IS学園の異端児   作:生存者

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第91話

 

「よし、中々出来が良くなってる。課題も無駄にはならなかったのは私としても嬉しい。あれだけやっても下がるなら手のつけようがなかったからな」

 

「いえ、こちらこそ。こんな馬鹿に付き合わせてしまって」

 

「自分で言うか。まあ、途中で投げ出さないで頑張るところは褒めておくが。最初からこのくらいやる気を出してくれると助かる。あと、無理だろうけど復習と予習をきっちりやる事、以上。今日は終わりだ」

 

修学旅行からいつもの日常に戻ってから数日。相変わらず補習の毎日を過ごしている。辞書同等の厚みのある課題をこなしたかいはあり楽になった。二度とやりたくないと申し出たが、テストの出来次第で考えると言われてしまい課題と補習が無くなるのは諦めた。

 

 

「さぁて行くか。久しぶりの模擬戦」

 

「お、今回の相手は誰かな?会長かダリルかフォルテ、それか別の上級生か?」

 

「フォルテさんと楯無さんですよ。修学旅行から帰ってきてすぐに申し込まれて」

 

「はぁ、忘れているかもしれないが。気楽に言うが仮にも2人とも国を代表する選手だ。そろそろ本気でかからないと手に負えない相手になるかもしれないぞ。君達が上級生を煽ったお陰で以前よりもISの操作技術は上がってるが、それはフォルテと楯無も同じだ。今は本気で倒す為に色々準備らしぞ」

 

「・・・あーどうりで最近帰りが遅い訳だ。それに生き生きしてるような顔だったのも、いたずらで遊ばれる事が減ったのもそのせいか」

 

「中々忙しい日々だな」

 

「このくらいならもう慣れてます」

 

今日の予定の残りは模擬戦一試合。あの2人相手に一度も油断も苦戦もした事はないが、あれだけ言うなら今回は苦戦するかもしれない。それなりに数をこなして戦闘は慣れてはいるが操縦技術は負けているし。自分の使えない技術の数々を出されればそれこそ手に負えない。

 

「よし、やってくるか」

 

「どうやら、中々自信があるな。今日負けたら課題追加しても問題なさそうだ」

 

「お願いですから課題の追加は勘弁してください!上条さんも耐えられるものと耐えられないものがあるんです!」

 

「まあ、冗談はこのくらいにして。課題の量はテストの結果次第だ」

 

冗談に聞こえないと愚痴をこぼしたくなる。これ以上言うと余計に増やされかねない。実際に勉強も多少は出来るようになっているから諦めて受け入れるしない。

最初こそ、ただ勝ちにこだわっていた雰囲気だったが。最近は変な寒気を感じるようになり負けたら何をされるかず常に全力で相手するしか無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

対戦相手が急ぎ足でアリーナに向かってくる間、手合わせを終えた楯無とフォルテの2人は最後の調整に入った。仮にも国を背負う2人、一矢報いることも出来ずに負けっぱなしなのは性に合わない。着替えも済み、ピットでいつでも出れる状態になっていた。

 

 

「なあ、調子はどうだ?こっちはある程度ましにはなったけどよ。いざあいつ相手に使うとなると、通用するか分からない」

 

「そこは上手くやるしかないわね。ブリュンヒルデクラスの相手に勝つなら気持ちで負けない事がまず第一。消極的になっていい事は1つもない。あとは最後まで諦めずにやる、くらいかな。その為に色々準備しんでしょ?」

 

「まあな。あとは援護頼んだぞ」

 

「おーい、たっちゃん。もうそろそろ上条君も着替え終わるから準備してね」

 

「もう済んでるわ。じゃあ、あとは好きにやってちょうだい」

 

「任せて!盛大にやってやるわ!これでたっちゃんが勝てばいいネタにもなるし、上条君をいじるネタも出来るからね」

 

校内新聞に載せるネタもなくなり焦っていた部長の黛の目は輝いていた。勝てなくとも、追い詰めるられれば記事に出来るし。それ以外でも何かニュースが見つかるとジャーナリストの勘が言っていた。

 

「さあ、そろそろ後輩に国家代表の本気を見せてあげないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備完了。制服からISスーツに着替えてピットから飛び出る。すでに準備を終えた2人が中央で待ち構えている。

特に呼びかけをしていないにも関わらず多くの生徒が観客席に着いていた。本日は土曜日。午前のみの授業で残りは部活動に精を出すか、自分の趣味に没頭している者が多い。しかし、久しぶりに模擬戦に出るとの噂が流れていたのか騒がしくなっていた。

 

 

「相変わらず人気者ね。補習担当の先生も来てるわ」

 

「ここで負けると補習の時間も量も増やされそうなので負けるつもりはありませんよ」

 

「負けたって補習の量は変わらないだろ。それにしても久しぶりの試合で大丈夫か?」

 

「ええ、全く問題ありません」

 

『双方位置について下さい』

 

挨拶もほどほどにアナウンスにより定位置まで離れていく。この時には頭に補習の内容などすでに消え、どう落とすかイメージしていた。何度も戦っているお陰で手の内は分かっているが、それは相手も同じ事。それでもまだ、手の内がバレいない事が多い上条が有利なのは変わらない。

