IS学園の異端児   作:生存者

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第55話

 

「ヒーローごっこはほどほどにしておいたら?」

 

「あんたもそう言うのか。俺はただの偽善者止まりだよ」

消える

ずっと視線を向けていたはずなのに視界から見えなくなった。

 

「ッ!」

とっさに防御体制にするが

 

 

「遅い、自分の身は自分でしか守れないんだぞ」

正面、しかも頭部を中心にしか守っていなかった為メキメキと腹に拳がめり込んでくる感触か伝わる。

 

「かはっ」

頭のガードが緩む。軽く飛び、側頭部に向けて回し蹴りが入り大きく体勢が崩れ、目眩のようにふらつく。一歩あとずりした時には目の前に左手で拳を作り振りかぶった上条が迫る。爆発が起こったような衝撃と音が撒き散らされ、何十mも地面を滑っていく。

「あらら、敷地がボロボロになっちまったな。直すのに時間がかかりそうだ」

 

「ッ!全く、化け物じみてるわね」

動かない体に鞭を打って強引に動かして立ち上がる。ここまでの執念があるなら別の方向に使って欲しいと願いたいが

 

「俺からすればあんたの方がよっぽど化け物みたいだよ」

ライフルを連射しながら逃げる藍を一歩でトップギアまで上げて追いかける。音速に近い速度で先回りする。あまりの速さに驚愕するが

 

「お前はここで倒す。きっちりと正規の方法で裁かれてもらうからな」

 

「なにを言ってるのよ。正規の方法で裁くですって?馬鹿ね、どうやって、証拠は、まさかあのゴミ達から吐かせるの?」

 

「証拠ならある。その時まで・・楽しみにしててくれ!」

一歩踏み込んだだけで地面にヒビが入る。脇腹に蹴りが、踏み込みのでISの足先を潰し、鳩尾辺りに強烈なパンチが入り、足をすくわれ倒れた時には顔目掛けて固く握り締められた拳がクリーンヒットしている。

 

「女の顔を殴るなんて、最低な男ね」

 

「そうだな、もう吹っ切れたし。どうでもいい事だな、終わった後にでも直しておけ。そんなに優雅に勝ちたいなら、そもそもここに来るな」

またいなくなる、バックステップで逃げるが首に手を回され、腹に衝撃が走り片膝をつきそうになる。体を守るはずのシールド、絶対防御も無いかのように軽々と突き抜けて痛みが来る。

 

「シールドエネルギーが尽きるか、それともあんたが倒れるのか。どっちの方が早いんだろうな」

 

「ふ、私1人を倒したところでまだ伏兵は残ってるのよ。そんなのんびりと・・・お友達はみんな、あの世行きよ」

口元が少し釣り上がる。どう起動したのかは定かでは無いが、遠くの方で地面から何かが出てくる音が聞こえる。

 

「他にも残してたのか。けど、俺の相手はお前だ。そっちは一夏達がやってくれるさ」

 

「人任せね」

 

「知ってるさ、だけど良いのか?もう玲奈とは仲直りできなくなるかもしれないんだぞ」

 

「まずは他人の心配よりも、自分の心配を優先したらどうなかしら」

そして、お互いに距離を詰めてぶつかり合い爆風を撒き散らす。

 

 

 

 

学園に新たに入ってきた侵入者を全員片付け、最初に現場近くの寮の上に駆けつけてきたスコールとオータムだが、そこにいたものを見て驚いた様子だった。

「どうやら、最後の敵らしいのが出てきたわね」

黒い人型の塊が無防備に立っている。しかし、オータムでも手を出そうとしない。

 

「最後になると毎度厄介なのが出てくるのが当たり前と思ってたけどな。まさか、VTS《ヴァルキリートレースシステム》で姿を変えた織斑千冬似の人形かよ」

凹凸しかない目と視線があった途端、手にライフルが現れる。すると、オータムは大きく後退する。それから遅れて銃弾の音とともなや立っていた手すりと屋上の外壁が吹き飛んでいた。

 

「なんつー威力だよ。直撃したらたまったもんじゃねえな」

 

「武器も自由に変えられるようね。2人だけじゃ難しいわ」

 

 

「また変な物を持ってきたか。修繕費を出すのはこっちだということを考えろ」

銃声の音源を探して来た千冬は、そこにいたものを見て思わずため息をついた。

 

「あんなので勝つなんて無理に決まってるよ。それより、まだあんなガラクタを使ってるなんて」

 

「仕方ない、さっさと終わらせる。お前と共闘して勝負することなど初めてだがついてこれるか?」

 

「いっくんとちーちゃんと箒ちゃんの為なら何処までついて行くよ〜」

束が細胞単位でおかしくなっているを知ってるのでISに乗った自分と同じ動きが出来ている事に何も違和感を感じていないが。普通の人間なら、度肝抜くだろう。

 

