「えっと忘れ物はないよね。オシャレもしたし問題ないよね」
上条と約束した駅前で待っている彼女の名前は鳴護アリサ。上条が”前の世界”にいた時にはとある少女と同化し自分の肉体を持たないものとなったが現在はこの世界で前と同じく歌手を目指して日々奮闘しながら楽しく毎日を過ごしている。
「ちょっと君かわいいね、俺たちと一緒に遊びに行かない?」
まあ、容姿も顔立ちも良く明るい性格の為、度々声かけられる。彼女のことを性的に見ているような人間からも・・・
「わ、私はある人と約束があるので・・・」
「いいじゃん、女を待たせるような奴よりも俺たちな」
粘着質が強く一向に離れない不良に困り始めた。しかもその男達が囲うように立っている為、意図的なのか周りから見えづらくしている。
「ほら、行こうぜ」
その時、一番近くにいた不良が手を伸ばしてくる。手を取られたら確実に連れて行かれる。そう感じとり慌てて下がるがすぐに何かがに背中がぶつかり、逃げられない。とそう思ったが優しく受け止められたのに違和感を感じ振り返った。
「おっと、アリサ。遅れてごめんな」
「え、当麻君?!」
いつの間にか後ろに現れ受け止められていた。
「ほら、危ないぞ。しっかり前を見ないと」
「ん〜元は当麻君が遅れてくるからでしょ」
「すまん、向こうで道に迷ってた叔母さんの案内しててな」
いつも通り人助けで遅れて来た事に苦笑するが、それをよしとしない不良が話に割って入ろうとする。
「おい、そこのお前。すまねえがそいつは俺たちと一緒に行くんだ、痛い目にあいたくなきゃさっさと帰りな」
ごそごそとポケットの中に入れてあったコンバットナイフやらメリケンサックを取り出す。殺す気は無いだろうがボロボロになるまでいたぶるつもりだろう。
「はぁ、怪我をしてもしらねぇぞ」
一応忠告だけはするがそれが堪に触ったのかいきなり飛び出してくる。
結局、相手はにならず全員の鳩尾に拳を叩き込んで何もなかったように駅の中に入って行った。
電車くるまで時間があるのかホームで待っていた。
「こうやって何処かに行くのも久しぶりだな」
「私もそうだけど当麻君はもっと忙しいからね」
「まあ、最近じゃ水着を買いに行くくらいだったし本格的に休めるのは今日からだな」
そんな話をするうちに電車はホームに入って来たので乗ったところまではいいが電車内はかなり混雑している。
「結構混んでるな」
「そうだね、ほとんどの学校も休みに入ってるし、混みやすい時間帯だから」
「ん?アリサって電車通学だっけ?」
「雨の日はほとんどかな。それ以外の時は自転車で行ってるから」
「そうか、藍花学園だもんな。俺もそっちの方に行くはずだったけどな、色々あってIS学園になったし」
「大ニュースになってもんね」
「ほんとだよ。次の日にはあの2人からリア充死ね!とか急に言われるし参ったよ」
「土御門君と青髮ピアス君?だよね。あの2人なら確か最後の補習をやってたはず・・・」
「ああ、そういう事か。昨日からずっと補習が辛いって愚痴がメールで届いてるから何事かと思ったよ」
思わず苦笑するアリサだが、いきなり人がぶつかり悲鳴が出そうになるが、上条に抱きしめられるような形で支えられていた。しかも、押されたおかげか扉の前まで来ていたのでアリサとの間を少しだけ空けて上条が盾になるように通路に背を向けた。
「これで少しは楽になったはず」
「あ、うん。・・ありがとう」
ポッと頬が赤くなったアリサに上条は首をかしげる。普段から無意識に同じようなことをしているので気づかないが、特に困っているわけでも無さそうだった。
「まだ駅には着かないか。意外と長いな」
「ごめん、わざわざ疲れてる時に呼んじゃって」
「気にするな、俺も好きでついて来てんだから」
いつもの笑顔が現れ、安心したのか視線を下ろしたがちょうどその人混みの先に堂々と歩いている女性が目に止まった。
「?どうしたアリサ、ボーッとして」
「え、あ。ちょっと気になった人がいて・・・」
「気になった人ね、もしかして女性か?」
「うん、そうだけど。よく分かったね」
「なんとなくだけどな。どうせ、男性の人混みの中を優雅に歩いてるんだろ。さっきより押しが強くなってるし」
確かに先程よりも壁際による人が多くなっている事に気付く、しかし、背の低いアリサでは背伸びをして少し見えるくらいなのでしっかりと見る事は出来ない。
