モンスターハンター 光の狩人 [完結]   作:抹茶だった

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十話 仲間のため

 

 

 

 

「はい。これで依頼達成となります」

 

 

 明るい茶色の髪を三つ編みにしている女性……ティラさんはロアルドロスのトカサを受けとり、そう言った。

 依頼を達成すると報酬金がもらえ、その上契約金が二倍になって返ってくる。

 今回は村長の依頼だったので報酬金はほとんど貰っていない。

 ティラさんは依頼書に判子を押した。

 

 

「アオイ、ミドリ、今から反省会をしますよ」

 

「今からやるの?」

 

 

 メリルの突然の言葉に、ミドリは面倒くさそうに答えた。明日じゃ駄目なのだろうか。

 

 

「明日になると今日の狩りを私が忘れてしまいます」

 

「え……はい」

 

 

 近くの水路に座り、反省会が始まった。

 

 

「まず、ミドリ?」

 

「えっと?」

 

「アオイが吹き飛ばされたからって、ロアルドロスに突撃するのは駄目ですよ」

 

「ごめんなさい……」

 

 

 反省会も結構真剣にやるんだなこの人。やや上の空になっていると、

 

 

「それからアオイ?」

 

「あ、はい」

 

 

 不意に呼ばれた為、少し反応が遅れる。ミドリの反省点はもうないのか。

 

 

「攻撃に対する反応は初見にしては良かったと思います」

 

「そうですか」

 

 

 反省点を振り返るわけじゃないのだろうか。今日の狩りを思い出してみる。

 ……あ。

 

 

「でも手数が少な過ぎです。モンスターが他に気をとられているのならもっと撃ってもいいんですよ?」

 

「ごめんなさい……」

 

「まぁ、ハンターは臆病な位が丁度いいので、焦る必要はないですよ」

 

 

 メリルにだけは言われたくない。あんな狩猟をしている人に臆病の良さを説かれたくない。

 

 

「反省は終わりです。さぁ特訓です」

 

「えっ」

 

 

 もう終わりなのか。明日でも良かったんじゃ。それより特訓は何をするんだろうか。ミドリなら何か知っているはず、と思い見てみる。

 

 

「……」

 

 

 青冷めた顔で震えている。暗くなった目でこっちを見てくる。特訓はとても辛いようだ。

 

 

「まず、アオイには特殊な弾丸を撃てるようになってもらいます」

 

「特殊な弾丸?」

 

 

 特殊な弾丸は確かに色々あるが、練習が必要な弾丸というのはほとんどない。拡散弾は雑に撃つと反動で武器が吹き飛ぶが、かなり練習したためもう吹き飛ばすことはない。

 

 

「ミドリちゃんには、ちょっと危ない技を教えます」

 

「危ない技……?」

 

「アオイに練習してもらうものもミドリちゃんに練習してもらうものも、一歩間違えたら死ぬので気を付けて下さいね!」

 

 

 ミドリがほらやっぱり、とでも言いそうな顔でこちらを見た。とんでもないことをやらされそうだ。

 

 

「まずはアオイです。ライトボウガンをとってきて下さい」

 

「はい」

 

 

 家に戻り、ハンターライフルを持ち、メリルの元に戻る。そこにはミドリの姿はなかった。

 

 

「ミドリは?」

 

「ミドリには明日練習してもらうので先に休んでもらいました」

 

 

 確かにミドリの方が今日の狩りで動いていた。疲れがたまって当然だろう。

 

 

「アオイ、今日攻撃された部分痛んだりしませんか?」

 

「処置したし、痛みもないから大丈夫」

 

「では、村の一番上の辺りに行きましょう」

 

「はい」

 

 

 ルルド村は山頂の方に行くにつれ、民家や畑の密度が下がる。もっとも山頂に近いのは村長の家でその辺りから水路は複数に分裂していく。村の一番上はそれなりに広く、崖の上から滝が流れている。

 

 

「では、それをちょっと貸して下さい」

 

「はい」

 

 

 メリルはハンターライフルを受けとると、見慣れない弾丸を装填した。そして崖に向かって引き金を引いた。

 一発一発の射撃間隔がとても短く、十五発もの弾丸が崖に突き刺さった。

 ライトボウガンには火力を手数で補うため、速射という機能がある。一発の弾丸を複数回撃つことができ、一発一発の威力は更に下がるが、手数がとても多くなる。

 しかし、ハンターライフルには速射の機能はなく、その上こんなにも沢山の弾丸を十五発も撃つというのは聞いたことがない。

 

