IS学園の異端児   作:生存者

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第66話

 

 

深夜、人気がなく草木も寝静まる都心から離れた街の家の中では忙しなく荷物の整理に当たっている男がいた。

 

「あのクソ餓鬼、なんど迷惑をかければ気が済む」

 

詰めているのは服、偽造パスポートに航空機のチケット、すでに用意した隠れ家の鍵に特殊加工され探知機に引っかからない拳銃。つい半日ほど前に報道されたニュースを見た途端に動き始めていたが、やる事が多く、少し手間取っていた。

 

「この私が夜逃げの真似とは、またあの男に頼む事になりそうだ。くくっ私にはバックが付いてるが念の為だ。今更バレることはない、証拠も消した。あとは報酬の金で優雅に暮らすだけだな」

 

そばの机に置かれた切手には0が9桁近く書かれ、もう片方ののトランクには溢れんばかりのドル札で埋め尽くされている。身支度も終わり、腕時計で今の時間を確認する。

 

「おっとそろそろかでは、この家ともおさらばだ」

 

夢の時間まではあと僅か。と荷物を持ち予約していた車で移動するため扉に向かっていく。

 

そんな時、扉がノックされる。深夜でこの家に来るものは誰もいないはず。トランクをあけ銃を取り出し構えながら扉に近づいていく。足音を極力抑え、扉まで近づき取り付けられた穴から外を見ると1人の警官が立っていた。一瞬焦りを覚えるが、バレても殺せると考える。しかし、手に持った拳銃は一切手を緩めなかった。

 

 

「あ、深夜にご迷惑と思いますが、少しだけお話を聞いてもらえますか?」

 

一目で警官の観察をする。落ち着いてはいるがまだ態度と声のトーンに少し若さを感じた。

こいつはただのヒラ警官だと読み取り少し警戒を解く。

 

「いいでしょう、で聞きたい事とは」

 

「はい、実はこの付近で酔った男が暴力を振るい逃亡していると通報がありまして、何か知ってることは」

 

「いえ、初めて聞きまたが、そんな事が」

 

「そうですか、まだここの近くにいる可能性もあるので気をつけてください。では」

 

それだけ聞くと背を向けて歩いていく。見えなくなるまで目で追っていき完全に見えなくなると軽く息を吐き荷物を取りに戻る。

 

「ただの見回りか、酔った男がね。全くおきらくな人生だ」

 

と両手に荷物を持ち振り返った時、プシュと空気が漏れるような音がかすかに聞こえた。少し痛みを感じ首元に手を当てると極細の針が刺さり。体中の力が抜けていった。

 

 

「なん・・・しまった扉を開けたまま」

 

いつもなら、狙撃される事も考慮して必ず閉めていたはずの扉を開けたままにしていた。

 

「こんばんは、クリスト議長」

 

「ICPOか、何故お前達がしゃしゃり出て来る」

 

「うちに匿名の通報がありまして。アメリカの議員数名が資金を横流しをしていると聞いてきました」

 

「は!だからなんだ、貴様には逮捕する権限なんぞない」

 

ICPO(国際刑事警察機構)各国捜査機関の連携窓口であるが本格的な捜査機関を持たず職員自体に逮捕権はなく、刑事はほとんどいない。

 

「それは私達が一番分かってます。しかし、今回だけは特例で逮捕権がいただけました。現在時刻2時35分。資金横領と隠蔽の罪で逮捕する」

 

両手を後ろに回され手錠を掛けられるが余裕は消えない。

 

「特例だ?裁判に不確かな証拠で挑むのか」

 

「残念ですが、裁判はありません。あなたは刑務所に永久就職と決まっていますから」

 

本来ならそんなことはあり得ない。しかし、事がことだけに確実に言い負かさられるだけの証拠を押し付けて認めさせた。IS学園を襲ったメンバー全てから情報を吐かせた録音機と、幹部本人を直々に連れて行きお話をさせたのだ。

 

結果、不要な仲介役による妨害あるいは裁判の遅延による逃亡を防ぐために、裁判抜きの異例の逮捕がされた。他にも情報漏えいを無くすために、記者、独自で勝手に情報が公にならないように各国に呼びかけ、漏らした者には事が終わるまで牢屋に入れると脅しまがいの言葉もかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、もう朝か。あれ、俺昨日何やってた?」

 

確か、飛行機ごと海に落ちて、ここまで来たのは覚えてる。それから、色々あって・・・で楯無さんの関節技を十分に貰って・・・それから覚えてない。

 

 

「今更思ってたけど、寮生活のお陰で遅刻だけは無くなったのが幸いだな」

 

前は行く途中で信号が全部赤になったり、課題を徹夜で終わらせて寝坊したりと理由は多々あるが遅刻ギリギリの生活をよくしていた。

 

「さて、課題だ。まだ半分も終わってないから終わらせないと赤点になっちまう・・・ん?」

 

ふと、手足を伸ばし掛けたところで、全く動かないことに気づく。

 

