朝の職員室。今日1日の始まりを告げる朝礼が始まる中でじっと紙と見つめ合いながら考えごとにふけっている。
「あの、織斑先生。さっきから見てるその紙は?」
「これか、更識姉の企画に乗った専用機組の名簿だ。もちろん全員参加だ」
ただの企画ではなくアリーナを丸ごと使うので事前に職員全員に知らされていた。
「今までの流れで行くと自然と」
「ああ、上の方は簡単に決まる。相当な番狂わせが無ければな」
教師の中でも上位に食い込む人間はほぼ決まっていた。2、3年専用機の3人か男子2人。それに続くのは更識妹。あとは接戦だろうと言われている。
当然ながら、格付けの試合が行われるとなり。放課後のアリーナに訓練を行う生徒が多くの駆けつけていた。上級生と相手をする人もいれば教師にお願いしてやる人も。
「みなさん、成長が著しいですね」
「成長がない方がおかしい。今更になって焦っている用にも見えるが」
しかしと、続ける。アリーナの使用は事前に申請が必要なのだが、常に予約で数ヶ月先まで埋まっている状況でここ最近専用機組の使用が頻繁になっている。一般の生徒と違い、優先的に使用許可も降りる為に独占状態になっていた。
「このペースでは一般の生徒の時間も取られてしまう。どうしたものか」
「次は珍しく当麻君が長く使いますね」
「・・・1時間もよく取れたな」
男子全員を下の名前で呼び始めた事に少し驚いていたが、それよりも長い使用時間が気になった。長くても30分の時間帯でそんなに取れるはずがない。
「申請した本人がいないな」
訓練機に乗った状態で待つピットを定点カメラで確認すると、自ら足を運んで現場に歩いて言った。
「よかった、最近使えないから助かったね」
「何週間も取れないから私も諦めてた」
「気持ちは分かるが、申請した本人は何処にいる?」
いきなり現れた千冬だったが、そこは常に見ることのある一組の生徒。いつもの事だと自然に答えた。
「上条君なら、自由に使ってくれって言ったきり校舎の方に」
「そうか。時間は限られている、有効に使え」
『はい』
「2人とも、ここまで理解出来たかな?」
「さっぱり分からないです」
「・・・」
「素直でいい。ただ、寝ないでくれるかな」
「ほえ?」
いつも通りの補習。ただ、今日は1人増えて手間取っていた。偶に行われる抜き打ちテストで一定以上の点数が取れなかった2人は放課後も教室に残っていた。
「1人でも手間がかかる生徒がいるのに参ったね。それじゃあ、もう少し時間掛けて説明するから。それが終わったらもう一回テスト」
「・・・もう一回やるんですか?」
「これはまだまだ基礎部分だ。応用になって追いつかなくなる前に克服出来るようにな」
再び黒板と向き合い補習が続いた。
「あと1時間は終わらないか。事務処理は済ませておこう」
「とりあえず合格点には届いてるな。今日の所は終わりだ」
「ほえーやった終わった」
「・・・もう頭に入りきらない」
机に突っ伏して倒れる2人を尻目に淡々と現実を突きつける。
「1年でへばっていたらこの先きついぞ」
「好きで来たつもりはないです」
「サポートはするから、卒業出来るように頑張れ」
生徒思いのありがたい言葉だったが、上条からすれば勉強と言う名の生き地獄が続くだけのようだった。
「のほほんさん。動ける?」
「・・・」
返事が返ってこない。耳を澄ませると静かに寝息を立ててぐっすり寝ている。すでに10月、外は日が落ちて暗くなり夜になっていた為、このまま置いていく訳には行かないと考える。ここで起こすか、それとも連れていくか。
「おやおや、お持ち帰りするのかな?」
「言いがかりはよして下さい」
「はは、暗いから気をつけてね」
結果からして、連れていくか事にしたのだが。まだ校内も外も人が出歩いている為、かなりの頻度で人に出会う。見回りの先生や部活終わりで寮に戻る人と多くの鉢合わせた。
