IS学園の異端児   作:生存者

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第46話

「はぁ、やっと終わった。地獄の日々だった」

2学期なって最初のテストが終わり食堂のテーブルに突っ伏す。

 

「ギリギリ赤点は免れたな。あと2年保つか?」

 

「正直無理です。けど、なんとかするしかない」

 

「言ってる事が矛盾してる」

分かってるよ、と

 

 

『お疲れ様でした』

 

「お疲れ様。あ、上条君、ちょっと前に」

 

「え、はい」

何だろうと、前に出ると隣で笑顔になる顧問の先生。俺、何かやったか?ここ最近でやったことと言えば、ボンボンが沢山いる大会かテストのどっちか。

 

「なんと、先週の大会で見事に優勝しました!」

 

「・・ああ、あれか」

 

『えぇぇッ!!!』

すごいな、耳が潰れそう。耳栓つけていいですか?持っていませんが。

 

「いや、先生は正直勝てるとは思わなかったよ」

 

「自分もそう思ってましたよ。かなり不正があって困りましたから」

 

「不正って、もう大会じゃないような」

 

「大したものじゃ無いですよ。せいぜい審判が不利な判断を下すとか周りからずっと罵倒の嵐が来る程度で」

それ不正じゃなくて、集団のイジメじゃない?と全員が思ったがその前に解散して続きを聞きたい人はコートに残っていた。

 

 

「まあ、負けを認めてもらったらすんなり受け入れてくれましたよ。ちょっと煽ったくらいですぐに怒ったので助かりましたね」

 

「何をしたんですね?」

 

「特別なことは何もしてないですよ?1ポイント取るのにわざと30分くらい時間を掛けてヘトヘトにしてからじわじわと点差をつけて・・・」

 

「え、それならアウトのボールも全部とったの?」

 

「はい、選手宣誓をやった人と偶々当たって。最後まで諦めずに頑張ると言いましから、その言葉をしっかり果たしてもらいましたよ。男に二言はないなと言って」

 

「そ、それはいいから他には」

聞いてて相手の選手が気の毒になったのですぐに話題を変える。可哀想にと、上条は何も起こらなければ基本ミスはしない。しかも体力は底なしで心がへし折れるまで動いたんだろうと

 

「そうですね、決勝はミスジャッチが目立ったので無理にでも負けを認めさせただけです・・・使えるラケットを全部へし折って強制的に。あ、ちゃんとボールを当ててやったからルールは破ってないですよ」

この人にまともに勝てる人はほぼいないだろう。これを聞いた人は怒らせたらいけないと悟った。さらに怖かったのがそれを笑顔で話していたことだ。

 

 

その夜、就寝時間の約1時間前。寮の屋上で上条はひたすらグローブを

はめて練習に打ち込んでいた。片手から出るレーザの本数は1本、威力もお世辞でも強いとは言えない上に長さも1mが限度だ。

「ん〜上手く使えないな。元の性格とかやり方が違うせいか、使える武器が増えるのも問題か・・・ん?」

誰かに見られた気配がし振り返るが誰もいない。

 

「おかしいな視線は感じたのに。しかも、何だろう寒気が・・・今日はもうやめておくか」

レーザの止めてしまい、部屋に戻るがどうも屋上での寒気が気になっていた。初めて浴びたものではなく一回何処かで感じたことのあるものだった。

 

「警備だってそう、薄くないしそうそう入って来れるような場所ないはず。気のせいか?」

 

 

「あ、今日もお疲れ様です」

 

「ありがとう、上条君。急に仕事が増えたせいで疲れが溜まってしょうがないから助かるわ」

部屋に戻ると死んだように倒れこんでいる楯無さんがいた。まあ、その仕事のほとんどはマドカがISの訓練で、強奪されたはずの専用機。サイレント・ゼフィルスを使った事がきっかけだった。それはもうセシリアは怒り出し暴れ掛け。おまけに何処から漏れたのか情報がイギリスに渡り、返せだの、それは私達の物だと抗議が山のように来ていたのだ。持っている本人は、そんなの知らんと抗議文を破き捨てていたが。

 

「それは私の国の専用機ですわ。返すのが当然の義務です!」

 

「何言ってるの?そんなに大切なものを簡単に取られるような国に返すほうが、よっぼど不安なんだけど」

 

「な、なんですって!?」

 

「そうだよね、お兄ちゃん」

 

「俺に言わないでくれマドカ」

授業中に喧嘩がぼっぱつするなど困った事が起きてしまう。強奪されたものを奪った本人は追求されたら逃げられそうにないので口出しはしないが。

 

「はぁ、にしても気持ちいいわ。私専属のマッサージ師にならない?」

あまりにも疲れていそうだったのでうつ伏せのままの状態でマッサージを始める。しばらくして、ふざけた質問が飛んで来来たが、

 

「結構です」

即答する。元からそのつもりでやってるわけじゃない、よく言えばサービスみたいなものだ。

 

