「来たぞ。まだ1分くらいは残ってるけど始めるか?」
第三アリーナの中央に立つ2人、ブレードを地面に突き立て余裕の顔を浮かべる者と無表情で固く拳を握り締め歩み寄る者。
「もういいのか、僕としては早くても遅くても構わないけど」
「なんか言葉遣い変わってないか?」
「なら、戻すか。お前をここで叩きのめして俺がこの学園のトップに立つ」
足音だけを残して姿を消す。前に出ながらジャンプをして足を狙った踏みつけを避け、それを見越して胴体目掛けて振られるブレードを手ですくい上げて流す。その状態で空中から回し蹴りで頭部を狙う。しかし、素早く戻されたブレードを盾にしてガードされて止められる。
「使う奴によってここまで威力が出るのか最初から作らないほうがよかった」
秋十が目の前に移動し一瞬で状態をしゃがみこんでさらに頭の上で腕をクロスさせいつの間にか構えていたかかと落としを防ぐ。あまりの重さに踏ん張っていた地面が下がっている。
「君も使えるんだろう、それとも疲れて万全じゃないのかい?」
「魔術をか?残念ながら使うことは出来なくてな。その代わり、」
強引に押し返し強く地面に踏み込み、秋十の足場ごと崩し迫る。
「少しなら楽しませてやる」
秋十が強化した拳を正面から右手で殴り飛ばしガラスが割れるような音とともに吹っ飛んでいく。だが、煙が晴れる前に秋十は真後ろに立ち斬り伏せようとする。力も強く、振りかぶったブレードから斬撃が放たれアリーナの壁に切り目を入れる。
「危ねえ、下半身とおさらばするところだった」
「・・・」
「もう終わりか?」
「いや、あまりに思い通りに行き過ぎて興奮してた」
思い通り?と頭に?が浮かび上がるがその内容がすぐに分かった。思ったこと全てを現実にする魔術を使っている事に。ただし、もしかしたらと入れたヒューズが動いているのには安心していた。
「俺から余分な手を出さなければ・・・いや出す事になるか」
「秋十、アリーナの使用には許可申請を出せと言ったのを忘れたのか?」
ピットの入り口から顔を出す織斑先生と束さん。あと1人は誰だ?ISって着物で乗れるのか?
「ただでさえ修復に時間を掛ける、これ以上戦闘を続けるなら強制的に止める。出来れば手を出したくない、今すぐにやめろ」
言ってることはもっともだが今、織斑先生は秋十に勝つ事は出来ない。例え、何人であろうと。
右手を軽く出す秋十を見て一瞬で走り出す準備を整える。
ああ、もうやるしかない。
「織斑先生、これは決闘です。部外者は出て行ってください」
「決闘なら他所で頼む。生徒達の安全が先だ」
「なら、ここに近寄らない事をお勧めします」
「そうか・・・」
速い、残像を残して目の前まで近づいてくる。だが、それを望まない秋十は軽く右手を振るう。無言で急接近してきた千冬の胸のあたりの装甲を掴み、振りほどかれる前に投げた。そして自分はアリーナの壁まで謎の衝撃でアリーナの端の壁まで吹っ飛びめり込む。
「痛え。こんな威力あるのかよ、あの時受けなくてよかった」
一撃で体中が動かなくなるほどの痛みが襲う。手足も少し痺れて意識も少し朦朧とするが抜け出る。織斑先生は
「自分の身内には手を出さないで、言葉で止まると思ったんだけどな」
「千冬姉には邪魔してほしくないんだ。どうせ、戦ったところで負けるんだからね。僕は君と戦いの望んでいるから」
秋十が軽くブレードを振ったのを見た瞬間に体が後ろに仰け反る。ビュン!と何かが通り過ぎる。だが、確かめる前に壁を突き抜けいった。
一度でも使った魔術の検索でもしたのか?アックアの受けた魔術の1つで記憶したはず、確か回数制限が設けられた状態だったはず。なら、耐久戦になりそうだな
「いや、まずは武器を・・・」
足音にあったサッカーボールはどの石を蹴り飛ばして、100m以上離れた秋十の手元を狙う。軽く腕を上げられただけで避けられたが
「ふぅ・・・」
外にいる人で束さんを除いてISを装備していないのは玲奈と藍の2人と、その他の襲撃してきた大勢か。さすがにやるには難しい。
歩きながら考え続けるが名案は一切上がらない。
「秋十、いい加減にしろ」