 

「……今の何ですか?」

 

「ラピッドヘブンと呼ばれています。一部のハンターの間で広まっています」

 

「訓練所では習わなかったけど……」

 

「緊張感や精神力、勇気みたいな実際に狩りをしてみないと得られないものを糧にして行うものが多い上、余りに危険なものが多いので習わないのかと」

 

「へぇ……」

 

「では早速、撃ってみましょう」

 

「はい」

 

 

 特殊な形状の弾丸を装填し、標準を崖に向ける。引き金を引こうとするとした所で

 

 

「しゃがみ撃ちの時の姿勢って習いました?」

 

「習いました」

 

 

 訓練所に入った直後はヘビィボウガンに憧れていたため、特に勉強したため、しっかりと覚えている。

 

 

「普通に撃てば反動で倒れこむことがあるので、しゃがんで撃って下さい」

 

 

 促され、しゃがむ。改めて崖に標準を向ける。そして、撃つ。

 撃ち始めた瞬間、反動でハンターライフルが下がる。その衝撃を吸収し、元の位置に戻そうとしたところで、次の弾丸が放たれる。

 それが繰り返され、ハンターライフルが腕からすり抜けそうになった所で、メリルが覆い被さるようにハンターライフルを持った。反動の吸収、位置の修正が楽になり、そのまま三発程度で撃ち終わった。

 

 

「スカーレットーそこで何やってい……」

 

 

 村長の声。銃声に驚いて来てしまったようだ。

 

 

「……あ、え……と、」

 

 

 村長が急に声が詰まる。何故だろうか。思考を巡らせる。

 あ、メリルの今の状態、知らな

 

 

「人生、色々経験して見るものだよ」

 

 

 村長はいい笑顔で、誤解したまま去っていった。

 メリルは特に表情を変えずに、結果的に首に回すことになった腕を解き、言った。

 

 

「反動はアオイが思っているより小さいので、吸収せずに相殺しても問題ないです。後、銃身が冷めるまで今の弾丸は撃てないので気を付けてください」

 

「あ、はい」

 

 

 メリルは呆れ気味な表情で

 

 

「……で、撃ってみた感想は?」

 

 

 と。反動で銃身が上がりそうになる度に、腕から離れた自分の武器に撃たれるというビジョンが浮かび、恐怖を覚える。しかし、間違いなく強力な弾丸。モノにしれば火力は大きくあがるだろう

 

 

「結構恐かったですけど、もっと練習したいとも思いました」

 

「へぇ……」

 

 

 メリルは目を細めて微笑んだ。

 

 

 練習は日が沈むまで続いた。夕飯を食べるため酒場に行く途中で

 

 

「そうだ、私今日からアオイとミドリの使っている家で寝泊まりすることになりました」

 

「えっ」

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく」

 

 

 ひとつ屋根の下で女の子二人と過ごすのは果たしてどうなのだろうか。でもメリルはミドリを溺愛しているからあまり問題はないはず。

 メリルはそういえばと口を開き、

 

 

「明日、ミドリにある技術を練習してもらうんですが」

 

「はい」

 

「ミドリはアオイに全幅の信頼を寄せています。だからアオイもミドリを支えてあげて下さい」

 

「えっ」

 

「私もアオイのことを信頼していますし、期待もしています。だからお願いします」

 

 

 風が、音をたてて吹きわたった。

 メリルの顔は真剣そのものだが、どこか寂しげでもあった。

 

 

「勿論。ミドリをちゃんと支えるし、守る。ただ」

 

「ただ?」

 

「メリルも大切な仲間。今はまだ守られる立場だけど、きっと守れるようになるから、よろしく」

 

 

 メリルはため息をついた後、楽しそうな笑顔になり、手を差し出してきた。その手を掴み、握手する。

 今はまだメリルにも、ミドリにも守られるだけにすぎないだろう。ただいつか必ず背中を預けてもらえる程には強くなってみせる。

 握手を解いた後、無言で首から下げた狗竜の牙を握り締めた。

 


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