IS学園の異端児   作:生存者

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第25話

無事に臨海学校から帰ってきた1年生だがすぐに全員が自室にこもっていた。何故なら夏休み前の試練もと言える、期末試験が控えているからだ。ISに関する教科以外にも一般教科の内容もテストとして出るため幅広くやらなければならない。しかもここで赤点を取れば夏休みを使ってやる事になり、酷ければ夏休みが終わるまでやらなければならない。その恐ろしさを上条は身をもって経験してるため本気で勉強に励んでいた。そのお陰か赤点にギリギリのラインの点数でテストを終えていた。ちなみにIS学園の全テストの平均は65点前後なのでそこらの難関校と同レベルの学力がないと入る事は出来ない。

 

 

「いや〜テスト明けに気が抜けるのもいいわね〜」

 

「言う割には全然リラックス出来てるようには見えませんよ」

上条がいるのは普段なら騒がしい食堂だ。しかし、今は夏休み、IS学園は日本以外から来ている人も多く帰省する人がいるのだ。今も何人かは私服で食堂に訪れる人もちらほらといる。

 

「そう言えば上条君はまだ帰らないの?」

 

「まあ、あと少しくらいはここにいます。久しぶりに軽く運動したいですから」

 

「軽くって・・」

いつも上条が''軽く''運動しているのを見ていたがその量は吐き気を覚えそうなもので、偶に一緒にやっている一夏でさえ終わった頃には倒れているほどだ。

 

「その前に怪我は治さないとダメよ」

 

「怪我なんてすぐに治りますよ。もう完治してます、心配し過ぎなんですよ楯無さんは」

 

「はあ・・・少しはこっちの気持ちも考えて欲しいわね」

 

「?」

いつも怪我を繰り返してきた上条は''別に心配する必要はないですよ”とずっと考えてるため楯無の考えには全く気付かない。

そんな中、いかにも不機嫌そうな声が聞こえてくる。

 

「やあ、上条。僕を蹴落として随分と楽しんでるね」

声の主は織斑秋十、この長期休暇の間のほとんどを学園で過ごす事になり、しかもどこに移動するのにも教師が同行するという罰を受けたさいかあからさまに不機嫌だと言う事を目で語る。

 

「これのどこが楽しんでるように見えるんだ?とりあえず一旦離れて下さい」

まだ寄ってくる楯無さんから距離をあけると秋十を見る。

 

「で、わざわざそんな事を言いに来たのか」

 

「は!あの時、僕が串刺しにするように見える位置に動いて刺されてきたくせによく言うよ!」

その一言に周りがざわつき始める、視線を集める為に声まで張り、訴えるように声を出す。秋十にとって人の悪意を操る事は簡単だ、何よりここに自分がやったと決めつけられる証拠は存在しない。秋十には万全の舞台が整った、後はいつも通りに周りの人間の心を操ればいい。だが・・

 

「確かに、刺されにいったかもしれないな。それに俺も人間だ、心のどこかに功績欲しさで1人で戦ったかもしれない」

目の前の相手はそうは行かない、話術も天才の域に達している秋十だが、それはあくまで同級生や上級生に留まる。相手の考えている事もほとんど同じ。しかし、その程度ではこの怪物を黙らせる事は不可能だ。一度でもボロが出ればそのまま崩れていく程度の、調子が出ればその調子がいつまでも続くと勘違いする人間なら・・・

 

「ほら、言ったとうりだ。君は功績欲しさに戦場にでる糞野郎だからね。さぞかし教師や他の生徒からの評価も上がっただろうね」

 

「あなたねぇ!・・・いつまで自分勝手に言ってれば・・」

皮肉を述べる秋十に堪忍袋の緒が切れたのか胸倉に掴みかかりそうになる。

 

「楯無さん」

掴みかかろうとする手を掴み下げると秋十と一対一で話す為後ろに下げさせる。

 

「ああ、俺は糞野郎だ、そう思ってもらって構わない。けどな、仲間を後ろから刺すのは考えものだ。もし、俺じゃなくて他の人間なら死んでたかもしれないかったんだぞ」

 

「こんな時に言い訳か?僕がそんなものを・・」

秋十はさらに馬鹿にするような言葉を息を吸うように口から次々と出すが上条は気にも止めない。

 

