死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL) 作:アニッキーブラッザー
アクノロギアとの戦いを終え、海を漂っていたエース一行は・・・
「バ、バカな・・・近海最強の・・・俺たち『Σ(シグマ)44海賊団』が・・・たった四人の漂流者に・・・」
ドクロマークを掲げた血の気の多い船。それは海賊船。
この辺りの海の商業船や客船を襲って荒らし回っていた『Σ(シグマ)44海賊団』は、イカダで海を漂流していたエースたちにふざけて大砲を撃って遊んでいたら、返り討ちにあった。
「キーシシシシ、海賊の格が違うんだよ。雑~魚ども」
船長の男が見上げるそこには身長が3メートルは超える大男。ゲッコー・モリアが高笑いしていた。
「いや~、船が通ってくれて助かった」
「がっはははははは、おとなしくしなさいよーう。別にあちしたちあんたたちの首が欲しいわけでもなく、陸まで乗せてほしいだけなのよう!」
「すまない。殺意を持って襲われたので抵抗した。だが、お願いだ。俺たちにはこのままでは海を渡るすべがない。もし金が必要なのだとしたら後で支払う。だから陸まで乗せてくれないだろうか」
気の荒い海賊たちが全員ボコボコに腫れ上がっているのに普通の会話をするエース、ボンクレー、ジェラール。
生き延びた彼らは、早々にやらかしてくれたのだった。
「キシシシ、おい、ジェラール。余計なことほざくんじゃねェ。どこの世界に返り討ちにした海賊に金払うバカがいる」
「バカを言うな! それではまるで海賊と同じではないか!?」
・・・・・・・ん?
「・・・・・・・いいんじゃねェのか?」
「あっ・・・そうか、確かにお前たちは海賊だったか・・・って、違う! そうではない!」
「おっ、そうだ。キシシシシ、もう二度とバカなことを考えねえように、こいつらの影を奪って新たな奴隷軍団でも作るか?」
「やめろ、モリア!」
悪党モリアと償い人ジェラール。
一時は仲良くなりかけもしたが、やはりそう簡単には互いの意見は重ならない。
「まあ、いいじゃねェかよ、モリア。俺もそのゾンビだ何だの能力は気にいらねえ」
「火拳、いつからテメエはこの俺に意見できるようになった? キシシシシ、兄弟揃って甘えな。白ひげの部隊長を務めた男が情けねえ。雑魚を支配して奴隷に使って誰が困る」
「へっ、既に戦意も無くして降伏させた敵に追い打ちかけるなんざ、俺の流儀じゃねえ」
「あああん? 調子に乗るなよ、火拳! いいか? 俺が新世界で勝てなかったのは、白ひげやカイドウ、つまり四皇なんだよ! 部隊長とはいえ下っ端のお前なんざ、格で言えば俺より劣ってんだよ!」
「小せえな。そんなんだからオヤジにもカイドウのバカにも勝てなかったんだよ」
「こ、殺す!」
一触即発。エースとモリアに不穏な空気が流れる。
ただの口論でも互いに手が出てしまえば、この二人のレベルなら互いにただではすまない。
それどころか、この船すら危ういかもしれない。
ジェラールが慌てて二人を宥めようとする。
しかしその隣では・・・
「ま~ったく、エースちゃんにモリアはどうしようもないわよう! あちしや麦ちゃんたちの友情パワーを見せてやりたいわよう! でもあちしはもう知らない! あちしはもう分からない! だからあちしは回る!」
何故か無意味にその場でバレーダンサーのようにボンクレーはクルクル回りだした。
海賊・・・なんだかジェラールの想像していたのとだいぶ違う。
「まったく、なんなんだこいつらは。この間は少し見直したと思ったんだが・・・」
ジェラールは呆れて頭が痛くなり、もう勝手にやってろと、口を挟まないことにしたのだった。
「しかし・・・俺も・・・昨日からろくに回復せず、魔力を使いすぎた・・・しばらく・・・眠るか・・・」
巨大船を乗っ取ったエースたち。船は真っ直ぐ海を突き進んでいたのだった。
その頃・・・
フィオーレという国のマグノリアに位置する、今この国でもっともお騒がせのギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)では・・・
「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」
今までのバカ騒ぎが嘘だと思えるぐらい、今日のギルドは静まり、重い空気が流れていた。
いや、重いのはごく一部の者たちなのだが、彼らの発する空気があまりにも大きすぎるため、それにつられて他の者たちもバカ騒ぎをする気にはなれなかったのだ。
「・・・・・・・・・・・」
