IS学園の異端児   作:生存者

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第71話

 

 

「・・・はあ」

 

「いつまで溜め息を吐いてる。気持ちは分からんでもないが、ずっと引きずる訳にもいかないだろう」

 

少し前に失踪したアリサを返してくれた男が行方不明とテレビで流されてからずっとこの調子だ。私も世話になったことはあるし、少しは心配しているがここまで落ち込むことはなかった。

 

「直前までは私が一緒にいてやる。それまでに気持ちを少しでも戻せ」

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、IS学園では一夏の部屋には模擬戦をやろうと鈴は訪れていた。

 

「一夏、あんた何処か行くの?」

 

「え、ああ。弾の通ってる高校が文化祭だって言うからな。久しぶりに会いに行って来る」

 

「へっ!じゃあ、私も行く!」

 

「でも、外出届は?無断外出なんかやったら千冬姉の説教が待って」

 

「一回くらいなら注意で済むわ!」

 

「そうか、そうか。一回くらいなら問題がないか」

 

「そうよ、大体そんなもんがなんで・・・へっ」

 

壊れたブリキのようにギリギリと後ろを振り向くと笑顔で立ちふさがる織斑先生が待っていた。

 

「校則は守ってもらう。今出せば午後には間に合うが、反省文を書くかそれまで待つかどちらにする?」

 

「今すぐ出してきます!」

今すぐに逃げたかったのか、急いでいたのか分からないがその場を去って行った鈴を2人は見送っていた。

 

「相変わらず苦手なんだな。そう言えばち・・織斑先生はなんでここに?」

 

「少し話があってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何見てるんだ楯無」

 

「あ、フォルテちゃん。これよ、校内掲示板」

 

大きく表示された電子掲示板は、生徒の操作も可能で年間行事予定や部活動の活躍なども出て来る。そして、もちろん

 

「なるほど、これか。あれまあ、記録が塗り替えられたな」

 

模擬戦の記録も全て回覧が出来る。

 

「現在69連勝中か」

 

「そろそろ、倒したいわね。どうにか出来ないものかしら」

 

「1人はまず無理だ」

 

誰が相手だろうとほぼ無傷で毎度勝利する為に勝ち目がないとみんなが思っている。

 

「一回くらいは勝ちたいもんだ」

 

「1対12なら何とか勝てるわよ?」

 

「それは勝ったと言えるのか・・・言える義理じゃないか」

 

上級生でも上位の実力のある人を掻き集めて、何とか倒すことには成功した。だが、本人は訓練機でお遊び程度にしか本気を出していなかった。

 

「そろそろ、私も訓練の方に集中しないと」

 

「?今月は個人トーナメントも学年別もないだろ」

 

「生徒会長の座を決めるトーナメントよ」

 

1年一度だけある生徒会長を決めるトーナメント戦。参加は誰でも自由だが毎年各学年の選りすぐりの操縦者が軒を連ねる。形式として、まず挑戦者がトーナメントで1人になるまで勝ち抜いた後、生徒会長との試合行う挑戦権が与えられ、そこで勝てば生徒会長になる事が出来る。なお、それ以下の副会長や書記は選挙か会長の人選で選抜される。

 

「そんなこと言ったってお前なら問題なく継続するだろう。男子が立候補するとは思えないからな」

 

「それがね、会長になれば職権で好きな男子と同じ部屋になれるからって沢山の子が」

 

「現にずっと同じ部屋だもんな、部屋替えはくらいしろよ」

 

もっともな答えなのだがそこそこ独占欲がある為、口で言っても分かるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

「ん〜参ったな。いつも通り赤信号で引っかかる。これで20・・・回くらいになる・・・まだトラックが突っ込んでこないだけマシか」

 

周りの騒がしさにかき消されるような呟きのあと不幸な少年は人ごみの中へと消えていた。

 

「おいおい、疫病神がいるぞ」

 

「まじか、今度はどんな災厄を撒き散らすんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ、全部信号が赤になるなんて。待ち合わせに遅れるー」

 

と、とっさにビルの間の狭い路地裏へと入って行く。

 

「近道はあまりしたくないけど」

 

「今回は少しでも無理して行きたい・・・って感じなのかな〜」

 

「・・・ッ!」

 

いくつもの角が存在する路地で死角から急に声を掛けられ視線だけで確認するが明らかに関わってロクな事にならないと判断して駆け抜ける。

 

「あーあ、振られちゃった。ねーぇ、俺らと楽しいことしない?」

 