問題は今回の相手はまだ対戦経験のないフォルテと楯無のペアである事。ダリルとフォルテのペアは何度も経験した。手合わせした他の上級生に比べても1番手を焼いたのももそれは単なる技術のみ。楯無の場合は技術に加えて攻防の手段も複数備えている。

 

「あとは、どんな特訓してたのかだよな」

 

ビットを2つ持って以上は偏光制御くらいはしてくる。あと不用意に近づけないのが大型の散弾銃だ。例え巻き添えにしても楯無はナノマシンの盾で完全防がくらいの耐久力はあるだろう。

 

「となると、使うのはこれか」

 

使うのはIS学園訓練用のIS、打鉄に搭載されたブレード。形状こそ日本刀を真似ているが、量産型で本物の切れ味には遠く及ばない代物。

いつもの規格外の剣やメイスのように片手ではなく。両手でしっかりと握り締める。

楯無さんはいつも通り槍、フォルテさんは同じブレード。どちらを先に落とすかはもう決まった。

 

試合開始の合図が表示され、3秒前まで来ている。

 

「…3・2・1…ッ!」

 

試合開始のアラームと同時に瞬間加速(イグニッション・ブースト)で一気に距離を縮める。上条の黒龍なら、操縦者の負荷を無視した最高速度は訓練用の機体の倍以上は軽く出せる。しかし、最速を出す程の窮地にない為、訓練機の出せる速度まで落としたものだが。最初の場面で相手の不意を突くには十分動きだ。

 

「ッいきなりか!」

 

目の前で刃同士がぶつかり火花が散っている。数十mの間を開始1秒で詰められたが何とか防いだ。何度も相手にしていた経験が学園で最初にこの速さに慣れさせていた。

特訓の成果を披露する機会が早々に来るは予想しても、最初の一手で使う事になるのは想定出来るものではない。すでに上条は次の一撃に入っている。直撃は防いだ代わりにフォルテに次の打ち合いに移る時間はなくなった。

 

 

 

 

 

「クリア・パッション」

 

直後、上条とフォルテを巻き込む爆発が起こった。煙からいち早く飛び出た上条はまともにくらいSE(シールドエネルギー)を3割以上も削られている。まさか味方も巻き込んで使うとは考えてもいなかった。

 

「あんた、味方を巻き込んでまで勝ちたいのか?!」

 

「もちろん、イレギュラーにはこのくらいやらないと対抗出来ないからね」

 

わざと巻き込むことが出来ないように接近したものの。勝ちだけに専した厄介な相手はいない。楯無のいる方向に向きを変えた、まだフォルテが復帰してない事を確認し飛び出す。

 

「ッ!あっぶね」

 

と自ら進もうとした方向をレーザーが通過した。僅かに曲がっていたのも気になっていたが。それよりも、視界の端に入った試合の電光掲示板に映っていた数値が驚愕した。

あれだけの爆発に同じく巻き込まれて一切SE(シールドエネルギー)が減っていないのだ。

 

「よう、どうしたそんな驚いて」

 

「いやいや、同じ爆発食らって無傷なのはおかしいだろ」

 

「そうか?案外目に見えないものが助けてくれたりしてな」

 

フォルテの機体の周りを凝視すると少し歪んでいるようにも見えた。楯無さんが頻繁に使用するナノマシンの盾。攻撃と防御、応用もかなり効く厄介な装備。

 

「水の障壁」

 

1人で同時操作するのではビットを多数使用するのと同じく。情報処理が追いつかず、動きが鈍くなるか最悪頭が焼き切れるてしまう。しかし、それを天才2人でばらばらに使えるならどうだ。

 

「これでも代表候補。一通り装備の適正は持ってる」

 

「ナノマシンに触れる機会なんてまずない・・!」

 

もう1人いる事も忘れかけていたがとっさに振り返りランスを薙ぎ払う。あと少し遅ければ直撃、と言える所で済んだが。真後ろには大型散弾銃を構えたフォルテが待ち構えている。

 

「次はこっちだ」

 

引き金に触れる前に背を向けた状態でスラスターを全力で吹かせてフォルテに激突。衝撃で銃口が少し逸れ体勢も崩れる。

 

「口より先に手を動かせ!」

 

ブレードを手放し振り向きざまに片手でショットガンを弾くと、持ち手抱え込むように腕を巻きつけ脇に引き込み。もう片方の手でフォルテの首元を掴む。その後に行ったのは非常に簡単な事だった。

反撃が来る前に猛スピードで降下し、操縦者を無効化するため地面に叩きつける。

 

 

「・・・えーあれをやり返すの」

 

数秒前まで目の前にいたフォルテは地面に作られたクレーターの中心で倒れている。意識までは途切れいない。ただ、この復帰するまでは猛攻を凌ぐ必要がある。

真下からは手放したブレードを再び掴み取った上条が。

 

