたから知らない」って教えられてからルナの誕生日の日に3人まとめて祝っていた。
ルナは一応、おおよその誕生日を教えてくれてはいた。成長具合から大体のこの辺りだろうって。その日がルナの誕生日とかなり近かったのも、3人まとめて祝う理由になった。
「……なるほど、クレアさんに聞いたんだね」
「そう。自分の誕生日が近づいてることに気づいた時に思いついたんだ」
「それにしても55日か……」
「そうだね、あなたが生まれてからたった55日経った日に古龍に村を滅ぼされて、クレアが行方不明になって、私に引き取られた」
5は不吉な数字だ。初めてハンターになった人たちは5人パーティだったけど、人死にが出てそれ以降でも5人のパーティの異様に生存率は低く、5人でパーティを組むことは禁忌になった。
たぶん人数が多すぎると指示が大変になったり、同士討ちしやすくなったり、モンスターが油断しなくなるとかそう言ったいろんな理由があるんだろうけど、やっぱり5という数字が関わってると気になる。
「……アオイ、もしかして迷信を信じてるの?」
「そんなわけない」
「どうかな、とても真剣な顔してたよ」
ルナはそう言って、軽く握った拳を口元に当てて、考え込むような仕草をして、からかってくる。
「まぁそれはそれとしてね。お誕生日おめでとう」
「ありがとう、ルナ」
〇 〇 〇
「空をすごい速さで飛べるなんて楽しそう」
「スリル満点だよ。そういうの好きなの?」
ルナが狩りの話を聞いてきた。いつもよりもルナは話を楽しそうに聞いている。
「スリルは嫌いじゃないけど、ハンターさんには負けるね」
「それもそっか」
「それで、愛憎劇の真似事終わったあと、ミドリはどうしたの? 途中退場したからって大人しくしている子じゃないでしょ」
「ミドリはね……」
話始めたのと同時に、家の扉が勢いよく開き、目にも留まらぬ速さでメリルが椅子に腰掛けた。
「おはようございます。アオイ……いえアオイ様、どうか話の続きを教えてください」
メリルも加えて、何事もなかったかのように話を続ける。話の節々にメリルがちょっとした情報や経験談を添えてくれて、話している僕まで楽しくなった。
「ミドリはもう、ライゼクスを単独で狩れるほど成長したんですね。可愛くて強くて成長が早いなんて、素晴らしいですよね――
〇 〇 〇
――嗚呼、いますぐにでも抱きしめたい……!」
メリルはいっそ、感心するほどの早口でそう語った。何を言ってたかはいまいち覚えてない。分かることは、メリルが来ている装備を見ると、狩りから帰ってきたばかりなこと。あと狩りの疲れを全く感じさせない話ぶりだったということ。
「メリルは何の用事に行ってたの?」
「マリンと一緒にイビルジョーを狩りに行ってました」
「さらっとすごい事済ませているね?」
「いえいえ、しばらく見ないうちにマリンがとても成長してたので。私は落ち着いて狩りができましたよ」
「それでも十分すごい」
イビルジョーは古龍に匹敵する程強くて、大抵のハンターは抗戦せずに撤退することを推奨される。それをたった二人で……。
メリルはそれでも謙遜しつつ、皮の袋をテーブルの上に置いた。
「それはそれとして、アオイ、誕生日おめでとうございます。良かったらこれをどうぞ」
メリルが皮の袋から取り出したのはお守りだった。見ただけではそれが何か分からなかった。だが、それを手に取ると、瞬く間に力が湧いて
きてそれで気づいた。
「まさか力の爪……⁉︎」
「はい。もしかして守りの爪の方が好みでした?」
「そうじゃなくて……いいの? こんなに高価な物」
「気にしないで下さい。お金なら有り余ってるので」
メリルの懐事情にめまいがしそうになる。力の爪を作るためにはまず力の護符を買わなければならない。その金額は僕が今着ている防具全てを売っても届かないくらい高い。
「ありがとう……いや本当に」
「いえいえ。喜んでもらえて何よりです」
力の爪なんて教官が調合に失敗して力の護符と狂暴竜の鉤爪が燃えないゴミになった話を聞いて以来存在を認識してなかった。実在するし、効果もこんなに高いんだ。これからはボウガンで使う火薬の量を、少し多めにしておかないとね。
「ライゼクスを倒したというミドリはどこに?」
メリルの問いに対して、ルナが答える。
「まだ寝てるよ」
「……そうですか」
メリルは少し困ったような顔をしてから、まあいいです、と話を切った。
「そういえばアオイはアマツマガツチとやらを討伐したいそうですね」
「何で知ってるの?」
「ルナから頼まれましてね。アオイがアマツマガツチを倒す手伝いをしてほしいと」
ルナに視線を向けると、悪びれるわけでもなく、むしろ当然のことをしたまでですとでも言いたげな視線を返された。
「私一人で狩って来いと言わないだけ温情ですよ」
「メリルでも一人じゃ狩れないと思ったから手伝いを頼んだんだよ」
ルナが重ね気味に言った言葉でメリルが諭すような表情で固まった。
「ミドリの両親は名実ともに優れたハンターだったのに、負けた。あのシアンとエーテルがだよ」
「……それもそうでしたね。ではジンオウガの時と同じですね。私一人ではどうやら勝てません。あの頃より随分とアオイも強くなりましたが、それでもまだ足りません」
メリルは廊下の方を向いた。
「ミドリも私が思っているよりずっと早く成長しているようで驚きました。ただ古龍と相まみえるにはちょっと経験不足かもしれません」
「気づいてたなら早くいってよ」
死角になっているところからミドリが出てきた。いつからそこにいたんだろ。
「おはよう。アオイ、誕生日おめでとう」
「ずいぶん前からそこにいたんだね。ありがとう」
「私が知らないことばかり話しているから出るに出られなかった」
ミドリは足音大きめで歩き、ルナに渡された水を一気に呷った。
「後で私が話すから」
「……分かった」
「……さて。つまるところ私含めて、修行が必要なわけで」
メリルは手を合わせて、少し目を見開いた。
「その修行なんですけど良いアイデアが思い浮かびました」
「モガの村に行きましょう」