秋十の処分について千冬が話してる間、上条は部屋で休んでいたがほとんど横たわって寝てるだけだった。そして、何より傷口が酷く今でも虫の息に近い状態のままだ。
「うああ、痛い。流石にぶっ刺されたのはきつい」
「普通なら死んでる、生きてる証拠だろ」
床に敷かれた布団に横たわっている上条だが普通に話しているのはかなりおかしいくらいの怪我を負っているが特に問題ないような感じで話している。
「そう言えば、あの操縦者はどうなったんだろうな」
「まだ目を覚ましてないんじゃないか?ちょっと聞いてみるか」
部屋に備え付けられた電話に手を掛ける。すぐに繋がったのか会話をする一夏、口ぶりから察するとまだ意識は戻っていないが怪我は酷くないようだ。
「まだ意識は戻ってないけど、体に異常はないだとさ。あと、操縦者の名前はナターシャ・ファイルスでアメリカ国籍の人らしい」
「アメリカの国籍か。帰国しても大丈夫か分からないな、無人機扱いされて実は人が乗ってましたなんて言えそうにないしな」
「帰ってきたら、秘密裏に始末でもされる可能性があると?」
「無くはないだろうな。あのアメリカだ、替えの操縦者はいるかもしれないし、最悪機体さえあればいくらでも育てられるなんて考えそうだ」
「だとしても、どうやって止めるんだよ」
「・・少しばかり、お偉いさんに交渉してみるか」
「かってやるのはまずいと言いたいが、これだけの事をやってるしなんとも言えないな」
「もし、本人がダメと言うなら。アメリカに行かせるつもりだけど一夏は何かあるか?」
「特に言う事はないけど。番号は知ってるのか?」
「・・ああ、知人が沢山いるからな」
「急いで荷物をバスに詰め込め!旅館の方々への挨拶は忘れるなよ!」
次の日、IS学園に帰るため帰り支度に生徒達は負われていた。しかも、早朝からの作業でほとんどの生徒の動きは鈍いが昨日戦闘をした専用機組は疲労が溜まっているせいで余計鈍くなっている。
そんな中、早目に支度を済ませた上条は先にバスの中に座っていた。昨日の疲れが全く抜けていたかったせいで、眠気が残りうとうとしていた。
「ああ、眠い。・・・着くまであと数時間あるしなんとかなるかな」
「大丈夫ですか兄上?」
「とりあえず、大丈夫だ。別に治らない訳じゃないんだから気にするな」
隣に座っているラウラに気遣って答えるが、制服の内側の傷は完全にふさがっているものの痛みが残っているのでかなり辛い。ただの傷なら問題ないが相手が相手だ、ダメージの蓄積は恐ろしいほど速く、数時間の睡眠では疲れは取れない。それゆえ、すごく眠気に襲われている。
「すまん、ラウラ。着いたら起こしてくれないか。最悪窓から落としていいから」
「い、いえそんな事はしません!」
慌てて止めに来るラウラ。なんか妹を見てるみたいだな〜と思っていながらなだめて窓から外を眺めると誰かがこちらに向かって見える。一体誰だ?そんな事を考えてるうちにもおこのバスに乗ってきた。
「ねえ、織斑一夏君っているかな?」
「はい、俺が織斑一夏ですけど。あなたは・・」
近くに席に座っていた一夏が声を上げる。
「ええ、銀の福音の操縦者のナターシャ・ファイルスよ。助けてくれてありがとう」
「いえ、俺じゃなくて上条です。それに無人機と思ってる中であなたの存在に気づいたのは上条だけですし」
「あ、そうなの?」
「ん?誰か呼んだ?」
すでに寝始めていたが寝ぼけながら起きる。目をこするあたり相当睡魔に襲われている。
「あなたが上条君?」
「はい、そうですけど。あなたは大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん。十分体調はよくなったわ」
笑顔で答え元気さを教えくるが上条が言っているのはそこじゃない。
「いえ、そうじゃなくてあなたの地位の話です」
「え?」
「少し外に来てもらえませんか。一夏と織斑先生も」
一夏は分かっているが千冬は少し困惑していたがすぐに察する事が出来た。
「俺が言いたいのはあなたの今後の事です」
「え、私の今後?」
「はい、報告では機体に誰も乗っていない。無人機と記載されてましたよ。最悪破壊してもいいと」
その一言を聞いて口が正常に動かなりそうになる。簡単に言えば。祖国の人間に死ねと言われたようなものだ。
「え・・うそ・・」
「もし、このまま帰国すれば裏で抹殺される可能性もありますよ」
「でも、・・」
「コアさえあればあとは機体をもう一度作り直して操縦者を育てれば、問題ないだろうと考えて無人機扱いにしたんじゃないですか?」
「・・確かにお前たちが言ってる事は間違っていない。このまま帰れば殺されるのがオチだろう」
「・・私はどうすれば・・・ただ、この子と空を自由に飛びたかっただけなのに」
「あの、ち・・織斑先生。ナターシャさんをIS学園で匿う事は出来ないか?」
「・・なるほど、だが許可が下りるまで相当な時間がかかることになる。それに2カ国で作った機体だ、抗議も相当くるはずだ」
「あ、それなら大丈夫ですよ。昨日の内に許可なら取りましたから」
「何?一体誰にとったんだ?」
「えーっと、アメリカの国防長官とIS委員会の委員長に」
「お前、もの数秒で首を縦に振らせたよな。隣で聞いてたけど」
「いや、それでも30秒も掛かったぞ。まあ、とりあえず許可なら取ってありますから、ほぼ問題ありません」
「一体何で交渉したんだ。いくら世界に3人しかいない男性操縦者だとしても不可能に近いはずだが?」
「・・・それは、秘密という事で」