「貴方」
急に声が電車内に響く。先程、アリサの言っていた女性の声だろうと思いスルーしておく。
「そこ貴方」
更に重ねて言ってくるが、興味がないので開閉扉の窓から外を眺め始め、自分には関係ないと思い景色を楽しんでいると
「ツンツン頭の貴方よ」
不運にも自分の髪型で呼ばれてしまう。目の前にいるアリサにも、小声でさすがに何か言った方がいいよと言われ、かなり詰まり動きづらかったが何とか首だけを動かし振り返る。それに応じるように指をこちらに向けている女性も満足気に笑顔を見える。
「良い心がけね」
「何がですか?」
「最近の男は女の盾にしかなりませんもの」
「むっ・・・」
女性の煽りにアリサが口を出しそうになるが頭を軽く撫で落ち着かせる。
「精々捨てられないようにするのね」
「ご忠告どうも。あと用が済んだらさっさと戻ってくれませんか?貴方のせいでこっちは大変なんですが」
「はぁっ!」
「言い方を変えます。迷惑なんで早く帰ってください」
「女の私に逆らうつもり?」
「全ての女性が偉いなんて誰が決めた?テメェのいい加減な行動に付き合わされるこっちの気持ちにもなれ」
思った事をばんばん言い始め、女性もさすがにイライラし始めたのか先程の作り笑顔が消え口角がつり上がっている。
「ISも使えないくせに偉そうに五月蝿いわね、これだから男は」
「使えるぞ」
「何か言った?」
「だから、使えるって言ってるだろ」
面倒くさそうにポケットから出したのは生徒だ。しかも、世界に3枚しか存在しないIS学園の男性の生徒手帳だ。
「これで満足か」
いい加減この体勢を変えたいのか吐き捨てるように言う。
「し、証拠は?」
「なんの?」
「貴方がISを動かせる証拠よ!」
「これでも十分だと思うんですけどね」
周りの人も頷いたり、小声だが賛成意見が出ているのが聞こえて来る。しかし、まだ納得が行かないのかこんなところでISを動かせとまで言い始める。こんな狭い車内で使えるわけないだろうと思ったが、専用機自体を整備室に置いてきたので展開する事はまず不可能だった。
「あ、あらどうしたの。さっきの威勢が何処かに行ったのかしら?」
相変わらず引き攣った顔で煽る女性だが、何も話そうとしない事をいい事にどんどんその発言がエスカレートする。
「ふん、まともな証拠もないのによく私に喧嘩をふっかけて来たわね」
「うるせえよ」
「何か言った?」
「みんなが迷惑してんだから黙ってろ」
「また、新しい言い訳でも思いついたの?」
「あんたのわがままを聞くのに飽きたんだよ。何も分かってないあまちゃん」
先程まで繕っていた顔が一瞬で崩壊する。それと同時に溜め込んでいたかのように声が出る。
「あまちゃんですって!人を散々コケにして・・・」
「てメェさっきからISをファッションか何かと勘違いしてんじゃねえか?あれはただの兵器だ、簡単に人を殺せるような兵器だよ。それを軽々と口にして一体何様のつもりだ」
「あんたこそ!年上に向かって敬語なしで話すなんて随分とでかい態度なんてするんじゃないわよ!これでも女優やってる私に敬意もないわけ?!」
「知らねえよ。大体あんたに興味なんてない。それにテメェみたいな女尊男卑の風潮に染まって、勝手に自分が偉いと考えてるやつがたくさんいて迷惑なんだよ」
「自分達の気分で人の人生まで全部狂わせるのがそんな楽しいのか?女性の中には真っ当に生きてる奴もいる、けどお前みたいな”女だから”、”ISを使えるのは女だけだ”って一言で、なんでも正当化するやつが多いせいで関係のない人間を巻き込んでるんだぞ」
「それのどこに何か問題あるのかしら?これでもIS学園を卒業した人間なんだけど?先輩にたいして何か言う事はないかしら?」
「肩書きだけ言われても俺はなんて反応すればいいんだ?どうせただ入って卒業したそんだけだろ。特に何か出来わけでもなく結果を残すことも出来ずに出て来た、所詮はその程度なんだろ?女優なんてやってるくらいなんだしな」
「うぐっ」
「ただISに触れた、動かした。そんなのは俺みたいな馬鹿にだって出来る。兵器としての恐ろしさを普通なら分かってるはずだ。なのに何でそんな簡単な事も理解出来ないんだ先輩?」
「ッこいつ!」