「どうにでもなれ!」
いつまでも視線が集まるのが嫌なのか走って1年の寮に向かうがそれ返って目立ち注目される事になった。それでも、走ったお陰で少しは速く寮まで到着して部屋の前まで来た。
「簪、いるかな?」
コンコンと軽くノックをするが反応はない。ゆっくりと扉を開けても暗いのを見る限り帰ってきていないのが分かり、ベッドまで運びおろした。度々来る機会もあったのでどっちが誰のかも分かっていた。
「全部付けるより、少しだけにするか」
枕元の照明を少し点けて部屋を出ていく。久しぶりに一夏の部屋にも行こうか考えていたが、また時間のあるときにしようと、部屋の前を通り過ぎた。そのまま階段を降りて入り口に差し掛かった辺りで、腕を組んだ織斑先生に捕まった。
「上条、少し話がある。外まで来てくれ」
放課後の教室で卒業も難しいかな。と冗談を言われていた為、もしやずっと補修かと身構えてついて行った。
「まあ、この辺でいいだろう。上条、お前に聞きたい事がある」
「な、何です」
「何故そんなに固くなる。勉強のことでは無い」
思考を読まれた事に驚く前に補修関連の話しでない事にまずホッとしていた。
「上条当麻。お前は何者だ?」
「え、勉強嫌いな学生・・・」
「・・・そんなことは知っている。本当は寮長室で話したいが、少々散らかっているからここで聞きたい」
少々・・・そう言えば一夏から聞くと結構散らかってるらしいな。まあ、長い話は嫌いだしいいか。
「9月の終わりの件といい、臨海学校の件といい。お前の存在があまりに謎が多い。特に9月の件。瓦礫だらけのこの場所を一瞬で元どうりし。事件に繋がっていた、裏の連中の資料まで持っている。これが普通の高校生には見えん」
「織斑先生、俺も人に言いたくない事が1つや2つはあります」
「だとしても、あれだけの事が起こった。1つくらい教師に話してもいいだろう」
「俺も話した方がいいか考えたこともあります。ただ、これが面倒な人に聞かれると不味いから話さないんです。例えば、後ろの木に止まっている鳥とか」
指差した方向には、確かに木の枝に乗っている鳥がこちらを見ていたが、千冬にどいうことは分からなかった。
「この時間、この寮にはほぼ鳥類は飛んでこない。なのに何故あんな所にいると思いますか?」
「偶々あそこに止まっただけでは無いのか?」
「まあ、こんな風に」
近くに転がっていた手頃な石を手に取り、まだ動かない鳥に投げつける。普通に考えれば当たって石は落ちて来るだろうが。鳥は消え石はそのまま飛んで行った。
「盗聴されてる時もあるんです。これは家族にしか言ってないし、それ以外の人に話すつもりはない」
「・・・何があろうとか」
「はい。もしかしたら話す機会もあっても、軽々しく話せる事じゃないので」
両親には迷惑を掛けてしまうだろうと一度だけ話した事がある。が、それ以外の誰にも、一度死んだ事も、元の世界に帰ろうとしている事も話してはいない。もちらん、降りて斑先生が聞きたい事も
「分かった。無理には聞かん、それとアリーナの使用の件だが。お前は使わないのか?他の生徒に譲るのは多めに見るとして。残り1週間、その間授業以外で使用しないで出るつもりか」
「これまでに努力はして、準備は終わってます。あとは相手次第です」
「随分と余裕がある。まあ、今までの対戦成績を見れば分かるが、負けの理由にするなよ」
「負けるつもりは無いですよ。負けず嫌いなもんで」
「さて、動画見ながら勉強だ。今日は何を見るかなーと」
「ただいまー・・・真面目に勉強してると見せかけて、ちゃっかり楽しんでる?」
「まだ勉強も楽しんでも無いです!」
「お馬鹿さんはまずは勉強からよ!」
「馬鹿なのは認めますよ。だからって楽しむの自由でしょ」