「上条君にフラれた。お姉さんは悲しいよ〜」

明らかに嘘泣きだったのでスルーして続ける。

 

「はふ〜キャノンボール・ファストの準備も並行してやるから疲れるわ。本当に出ないの?」

 

「出ませんよ。むしろ、出れませんから」

 

「あらら、じゃあ応援お願いね」

 

「応援しなくても勝てるきがしますけどね」

その後も気がすむまで続けると、すうすうと静かな寝息を立てて眠ってしまったので毛布を掛けておいた。

 

「ふぅ、疲れた。・・・静かしにしていれば可愛い女の子みたいな感じなんけどな。少しイタズラが多いのが困るくらいか」

 

「そろそろ俺も寝るか、少し早いけど問題はないし。おやすみなさい」

部屋の電気を消し速やかに夢の中に入った。少しずつ追いつけなくなる勉強と妙なくらいにみんなから期待される部活を繰り返して日を過ごしているうちにキャノンボール・ファストの開催日も近づいてきた。

 

 

ある朝、朝練も終わり教室とは逆方向にあるアリーナのロッカーで着替えをしている人影があった。

「ん〜あと2日で開催か。準備の手伝いを部活でも借り出されるし、そんなに大掛かりな行事なのか」

 

「ま、久しぶりの楽しい行事だ。楽しまないと損だな、出れないのが辛いんだが」

ん、電話?こんな朝早くに誰だ?と思った見慣れた番号だったのでそのまま出てしまった。

 

 

 

 

 

「お、おはよう。はあはあギリギリセーフだ」

 

「ああ、確かにギリギリだな」

 

「え、千冬姉いつの間に・・ゴフッ」

振りかぶった出席簿が脳天に直撃する。未だにその痛みに慣れないのか頭を抱える。

 

「織斑先生と呼べ。あと。いつまで立っている早く席につけ。HRをはじめる」

そう言って教室を一通り見渡すと1人いないことに気づいた。

 

「誰か上条から欠席の連絡を受けているものはいるか」

 

「いないか。また遅刻だろう、来たら休み時間にでも私のところに来いと伝えてくれ。あと、キャノンボール・ファストの当日だかわたしは急な用事が入ってここにはいない。したがって山田先生の指示に従ってくれ」

結局、その日は一度も教室に姿を見せることはなかった。

 

 

「おかしい、一日中来ないなんて今までなかったのに」

 

「お嬢様。心配するのは分かりますが今はこちらの仕事に集中してください」

 

「分かってるわ。ただ、変だと思うのよ。今まで数分の遅刻はよくあったのに、急にいなくなるのよ」

 

「確かに保健室にも来ていないようです。もしかすると、この島にいないのでは?」

 

「それはあり得ないわ。さっき唯一本土と繋がってるモノレールのカメラを見たけどそれらしい人は誰も写ってないし。まず、ここから出る時点で警備員に見つかってるはず」

 

「・・でもいない時間帯があったような」

 

「あ、そうよ。朝一回だけいない時間帯がある。けど、無理ね。その時間には授業が始まるし」

 

「お嬢様、その時間に一度だけ外部からアクセスがあり機器が故障した報告がありました』

 

「故障?まさか外部からハッキングされたとか」

 

「はい、大したものではなく警備員でも直せたようですが、10分程目を離していたようです。その隙に出て行ったのかと」

しかしと考える、校門を抜けられたところで島を出る方法はほぼない。なのに、カメラに一切写っていない。何処かしらに見えるはずだが、朝から全く目撃者もいない。

 

「お姉ちゃん、電話はどうなの?」

 

「それが海岸沿いに捨ててあって最後の履歴は削除済み。足取りは掴めないで手詰まり」

ずっと悩んでいたが時間が過ぎただけで全く進展はなかった。学校から出て行った方法、それからこの島を離れる方法。大雑把に見つける事は出来たがどちらも明確な方法が分からずその日は終わった。

 

次の日も上条は来なかった。さすがに不信感を持った教師が両親に電話を掛けたが家にすら帰っていない。部屋の確認もするが全く、見つかる気配もなく3日が経った。

 

 

いつもの賑やかな1組のクラスも静まり返っていた。織斑千冬はすでに学校を出て本土に行くモノレールに乗っている時間だろう。あと1時間もすれば開会式が始まり選手宣誓のあと各国から来た来賓の人が来客席に着くだろう。

 

「まやや先生〜今日も来てないんですか〜」

 

「はい、今日もいないようです。島中を探しましたが見つからないようですし、でも心配しないで下さい。本土にも捜索願いを出しているので数日で見つかるはずです。元気を出して頑張りましょう」

頑張って無理に盛り上げようとするが中々気分が上がらない。

 

「うぅあと、少しでアリーナに集合なので移動は早めにお願いしますね」

ちょっと涙目になりながらも頑張って絞り出すようにいう山田先生。これだけ見ると、元日本代表候補まで行った人とは思えない。

 

 

 