「絶対ッいや!!」

 

この手の男が言う楽しいことはただただもて遊ぶくらいだ。しかし、ここで声をかけられた時点で気づくこともあったはずだ。狙いすましたように声をかけていると言うことはここは男達が隅々まで知り尽くして手を回してある事に

 

逃げるうちに何度も角を曲がり表に出ようとすると待っていたかのように待ち構える男達に何度も会い。知らないうちに、逃げ場が無くなる。ついに足がもつれ倒れ込んだ。

 

「きゃぁ!」

 

「ほ〜ら、慌てるから転んじゃうんだよ〜へへ」

 

「そうそう、

 

「いや、来ないで」

 

恐怖でほとんど動かない少女を囲むと手足の自由を力ずくで奪う。

「大丈夫、すぐに気持ち良くなるから」

 

集団の中の1人が注射器を取り出す。中身は分からない、しかしあれを打たれたら元には戻れないと悟っていたが足は動かず、逃げようとしたところで周りは全て囲まれている。

 

「おいおい、女の子1人にそんなに群がると通報されるぞ」

 

呑気な声に全員が振り返る。ここらの

 

「誰だ?」

 

「通りすがりの通行人です」

 

「性別は見るからに男だな。なんで女の肩を持つ」

 

「俺はそのくらいにした方がいいと思ってるだけだ。あと路地の入り口から警官が来るぞ、さっきの悲鳴を聞いて誰か通報したのかな。まあ、今より重罪になりなくないならやめておけ」

 

「・・・ちっ、逃げるぞ」

 

やはり、捕まるのは避けたいのかすぐにその場を去って行く。このくらいで止めるならまだ優しい方だなと考えながら倒れ込んだ少女に手を差し伸べる。

 

「立てるか?」

 

「え、あ、はい」

 

若干戸惑いながらも手を取り起き上がる、

 

 

「あの、警官来るって言ってましたけど。あれって」

 

「ただのはったりだ。そんなので通報しても面倒だな〜なんて顔をして来るだろう。じゃあな、もう近道はよせよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

気にすんな〜と背を向けて手を振っていた。

自身も約束がある為動き出そうとするが、また会うかもしれないと思い、近道の路地を出て遠回りで安全に向かった。

 

 

「あ、来た。もう〜遅いですよ佐天さん」

 

「いや〜ごめんちょっと不良に絡まれて」

 

「え、だ大丈夫ですか?何もされてませんか?!」

 

「うん、平気平気。ほら行こう初春、春上さん達も待ってるから」

 

「もう、佐天さんが原因なんですからね」

 

 

 

 

 

 

「よっ」

 

「おお、久しぶりだにゃー。かみやん!」

 

軽い挨拶かのように両サイドからのパンチに顔を抑える。

 

「相変わらず、元気だな」

 

「かみやん、ほどではないぜよ」

 

「そうやな」

 

 

「とまあ、前置きはこれくらいで」

 

「あれが前置きかよ」

 

「アリサちゃんを元気づけて欲しいんや。それが出来るのはかみやんしかおらん」

 

「ああ、そうか。歌に元気がないとか愚痴のメールを送って来たのも」

 

「わいは何度も聞いてるから分かるで。それに今日はファンの人間も来るんや」

 

 

 

「分かった分かった。でも、なんで俺が」

 

「悔しいが、かみやんしかアリサちゃんに会える状態じゃないからな」

 

それってどんな状態だ?不思議に思いながらついて行く。文化祭である程度までは公開された校舎内を通って行くが正直気になる店が多くあった。

 

 

「アリサさん、俺たちの為にもみんなの為に歌ってください!」

 

「アリサさんの歌をみんなに聞かせてください!」

制服を見る限りここの藍越学園の人なのは分かる。しかし、扉の前に数十人も綺麗に列を作って一人一人声を出している光景は少し気になった。

 

「なんだ、これ」

 

「内のアリサちゃんのファンクラブの人間や。まあ、大概の人は取り巻きって呼んでる」

 

「で、この先にいるのか」

 

「そうだぜい、ってなわけで図太い精神のかみやんにはここを通って欲しいにゃー」

 

「「幸運を!」」

 

あいつら、はめるの本当好きだよな。はぁ、面倒だけど行くしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、扉の外が少し騒がしくない?」

 

「まさか、ファンクラブのやつが殺到して来たか」

 

「いや、内のファンだろ。ほっておけ、行くとかは退かせばいい」

 