そんなこんなで少しの間騒ぐと、勉強もいやになりPCで面白映像を見ながら時間を過ごしている。稀に、アニメを見る事もあるがそれは就寝間近の時間帯でまだ余裕があるので見ようとしなかった。
「今更聞きたいけど、上条君は何か将来やりたい事はあるの?」
「・・・まだ決まってないですよ」
「それもそうよね。一般で入って来た訳だもん」
「ただ、国家代表とか候補生とかだと、俺は悪目立ちするから誘いがあっても断りますね」
「悪目立ち?悪いことでもしたの?」
一応、上条の過去について一通り知っているが念の為聞くことにはした。しかし、聞いて限りではそこまで悪い人間でない事も調べはついている。
「どうしようもない不良ですよ。夜は深夜までうろついて、他校の人間も喧嘩してって。それに教師は殴る、保護者に敬語は使わない。授業中は寝る事がある。課題は出さない。こんな感じです」
「へ、へえ〜今とは真逆ね」
「それりゃ、ここを出たらモルモットになるんですから、約束くらいは守りますよ。でも、夜は決まってやるマラソンが出来なくて体が鈍りましたよ」
最後の発言で入りたての頃、やけに走っている姿が多い事に気づいた。生徒会室から度々見る事機会もあり。何周走るのか数えていたのだが。その内、何時間なのか。いつまで走るのかに変わって居たのを思い出す。
「最近は就寝時間過ぎてから度々部屋を、なんてこともやって少しは戻ったかな」
若干顔が引きつっている楯無さんにも構わず続ける。
「一番は戻っきてから、音を立てないでシャワー浴びて寝るくらいですね。ここの寮って案外静かなのが厄介だったな」
「ほう、随分と楽しい学校生活を送ってるじゃないか?」
と入ってきた声に顔が凍りつく。恐る恐る振り返ると見たこともない笑顔でこちらを見てる織斑先生だった。
「すまない、話しがあって来たのだが。楽しそうな会話についつい聞き入ってしまった」
「・・・いつから居ました?」
「いつからだろうな。とりあえず、外で無断でISを使用した分の反省20枚。それから今の行動についての反省文を追加で100枚程書いてもらう」
内心悲鳴が出て居たが、表面は表情を変えずに分かりました。と答えた。初めて原稿の束見ることになったが、心のこまらない文を書くのは案外簡単。と鉛筆を取り出し取り込んだ。次の日、隣で見ていた楯無さん曰くペン先がほとんど見えなかったとのことだった。
「おーい、まだここに居るのか」
「はあ、どうしたのフォルテ」
「どうしたのって、そろそろ時間だから教えに来た」
時計を見せるとあと30分で戸締りな時間だったので呼びに来ていたフォルテ。もう、夜だからなのか結構ラフな格好なのは特に気にしなかった。
「ああ、もうそんな時間。はあ」
「ダリルどうした。そんなにため息なんかついて」
「ん、今までの対戦記録一通り見て勝てないって思ったのよ」
ここは視聴覚室と称しているが。アリーナで行った模擬戦などの映像から、生徒の簡単なプロフィールも覗ける代物で、度々使いに来る人も多い。
「ん、こいつか。もう勝てないって諦めてるな」
「私は勝てないから、戦いたくないに変わった」
「え、なんでだ。いつもあんなに模擬戦もやってだろ」
「今までの対戦全部を見て驚いたのよ。上条君、不意をついた攻撃がほとんど当たってない気がしてね」
「・・・言われてみれば。驚いても、全部避けてるな」
死角からのレーザーは当たらない。不利な体勢で迫るブレードも。動きを止める停止結界も、水蒸気爆発さえ直撃しない。まともに追い詰められるのは織斑千冬か一夏くらいのものだった。
「正面から真っ向勝負を挑む方が、まだ勝機があるって事か」
「そうね、ただし。元から勝てる希望も薄いけど」
イージスの盾と言われたペアも諦めるほどの後輩にため息をついた。