久しぶりにIS学園に戻ってきた上条だがほとんど静かに出来る日はなかった。
いつものトレーニングで外を走っていると急に声かけられ、連れて行かれる。体育館まで来くなり、バレー部の顧問からサーブの練習相手になってくれないかと頼まれる。その後、慣れないトスにスパイクまで練習する事になった。
さらに次の日、トレーニングルームで軽く運動をしている時。偶然、練習メニューで筋トレが入っていたレスリング部の先輩達に手合わせの相手を頼まれる。個人的には、無理です。と即答したかった。しかし、
「今のこの子達相手に優勢になれるのは同じ部員か上条君しかいないからお願い」
と頼まれるが全身を使ってやる上に男女でやっていいものなのかと考えてしまう。
「あ、練習なら男女関係なくやっていいから」
「あのですね、いくら良いと言われても色々と問題が」
「ほら、男の子なんだからしのごの言わないで早くやる」
結局押し切られてやる事に、しかも相手は全国でも名が知れているくらいの実力がある人が多い。とりあえず、変なところには触らないように注意しよう。なんだっけ、円から出すか背中に回るかなんかすればいいの?
「じゃあ、その・・お願いします」
いままで鍛えた腕力と脚力、ついでに無駄にある体感で何とかついていけた。まず経験の差があったり、才能とか技術があるのに優勢なんてそうそう取れる訳ないだろ。何とかなったけど
「疲れた〜いくら小さい円の中で動くだけとは言え辛い」
「おーい上条。暇か?」
ユニフォーム姿で近寄って来る、ダリルさんに上条は何だろうと考えるがレスリング部の手伝いは午前だけでいいと言われてたので暇といえば暇だった。
「あ、ダリルさん。まあ、暇といえば暇になりますけど」
「じゃあ、これ被ってすぐに来てくれ」
「は!えっあの、カツラですよこれ。何をするですか?」
「女子同士の試合に男子なんか混ぜられないからな。女装して入ってくれ」
あれだな、要するに女装して試合に出てくれって事かなるほど。いやいやふざけんな、そんなの簡単にバレて、
「なんで、バレないんだよ。恥ずかしいから早く着替えたい」
普通に入れた。部活の手伝いなんかをしていたお陰で大半の人には受け入れられてるし。困った事に同じクラスの人もいるから気まずい。
スコアは23対50まあ強いところなら普通にこのくらいは点数を稼げるだろうが、全国まで行けるような実力があるこの学園に相手にそんな事をやれる高校は数が限られるし、もう1つあるとすれば・・・
「ほら、頑張ってこい。お前が男だって分かるのは私達くらいなんだ、間違って前みたいなプレーはやめてくれ」
「分かりました。ただ、なんでこんなムキになってるのか教えて下さいよ」
分かった分かった。と軽く流されるが、終わらないと聞けそうにないので中の人と交代で入る。予想どうり、交代した人の手足にはあざが出来ていた。
「すいません、ちょっとお話があるんですけどいいですか?」
「ちっこいのが入って来たな、身長は170ないくらいか」
「けど、いきなり変えるなんて相当なやつだよ?」
「まあ、やることは変わらない。どんなに強いやつだって万全に動けないやつが最高のプレーなんかできる訳ないんだからな」
試合が再開される。現在は第3Qの始まり、点差を縮めてなおかつ味方に怪我をさせない。かなり無茶だが、やり甲斐はある。
「え、いくらなんでもそれは危険よ。ゴール下が1番ラフプレーが酷いんだから」
「ラフプレーくらいならどうにかします。先輩達が外しても必ず入れますよ。けど、その前にボールを回してくれませんか?まずは、壊し甲斐のあるものだと思わせないといけませんから」
妙に含みのある言い方に、4人は驚くが実力と人望ともに信用するに値するくらいにはある。最初の5分で結果を出してくれと頼まれる。内心10分丸々使ってやる方がいいじゃないか?と思うが先輩からの言葉を守らないわけには行かない。