「お前は俺じゃなくても後ろから刺してたんじゃないか?」

その一言に周りの人の目線が秋十に向く。その視線には恐怖や驚愕するようなものも混ざっていた。

 

「いや、織斑先生でなかったら誰が前にいても串刺しにしてただろう。それが一夏でも篠ノ之、教師だったとしてもな」

 

「な、なんでそんな事が言えるのかな?大体そんな憶測を信じられるわけが無いじゃないか」

 

「ああ、憶測だよ。自分は織斑先生ゆずりの才能にあふれ、それ以外の人間はただの凡人としてしか考えてないお前なら出来るだろ。それに今まで俺や一夏に邪魔をされて苛立ってたんじゃないか?」

 

「・・・あの言い過ぎだよ?」

 

「これで程度折れるなら専用機なんて持つ資格はありません。・・兵器を玩具と勘違いしてようなやつには」

 

「資格ならあるよ、これがその証拠だ。君と違って優秀な僕に元から来る事は決まっていたからね」

これでもかと言うほど待機状態になっている白式のガンレットを見せてくるが上条はそのものはいちいち目に入らなかった。

 

「子供みたいに見せびらかせなくてもそれくらい分かる」

 

「・・・厄病神が偉そうに。てめぇはここにいる価値はねぇよ」

 

「誰が厄病神は生きちゃいけないなんてルールを作った?厄病神にだって話す権利もあるし戦場に行くに権利もある。・・・勝手に作った妄想に人を巻き込むな」

 

「このッ!」

秋十の腕が動く、振り上げられた拳は真っ直ぐに上条の顔に飛んでいく。だが、そんなバレバレの攻撃は当たる事なく上条に片手で受け止められる。

 

「ここで殴っても、お前にとってやりたくない事が余計に増えるだけだ」

 

 

「は〜い、こんなところで喧嘩はやめてちょうだい。・・・織斑秋十君。ここはIS学園、優秀なIS操縦者、延いては将来を担う人材を育成する場所なの」

 

「それは分かってます。だからこそ、優秀な僕が・・」

 

「優秀な人材は育てていくもの、君はみんなより先にスタートしただけ。傷ついても這い上がってくる人達の時間を貴方のくだらないプライドを保つ為のお遊びに付き合わせないで」

その言葉に押し黙る秋十、いくら女性とはいえ相手はロシア代表生身でも勝つ事は限りなく難しい。しかも口論になった(した)せいで注目が集まっている。

 

「あと、君がばら撒いた嘘の噂が書かれた紙飛行機は全部回収しておいたわ。それにつられて危害を加えた人達には退学してもらったから」

 

「え、そんな事しなくても反省すればいい気がしますよ?」

 

「はぁ、君はお人好し過ぎるのよ。問題を起こした生徒全員が絶対に反省するとは限らないんだから」

 

「完全に反省が出来なくても、少しでも反省出来るなら自分としては十分です。それに男性に対してそんなに反抗的な行動に出るという事は、過去に虐待とかいじめなんかの負のイメージが残ってるからじゃないかと」

 

「・・・ごめん、今はその話は後にして。はぁ、人が良すぎるのも考えものね。まっ紙飛行機からは君の指紋も出て来たし犯人は決まったようなものかしら。うふふ、それにしても誰かがばら撒いた風に装うのに使うなんて変わってるわね」

 

「ッ!馬鹿な、ちゃんと指紋は拭き取ったはず・・・あ」

 

「はい、証言頂きました〜」

気づいた時にはもう楯無に手を上で遊ばれていた。思い通りに行かないとすぐに気が立つ秋十にとって、楯無のような相手はやはり分が悪かったようだ。その顔は嵌められたと書かれ、周囲の女子生徒からは小声で秋十への嫌悪感を表すような発言が飛び交っていたがそれに耐えきれなくなったのかその場から去っていく。

 

「逃げるくらいなら、来ない方が良かったのに。一体何をしたかったのかしらねぇ」

 

「分かりません。じゃ俺は先に戻ります」

何もなかったように去っていく。これ以上面倒事に巻き込まれるのは勘弁して欲しい。部屋につくにりすぐに軽い身支度を始める。今日までテストに向けて頭がおかしくなるくらいの勉強をしていたせいで、ほとんど運動していなかったのか体が鈍っている感覚になっていた。

 

 