「最後の戦いだ。手を抜く必要はない」

人類最強の2人が異形の前に姿を出す。IS・・・兵器を使う技量と剣を振るう技量を兼ね備えた2人は真正面から斬りかかる。

 

 

 

 

 

「はぁ!」

大の大人1人とIS一機をアッパーの要領で宙に浮かせる。

 

「流石に量が多い分時間もかかる。けど、有限だ。無限にシールドエネルギーがある訳じゃない」

膝、肘、拳、脚、そして頭部使える部位全てを打撃攻撃の武器として叩き込む。一発一発が意識を刈り取れるほどの威力だが絶対防御や彼女の復讐への執念のせいか、一切途切れることはない。しかし、それでもビットの偏光制御射撃、足や腕の攻撃は全て流され、避けられる。

 

「この!」

見えないという点を取り、全てのビットを自分の周り5mの中に均等に並べる。

 

「あ、」

それから、自分もろとも上からの射撃で焼き尽くす。レーザーより速く反応が出来たとしてもそこから移動して安全圏に行けるとは限らない。そう考えた一撃、操作できる20機全てのビットのフルバースト。

 

 

「危ねえ、かすった」

それをもギリギリで避ける、制服の端が焼け焦げているが顔にはまだ余裕が見られる。息もまだ一定で疲れている様子もない。焦りが出始めるのが相手にとって優位に出る事は自覚しているが、どうしても抑えきれない。

 

「・・・ちっ、まさかこんなに簡単にあしらわれるなんて。あまり使いたくなったけど、これの使い所のようね」

懐から黒いスイッチを取り出して押すと一気に加速してその場からの離脱を行う。遅れて上条も追いかけて行くが、不意に電気が走ったように一瞬だけ止まる。頭で考える前に先に真横に大きく飛び退き、更にもう一度飛ぶ。その距離約40m

直後、さっきまでいた場所から少し前を中心に轟音が響き渡り、目の前が真っ白になると同時に襲って来た衝撃波で思わず仰け反る。

 

「上・・・衛星からか。真上じゃ避けようが無いな」

 

「!・・・なんで分かる」

 

「こんな、何も無いところで空からなんて言ったら衛星しか思い浮かばないだろ。腕のある人間がISに乗って打ったとして、当たる確率は相当低いからな。それにここまで威力のあるビームライフルが何処にある」

 

 

「へぇ、ならこう言うのはどうかしら。あなたが質で攻めて来るなら、こっちは物量でいかせてもらうわ」

 

「まだ残ってたのかよ・・・」

援軍のように更に5機飛んでくる。ぱっと見はよく見る訓練機のラファール・リファイブのようだがここに来る以上は改造され、何かしら機能が追加されているか、性能が上がっているはずだと考える。

 

「あんたが呼んだくらいだ。そっちもシールドエネルギーがアホみたいにあるだろ」

眉間が少し揺れたのが見えた。つまり、同じようなものがまた増えたってことか。

 

「残り6つ、倒したいのに上に居られると手の出しようが無いな」

高さは20mくらいだが、着地するまでは無防備な状態になる間にさっき撃たれた衛星レーザーが来ればひとたまりも無い。

 

 

『一斉射撃《フルバースト》』

上条の後ろから優に100を超える銃弾、レーザー、ミサイルが飛び交う。受けたところで全く対して減る事はないが、今まで受けて居た上条の並外れた攻撃を思い出してか藍を含めた6人は散らばって回避をした。

 

 

「助けに来たぞ、上条」

振り返ると専用機に乗った全員が集結していた。さっきまでの戦闘で疲れているはずの楯無さんにダリルさんフォルテさんも来ている。思わず、助かったと内心考えていた。

 

「おお、助かった。俺1人じゃさすがに骨が折れるからな」

 

「それよりあんたなんで専用機使わないのよ」

 

「え?専用機よりこっちの方が動きやすいから」

一夏を除いた全員が驚いた表情をするが全く気にせず前を向く。

 

「あ、1つ言っておくとあれ全部、エネルギーの総量が2万近くあるから気をつけてくれ。あと偶に上からデッカいレーザーも落ちてくるよ」

 

『・・・』

驚く事が多く思考が追いつかない皆さん。

 

「・・・色々と聞きたい事があるけど、要するにそれに気をつけて倒せばいいって事でしょ」

ざっくり言うとそうだなと思ってからとりあえず頷く。そして専用機を着てアスカロンを取り出し

 

「あとはこれだけだ。さっさと終わらせようぜ」

刃先を相手の方に向けると全員が各々の武器を構える。

 

「お子様風情が意気がるな!」

 

 

 

 

 

 

「厄介だな、これだけ刻んでも核の1つも見つからんのか」

束との絶妙なコンビネーションで剣で流し、斬る。互いに攻撃と守りをあうんの呼吸で合わせ、間を取る隙も時間も与えずに本体を切るが全く手応えがなく次の攻撃方法を考える。