僅かに目を逸らして言う上条に千冬はため息をつく。一体どうやったか分からないが、まあ中々にとんでもない事をしてくれた事に変わりは無い。
「はぁ、まあいいだろう」
諦めたようにもう一度ため息をする、千冬としてもこのまま殺されるのを待つ事は出来ない。だから、こそあえてこう言い返した。
「で、もし返せと言ってきたらどうするつもりだ?」
「どうするって、ちょっとばかりアメリカのコンピュータをハッキングして黒歴史をさらけ出すだけですよ」
「・・・」
「と言うのは冗談で、今回の事を公するだけです」
「まあ、許可があるなら問題ないだろう」
問題児の行動力に思わず呆れていたが、彼女も見殺しにする程残酷な人間ではない。
「え、・・と言うと」
「ナターシャ・ファイルスさん。あなたを本校で受け入れる、・・そうだな、これからは教師として精進してもらうぞ」
未だに頭の中では理解で来ていないナターシャは固まったままだが次第に理解が追いつき笑顔になっていく。
「ありがとうございます!」
思わず千冬の手を握ったがされた本人は困った様子で反応する。
「私に言われても困る。この2人の問題児に言ってくれ」
上条と一夏は、このくらいは当然です。と言って礼を受け取らない姿勢だったが勢いにおされ軽く握手までしていた。
その数分後、バスも走り出し中では周りはガールズトークで盛り上がっていたが上条はうとうとしながら考えて事をしていた。
「とりあえず、今回は全員無事でよかった。あれ相手にここまでのんびりしてられるのも運がいいな」
「どうしました兄上?」
「いや、みんな無事に帰ってこれて良かったと思ったんだよ」
「でもあれはほとんど兄上が・・・私はあの氷槍が気になります」
「なんで、そんな事が気になるんだ?」
「ISなしであのパワーを出すのは不可能なはず。秋十に落とされる前よりも動きに余裕があるようにも見えましたし、何より自分と離れたもの触れずに浮かせる事自体ありえません」
「偶然じゃないのか?」
「それならわざわざ手を標的に向ける必要はありません。それにあの場にいた全員が気になってます」
「それも見えてたのか・・・そんなに知りたいのか?」
「ええ、では教えてくれるのですか?」
「いいけど・・・ここじゃ無理だ。また今度でいいか?」
「はい、無理に聞くつもりはないので」
「そうか」
その返事を聞くと上条は安心したように目を閉じる。それを隣で見ていたラウラも上条の疲労を分かっていたここまで溜まっているとは分からなかった。銀の福音と天使を真っ向から相手にして天使に限ってはほぼ1人で倒していたのだ。肉体的にもあれだけの傷を負えば普通は死んでもおかしくない。
「私はまだ未熟だ」
軍で生きてきたラウラだからこその考え方でもある。祖国を守る為に厳しい訓練を受けて来た彼女が手も足も出ない。一般人でありながら自分とはかけはなれた実力をもつ上条や一夏に負担が掛かり自分はほとんど援護にしか回る事が出来なかった。そんな事を考えながら残りの時間を過ごしていた。
その頃、IS学園の生徒会室では書類整理に奮闘する更識楯無と布仏嘘の2人があった。
「ああ!なんでこんな時に仕事が増えるのよー!」
「仕方ないですよ。報告では織斑秋十さんが上条くんを後ろから串刺したと来てます。普通は殺人未遂扱いになるはずですが罪に問われないとなっています。やはり女尊男卑を主謀する組織が世間を煽るのを防ぐのも考慮したのでしょう」
「なんで戻ってくるのよ。・・・もう少しで恩人を失うところだったし」
「ストーカーじみた事を繰り返してましたからね」
「それは言わないで嘘ちゃん」
「・・まあ、夏休みのほとんどを社会奉仕で費やす事になっているようですし少しは治る事を期待します」
「私は無理だと思うけど。それにしてもアメリカから来た操縦者の書類が意外と少ないわね。大半の国から抗議の文が送られてくると思ったのに」
「どうやら、上条君が交渉でどうにか治まっているようですね。私としても驚きが隠せませんが」
「それは会って直接聞けばいいけど。嘘ちゃん顔がさっきからあんまり変わったようには見えないわよ?」
「私は速くこの書類の山を片付けたいだけです。それにすぐに聞く事は出来ないと思いますよ。彼は相当に頭が悪いようなのでほとんどテストのが終わるまでは部屋に缶詰になりそうです」
「私からするとなんで勉強が出来ないのにあれだけ戦闘が強いのか気になるわ〜。それらしい事は聞いた事はないはずだけど」
「でも確かに気になります。本当に謎が多い人ですから」
「今更だけど、知らない事が多いわね。どうしたら分かるものかしら?」
「・・直接聞くのは気が引けますか?」
「そりゃ同じ部屋で生活してる相手だし、遊んでると思われるのがオチだから」
「まあ、それは容易に想像出来ますね。どうせなら両親に聞いてみてはいかがですか?」
「ん〜、いいわね。でも、とりあえず休みを開けておかないと行くに行けないし」
「そして、仕事もやっていただかないと困りますよ?」
「うぅ、分かってるからそれは言わないで」
残った仕事に愚痴をこぼしながら取り組むがもう一つの仕事で気になった事があるのか楯無は嘘に話しかける。
「それで嘘ちゃん。あの件については見つけ出してくれたかしら?」
「ええ、あっさりとボロを出してくれたので楽に終わりました。これで少しは負担が減るといいんですが」
「それはないわね。ありがとう」
「これでもお嬢様のメイドですから」
そ机の上には退学処分については書かれた書類が約10人分置かれていた。
次回から夏休みに入っていきます。