とりあえずパスを受け攻めようとするがあっさりと守りが固まりおまけに身長が自分より少し高い人がディフェンスに入ってくる。
「お前がどんなやつかは知らないが、ポイントガードすぐになんてやるくらいだ。それくらいの実力はあるんだろうな」
「いやいや、そんな過大評価される程つよくありません」
左に軽いフェイントを入れ右に抜けようするが追いつかれる。相手も余裕の顔で来るが上条の無表情に寒気がする。シュート体制入る、先に落とすために構えているボールをとるために手を伸ばすがその前にターンされる。
「は、ちょっと待てどこ向いて」
ターンした上条が向いていたのは自陣のゴールだが、後ろ向きのまま背面跳びのように飛び上がるとゴールに背を向けたままシュートを打つ。
外れると思った。動揺させるために変なシュートを放ったと。しかし、その本人は何もゴールを見ずに戻っていく。それと同時にゴールリングをそのボールが通過していた。
「「「「「「「「「えぇぇ〜!!!!!」」」」」」」」」
敵味方関係なく驚く、しかもコート外で見る人は驚きすぎて声が出ない。その中には動画を撮ってる人までいた。
どうなってるんだよ、ゴールを見ないで背面シュートとか人間技じゃねぇ。
「あいつ何者だよ。早く行け。カウンターだ」
1人が走り出すと同時にそれを取れる程度の速度でボールを投げる。先輩も必死で手を伸ばすが取れない、先に走り出した人が取るとそのままの速度のままに走り続け。ゴールに向かうが先に戻っていた上条がゴール前で門番のように立ちふさがる。
「早いな、落ち着こう」
目の前まで相手が迫っている状態で深呼吸をしている。すぐに抜くと真横を通り過ぎ、そのままシュートに入る。だが、ボールが手から離れたところでボールがいきなり軌道を変える。バンッ!とバックボードにぶつかり跳ね返る。いつの間にか自分の手では無い3つ目の手が伸びていた。落ちたボールは味方の1人が取りそのまま攻めに入る。
「お前、いつから」
「飛んだ瞬間に後ろにいましたよ」
ようやく目をつけられ内心ホッとする、その後もわざとぶつかって決める、倒れながら、ゴール裏から、相手の股の間から上に投げて。まともな方法で一度も入れず攻め続けた。
あ、5分経ったな。そろそろ戻るか。ポジションを変わってもらい今度はただの餌役になる。
「なんだ、潰されに来たのか?」
「潰す?あ、そういう事ですか」
「遊びは終わりだ。お前は潰す」
「はは、やるだけやってください」
これだけ言っても、全く怖がる様子を見えない。まあ、やればその面は変わるだろと思ったが変わらない。言って早々、シュートがリバンドを取ろうと飛び上がろうとするが2人で隠すように立ちはだかり、動かないよう、足を踏もうとするがギリギリで外れ失敗。今度は審判から見えない隠れた方の腕で肘を思いっきりわき腹に入れようとするが当たる直前に前に動かれ避けられる。だが、力を込めて振ったせいで味方に当たり怪我をさせる事になる。
「ぐっ。おい、しっかり当てろ」
「すまん。でもあいつ、やられる事を前提に動いてやがる」
全く考えていることが分からない。そんな相手の怖さが2人をざわつかせる。しかし、この2人は最後に地獄をみた。残り数秒、相手が外したボールをリバンドしようと飛び上がろう準備はする、しかしそれはただの見せかけ。文字どうりそれに引っかかり肘をぶつけようと振り始めている。それを見ると反対側にいたもう1人をわざと自分に近づけるように動いて片足が浮いた瞬間に反対に切り返し飛んだ時、足が引っかかり片方の人が足をすくわれ倒れる。だが、不運にも振った肘がその人の頭に直撃した。
「おいおい、ラフプレーの返すなんて何者だよ」
結局怪我をした人は休憩後。交代で新しく人が来たが困った事にボールを持つとかなりの確率で2人も来るので全くシュートは打たなかった。最後の時間はただパスを回すだけ、かなり変則的なものだったが。
軽くシュートの為に飛んで、相手も飛んで来るので横にいた味方気づいて背後までボールを持っていき肘で飛ばしてパスを出す。
