「はっはっ何処にいるの・・・」
校内を走り回る事約10分。目的の人物が見つかる気配もなく、息を切らして壁に寄っかかっていた。
「彼がいるなら。もしかしてと思ったのに」
「お嬢ちゃん人探しかい?」
「俺たちが手伝ってあげようか?」
言葉とは裏腹にニヤついている顔を見るとすぐに無視して歩き出した。その上、囲むように立っている。
「これは私の問題です。構わないで下さい」
それをすり抜けるように合間を通るが不意に手が伸びる。
「手伝ってあげるのに」
「離して下さい」
「無理しなくたっていいんだぜ?」
「信用出来ません。離して」
振り履こうとしても一切はなすつもりは無いらしく引っ張られ戻される。そして、反対の手から出てきた注射器が首筋に向けられる。
「そんなに反抗しないで、楽しませてやるから」
と首に刺さる寸前でその腕を止められた。
「それ以上はやめろ」
「あぁ!何だお前は。どっか行ってろ!」
「俺の知り合いだ。その手を離せ」
「馬鹿か、そうしたきゃ力ずくでこい・・や」
バタンと最後まで言う前に言葉どうり拳一発で膝から崩れ落ちた。そして、手元に転がった注射器を踏みつける。
「お前もやるか?」
どうやら倒れた男よりも弱いのか倒れた男も連れてあっさりと逃げて行く。
「大丈夫ですか?」
「・・・一夏君?」
「え、黒川先輩。なんで、ここに」
顔を見て目を見開く。その相手は、織斑一夏にとって初めて好きになった人でもあり、人生のどん底に突き落とされた人でもあった。
「・・・2人で話せる場所に行きませんか?」
「はい」
「アリサさん、この色紙にサイン下さい」
「「お願いします」」
「うん、いいよ。これね」
「大変だな。歌姫様も」
「いつも家の前には追っかけ、週刊誌の記者がいるからな。こんな時くらい休ませてやりたいとは思っているが」
「考えすぎなくてもいいだろ。本人が楽しめるのが一番だ」
追加で買ったたこ焼きを頬張りながら眺めている。
「当麻君一つもらっていい?」
「ん、ああ。ほれ」
「なんだあいつ。アリサさんといちゃつきやがって」
「見た事ないぞあんなやつ。他の高校のやつか、誰か行って来いよ」
「ん、おい。うちの最強イケメンが行ったぞ」
のんびりと比較的当たらないと自分に言い聞かせてたこ焼きを食べていると、わざとらしく足音を立ててさっぱりとしたイケメンが近寄って来る。記憶の片隅にある顔と一致したせいで少しむせてしまった。
「アリサさん、ちょっといいかな」
「海原先輩こんにちは」
「こんにちは。こんな時に悪いと思ってるけど、隣の彼は誰かな?」
「あ、当麻君は中学からの友達です」
「友達にしては、その。親しい様子が」
本当はどんな関係なのか分かればあとはデタラメな情報を流して離れさせる。こんなパッとしないやつにここまで甘える姿なんて絶対に何かある。
「嫉妬か?校内一のモテ男がみっともない感情を抱くとは」
「嫉妬、それは違うな雲川」
「お前に呼び捨てにされると何故か気分が悪くなる」
「なら、ぼくが介抱してあげよう」
「お断りだ。だが、こいつと度胸試しをして勝ったら開放でもなんでもしていいけど」
「あのですね、勝手に決めないで下さいよ」
とんとん拍子で決まる約束に慌てて仲裁に入るも止まることはない。
「ほう、いいだろう。で、度胸試しの内容は?」
「大阪の廃病院に1人で入って来い」
「大阪、まさか結核病院じゃないですよね?」
「当たり前だ。知らない場所に行かせるわけもないだろ」
「ただの廃病院?それなら行ってこようじゃないか」
その言葉を聞いた瞬間、僅かに口が釣り上がる。
「海原さん、今からでも断っで下さい。あそこは生きた人間の入る場所じゃありません!」
「何をそんなに怖がる。入るだけだろ?」
「あちゃー、あんた分かってないな。この人が言ってるのはさらに奥にある、隔離病棟の方だ」
「え、お前知ってるのか?」
「知ってるも何も、この人と一緒に全部回ったからな」
懐中電灯忘れて肉眼で暗闇を歩く羽目になったのが懐かしいな。あそこ、全部窓が閉まってて開かない上に行くのに時間かかる。これが面倒なところだ。