としばらくすると静まり、ゆっくりと扉が開く。少し息が荒くなった男達が床に倒れているのが隙間から見えたがされよりも中に入って来た人に驚いていた。

 

「ふぅ、久しぶりだなアリサ」

 

「ちょっと、なんで部外者の男が入ってるの!」

 

「いや、そいつ呼ばわりは酷くないかシャットアウラ?」

 

「・・・」

 

言葉が出なかった。怒鳴る声や会話の声が聞こえ無くなるくらいに。そして、気づけば涙を流しながら飛びついていた。

 

「当麻君、良かった・・・生きてて良かった!」

 

「そんなに泣くな。せっかくの笑顔が台無しになる」

 

「うぅ、当麻君が心配させるからだよ・・・」

 

 

 

「先輩、なんなんですかあの男は。今すぐ引き剥がしてください!」

 

「そう言われても。おい、アリサ。いつまでイチャついてる」

 

涙顔もあっという間に真っ赤になる。

 

「ふぇっ!やめてよシャットアウラちゃん、恥ずかしいよ」

 

「そろそろ、アリサの出番になる。速く準備に行くんだ」

 

「え、あ、もうこんな時間?!じゃあ、当麻君また後で」

 

「おお、楽しみにしてるからな」

 

 

 

「では、俺はそろそろ」

 

「待て、上条。お礼を言わせてくれ」

 

「お礼、ですか?」

 

「アリサを守ってくれた件だ。あのマネージャーに拉致されたのを助けてもらったお礼をな」

 

「あれは俺が巻き込んだじまったのが原因みたいなもんです。だから、気にしないでください」

 

 

 

 

 

 

「はぁ、どうにか入れたぜよ。これなら、外でも聞けるように音響整備もしてほしいにゃー」

 

「全くや。こんなに人が来ることなんて分かりきってるのに、その対処も何にもしない企画した連中の頭はおかしいんや」

 

「にしても、かみやん遅いな」

 

「ほんまや、すし詰め状態な上に更に人が入って来るせいで押し潰れるような感じが・・・」

 

とそんな中で手を振る上条の姿を見つけ、狭い人混みの中を塗って移動していく。

 

「おーい、青髮こっち来れるか」

 

「お、かみやん。どうやってこの席を?」

 

「シャットアウラにここで見てろって」

 

「流石かみやん、あの先輩を呼び捨てとはいた中々やるな!」

 

顔は笑いながら本気で顔を両側から殴られ思わず殴られた箇所を抑えた。

 

「いてて、知るか!そうやって言われてんだよこっちは!」

 

「それが羨ましいんや!」

 

 

 

「ん、何処かで聞いたことがある声が」

 

「このうるさい中でも分かるバカ騒ぎを起こすようなやつなんて、でもあの馬鹿は・・・」

 

「上条君なら生きてるよ。さっき来てた。だがら、多分騒いでるのがあるそうだと思う」

 

 

と、大混雑している体育館の前に歌目的でやって来た4人の中学生が到着した。

 

「うわ〜すごい人の数。座れるかな」

 

「佐天さんが遅れるからですよ」

 

「それ言ったら初春だって出店の甘いものを買いすぎだよ」

 

と話していると入り口に立っていた、同じくらいの歳のツインテールの中学生に近づいていく。

 

「白井さん、お待たせしました」

 

「遅いですわよ初春。全く、人を待たせるなんて」

 

「あー黒子。お友達来たの?」

 

「お姉様!いつ戻って来たのですか?」

 

「ついさっき。ほら、席が埋まる前に行くわよ。自己紹介は後でも出来るから」

 

 

 

 

 

「はぁはぁ、ついつい頭に血が上った」

 

「久しぶりに疲れたにゃー」

 

「わいもや、この話題で盛り上がれるのはかみやんしかおらへんからな」

 

まさにヘタヘタになり椅子にもたれる三人、話の内容は巨乳派か貧乳派かと言うくだらないものだった。

 

「すみません、隣いいですか?」

 

「ああ、どうぞ」

 

 

そして、予定の時間になり

 

「では、これより鳴護アリサさんの登場です。拍手で迎えてください」

 

拍手と言いながら歓声が上がってる時点でおかしくないか?まあ、注意するほどでもないし、みんな聞いてないな。そんなに興奮してると誰か倒れそうな気も・・・まあ、いいか。

 

 

 

 

 




シャットアウラ・セクウェンツィア・・・鳴護アリサの姉で高校3年生。将来はアリサのマネージャーになる事を目標としている。

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