「チッ助け出すのが遅れちまった。・・負荷が以上に掛かってる状態の全速力で間に合うか・・」

 

 

 

先に生徒のみでの開会式を始めることなっていたため全員が体育館に集合していた。お客さんが来たらまた後で紹介とありがたい話を聞くそうだ。しかし、予定時間に近づいて来たと言うのに誰1人教師がいなかった。

「なんか何時もより静かだな」

 

「1人欠けたくらいで落ち込むなんて相当弱い心なんだね」

 

「おい、言い過ぎだマドカ」

少し言い過ぎなところが多いの妹に手を焼く、どう育ったのか素でやってしまっているのが困った部分だ。

 

「にしても遅いね。すぐに始まると思ったのに」

 

「そうだな」

 

「ねぇ、一夏。この体育館の中に少し変な感じがしない?」

 

「私も思う。何もない後ろの方から殺気を感じる」

 

「・・・やっぱりか、入った時には気づいた。それなら用心しておこう、出た瞬間に対応出来るようにな。セシリアにも伝えてくれ」

 

「分かった」

シャルロットは頷き少し離れたセシリアにも声をかけた、その時

 

「おはよう、IS学園の生徒のみなさん」

軽やかに現れる女性、しかしその手に拳銃が握られ人質がいなければ何も気にしなかったが。ガチャリ、専用機持ち全員が一斉に武器を構える。その相手はもちろん目の前に来た女にだが。

 

「物騒な人達ですね。でも、これを見て同じ態度が取れるかな」

指を鳴らすと、何もなかった体育館の壁がから一斉に武装した男達が現れる。

 

「光学迷彩、そんなのがもうあるのか」

マドカはさらにビットだけを出し照準を向ける。

 

「おいおい、動くなと言ってるはずだ間違って手が滑るだろう。他にもいることを分からないの?」

ステージの両端、さらに体育館の出入り口から2人ずつ人質に銃を突きつけ入ってくる。道理で遅いわけだ、脅されて銃突きつけられれば誰だって降伏するよ。多分あいつはやらないな、俺も1対1なら降伏なんかするつもりはない。けど、これだけいれば話は変わる、適当に撃っても怪我人は出るくらいに人が密集しているからな。

 

「ラウラ、降ろせ。ここで撃ったところで死人が出る」

 

「しかし、兄上。降ろしても助かる可能性は」

 

「死にはしないさ。問題は非人道的な扱いをされるか人として扱われるかだ」

 

「うんうん、偉いね。状況が飲み込める子は好きよ。ほらほら、 他の人も見習わないと」

わざとらしく、感情を煽るいいだ。楯無さんにケイシー先輩とフォルテ先輩も武器を降ろしている。

 

「いい子いい子。じゃあ、織斑一夏君。君にこの状況から逃げる選択肢をあげるよ」

 

「私のいう勝負に挑戦するか、それともそこの出来損ないの秋十君を生贄に捧げるか。どっちがいいかな?」

生贄。いや、あいつの言い方だと解剖でもして男性適性者の秘密でも調べるつもりか。家族としてはいやな奴とは思った事は何度もあるし嫉妬した事もある。けど、そんな気持ちでやる事を変えるのは千冬姉にもみんなにも顔向けできない。

 

「分かった。その勝負・・受ける」

 

「流石ね、織斑千冬の弟さん。気持ちの強さが違うわ」

歪みきった笑顔で見てくるが動じない。やるのは恐怖する事じゃないみんなを守る事だから。

 

 

「はぁはぁ、死ぬ。くそ、ここから正念場だってのに相当体力を使ったな。まあ、あとはあいつをぶっ飛ばせば終わりだと思うけど、嫌な予感がしてしょうがない」

 

 

 

一夏は首謀者の女に連れられアリーナまで来ていた。目的は公開処刑のような勝負だが、わざわざ中継までして全校に流している。

「ルールは簡単。加勢なし、武器は幾つでも使っていいわ。それでここにいるゴーレムを10体倒してもらえればあなたの勝ち。人質になってる教師は、解放してあげる」

 

「解放しても、逃してはくれないと」

 

「逃がすわけないでしょ。目の前にとっておきの実験材料がいるのに」

何かに飢えたような目つきと舌舐めずりで背中を寒気が止まらないが、いまそんな事はどうでもいい。やる事は1つ、鉄塊を10個作ればいい。問題はゴーレムの性能がどれだけあるかだ。取り出したのは最も手に馴染んでいる雪片を出す。ISの絶対防御は使えない、つまり相手を攻撃を受けるのは論外、射撃を含めた物理攻撃を受けずにゴーレムを排除する以外の方法はない。

 

 

「準備はいいようね。じゃあ、はじめ♪」

1学期のクラス代表戦を思い出させるようにか、天井のバリアを突き破って10体ゴーレムが姿を現わす。合図はない、役者が登場したその音が合図なのだから。

 

 

 

 

 

 

 




次回、ゴーレムVS一夏です。では、また

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