「げ、どうやってこんなの用意したんだ」

 

ベットから一歩も動けないよう、両手足を縛って貼り付け状態にされていた。無論、難なく千切れる。しかし、後で何をされるか全く予想が付かないので大人しくそのままぼーっとして過ごしていた。

しかし、期待とは裏腹に起き上がるまでには1時間以上もかかった。

 

「不幸だ・・・」

 

 

 

 

 

「で、解放されて早々何故俺は事務処理の手伝いなんですか」

 

「ほら、一夏君も怪我で動けないし。人手不足だからね」

 

本当なら副会長の一夏、あとは書記の本音がいるはすだが、1人は怪我、もう1人はサボりでいない。なので実質3人で紙の山を処理している。

 

「まあ、この位なら最悪破き捨てれば問題ないか。これは・・・」

 

中学時代に押し付け気味で生徒会の仕事もやられた事もあるので処理はかなり速い。それに加え、人生経験が言葉では表せない程豊富なのでたかだか抗議の書類など簡単に処理できる。

 

「はい、終わりました」

 

「え?!速い!速いよ!」

 

「あとは会長の判子を」

 

開始1時間で書類の山を1つと半分程終わらせて、一番の問題である課題の方に移った。いくら長い時間を過ごしたとはいえ嫌いなものは嫌いなのだ。全く身に入らず、ただただ時間が過ぎる。

休日とはいえ朝から書類整理で始まるなんて苦労するなと、他人事のように考えていると、真横からひょっこりと顔を覗かせる簪。

 

 

「そこ間違えてる」

 

課題のプリントを一目で間違いを見つける。その後もずっと眺めてぶつぶつと独り言を言っている。

 

「え、これか?」

 

「そこの計算がこっちの方程式と同じで・・・間違えだらけだった」

 

ペンを取ると問題の右上にチェックを入れていく。あっという間にいくつもの問題に印が付き、付けられていないのは1つだけだった。

 

「ほとんどやり方が違う。唯一あってるのは・・・確率」

 

「ん?どれどれ・・だいぶひどい状況ね。夏前もギリギリだってけど冬はもっと危ないわね」

 

立て続けにダメ出しを受け、すでに心がぐらつき始める。

 

「このままだと、赤点は確定ですね」

 

最後の一言でへし折られる。自分でも勉強が出来ないのは分かってるし、別に気にしてないとはいえ周りから言われても大丈夫かと言われれば正直辛い。

 

「これくらいは授業を聞いて。少し見直しておけば理解出来るのに」

 

「俺はあなた達みたいな出来の良い人では無いんですが」

 

仮にも運動と勉強両方で学園トップとその姉とほとんど同じくらいで頭が良い人に言われるとものすごく落ち込む。後で分かった事だが、本音通称のほほんさんの姉、布仏虚は3年で主席と聞いて本気で世の中を恨みそうになった。

その後、校内でもトップの人達に1時間程仕事そっちのけでみっちり勉強を教えられ多少はましになったが、苦手教科にムラのある上条を少し手を焼いたそうだ。

 

 

「ん〜同じ教科でも得意な部分と色々混ざってやり辛い」

 

「何故、暗算で確率を答えられるの?」

 

「とりあえず、文書をまずしっかり読んで下さい」

 

他の教科と違い数学には多少の苦手意識がある。だが、何故か大概の人が嫌う証明問題はかなり強い。

 

 

 

「だいぶましになったわ。と、もう昼近くに・・・でも書類がこんなに残ってる・・・」

 

「人の心配より自分の心配をしろ、なんて言葉があったような」

 

「それ墓穴掘ってる」

 

いつもいじられてばかりなので、軽く仕返しをしたつもりが、自分に戻ってきた返しにまた落ち込み始める。

 

「どうせ俺は馬鹿ですよ。ははは・・はあ」

 

終わった課題の束を持ち落ち込んだまま部屋を出て行った。一般的には平均的に今は出来るようになっているがこの3人のレベルには程遠い。そんな事を考えていた。

 

 

 

「いや〜あのくらいの後輩がいると楽しいね」

 

「その内呆れられるんじゃ」

 

「そんな事ないわよ、でも・・・そうなったらどうしよう」

 

 

 

 

「あれ、一夏。もう歩いても良いのか?」

 

「なんとか。けど一番はベットで寝たきりになってて嫌な目にあったから、だな」

 

笑いながら徐々に視線をずらして行くを見て少し好奇心が湧いてきたが今朝、自分も人には言いづらい事をされたので黙って流した。

 

 

 

「そろそろ、千冬姉と本気の勝負がして見たいな」

 

「そんなこと言ってもまず怪我を治すのが先になるだろ」

 

男子は3人とも怪我。それに加え重傷になっているのが2人もいる。しかし、回復には1週間は必要だろうと言われていたが、人が持つ自然回復力とISにより搭乗者の急速治癒でその半分の時間で治りかかっている。

と話している内にお腹も減っていたので2人はそろって食堂を訪れた。ちなみに今日は魚のフライ定食を選んだはずなのだが何故か海老フライまで追加されていた。

 

