IS学園の異端児   作:生存者

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第26話

専用機持ちの面々をみっちり訓練した数日後、相部屋の楯無さんはその疲れが抜け切れていないのか筋肉痛で未だに起き上がる事が出来ない状態でまだベットで横になっている。

 

「う、動けない。上条君起こして〜」

 

「はぁ、今日もですか」

慣れたように差し出された手を軽く引き起き上がらせる。

あの地獄のトレーニングが終わった瞬間その場にいたほとんどが疲労で床に倒れ、10分近く誰も起き上がる人はいなかった。その後、ふらふらと立ち上がり部屋に戻って行くのを見ていたが次の日に寮外で見かける事は一切なかった。

 

「やっぱり、運動不足かしら」

 

「十分動けてますよ。ただ、楯無さんには合わなかっただけですかね」

 

「だとしても・・ね」

少し前までただの学生だった上条に体力で負けるのは楯無にもそこそこ悔しい思いがある。ロシアの国家代表としてのプライドもある分余計にその気持ちは強いが、自分以上の実力がありながらお人好しで誰が相手でも気遣いが出来る面もある為、むしろ楽しく過ごしている。

 

「はぁ、今日も部活の手伝いか」

 

「しょうがないがわよ。部活に入ってない君を引きこもうとしてる人がたくさんいるんだから」

現在、何処の部活にも入らず放課後の時間をほとんどトレーニングに費やしている上条に、ほとんどの部活から入部願いが生徒会に届けられていた。しかし、頑として部活に入ろうとしないので、会長である楯無が頼んで派遣部員という扱いで週に何回か出ているが、夏休みという事もありほとんど毎日呼び出しを受けている。

 

「書類の山を片付けるよりは楽ですけど、毎日呼ばれるのは流石に辛いな」

 

「まあ、頑張ってちょうだい。いくら私でも生徒全員を止められないからね」

それでもとりあえず行っているが、いくら女子ばかりとは言え、部活に集中している時は男子と同じレベルの気迫でやっている部もあり、正直いずらい時もあったりする。ちなみに今日はバスケ部になっている。

 

「今日も頑張るか。あと、軽い調整には丁度いいか」

 

 

 

 

 

・・・数時間後、最後の練習が終わり軽く汗を流しにシャワー室まで来ていた。いつもなら部屋のもので済ませるが、最後に行われた練習でかなり疲れたたね休みがてらに寄っていた。まあ、女子も使う場所だからあんまり長居はしたくないので早目に済ませようと思ったが、運悪く部活終わりの人達が雪崩れ込んできたお陰で出辛くなっていた。

 

「なんで、こんな時に来るだー。って言いたいけど9割以上女子しかいないし、もう不幸だ」

思わず、肩を落としてため息を吐くがいつまでもここにいればいずれ入ってくるかもしれない、腰にタオルを巻いてあるので問題ないと思い、決意を固め扉を開けると偶然か入って来ようとした人と鉢合わせする。しかも、さっきまで一緒に練習をしていた部員の1人と。

 

「え・・・グフッ!」

僅かに間があき、次の瞬間悲鳴とともに振り上げられた足がある場所にめり込み意識を刈り取られ、ストンッと膝から崩れ前に倒れた。

 

 

 

 

 

 

「ーーん、あれ」

目が覚め、起き上がるとシャワー室に備え付けられた長椅子に寝かされていた。いつの間にか顔にタオルまで掛けられている。

 

「なんで、ここに?まあ、いいかとりあえず部屋に戻って課題を進めるか」

何故ここに寝ていたのかは分からないが、いつまでもここにいるわけにも行かないのですぐにロッカールームに着替えて部屋に戻る。

 

「いつの間にか日が落ちかけてるな。どんだけ寝てたんだ?」

まだその疑問が浮かんでいるが、いつまでも気にするような事でも無いのですぐに忘れる。部屋からは少し話し声が漏れている、まあ、同級生に友人の多い楯無さんなら部屋で話をしててもおかしく無いか。いつも通りノックをせず部屋に入っていく。

 

「なあ、楯無。一回くらい部屋変わってくれてもいいだろ?」

 

「いやよ、折角いまの生活を楽しんでるのに」

 

「いつも一緒にいるんだし、1日くらいはいいだろ。そんなに一緒に居たいなら告白でもしろよ」

 

「こ、告白って。それならフォルテさんもしたらどうなのよ!」

何やら白熱した話し会いになり、入った事を後悔している。ここであの会話に入っても気まずくなりそうだし、もう一回外に行くか。

ここにいると嫌な予感がし始め、外に出て1人敷地内を散歩する。あまりにも広いため気分転換にも十分あり、上条はいつもランニングで使っている。

 