「真っ暗な廊下と妙な膨らみのあるベット、絶対に開かない窓。極め付けは入ってから1時間以内に出ないと扉が閉まってて閉じ込められる」
「あ、でもそれは入り口の受付に名前を書けばどうにかなるな。その代わり診察室に必ず行く必要があったり・・・まあ、ふざけて行く場所ではない。行けば必ず後悔する、軽い気持ちで引き受ける馬鹿は余計にな」
「ただのハッタリか、そんなもので」
「・・・同じ中学に通ってやつがお前と同じ性格でな。今の話を聞いて行ったんだよ。次の日、そいつは帰ってこなかった。週末に先輩に頼んで行って見たけど、病棟の何処にもいなかった。そして、受付の人に聞いて隔離病棟のベットに寝てって言われて助けに行った」
その言葉を聞いた周りの人間が寒気に襲われていた。廃病院、それも話からすると昼間だがそんな場所に人など物好きいるはずもないのだ。
「そして、言われた部屋に入ったよ。ベットでぐっすり寝てたけど顔は真っ青。なんとか連れ出したけど、何があったかは覚えていないの一点張り。毎日のようにやっていた夜遊びもぱったりとやらなくなった」
「と、まあ嘘を交えて言ってみたけど行く気になったか?」
「嘘、あれが嘘か。どうせただのハッタリだと」
「そうだよな、流石に気づくか。まあ、話を聞いて行く奴なんていないからな」
「は?」
「分かってないのか。つまり、同級生が行ったのが嘘だと言ったんだ。そうだろ?あと隔離病院なんてない」
すでに頭の中の整理がつかず思考が停止し、ぼーっとしていた。
「ようやく、行ったな。見た目だけの男はとことんつまらん」
「そんなこと言ってるから彼氏の1人も出来ないんだけど」
「それはお前も同じだろ」
「ふふ、私はこいつにぞっこんだからな。他の男はない」
だから、あんまり公の場で肩をかけるとかやらないで。アリサも絶対に
「わ、私も当麻君一筋だから」
気持ちはよく分かったのでやめて。とりあえず、落ち着いてもらえふように2人の頭を撫でている。
「大変だな」
「そうでないですよ。こうして思ってもらえるのは嬉しいので」
若干、不機嫌そうな顔をしていたので軽く頭を撫でていた。
「屋上は入れないって」
「今はいいです。それより、元気そうで良かった。一番辛かった時に私は」
「それは、気にしないで下さい。俺が勝手に思い込んで絶望した。もしかして、なんて期待を黒川さんに押し付けていたんです」
「違う、秋十君に言われて」
「知ってます」
え、と言葉を失った。いたずらでわざと告白した日以来ずっと落ち込んでいる一夏を見てずっと謝りたいと思っていた。
「あとになって、ふざけてもそんな事を言う人じゃないと思ってたんです。いつも、冷静で面倒見のいい黒川さんが、あんな言葉を使うとは思えなかった」
あとでと言っても。高校になってからの話、それでも冷静に振り返る機会が出来たのはあいつのお陰だ。
「・・・ごめんなさい、私が弱いせいで」
「なら、1つお願いを聞いてくれますか?」
「は、はい。どうぞ」
「俺ともう一度友達になってくれませんか?」
唐突なお願いに一瞬戸惑ったが、よろしくお願いしますと握手を交わす。そして、溜まった涙がボロボロと流れ始め、一夏は優しく頭を撫で抱きしめていた。
少し離れたビルの路地
「なぁ、金くれないか?」
「はぁ!?金なんてねえよ。他を当たれ」
「そうか」
男が背を向けて歩き出した途端、後ろからの鈍器のような衝撃でその場に倒れ込んだ。
「なんだぁ、あるじゃねえか。じゃ、飯でも食うか」
「て、テメェ絶対に・・あ、ああ!!」
「出所してからすでに1週間。暴行が絶えないな」
「批判がさっとしていますから。噂ではヤクザも動き出しているとか」
「逮捕したいが無理にやったところで怪我人が増える。銃殺など簡単に出来るわけでもない。例え、女だとしても軽々とやっていい事では無いからだ」
「おお、随分賑やかじゃ無いか。俺も参加するか」
「おい。テメェが俺の女を襲ったやつか」
「ん、誰だ?」