「時間稼ぎなら何とかなるかな。さあ、来なさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ数分と経たない空中戦にも関わらず観客は湧き上がった。それは負けけなしの上条に深手を負わせたからでもなく。2人の知らない技術を見られたからでもない。

自分達の頭からは想像もしない手段が次々と出てくるからだ。

 

「あんなやり方があるなんて、やはり戦闘だけなら間違いなくトップの座にいるだけのことはありますわ」

 

「何言ってるのよ。あれくらいならネットで調べればすぐに見つかるのに」

 

「・・・確かに、今なら護身術なんて調べれば山ほどあるだろうが。お前は今すぐ実践であれを出来るか?」

 

「そんなの無理に決まってるでしょ。才能があるわけでも経験もないのに」

 

知識があっても技量が無ければ意味がない。もし、軍隊で訓練漬けのラウラと一般生徒が素手の喧嘩すればまず勝てない。それが知識だけはある生徒でも、ラウラと対等に渡り合える技量だけを持つ生徒でも勝つことは出来ない。

 

「セシリア、お前は馬鹿にするような口で言っているが。狙撃能力だけが頼りのお前はあの程度の技は使えないと大変ではないのか?戦闘しか出来ないと考える前に少しは見て勉強してみろ」

 

「私だって少しは成長してますわ」

 

「少しは、な」

 

 

ラウラが何か言いかけた言葉が一瞬でかき消される。目の前のシールドには壁際まで追い込まれた機体が激突した。倒れていたはずのフォルテと上条の鍔迫り合いで火花が散る。

 

「1人で結構保つじゃねえか」

 

「そう言う約束だ。つーかあんた倒れてなかったのか!?」

 

「あれは結構効いたな、他の奴なら倒れてた。まあ、そんな細かい事は気にするなよ」

 

アリーナの観客席とグラウンドは強力な防護シールドで分けられ安全が確保されている。ISの電子粒子砲、もといレーザーや実弾、爆発も防ぐ。例外として天才博士が手掛けたゴーレムのレーザーやISのフルパワーでの打撃などが存在する。

もし、IS同士の押し合いで支えがわりに使えば、時間はかかるがいずれは壊れるだろう。

 

足元から嫌な音が騒音より明確に聞こえる。メキメキの何かヒビでも入ったような音が

 

 

 

「・・・なんでこんな事をする。楯無さんも見ないし、何かの時間稼ぎか。それよりなんで押し返す力強いんだ。出力を上げても無駄に消費してるだけだぞ」

 

「ああ、楯無なら後ろにいる」

 

一体何のためだ?と思考を巡らせるその時にだった。今までのしかかってきた勢いが一瞬で消える。体が突風に襲われたように飛び出した。ただ目に見える景色だけを言えばありえない光景が映った。自分のブレードと手がフォルテの人体を貫通している。普通考えるならそんな事はありえない。人間の体はそんなにもろくない。そんな事を考えたからだろうか。

すぐ前から迫る眩しい光にも気づかない。

 

「ナイスタイミング♪」

 

前傾姿勢で倒れていた体がレーザーの威力で反対側どころかシールドへと後頭部から激突していた。久しぶりの痛みに顔をしかめる間にも状況は変わり続ける。フォルテと楯無は装備を持ち替え、怯んでいる間に一斉に射撃に移る。対して近接用のブレードしかない上条はただ逃げた。最初の痛手のツケが回っきたのかスラスターの動きも鈍くなりつつあったがそんなものは考える暇のなかった。

 

「まだ終わらないわよ!」

 

機体の周りの湿度が急激に上昇し警告が表示される。瞬時に爆発範囲から逃れるべく瞬間加速(イグニッション・ブースト)に移った。

 

「クリア・パッション」

 

先の爆発には程遠い小さな破裂音が。そして突如、機体の制御が効かなくなり残った勢いのまま地面に何度もぶつかりながら転がって行く。ようやく止まった時には顔に銃口を突きつけられた。起き上がるのは容易に出来そうだったが、機体の方は各部は完全に破損。宙に浮く為のスラスターも完全に停止していた。

 

「・・・っ!スラスターが機能しない?!」

 

「そうだよ。幻に突っ込んできた時に少しだけナノマシンを入れて爆発させた。あとは地上しか動けないお前を追い込めばこっちの勝ちだな」

 

撃たれても構わないと素早く起き上がり、まだ握っていたブレードを振り抜く。しかし、無駄あがきだった。楯無さんと同等の強度で展開された水の障壁に阻まれとっさに距離を開けてしまった。

 

「・・・沈む床」

 

楯無さんの機体の単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)高出力にはのナノマシンによる拘束結界。ラウラのAICも超える拘束力と範囲。本人が意図して解除しない限り試合終了まで、絶対に逃げることは出来ない。そんな罠に自ら入りガトリングも備えた槍を持って入る。

 

「今回は逃がさないわ。展開を解除して生身になった瞬間、即座に爆発させるからね」

 

これまで上条が見た中でも上位に入る程のいい笑顔で槍を構え、少し離れていたフォルテも何かを察したように苦笑いをしていた。

 

 

 

「さあ、これで終わりよ」

 

これを最後に上条の視界が全て閃光に埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 


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