「これで明日がマラソン大会か。強制とは言え選ばれたんだし頑張るか。今日の部活で丁度運動出来たしな」

明日に予定されている市町村対抗のマラソン大会だが、中学の時から毎年上条は何故か強制的に出場する事になっている。母親の詩菜は本人に出る意思があるなら構わないと言っているが、市長は市の為と裏で本人の了解なしにエントリーさせて出させている。無論、用事があろうが無かろうが無理に出しているので本人はたまったものではないが棄権をするのも馬鹿馬鹿しいと思い、大会に逆にとんでも無い記録を残してからは大会本部から直接出て欲しいと言われ2年ほど出ていた。しかし、今年再び強制的にこれに割り込み市長の推薦という形で出される事になった。いちいち人をイメージアップの道具として使うなと思ったりしたが、こっちでの生活が大変なのでもはや誰なのか忘れている。

気がつけば、10分ほど経ち自然と椅子から立ち上がっていた。

 

「そろそろ戻るか。流石にもう話も終わってるだろ」

また数分掛けて自分の部屋まで戻っていくがまだ言い争いが続き結局就寝の見回りが来るまで終わる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

「〜〜ん、もう朝か、ふぁ〜〜、あれ上条君がいない」

いつもなら大体6時上条が起こしてくれているが、それより遅く8時に起きている。ベットを見る限り数時間前には起きてるが、備えられたロッカーからは幾つかの荷物がなくなり何処かに出掛けたのが推測できるが、全く上条の事が分からない楯無には何処に行ったのか検討もつかなかった。

 

「ん〜かんちゃんなら知ってるかな〜。それに良く考えたら上条君の事はほとんど知らないのよね」

いつも通り、着替えると軽く食堂で朝食を済ませ上条の事を知っていそうな簪の部屋へと向かう。

 

「かんちゃん、入ってもいい?」

 

「いいよ」

中からの声が聞こえ入ると珍しく朝からテレビを見ている簪と相部屋の本音も一緒に食いついている。PCにはざっと人の名前が並び、その表をよく見てみると真ん中あたりに見覚えのある名前が載っていた。

 

「え、ここに載ってるの上条君じゃない?」

 

「私も昨日気付いたけど、お姉ちゃん知らなかったの?」

 

「知らないわよ。そんな素振りすら見えないし昨日はちょっと部屋事でサラさんと小競り合いになってたから」

 

「元どうりに戻したら?それか1人にするか」

 

「それが出来れば苦労しないのよ。2年と3年の寮に空きがあるんだけど絶対に侵入してきそうな人もいるし、1年の方に戻そうとしても負担が掛かりそうだから」

 

「その位なら問題ないと思うよ」

 

「それが色々あるのよ。ほら、一夏君と同じくらい人気があるし、そのせいで1年ばっかりずるいーって苦情が何回も来てるのよ。偶に1人で独占するなッ!て言いに来る人もいるし」

 

「それは自業自得。本心でも独り占めにしたいって思ってからそうしてるんじゃないの?」

 

「ち、違うからねかんちゃん。いつも1人で騒動に突っ込んで、止める為とか言って自分を犠牲にするし、相手がどんな人でも優しくするようなだから心配になるのよ。それにかんちゃんだって上条君の写真を寝る前とかに見てるんでしょ!」

そう言われた瞬間、実際にそれをやっていた簪の顔が赤くなっていく。

 

「な、なんで知ってるの・・・あ」

我に帰り、前を見るとニヤニヤと笑う楯無といつも通りの笑顔でかんちゃんもそうなんだ〜と顔で言っている。もちろん、楯無も冗談で言ったつもりの事が本当に当たるとは思わながったがここまで反応してくれるとさらに悪戯をしたくなっていた。

 

「ほほう、やっぱりかんちゃんはが好きなのは・・」

 

「ああ!黙ってて」

慌てて楯無の口を塞ぎに行くがほとんど話した為、完全に好意を持っているのがだだ漏れになっていた。

そして、しばらく楯無との組み合いをしているとじっと見ていた本音が声を上げると大人しくなり2人は椅子に座ってみ始める。

 

「あ、そろそろかみやんが出てくる〜」

 

「え、かなり遅いんじゃない?トップが通過してからもうかなり経ってるよ」

 

「それより、上条君の速さに慣れてるせいで周りの人が遅く見えるのは気のせいかな」

テレビに映っている人はかなり普通の人よりは遥かに速く走っているが、いつも上条のトレーニングと試合を見ていた2人にはその人達はゆっくりと走っているようにしか見えなかった。

 