そうか、俺は直撃だったけど織斑先生はかすった程度だからな。
「織斑先生、ここから離れてください。今の織斑先生じゃ片手であしらわれて終わりです。まずのこの世に勝てる人もいるとは思いませんが」
「なら、どうしてお前は戦おうとする」
「俺は勝つ事は出来なくでも負ける事はないからです」
言ってることが正反対になってる事を追求しようと声を出す直前、急に倒れこむ。発作を起こしたようにピクリとも動かない。
「束さん、織斑先生を連れてここから逃げてください」
こちらを見る束さんに目を向けると、頷いて織斑先生を連れて出て行った。
「さて、秋十。お前に言ってなかったな。一撃を入れたお礼に教えろ言った答えを教える」
「幻想殺しだっけ?なんだそれ、聞いたこともな」
「それはそうだ、なんせ俺の右手が幻想殺しなんだから」
あっさりと出た言葉に秋十は笑いが込み上げてくる。それはそうだ、大層な魔術の強化に必要な物が目の前にいる男の胴体の一部なのだから。
「こいつは魔術だろうが神の奇跡だろが全てを打ち消す事が出来る。まあ、大雑把に言うと曖昧な力の全てを消す力がある、それだけだ。あとは特に特徴もないしなんとも言えないな」
「ふっふふ、ははは!」
笑って当然だろうが、今の秋十の場合は少し寒気を感じる。
「銃をこの手に。弾丸は鉛、用途は射出、数1つで十二分」
手に現れたのは軍隊でもよく使われるM9、おそらく落ちていた銃を目にして出したのだろう。
「人間の動体視力を超える速度にて、射出を開始せよ」
見てからでは避けられない、直感でギリギリ避けられたが既に次は来ている。
「剣よ湧き出ろ」
言葉に後にあたり一帯の地面から無数の剣が突き上げる。更に釣り天井ように空中に現れた剣が一斉に落ち串刺しにしようとする。
1度目の突き上げを偶然にも当たらなかった上条は2歩下がって上から落ちる剣の雨から抜け出る。
「起爆」
突き刺さった剣が一気に爆発を起こし体中全てを炎包み込む。
「死んだか」
殺したことを後悔もしていない。ただ目的を達成するための過程に必要だった些細な犠牲としてしか考えていなかったからだ。それでも、あまりに拍子抜けするほど簡単に終わった事にため息をついた。
「いやいや、そう簡単に殺されたくないな」
目の前に広がる火煙が消し飛ばされる。秋十は知らないだろうが今使用している魔術の間違いは上条を標的使う事だ。それを分かっていない本人は驚きを隠せないでいる。
「もう終わりか?口だけか、その程度なのかお前の勝機ってのは」
手を指し出す。ただそれだけの動きでアリーナがの一部が崩れ落ちるそして、指を銃のように構え撃つ。
「なんだ・・ッ!!ゴフッ・・が、ああああぁぁぁッ!!!」
何かが一気にのし掛かりバタンッ!と地面に伏せたまま動かなくなった。そして、何か痛みに耐えるように叫び声をあげる。
「ただアリーナの壊れた部分の重さをお前に掛けたくらいだ。痛いと思うけどすこしは我慢してくれ」
「あぁぁ!はぁ、・・んぐ・・・・ふ、ざける」
宙に異様な手が浮き上がる。とっさに後ろに下がって構える
「ふざけるなッ!!!!」
先程よりも遥かに強い衝撃で島全体が揺れる。怒りで人は変わると言うが、魔術の出力もここまで上がるとは思わずっとすっ飛ばされる。受ける寸前に勢いは流す事で痛みはほとんどない、考える前に秋十に迫る。出来ればさっきので気を失ってくれれば多少なり楽に終わったと思うがそんな事は後回しにする。
「まだだ、俺はまだ上に行ける」
足が動かなくなる。下を見ると下半身が白い粉でがっちりと固められている。そして、周りを見るとそれと同じ大きさの物が真後ろから迫る。
「はぁぁ!」
足元に触れてすぐさましゃがみこむ。髪の毛を掠る、一安心もつかの間、その目の前で爆発を起こし塊となって一気周りに撒き散らす。
「うぐっ、急にやる気出したな」
腹にもろに受けて少し動きが鈍くなるが痛みを無視して駆け出す。
「うあぁぁぁ!!」
何かを振り回す動作に一瞬で体を合わせる。自分に向く直前でアッパーのように突き上げるように右拳を振り上げる。何もないはずなのに鋼鉄に触ったような感覚が残る。アリーナの壁には手応えのあった位置で両断されていた。