「さてと、久しぶりに動くから長めにやろうかな。あの町長に強制的に出される事になったし、あ。外出届けも出さないと」

ぶつぶつとやる事を確認しながら、支度を済ませ部屋を出ようとするとドアをノックする音が聞こえる。この部屋に入って来る人は大概そのまま入ってくるのだが、それをしないという事は別の人が訪ねてきたと考えながら近づく。

 

「どうぞー」

招き入れるように返事を返しながら扉を開ける。別に言う必要もないが、とりあえず言いながら開けるとそこにいたのは意外にもラウラと簪だった。

 

「どうしたんだ、2人とも。というか珍しい組み合わせだな」

珍しいのは確かだが、それよりなんで来たかの方が気になる。

 

「あの、えっ〜とその、私とラウラさんを指導してくれないかな?」

?と一瞬頭に浮かんだ。俺じゃなくても、簪なら姉の楯無さんに頼めばいいんじゃないかと思っていた。

 

「俺が指導する事なんてほとんど出来ないけど・・・」

 

「私がお願いしたいのは体力面です。今までの訓練では先日のような戦いで出て来た相手では太刀打ちできません。それに兄上がいつもやっている訓練に出てみたいからです」

 

「って事は簪もか・・・分かった。先に着替えてグラウンドに行っててくれ。少し寄ってく場所があるから」

 

「分かりました」

素直に頷く2人と一緒に行くと途中で別れる。何やら用があるのか職員室の方に歩いて行った。

 

 

「気のせいか結構増えてる?」

簪やラウラの他に一夏もいるこれは特に気にしないただ他にも結構な人が集まっていた

「あら〜気のせいじゃない?」

さっきまでいた楯無さんに

 

「別に自由参加してもいいだろ?」

偶々楯無といたらしいフォルテさん

 

「部活も引退したし体力がならないようにしたかったし丁度良かったわ」

偶然グラウンドに来る途中で会ったダリルさん

 

「一夏も参加してらいしし一回出てみたかったのよね」

他にも鈴やシャルロットにセシリアまで来ている。これは相当大変な事になりそうだな。後ろにいる一夏の顔もすっごく青ざめてる。

 

「で、どんなメニューをやるのかしら。コーチ♪」

 

「コーチじゃないです。じゃあ、まずこのグラウンドを10周本気で走って下さい」

簡単に言う上条に一夏を除く全員が困惑の色を浮かべる。まあ、このグラウンドは一周で約1.5kmもあるし普通はそうなるか。

 

「え、ごめん。10周って聞こえてたけど」

 

「はい、とりあえず10周本気で走って下さい。この後もこれが訓練の基準になりますから。あ、俺も走りますよ」

 

「・・・分かったわ。じゃあみんなとりあえず走りましょう」

渋々だが全員が走り出す。いつもより体力が落ちている上条は本気になって走りそれに続くように一夏もあとを追いかける。結局上条がぶっちぎりでゴールし15分台のとんでもない記録を叩き出す。次はもちろん一夏だがそれから20分以上経ってからの事だった。それから次々とゴールし最後の簪がゴールした時には1時間近く経っていた。その間暇になっていた上条は去らに走り最後の簪を励ましながら終わる。ゴール地点には既にへばっている人が何人も地面に倒れ、簪に限っては意識がもうろうとしている。

 

「お疲れ様です。じゃあ次はえっとタイム差は50分以上か・・・」

 

「え、まさか次は」

 

「まあ、本当なら差が50分なんで秒に換算して全員で3000と言いたいんですけど前に一夏から苦情が来たので、自分のペースで10分の1の5周走って下さい」

 

 

「え、一夏こんなのやってたの?!」

 

「ああ、最初は本気で死ぬかと思ったし、これはまだ序の口なんだよな」

懐かしむように空を見上げるがその顔は引きつっている。

 

「あと10分したら走るから準備してくれー」

まだ余裕があるのか簡単そうに話すがもう既に参加したことを後悔しているメンバーも出ていた。結局その10分後には始まり、全員各々のペースで走り始めるが、既に参っている何人かはかなりペースを落として走る。先程の半分にしたのか終わるのも約半分に縮まった。

 

「さてと、今度は最初にゴールしたタイムよりも1分以上縮めて走りきる、以上」

 

「なんかすごく簡単そうに言うわね」

 