散々に言われ頭に血が上ったのか手を上げて迫ってくる。しかし、目の前まで来て急にピタリと止まる。さすがに自分の立場を冷静になって考える事が出来るようになったのだろうか、悔しそうにしているのが見える。ちょうど駅に着きそのまま降りていく。去り際に思いっきり睨んで来たが、それも虚しく騒ぎを聞きつけた駅員に連れていかかた。
「全く、あの類の人が多くて困るな」
「冤罪を掛けられる可能性もあったのによう言えたね」
「俺は何もしてないし、後ろめたい事は何も無いからな。多少、口が悪いのは不良学生とでも思ってくれればいいさ」
最悪脅されても黙らせればいいと付け足して言う上条に思わず苦笑してしまう。
「じゃあ、あとは楽しむか」
それからしばらくして駅で降りる、時間もいい頃になり空いている店も人も多くなっていた。
「どうする、ゲーセンでも行くか?」
「そうだね、今からショッピンモールの中を走って行く程急ぐこともないし。当麻君に頑張ってもらおうかな」
「頼むから期待しないでくれ」
満面の笑みで期待されるが、どう頑張っても期待に応えられる気がしないのでとりあえず返しておく。
「ねぇ、お姉ちゃん。いつまで追いかけるの?」
上条達がいる僅か2m後ろの柱に水色髪をした2人の姉妹が隠れていた。
「もちろん、家まで」
「・・・それなら、わざわざ尾行みたいな事をしなくても」
「どうせなら、盗聴器でも付けておけば良かったかも」
「それは完全な犯罪者になるけど」
「だってあんなに仲が良いんだよ!気になるでしょ」
「気になるけど限度がある・・」
「大丈夫よ。警備と言えば問題ないわ」
「ISなしでお姉ちゃんを倒せるくらいだしむしろ要らないと思うよ」
「それは言わないでよ〜私も思い出したくない記憶だからー」
そんなやり取りをしている間に移動し始めた上条を見てとっさに動き出す楯無に簪も振り回されながらもついて行く。
上条達が向かったのは歩いて5分程度で着くショッピングモールだった。中にある店舗の数も多く休日になると毎回混雑するほど人気がある。上条はその内にあるゲームセンターにアリサと一緒に訪れていた。
「前よりも結構変わってるな」
「前って言うけど半年くらい来てないから、何とも言えないよ」
「そうだな、あの時は色々あったししょうがないか」
フラフラと中を歩いている内に着いた所はクレーンゲームが多く配置されていた。
「内容はISのフィギアか、こんなの欲しがる奴なんているのかな」
「結構いるよ。中にはファンの人もいるし列が出来る時もあるから」
「ふーん、まあ俺は要らないかな。アリサは欲しいものとかあるのか?」
「んーやっぱり、当麻君をマネージャーとして貰いたいかなーなんて」
「冗談でもやめてくれ。俺じゃ迷惑を掛けちまうよ」
「これでも本心なんだよ。どんな時でも助けに来てくれるし、相談にも真剣に乗ってくれるから」
さすがにそこまで言われると照れ臭いのか頭を掻く。
「ありがとな、考えておく」
さらに奥に入って行くと列が出来ているクレーンゲームを見つけ商品が気になるのか並んで順番を待っているといつの間にか自分の番になっていた。
「やっぱり、織斑千冬さんのフィギアか」
「そんなに人気なのか?」
「そうだよ。現役を引退したけど、美人だし男女関係なく人気だよ」
「そうなのか、担任だからいつも会ってるし凄い人なのか分からないんだよな」
「えっ!そうなの?」
「まあ、男子は全員同じ組だし。まとめたのかな、男が来ただけで校内が騒がしい日が続いたからな」
「それは大変だね・・・」
そんな話をしながら上条も一回くらいは挑戦する事にした。人気が高くやる人数も多いのか1人一回ずつと言うのが暗黙のルールのような事になっていた。
「ダメもとだしいいか」
「当麻君、これ得意なの?」
「いや、偶然だと思う」
何気なくやった所、まさかの一回で取れてしまった。よく見ると遠くで店員さんが少し涙を流しているのも見える。
「どうするか、アリサ欲しいか?」
「え、いいの?」
「持ってても邪魔だし、絶対に勘違いされそうだからな」
「ありがとう」
「・・んじゃ、他のところも回るか」
しばらく、時間を潰すために回りながら遊んでみたが、クレーンゲームではほぼ100%の確率で商品を取って店員に目をつけられたり、その他音ゲーやシューティングゲームでも高得点を叩き出してしまったりと騒がしくしていた。
「まさか店員から、もうやめて下さいなんて言われるとは思わなかったな」
「当麻君がやり過ぎなの」