「こんな所であれを思い出すな」
アリーナに収まらないほどの剣がなぎ払うように剣が壁を突き破って迫る。
「俺1人じゃなくて織斑先生がいる事も分かってるのか?」
自らぶつかり傾ける。そして、下側から強引に押し上げてずらし、あとは元の動きの勢いを使って流すだけになる。
「千冬姉には手は出さないさ。お前が先に死んでくれればな!」
だったら、どかすとか別の場所でやろって考えないの?言っても無駄だろうと心の中で呟き、次の攻撃に備える。
「数は20。空から降り注いで目標を焼き殺せ」
1つで約5mは吹き飛ぶレーザーが真上から降り注ぐ。数が多く広範囲に広がる分そらしても意味がない、しかし一度で消し飛ばれる程度の威力だと判断し1つ1つ打ち消しながら織斑先生の元まで移動し衝撃から守る。
それが終わると寒気を感じ大きく右手を振りかざす。人を丸呑みにできる特大のレーザーを横に逸らして直撃をまぬがれる。
メキメキ・・・知らぬ間に足を、手を、体中を激痛が走る。力を入れただけで声が漏れ出そうになるほど
「くっ、ああぁぁぁ!!」
両足と胸そして左腕を殴り、強引に痛みを解消して走り続ける。
「お前は必ず潰す」
足元がえぐり取られ浮遊感と重力を同時に感じる。地面がなくなりクレーターが出来上っていた。
「俺が頂点に立つ人間だ。有象無象のお前らには刃向かう事は許されない」
確実に一撃を入れるための準備。相手が上条なら、それは宙に浮いている間に最大の攻撃を無防備な状態の相手に入れる事だと秋十は確信した。いくら身体能力がずば抜けていようが、高所からいきなり落ちる速度は皆同じなのだから。受け止められるものではなく、触れただけで致命傷になるものを
「ッ斬撃か!」
強化した腕力と今まで培ってきた剣道の経験、そして何より剣士としての才能でそれを実現した。抜刀する状態が見えない。振り切った瞬間に空気を裂いて何かが迫る。
「くそ!」
文字通り人を簡単に上下に分けることが出来る絶対の一撃。避ける時間もない、これまでこんな経験がなかった上条には災厄の場面のはずだった。
・・:いや、見えなくてもオティヌスの爆撃も躱した時と同じだ。感覚で場所は分かる。全神経を集中させた所で乱れたら死が目の前からだけだ。タイミングさえ合えばあとは弾くだけだ。
手のひらで斬撃を上へと軌道を変えて死を免れる。それでも緊張で汗を僅かにかいてしまう
「防いでくるか。けど、残念。まだこいつが・・残ってる!」
もう一度異様な手を出現させて構える。
分かってるよ、回数制限もあるけどそれ以上の恐ろしさだって、一番俺が知ってる。完璧に使いこなして、1つに固着しない連中を何人も見てるんだからな。てめえのやつならもう一発くらいは耐えてやる。
しかし、予想以上の力に意識が少し飛ぶ。アリーリは完全に崩壊し、地面が割れて秋十より前が地面ごとごっそりと取り除かれる。倒れそうになる体を歯を食いしばり踏ん張りを効かせる。全体的な高質量の魔術に限っては打ち消す事が難しい、後ろに何十mも押されて右手も痛めて多少は防ぐ事は出来たが正直しんどい。
「これで終わりだ。秋十、昔お前に何があったのか知らねえけど。今は倒れて大人し寝てろ!」
完全に倒したと思っていた秋十の懐に走り寄る、ただでさえ土煙で視界が悪い状態なので瞬間移動したようにしか見えなかった。
「自分で勝手に世の中にでも絶望してたんなら。もう少し考え直せ、この大馬鹿!」
渾身の右ストレートで秋十の頬を殴り飛ばす。宙を舞う、そして上条の家から持ち出した霊装が服の中から飛び出て一緒に地面に落ちる。今の一撃で気を失ったのか完全に動かなくなった。それを確認した上条は大きく息を吐く。
「はぁはぁ、久しぶりに疲れた」
所々服が焼けたり切れたりしている秋十を無事に倒した。さすがに痛みが残り地面に座り込んで休む。内心は終わったと考えたい所だが秋十の力に対する執着心をどうすればいいのか頭を働かせる。それ以前にも、壊れたアリーナや校舎に寮ととんでもない被害が出ている為、修繕にもどうやって立て直すのか悩んでいた。