「いい加減にしろ、ヤクザなめんなよ」
ぞろぞろと後ろに連れて現れる。それぞれ、スタンガンやら金属バットを持っていた。
「ヤクザやめたら、なにかあるのか?」
「すみません、泣き止まなくて。服も」
「これくらいなら水洗いでもどうにかなります。それより、先輩。一緒に行きませんか?」
まだ決めきれないのかおどおどする黒川を一夏は手を引っ張り連れて行く。その間に遅れてやってきた鈴とばったりと会うが一緒にいた黒川を見た途端にその表情が変わる。
「げ、あんたなんでそいつといるのよ」
「なんでって偶々会ったから」
「そいつは、あんたの心を弄んだ女よ。たとえ、秋十に操られていたとしても」
「もう過去の事だ」
「過去だろうとあんたを陥れた人間よ」
「もういいんだよ。あの事は忘れて最初からやり直すことにしたんだ。鈴もそうしてくれ」
むぅーとまだ言いたいことが残っていたのだろうか、不機嫌さを隠さずに表情に出す。だが、本人がはっきりと言ってしまっているので追求もしずらかった。
「一夏が言うなら。でも、私はあんたのことなんか認めないから」
「気にしてません。私がやった事は事実。恨まれて当然です」
「一夏からの告白をフッて、たくさんの人からチヤホヤされた人間の言葉とは思えないわ」
「あーあ、来るの遅れたよ。ま、服も着替えて資金も増えた。よし、行こう」
「こいつ・・・化けもんだ」
「ん、まだ元気そうだな。もう少し遊んでやる」
感情の読み取れない無表情のまま、地面に落ちた血まみれの鉄パイプを拾う。
「・・・ふざけやがって」
「なあ、そろそろ行かなくていいのか?午後の部の準備とか」
「お前はまずこの問題を終わらせろ。違う、その数値をどこに代入するつもりだ。文章をしっかり読め」
「文章を読んでも理解できません」
ほぼ毎日補修に行ってようやく追いつけている状態なのに。ついでに部屋でも1人か、偶に3人に増える教師から教えてもらってるな。
「丁度いい、アリサも予習して行くか。準備は万全だろ?」
「これから、徐々に覚えて行くから今は、いいかな」
「普通の学校で平均点にギリギリ届くやつを、最難関高に行かせる馬鹿がいなければ楽なのに」
「無理もない、男性適正者はお前を含めてたった3人。2人は織斑千冬の血縁者だとして、何故お前に適正があるかが不明。研究者がモルモットにしたくてうずうずしてるだろう」
「まあ、辞めた所で普通の学校には行けないだろう」
「最悪だ。いっそ、日本中のIS関連の研究所が全部壊れてくれないか」
文化祭でも勉強はもう嫌だ!せめて、家か寮でやらせてくれ。自分から言いだしてるし、教えて貰ってるから文句も言えない。
「ふぅ、後20分か。それなら、アリサちゃんの歌が聞ける」
「なぁ、ここは何の店だ?」
ラストスパートに入り、少し気が緩んでしまっていた。自分の目の前に2m以上はあるだろう巨漢の男が覗き込んでいた。
「え、あ。はい。うちは肉野菜炒めなんですが、だいぶ野菜多めになります」
「じゃあ、1つ。出来立てを」
「は、はい」
脅迫されてもいないのに妙に体中がこわばる。それでも、なんとか油をひき炒め終えたものをプラスチックの容器に入れ渡した。
「300円になります」
「はい」
お釣りを渡し離れて行くのを見るとその場で座り込んだ。
「なんだあの馬鹿でかい男」
「おお、弾。しっかりやれ!」
「じ、爺ちゃん?!なんでここに?」
「子供の文化祭だ。来るのは当然だろう。ったく、しっかりしやがれ」
「しっかりしろって、顔付きが怖い熊みたいな体の男に来られてもう」
「熊?おい、髪色が何だったか覚えてるか?」
「髪色?確か金髪であと目が鋭かったな」
「・・・不味いな、そろそろ出所するとは知ってたがもう出たか」
珍しく真剣な顔で考え込む姿に弾も息を飲んだ。
「怪我人がたくさん出るかもしれねぇ。周りにも気をつけるように言っておけ」
黒川凜・・・藍越学園2年で生徒会長。一夏、鈴とも交友はあるが中学の時に起こして以来顔を合わせづらくなっていた。
次回、ウシジマ君の漫画のキャラを出したいと思います。