IS学園の異端児   作:生存者

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第54話

「ふっ!」

お互いの蹴りが空中でぶつかり合う。打ち合う拳が急所を狙い何度も放たれるが避け、いなし、受け止めてしのぐ。

 

「才能かない割に随分と粘るな。これは少し手を焼くかもしれん」

足元を狙った蹴りが迫り壁に向かってバックステップで交わすが、さらに間合いを詰めて首目掛けて足が伸びていく。

 

 

「おっと」

壁に追い詰められた男だが、そのまま壁に張り付いて足が通り過ぎるのを見た途端に壁を蹴り一気に迫るとガラ空きになった顔に肘をぶつける。

 

 

「ぐっ、あんた人間かよ」

 

「この程度造作も無い。私の一族は先祖代々優秀な遺伝子を掛け合わせて作られた人間だ。そこらの偶然、平凡の中で生まれた天才もどきとは格が違うのだよ。柔術の練習などしなくて見るだけで全く同じ動きも再現できる。そこらの雑魚を一撃で仕留めることも容易い。まあ、貴様が襲撃して来た日は偶然別の仕事でいなかったが」

 

「あんたがいたところで返り討ちした。あいにくこっちは天才なんて当たり前のように相手にしてる、それに・・・本物は自慢なんかしない」

姿が消える、第六感で体を反らせることで横から来た拳なんとか避ける。

 

「遅いな、天才ならこの程度動けるだろう?」

肋骨がメキメキと悲鳴をあげる。視線をなんとか動かし状態を見ると膝蹴りが入り体が壁に衝突している。

 

「俺には守りたいものがある。あんたみたいに人を殺して遊んでる時間はない」

 

「・・・学生が正義のヒーローの真似か。お前のような厄介者が頑張ったところで意味はない。さっさと家に帰ってベットに篭ってることだ」

傷をおったことを悟らせないためか、一切表情を変えずにゆっくり起き上がりながら言い返す。

 

「俺は正義のヒーローなんかじゃない・・・ただの偽善者だ」

 

 

 

 

「はぁっ!」

ゴーレムの頭部に風穴が開き素早く離れるとその頭部から爆発が起こり内部から木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

「試合ならきつい一撃ね」

 

「あなたの一撃も十分きついですよ」

 

「これが世界トップクラスの実力か」

 

「まだまだひよっこだな、これを見ると」

ゴーレムの数は更に半分まで減り、うまく連携で立ち回れるようになっていた。防御はダリルとフォルテの鉄壁のガードで攻撃を受け流すか、ある程度まで留める。そして、楯無とアリーシャの攻撃で確実に潰す。数減っている上に攻守ともにエキスパートが揃っている為、すでにゴーレム側に勝ち目はない。

 

「あとひと息、集中して潰すわよ!」

 

「「「了解(です)」」」

残り5機まで破壊され終わるところまで来た、全員が油断もしないで一斉に攻める。しかし、ぶつかり合う直前、アリーシャはとっさに下がり全員を止める。その時アリーシャの少し前を特大レーザーが突き上げる。

 

 

「あらら、外しちゃった。せっかくいい獲物がつれそうだったのに」

 

「そう簡単に釣れないからいいんじゃないの?」

 

「そうね、私も同じような事を考えたわ」

新たに3人のISを装着した女性が出てくる。4人とも少し残念そうな顔をするが、もしかしたらと考えていたのか驚いた者はいない。口調は変わらないが緊張は解かずに臨戦体勢のまま構える。

 

 

 

「ラチがあかない。数が多すぎる」

 

「愚痴を言う前に攻撃をしてくれ」

 

「ですが」

 

「分かってる!とりあえず、ナタルの銀の福音を落とす」

イーリスの足止めに向かったゴーレムの数は偶然にも少なく、多少時間は掛けたが被害を最小限に抑えて殲滅しアリーナに入った。グラウンドに出た途端に部隊の二倍程の数のゴーレムが現れ、更にその後ろから出て来た親友のナタルから砲撃を受け苦戦を強いられていた。