「いやーどうしても熱中すると止まらなくなるんだよ。まあ、十分楽しめたしいいんだけどな」
軽く笑いながら移動する。よく見ると上条はアリサと手を握っているが、これは元々アリサから頼まれてやっているため上条は普通だが、アリサは顔を赤くしながら歩いている。
「・・・楽しそうだな〜」
「ダメよかんちゃん。気をしっかり」
あとを追っていた簪が上条の方へとふらふらと歩き始めたのを慌てて止める楯無だが、正直自分も行きたいがアリサとの関係を把握したいので必死に押さえる。
「だって久しぶりに来たのに何も楽しめないんだもん」
「私もかんちゃんと久しぶりに遊びたいけど我慢してるのよ!一応発信機は付けてあるけど」
「・・・なら、ずっと追いかけなくてもいい気がする」
あ、と声を漏らしながら気まずそうに簪を見るとあからさまに不機嫌そうに見てくる。
「それなら、時々見れば十分だと思うし、なんで言わないの」
「うっ、ごめん。・・・じゃあここを出て行く気配があるまで一緒に回ろっか」
一通り買いたい物を買い終え、お土産を探しに雑貨屋を訪れていた。
「う〜ん、どれにするか。乙姫が喜びそうなものは・・」
中々決まらない状態が10分程続き、そろそろ諦めて別の場所で探そうか迷っている時、ふと少し離れた棚にあるキーホルダーが目に止まった。それは2つ1組でペアルックになっているものだ。
「ん〜繋がりを持てるものの方がいいのか?」
疑問に思いながらもどれにするか眺め始める。相手は小学生なので変にマークの付いたものより動物が付いているものの方がいいと考えて行くうちにかなり限定され始め、最終的に手を伸ばしたのは犬のキーホルダーだ。
「これなら、いいかもな」
キーホルダーを手に取ると別行動しているアリサを探しに回り始める。雑貨屋と称しているが中はかなり広く、小さめのスーパーと同じくらいの広さがある。
「しっかし、何を探してるんだ?アリサの方が来る回数も多い筈だし・・・もしかして友達とでも話してるのかねー」
とりあえず会計だけ済ませると他にも買いたいものがないかもう一度中を歩き始める。
ちょうどその時少し離れた場所でアリサは偶然にもクラスメイトに会っていた。
「アリサ久しぶり!」
「あ、久しぶり元気だった?」
「元気だけど暑くて、もう無理って感じ」
「だよねー、私も部活で動くし汗が止まらないし疲れるんだよ」
「あはは、私も家にいる時はクーラーを掛けて寝てる事が多いかな」
「そうだよね。で、アリサは1人で来たの?」
え、と思わず言葉に詰まる。さすがにここで男子と来てると言えばややこしい事にもなるし、しかもIS学園に行ってる男子なんて言えるわけがないからだ。
「えっと、友達とかな。久しぶりに行かないかって誘ったら来てくれたから」
「へぇーどんな子か気になるねー。私は会ってみたいな」
「え、いいよ。今もまだ探し物をしてると思うし」
「大丈夫だよ。まだまだ時間はあるから洗いざらい話してもらうよ」
逃すつもりがないのかどんどん逃げ場をなくしていく友人にアリサは焦り始める。そんな時、視界の端に不自然な挙動で店に入って行く4人組が目に入っていた。
「店に入ってお金が足りなかったなんて普通はないよ」
「ごめんね、偶にしかこうやって一緒に買い物出来ないから、ついつい忘れちゃうのよ」
「・・まあ、私も楽しめてるけど」
「?何か言った?」
「何でもない」
内心は喜んでいるがここでそれを出すと姉にペースを持って行かれそうなので黙って付いて行く。そんなこんなで着いたのはショッピングモールの一画にある銀行に来ていた。外からも中からも自由に訪れる事が出来るので多くの人でにぎわっている。
「ちょっと待っててね、すぐ降ろして来るから」
入ってすぐにお金を降ろしに行く姉を見送ると近くにあった長椅子に座る。そこそこ広さはあり休憩も出来るように多く椅子が設置されているが妙に周りをチラチラと見る男性が数人がバラバラになり店内を見ているのを不審に思い、とっさに立ち上がり楯無に呼びかけようとするが遅かった。すでに頭の後ろから銃口を突きつけられていたからだ。
「全員その場を動くな。じゃねえと1人ずつ殺すぞ」
突然の出来事に悲鳴を上げそうになる人が出るが、他にもいた仲間に銃を突きつけられ全員が押し黙った。その内1人は銀行員に銃を向け金を出せと要求し始めていた。
「ん、なんか胸騒ぎがする」