 

「おかしいな、動力源も分からないし。あ!一箇所だけ妙に硬い場所があったような」

 

「おそらく頭部が怪しいか」

もちろん、何度か試みたが守りが固い為に、頭部に限っては致命傷になる一撃が入らなかった。

 

「なら、これはどうだ」

ただの抜刀にしか見えない一振りで異形の大部分が吹き飛び、予想どうり頭部だけが残ったがその光景に目を見開いた。空中に残って居たのは人間の脳みそと脊髄部分、しかも生きているかのように脈打っている。次第に修復が始まり2秒経つ頃には元どうりになっていた。

 

「なるほど、人を搭乗させないと使う事はできない点は変わらないか。最低限の必要な機能だけ残して」

 

「原理としては可能だったのは知ってたけど、こんな、愚かな事に使われるなんて束さんも甘いな。これなら、全部壊した方がいいかもね」

 

「それには賛成だ。とりあえずここに来た全ての量産型のISの破壊でもするか。だがその前に」

 

「あれを倒さないとね」

2人はもう一度構えなおし異形を見据える。

 

「私達も手伝うわ」

 

「ああ、ここまで堕ちるとは思わなかったからな」

 

「まさか、貴方と共闘する事になるとはね」

異形の取り囲むように、スコール、オータム、そしてアリーシャが姿をあらわす。千冬は一瞬だけ動揺するがすぐに切り替える。

 

「何故ここにいるか聞かないでおこう。まずはこれの始末だ」

一斉に飛びかかる。3人は前衛に2人は後方支援になった。世界トップクラスの戦闘技術を持った3人と裏世界で罪人の掃除を行って来た2人の連携攻撃。1を防ぐ間に2、3と体を切られ1人を攻撃する前に腕と脚を撃ち落とされる。恐ろしいほどの回復速度を持つがそれ以上に攻撃が連続して入るせいで少しづつ体にほころびが出てくる。

 

「どんな実験をされたのか知らんが、ここで楽になれ」

束とアリーシャで攻撃を受け止めると千冬の一閃が核になっていた臓器2つを真っ二つに斬る。更にオータムとスコールのレーザー焼き尽くし破片の1つも残さずに散っていった。

 

 

 

 

 

「残り3機か。だいぶ楽になってきたな」

「余所見してる暇があるの?」

 

「あんまりない。でもこれなら、すぐに終わらせられそうだ」

藍の蹴りを後ろに下がって避け、レーザーの射撃を首を少し傾けて回避する。目では追いつけない速さの攻撃を軽々と流していくのを、作業のように繰り返しながら距離を空ける。

 

「まだ20万近くあるのか。キリがないな」

一振りで1000以上を簡単にもぎ取る一撃を何度もやっているが中々減らない事にまだ先が長いなと困りながらアスカロンを下ろす。

 

「・・・はぁ、もう無理そうね」

 

「ここでそんな弱音を吐くなんて怖いな。何か企んでるのか?」

 

「いえ、事実よ。どうせ残りの機体もあと少しで落とされるでしょうし、その後一斉に来られたら勝ち目が無いもの」

以外と冷静さは残ってるのか。ここでやめてくれるなら手を出さなくてもいいから助かる。

 

 

「・・・・四肢強化・・・」

一瞬、ほんの一瞬だけかつての経験した危機感がよぎり後ろに飛ぶ。そして、数m先に立っていた藍が懐まで入り拳がめり込んでいた。

 

「ごふっ!」

久しぶりの強い痛みに顔が少し引きつるが素早く立て直す。だが、着地する前に顔面に入ってきた蹴りを正面で両手をクロスしてガードして受け止めその反動を利用して逆さの状態から蹴り返して距離を取る。

 

「この感覚は」

いや、まさかなと疑うが、あの異常なほどの速度の上昇は一握りの天性の肉体を持った人間くらいしか出来ない。だとすると聞き取れなかった呟きは詠唱。つまり、

 

「あんた、もしかして・・・魔術が使えるのか」

 

「ええ、あなた殺す術は別に用意してきたわ。ここからが本当の戦いよ。邪魔な人間どもの妨害を入れられる合間も作らせないわ!」

視界がぶれる、上条も必死にその速さに追いつき回避に専念する。

攻撃を止められるなら受け止め、避けられるならもっと安全な場所を見分けて移動し、避けられないなら迫る攻撃を受け流して間を取る。

 

「これならやりようがあるか。身体機能の強化か、まてよ、四肢だけ・・・か」

活路は見出した、あとは己の経験で勝利をとるだけ。迷いはない、目の前の敵を倒し方だけに全力を振り絞る。

 

 

 

 

 

 

 

 




速く動ける程度では優勢にならないあたり重ねた場数が違いますね。

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