 

「ゴーレムだけでも邪魔のに、ナタルの全方位攻撃で逃げるのが精一杯か」

ゴーレムの砲撃にも気を配りながら、逃げ場を塞ぐように降り注ぐレーザーとミサイルの雨を何とか避けて行く。

 

「せめて、ナタルだけでも落とす!」

スラスターに溜めを作り、先程倍速に加速して一気に迫る。ナタルもそれを感じ取ったのか回避行動に移す。性能差ではイーリスのファング・クエイクが劣っている為、逃げればナタルが捕まることはないが狭い空間なのが功を奏した。加速した状態から更にもう一度イグニッションブーストをナタルの行く方向に直感で移動して先回りすると機体ごとぶつかり壁まで押し込むと、無我夢中で拳を振るい続ける。

 

「おらぁ!」

とどめに装備していたナイフを突き刺しシールドエネルギーを完全に削り落とす。なんとか落とすだけと言う目標は達成できたが、まだゴーレムが10機以上残っている。全力で相手をして体力を消耗したイーリス。と油断したところに一機のゴーレムが迫る。避ける事を考えたがそれでは下にいるナタルを見捨てる事になる。しかし、背負って戦うにしてもまともな戦闘はできない。

 

 

「まだ、諦めるには速いですよ」

迫って来たはずのゴーレムが吹き飛び、アリーナの壁にめり込んで行った。

 

「くっそぉ、あいつの相手で時間食ったな。いくつも武器を隠してあるから手こずった」

と、手を伸ばそうすると急に下がり、真っ黒な専用機を身をつける。

 

「お前、別のアリーナに行ったはずじゃ」

 

「あ、それが邪魔が入って次第にこっち側に来ていたんですよ。今はこいつらの処理で手を焼いてますけど」

言い終わると何かを呟き体中が黒く覆われ、逸話にしか出てこない一体の竜となっていた。

 

「GAAAA!!!」

咆哮とともに翼を広げ一気に20m近く飛び上がると頭を少し引く。イーリスは何が起こるのか一瞬で判断し部隊を避難させる。そして、ゴーレムに向かって広範囲に広がるブレスが撒き散らされる。装甲には問題ないが全てのゴーレムが内側から煙を上げ落ちて行く。

 

「まさか、内側のコンピュータを熱でショートさせたのか」

逃げ切ることが出来たゴーレム二機が横に回りレーザーを何度も命中させるがダメージを負った形跡はない。更に上から押しつぶすように落下してくるも鱗の1つも取れない。

 

 

「GAA!」

ぶつかったゴーレムを長い尻尾で粉々にして吹き飛ばすと、逃げたゴーレムを追いかける。機械には出せない速さであっという間に迫り足でアリーナのバリアに押し付けると徐々に潰し、最後には地面に投げくちばしで上部全てを引きちぎり捨てるともう一度咆哮を上げて飛び上がった。

 

 

 

 

 

そこから少し離れた空中で戦闘を繰り広げていた、楯無だがふとアリーナを見るていた。

「あれ、何か聞き覚えのある声が」

 

「なんだ、楯無こんな時に幻聴で聞いたのか?」

 

「あ、まさか」

だらだらと汗を流す楯無。何かとても嫌な事でも思い出したのだろうかとフォルテは思ったが、いきなりアリーナのバリアが破壊され黒い物体が一瞬で目の前まで迫る。

 

「「「「へっ」」」」

全員が呆気にとられる。残っていたゴーレム全てが空中で粉砕され、戦闘員3人地面に叩き落とされていたからだ。

 

 

「く、一体何が・・・え」

じわじわと攻め立てていた最中、気がつけば吐血しかけるほどの強い衝撃が体中に走っていた。なんとか体を起き上がらせて上空を見上げると大きく口を開く竜が目に入り、瞬きをした時には目の前が真っ白覆われていた。

 

 

 