「簡単に言ってるけど大変なんだぞ」

 

「え、もし僕らが縮められなかったらどうなるの?」

 

「その時は、手足に重りを付けて走ってもらいます。その場合は自分の記録より10分までならオーバーしてもいいです」

 

「滅茶苦茶、鬼畜過ぎるでしょ!どんなメニューよ、それ」

 

「ただ自分の限界を超えるためのメニュー」

 

「・・・」

即答、しかもあまりに端的に言われるが、上条のあの実力を見ればこれぐらいやっているのが目に見える。

 

「もし、重りを付けて走っても時間以内に来れなかったら?」

 

「超えるまで何回でも走る」

絶対に何回も走りたくないと意気込む専用機持ちの面々。次のランニングでは全員が2分以上縮める好記録を収めた。しかも先程最下位だった簪に至っては10分以上も記録を上げた。しかし、無理をしたのか地面に走り終わった人から順々に倒れていく。

 

 

「し、死ぬ。これ以上・・はきつい」

 

「私もこれ以上は無理かも」

 

「興味本意で来たのを後悔する。これなら自分で走ってた方がマシだった」

 

「お、そろそろ昼に近いな。えっーとじゃあ1時まで休憩にします。自由に休んで下さい」

 

「え、まだやるの!?」

 

「?・・・まあ、あと3時間くらいは。これよりもは楽でからそんなに疲れた顔をしなくていいですよ」

 

「・・・うん、分かったわ。楽なことを期待して頑張るから」

ふらふらと疲れ切った状態で食堂まで歩いていく専用機持ちの面々、ラウラと一夏はまだ余力が残っているようだがそれでもこのくらいでへばるのは大丈夫か?

結局、約1時間には元気になっていたが僅かに顔が疲れている表情になっている。さすがに昼直後を考慮したのか軽い筋トレを3セットやる程度で終わり一同は体育館まで来ていた。先程のかなり楽になったメニューで元気が出ていたがメンバーだが、入るなり一部の人の顔が引きつっていた。丁度体育館には20m感覚に赤いコーンが4つ並べられている。

 

「え、まさかあれをやるの?」

 

「はい、あれをやります」

何やら嫌な予感を察した簪の反応に上条も苦笑する。ラウラやシャルロットのなどの面々は何が起こるのか分からず首をかしげる。

 

「兄上、一体何をやるんですか?」

 

「日本だと体力テストなんかでやるところもある、シャトルランってやつだ」

20mの距離を自分が無理だと思うまで往復で走り続ける地獄のようなメニューだ。最初は楽だが、後半50回を超えてる頃には半分の人がギブアップするレベルの辛さである。

 

「で、この表で男女それぞれ8点の回数までやってもらいます。男子が102回以上、女子が64回以上です。まあ、ラウラはどんな感じかわからないだろうしやってみればわかる」

 

 

 

 

 

数十分後とりあえず、全員走り切った。まあ、予想どうりなのかほとんどがへばっている。きつすぎてもはや声も出ない。

 

「今度は20分後にやるので休憩してください」

 

「あ、あと・・何回やるの・・・」

 

「あと二回です。次は・・・特に何もなしで走ってください」

 

「え、何その間」

 

「聞きたいですか?」

本人は普通に答えるつもりだが、かなり疲労が溜まっている楯無にはあっさりしているその答えに、聞きたくなくなってしまった。

気がつけばあっという間に休憩時間は終わりまた、地獄のランニングが始まる。しかし、先程のように追加ルールがないのか50回辺りでやめる人が次々と出る。上条や一夏も最初より、僅かに少ない回数で終わっている。

 

「ええ、じゃあ次が最後のなので頑張って下さい」

みんなが休んでいる中でそう告げる。その一言で何人かが安堵の息を吐いたが次の一言でその表情が凍りつく。

 

「あと、さっきの結果が最初のよりも落ちた人は手足に重りを付けて、記録は最初のものよりも上げて下さい。あ、もちろん超えるまで何度でもやりますよ」

さらっととんでもない事を発する上条。既に限界に近い人間も多く、さらに最初の結果よりも少ない回数でゴールした人は誰もいない。結果的には全員が重りを付けてやることになるのだが、ここに来ての追い込みはまさに地獄同然のメニューだった。

 

「大丈夫ですよ。あと一回ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 


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