「あーこれじゃあビリになっちゃうかも〜頑張れ〜」

 

「あ、この人前に何かの大会で優勝してなかったかな」

 

「なら、こっちの人も高校生でこっちの地区で最速のひとだよ」

その数分後、いつの間にか全員がガッツリとのめり込んでいる。駅伝と同じく11区間で区切られその中で各地域の代表選手が走る為か、かなり熱中している。やはり出ている選手のほとんどが企業の代表、高校中学での優秀が多い。

 

「ああ、かなり後ろになってるけど、あと少しで上条君に繋がる」

 

「ん〜何処まで抜けるか気になるわね〜、距離もなかなかあるけど他の人もかなり戦力が集中してるかな」

 

「あ、かみやんが出てきた」

何時からか走者の場所まで出て来ていた。いつも首にかけている専用機の首掛けは外され、かなり順位が下になっているのも全く緊張すらしていないような雰囲気が出ていた。その数十秒後、前を走っていた選手からタスキを受け取るとすぐに首に掛けて走りだす。その速さは常に全力で走っているのと同じくらいの速さだ。

 

「うわぁ、速い。昨日、クタクタになるまで部活をやってた人には見えないわ」

 

「まだ、5分しか経ってないけど3分の1まで来てる。それにもう10人以上も追い抜いてるし、このままトップまで行けるかな」

上条が走り終わるまで3人の応援が続き、それを聞きつけた人が数人部屋に入って来たという。

その後、約6キロの距離を15分程度で走り切ると次のよう走者にタスキを渡し休憩所に入っていく。周りの選手や観衆はあれだけの速さで走ったにもかかわらず全く疲れが見えない姿に驚くが、それを知っている一部の選手やチームメイトは悔しい表情を浮かべたり喜んでいたりする。まだ大会は続いており、最終ゴールの運動公園まで移動する為休憩所までくるといきなり取材陣に囲まれ質問攻めに会う。よく考えればISの男性操縦者の3人の内の1人であり、世の男性からすれば羨ましい場所にいる為、普通は気付くはずだが、その自覚がなく思い返すのにしばらく時間がかかった。まあ、質問のほとんどが些細な事だったのですぐに答えてその場から逃げる。少し離れた休憩所の裏に行くと途中で荷物から取り出した携帯電話が鳴る。

 

「はい、誰ですか」

相手が誰なのか分からないがいつもの口調で答える。誰が相手でも話し方が変わらないので特に困ることはないので身構えることもない

 

『お疲れ様です、当麻さん』

 

『あれ、母さん見てたのか?』

電話の相手は母親の上条詩菜だった。この世界でも前と同じ名前で呼び方も変わらず本当の母親と思っている。

 

『ふふ、もちろんですよ当麻さん。久しぶりに自慢の息子を観れる機会ですから。あ、そうでした、4日後に刀夜さんが帰ってくるそうなので余裕があれば前日までに来れますかちょっと手伝って欲しいので』

 

『何かの用意するものはある?』

 

『ものはこちらで用意するので、準備だけを手伝って下さい。少し時間がかかりそうなので』

 

『了解、じゃあ体調に気をつけて母さん』

 

『ふふ、当麻さんこそお元気で』

それまで言うと通話を切り、この後の予定し確認をしてみる。特に用事というものはなく暇になのでのんびり過ごせばいいの考え休み始める。最終11区のゴール地点で表彰式が行われる為移動するのだが、それにはまだ時間があるので軽く支度をすると現在のレースの状況を確認しながらストレッチをしたり、水分補給をしながら時間を潰していく。最終的に上条のいた市は3位で終わった。真ん中で上条が追い上げ、残りは逃げ切る形でゴールしたがかなりギリギリで4位との差は数秒の差だった。ついでに言うも今年も区間賞を獲得し四年連続で記録を更新していた。

 

「いや〜お疲れ様。今年も上条のお陰で入れたけど俺達も頑張らないと1位に行くのが難しいぞ」

 

「すいません、またまだ実力不足で・・・」

 

「いいって気にするな。終わった事を後悔しても戻る事は出来ないんだ。また今度頑張れ」

 

表彰式が終わるとチーム全員で写真を撮ってしばらくはその場にいたが流石に昼過ぎという事もあり全員で近くの食堂に行く事になった。乾杯の音頭は最年長の人が行い、それからは1時間以上に渡って将来の話や昔話を楽しく語り合っていた。しかし、解散して学園に戻るなりいきなり楯無さんに行き所のない怒りを飛ばされ、その後部屋に戻って休もうとした時には何人もの人が部屋に押しかけてきたりと気が休まらない時間が過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




15分で6キロ相当速いな・・・

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