焼け跡からはジュワアァと溶けるような音が残り戦闘員全員が意識を失っていた。一瞬の出来事に固まったまま動けなく4人だったが一番最初に立ち直った1人が近づいていき。

 

「あ、やっぱり上条君だったのね」

その声が通じたのか、首をわずかにこちらに向けた後に幻のように真っ黒な体は消え中にいたであろう上条が出てくる。頭から少ないとはいえ流血があり、制服の一部も切れていた。しかし、何もなかったように去ろうとするのを見てフォルテはとっさに声を出す。

 

「お、おい大丈夫か、血が出てるぞ。せめて、傷をふざけ」

 

「このくらいは平気です。それよりもまだ残ったやつを」

 

 

 

「なあ」

 

「どうしたの?」

 

「これが終わったら、あいつを保健室か寮の部屋に引きずっていかないか?」

 

「「賛成」」

 

「・・・見事に揃ったわね。あの怪我じゃしょうがないかもしれないけどね」

 

「全部洗いざらい話してもらいましょうか」

いつも明るい笑顔なのだが目が笑っていなかった。たぶん、本気で連れていくだろうとアリーシャは無事を願って見送る。

 

 

「強化したとはいえこんなものか。資源の無駄遣いだな」

山積みにされたゴーレムの山。元は決して安くない資金で作られたはずの物だが、胴体、腕、脚、頭部が破壊され。その上に千冬と束は立っていた。

 

「本当だよ〜私ならもっと良いものができるのに。こんなお粗末なものをこんなに作るなんて無駄にもほどがあるよ」

 

「向こうも終わったようだな。久しぶりにいい運動になった」

 

「そうだよね〜最近は運動もあんまりしてないから、ちーちゃんの体重も・・・冗談、冗談だからそんな怖い顔しないで〜」

 

 

 

一通り邪魔だったゴーレムや戦闘員は居なくなり、まだ探していなかった塔のエレベーターに乗って最上階に向かった。扉が開くと、スコールさんに似た容姿で赤いドレスを着た女性が備え付けの椅子とテーブルにゆったりと座りコーヒーを飲んでいる。

「あら、やっと来たの?随分遅かったわね」

 

「言う割には結構リラックスしてるな。そんなに退屈してなさそうだ」

 

「そう。じゃあ、本題に入ろうかしら」

そう言うと、自分の後ろにあった直方体のにかけられた布が剥がされる。中にはモニター室で監視をしていたはずの玲奈が両手足を拘束された状態で椅子に固定されていた。

 

「実験なら専用の部屋でやってくれ、ここは学校だ」

 

「実験はとっくに終わってるわよ?ここではそうね、商品とでも言っておきましょうか」

 

「・・・実の子供を商品か。恐ろしい親もいたもんだ」

 

「貴方が私の意に反するような事がなれば何も起きないわ。玲奈にした事は貴方に打ったナノマシンと同じよ」

 

「霧島藍、ISの製造メーカーの大企業で女性社長に就任し、品質も世界でも認められるほど。他にも医療部門に電子製品まで取り扱い、新社員が行きたい企業で最近ではトップ3にいつも入るか。そんな企業の社長がIS学園に何の用だ?」

 

「決まってるじゃない、復讐よ。毎日楽しい日々だったのに、貴方のおかげで全て崩れたんだからね。まあ、その為にこの学校の子達には人質になってもらったわ。前は使えない殺し屋ばかりで金を無駄に消費したけど今回は私の手でやる事にしたのよ」

最初からそうしろよ。と思ったしまったが口には出さないで耐えた。まあ、いろんな人と会えたしいい時間だったな。未だに何人かは偶にメールのやり取りをしてたりもする。

 

「それにしてはまた金をかけたな、人件費と資源の無駄遣いだ」

 

「そうかしら?」

今日何度目か覚えてないが銃を向けられる。もはや慣れてしまった為、動揺どろか慌てるしぐさもない。

 

「ま、やる事は貴方を殺すことだけ。一度、死んだ映像を見せられた時は驚いたけど。影武者みたいだしちょうど良かったわ」

影武者に間違いないけど、死んだようもんですがね。

 