 

「なんか視線が痛いな」

 

「今更だろ?入学したての時よりはマシだ」

 

「あの時は監視されてるようにしか感じなかったな」

 

しみじみと過去のことを思い出しながらご飯を食べ続ける。前なら見られながら食べるのも中々苦労したが、数週間もすれば慣れてたものだ。

 

「秋十の怪我は治ったのか?」

 

「あと少しだな、まだ少しふらつくらしいからリハビリだと。前と違って少しは丸くなってる」

 

「ん〜急がなくてもゆっくり和解できればいいな」

 

上条もあの性格ではいつまでも1人になり、誰も寄り付くこともない。それに何かに頼ってばかりで、あれでは成長出来ないのでないかと剣に対してまともな実力もない自分が思った。

 

 

「兄上、お元気ですか」

 

「今日は1人か?シャルはどうした?」

 

「もう少しと言ってまだ射撃訓練を続けています。その他にもセシリアや鈴も・・・」

 

「待て待てラウラ。ここは軍隊じゃないから、ほら座れ」

 

自分の隣の席を軽くポンと置いて、催促して多少強引になったが座らせることができた。だが、堅苦しい部分はどうしても変わらなかった。

 

「ラウラも射撃訓練をやってたのか?」

 

「いえ、私は近接武器を扱う訓練です。遠距離の射撃はレールカノンで対処出来ますが、兄上たちを見ているとまだまだと・・」

 

「頑張るのもいいけど、休まないとダメだ。まだ学生なんだから遊んだ方がいい」

 

「お前もだ一夏」

 

まだ千冬さんに勝てないと放課後の特訓を夜までやっている一夏は十分に努力しているとは思ってるが、まだ出来ると無理にやる事も多々あるので、そこは姉として力ずくで休ませているらしい。まあ、休みの日は軽い運動程度にしてしっかり休んでいた。

 

 

「あの、お兄ちゃん。この後、指導をお願いしたいのですが」

 

「・・・・・指導と言っても何を教えるんだ?」

 

途中でお兄ちゃんと聞こえた事がすごくに気になるが今は黙ってよう。指導って何も教えられないな、ナイフは投げる以外で使ったことがないから後はなんだ?

 

「一番は回避する技術を身につけたいと」

 

回避って俺の場合は・・色々とあって自然と身に付いてしまったようなものだからな。

 

「個人的な意見言わせてもらうと。実力が自分と同等か、ベタに強い相手とやるのが一番だ。それか、圧倒的に強い相手と何度も試合をする」

 

「圧倒的?」

 

「例としてあげるなら、一夏みたいにずっと織斑先生とやるとかだ」

 

ふと、思い出したくない一方的な殺戮が頭に浮かびあがる前に頭から消しさる。気づけば見えない爆発も避けられるようにもなっていたので悪いことではなかったが。

 

「いや、あれは千冬姉も接近戦が得意だからで。主に遠距離からの攻撃になるラウラには」

 

「必ずしも合わないとは言い切れない。それに、問題はラウラが本気でやるかやらないかだ」

 

あくま個人の尊重をする。内心はラウラのようなまだ若い学生がISなんて兵器を子供の頃から扱っている事に怒りが増している。もっと言えば何故学生がISを使っているかに怒りを少し感じていた。

ほとんどの人が織斑先生目当てで入ってきているので、ISを使う事はその次になっているのには分かっているが。

 

 

「まだ1年なんだ、焦らなくても地道に努力すればいい。結果は必ず出る」

 

自然とラウラの頭を軽く撫で始めてしまったが、少し表情が柔らかくなったように見えた。しばらくすると満足そうな顔をしたので席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あら、オータム。どうしたの?』

 

「どうしたじゃねぇ。いつまでそっちにいるんだ?店の方もそろそろ」

 

『分かってるわ。明日には開くつもりよ。けど、どうも長くは続けられないかもしれないわ』

 

最後の部分だけ少しトーンが下がった事に気付く。

 

「どういう事だ?」

 

『殺気立たなくてもいいわ。いい話よ、学園からの教職員の推薦』

 

「なんだその怪しい話は」

 

普通ならまずあり得ない。仮に一般の人間でも免許もなしになることは出来ない。しかも、出した本人が最も恨んでいたはずの裏社会の人間をだ。

 

『どうも、今回みたいは借りとして保護してくれるそうよ。手が回るのも時間問題だから、脅しにでも来るみたいね」

 

「別にそんな奴はさっと始末すればいいだろ」

 

『私はいいけど、説教されても知らないからね』

 

「・・・冗談だ。あれはもう勘弁してほしい」

 

一度、正座で3時間程年下の男性に説教された記憶が蘇ったのか、電話越しでも顔色が悪くなったのを感じ取った。

 

「とりあえず、仕込みはやっておくから必ず来いよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




中々ネタが思いつかなくなってきましたね。もしかするともう少し遅くなるかもしれません。

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