常に周りに1人はパスを受けられる人に来てもらい体を横に大きく振り、相手の足が大きく開いた時に股の間を通してパスを通す。
パスの要求が聞こえた方向を見ながら、フリーになった見えない方向にいる人にパスを出すなど予想のつかないはた迷惑な行動をとった。
「こいつ、本当に人間かよ」
時々、文句が出て来るが無視してやり続ける。最後の数秒で味方からパスを受け自陣のゴール下から反対側のゴールに入れて終わった。
流石に気まずいので帰る時に正体は明かしたが結構驚かれた。人によっては殴りかかって来た。まあ、騙した罰として大人しく受けとったが。
「そう言えばなんで、俺を入れたんですか?」
「その、あれだ。うちはそこそこ強いけど、それ以上には行かなくてな、練習試合なんかもまともに出来ないんだよ。他の高校は簡単に移動して出来るけど。こんな場所でそんな簡単に練習試合も出来ないんだよ」
「そうなんですか」
「設備がある割に結果があんまり出ない。これが1つ原因だ、じゃあまた機会があったら頼んだぞ」
「もう、女装だけは嫌ですからね」
「ははは、もうやらないよ。・・・・・今度は別の方法でやってみるか」
最後のボソッと呟いた言葉に嫌な予感がしたが、気にしないで流す事にした。午前はレスリング、午後はバスケ部と中々にきつい一日だった。自室のシャワーで汗を流すと、部活の実績があまりないのが気になり事務室前まで歩いて来た。中学でも大体ここに置かれていたので何かあるのかと探している。
「ここだと、実績も電子掲示板に書かれるのか。なんか寂しいな、トロフィーとかを置いた方がもっと見栄えが良くなりそうなんだけど」
「そんなに置きたいなら自分で取ったらどうだ?」
「あ、こんばんわ織斑先生」
「聞いたぞ、女装して試合に出たそうだな。相手校の心をボロボロにして終わったそうだが」
「あれは、ケイシーさんに出てくれって頼まれてしまいまして」
「それだけの物があって何もしないのか。才能の無駄遣いのようにしか思えないが」
「才能なんて使い方は自由だと思いますよ。俺にはそんな大そうなものはありません」
そう残し歩き去っていく。それを確認すると聞こえないように
「お前らしい言葉だ。まあ、何処に行こうが自由だ、私が口出しすることでもないか」
「体が痛い。あの無茶な日程で部活をやったせいか?」
どんなに疲れてもいつも同じ時刻に目が覚める。しかし、昨日の動きすぎた反動が朝になって筋肉痛として出て来る。
「使ったことのない、変な所を動かしたせいか?痛て、今日はゆっくりやるか。昨日と同じくらいの運動なんかしたら、明日は動けなくなるかも」
顔を洗い着替える、毎日の癖で走り始めて1時間ほど経ち足を止める。また、誰か来るのか?と周りを少し見てしまう。こんな夏場の早朝に歩いている人はいないので足音一つすら聞こえなかったが
「今日は何するか。最近全く整備してなかったISの調子でも見て来るか」
食堂で朝食を済ませると、アリーナの一角にある整備室まで歩いて来る。
「少し走行が凹んでるな。戻しておくか、あとは武装が1つ完全ぶっ壊れてたから直しておかないと。ついでに重火器とかはどうしよう、入れたのはいいけど全く使ってないし・・・いつかは使うよな」
一通り本体に触れながら調子を確かめて行く。武装に限っては沢山あるせいで整理に困るが、取り出して確認していく必要はないのですぐに終わった。
「ん〜こんなもんか。そんなに使う機会はないと思うけど、手入れはして置いて損はないから。よし終わりと」
ってなんかすごく背後から視線を感じる。入り口のドアには数人の同級生と部長らしき人が2人程立っている。落ち着けるのはここまでかと、考え立ち上がる。案の定、部活の勧誘と手伝いをお願いされたりしてしまい夜までゆっくりする時間もなくなっていた。
「案外、忙しいくらいが俺はいいのかもな」
一体武装がいくつあるのか気になりますね。自分でもいくつあるのか分かりませんが