「この私が直々に始末してあげるわ。あとは標本か解剖にでも使わせてもらうから」

パンッ!と乾いた音が響く。使ったのは本物の銃、しかし空を切っただけで意味はなかった。体を僅かに軌道からずらして避けていたからだ。

 

「まあ、これなら避けられるわよね?でも、五体満足で生かすかどうかは私が決めることよ」

 

「ッ!」

慌てて構えるがすでに遅かった。一瞬で浮遊感に襲われたと思った時には足が無くなり、落下し始めていた。

 

「落とし穴かよ!」

 

「そのまま、逃すと思ったの?」

ゾクリと、寒気がする。何もないはずなのに狙われているような感覚にとっさに右手を前にかざしたのと同時にレーザーが真っ直ぐ向かってきた。

 

「どこから撃って来た。ビットも無かったはず」

右手で消しとばすと穴からそのまま外に出ると一瞬で専用機に身を包みスラスターで何度か吹かせて衝撃を減らし、地面に着地する。

 

 

「ふふ、流石ね。この程度で倒れたら困るわ。まだまだ試したい事があるから」

いつの間にかISに身を包んだ姿で外に出ていた。雨のように降り注ぐレーザーを右手で流し、フットワークを生かして避ける。一直線にしか飛ばせないのが功を奏していたのか無傷で全て避け続ける。

 

 

「武装を隠してるのか、ただ見えなくなってだけか。なら、こっちも・・・」

地面に踏み込んで一歩で10m以上進んで助走をつけると一気に30m以上飛び上がり藍の目の前に迫り

 

「ブレードを接続。射程2m」

両手から出る10本のブレードが一斉に襲う。藍はギリギリ避けて手に持ったライフルを連射しながらビットも操り上条を消し炭にしようとするが。

 

「更に10倍」

長さは20m、片手の一振りが直撃して体勢を崩す藍を追い、溶断ブレードの出力するエネルギーを利用して空中で接近する。上から左右から、もしくは腕の届く範囲になった瞬間に蹴りで吹き飛ばす。

 

 

「やるわね、長さを変えられるなんて。その武器私も欲しいわ」

 

「随分余裕があるな」

校舎の屋上で立ち藍を見上げながら話す上条。疲れも一切見えず、余力もかなり残っているように見えた。

 

「ええ、こっちにはシールドエネルギーが50万近くあるのよ。そこらへんのISが束になっても削りきる事はできないでしょね」

なるほど、どうりでさっきから余裕の笑顔が消えないわけだ。というかその大きさのISによく入ったな。

 

「確か、玲奈の専用機が5万まであったはず。自社で専用機を作ってたのか、コアはどこで調達したのか知らねえが」

 

「私も訓練して使えるようにはなったけど、あれを使ってここまで対抗できるのには驚かされたわ。でも、いつまでも保つのか楽しみ」

 

「あいにく、さっきの戦闘で半分近く使い切ったせいで保ちそうにないんだよな。その代わり」

姿が消える

 

「少しは楽しませてやる」

気づけば目の前に来ていた。拳が目の前にありそのまま、後ろに吹っ飛んでいく。体勢を整える前にブレードの推進力を使いまた近づいて右手で専用機を掴み真下に投げて叩きつける。さらにメイスを取り出して自然落下とスラスターで速度を上げ、全力で振った一撃でクレーター1つを軽々と作る。

 

「残念ね、まだ500ちょっとしか減ってないわ。頑張ってもう少し足掻いてちょうだい」

 

「少しか。分かった、少しは本気になる」

黒龍を解放すると手にはめていたグローブも外し素手の状態でいつもの喧嘩のように構える。

 

「あらあら、自分から生身の戦闘なんて自殺行為ね」

 

「年増しのあんたより動ける自身はある。それにISがなくたってあんたくらいの素人なら、俺1人で十分だ」

 

 

 

 

 

 




次回、本格的な戦闘に入ります。

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