今日は来ないだろうと思っていたエルザはいつものように早朝からギルドに来た。
その表情はいつも通りクールだったが、その目元が赤くなっていることぐらい誰の目にも一目瞭然だった。
きっと昨日は皆の見えないところで、一人で泣き腫らしたのだろう。
彼女はギルドに来ても誰と話すこともなく、ただ黙ったまま何もせず、ギルドのカウンターでボーっと座ったままだった。
エルザの背中がよく見える位置のテーブルに座り、ナツ、ルーシィ、グレイ、ハッピーの、エルザとパーティーを組んでいる三人に加え、ジュビア、ウェンディ、リサーナ、エルフマン、彼らもそのテーブルに座り、いつもと違うエルザの姿にため息ついていた。
「エルザ・・・大丈夫かな」
「まあ、こればっかはな・・・エルザにとってジェラールはたぶん、ただの昔の仲間ってだけじゃねえ・・・あいつは口しねえが、もっと特別な・・・」
「それではグレイ様。ジュビアはジェラールさんという人に会ったことありませんけど、ひょっとしてエルザさんはジェラールさんのことを・・・」
「だろうな」
ハーッと深くため息をつく彼ら。
こういうとき、どう声を掛けて良いのか分からない。
「エルザはジェラールとすれ違ってばっかだった。あいつには言いたいことや伝えたいことが色々あっただろうな。俺もガキの頃に師匠を亡くした。言いたかったことや謝りたいこと、礼を言いたかったことがもう二度と伝えられなくなる。今のあいつはそういうのを無くした悲しみもあるんだろうな」
グレイが己の経験からエルザの今の気持ちを察する。
それに頷いて他の仲間たちもその考えに同意する。
「俺と姉ちゃんも・・・リサーナが死んだと思ったとき・・・あんな感じだったかもな」
「エルフ兄ちゃん・・・」
「私は・・・お母さんが死んだときにそう思ったかも・・・」
「ルーシイさん・・・」
「ジュビア・・・そういう経験ありませんけど・・・もしググ、グレイ様が・・・だだだ、ダメ!? 想像するだけでもジュビア生きていけない!?」
はあ~~~、っとそれぞれが己の過去の経験からも、今のエルザをどうすればいいのかが分からず、ただ再び深いため息をつくしか無かったのだった。
「ええ~~い、こんなの女々し過ぎる! それでも男かァ!」
エルフマンが空気を変えるためにもテーブルを叩いて立ち上がった。
「男は自分の力で立ち上がる! それが男! エルザなら大丈夫だ! エルザはギルドきっての漢だ!」
「エルフ兄ちゃん・・・エルザは女の子だけど・・・」
「とにかく、俺は仕事に行って来る!」
「ちょっ、エルフ兄ちゃん!」
悲しいかもしれないけど、それにつられて自分たちまで暗くなってはダメだ。
エルフマンはそういう感情も込めて立ち上がり、ギルドの掲示板から一枚の依頼書を切り取って、カウンターにいるミラジェーンにそれを手渡した。
「姉ちゃん、俺はこの依頼を受ける! もうすぐS級昇格試験もある! ウダウダしてられねえ!」
エルフマンから手渡された依頼書をミラが受け取る。
するとミラジェーンは少々渋い顔をした。
「ちょっとエルフマン・・・これ、ちょっと難しいクエストよ? 一人でやるの?」
「当たり前だ! 俺は男の中の男だ!」
「う~ん・・・でも、あなた一人でやるには・・・」
エルフマンから渡された依頼書を見ながら「う~ん」と悩むミラジェーン。
エルフマンはすぐに仕事に行きたいのか、ウズウズしている。
すると、なかなか許可を出さないミラを見かねて、リサーナが手を挙げる。
「じゃあさ、私もやる! 何の任務かしらないけど、久々エルフ兄ちゃんと一緒にやる!」
「っておおおい、リサーナ!? それはダメだぞ! お前に何かあったら、兄ちゃん・・・」
「うん。だから、一緒に頑張ろうね♪」
「う・・・ううう・・・・・うおおおおおおん、リサーナ! 俺は男だァ! 何があろうとも俺がお前を守る!」
「ちょっ、エルフ兄ちゃん、痛いって!?」
妹の微笑みに号泣しながら抱きしめるエルフマン。
ギルド内からは苦笑が漏れる。
だがこの時、ミラジェーンだけはどこか嫌な予感がした。
それはきっと、エルザの今の様子を見て、そういう予感がしたのだろう。
「リサーナ・・・・・・そう・・・分かったわ。ならその任務・・・私もやる」
その瞬間、ギルド内が騒然とした。
「ミ、ミラ姉!?」
「ね、姉ちゃん!?」
さすがの兄妹も驚いているようだ。
だがミラは、いつものようにおっとりとした表情ではなく、どこか力強い表情だった。
「もう、二度とリサーナを・・・あんなことは二度とごめんだからね」
一度は失ったリサーナ。もう二度とあんな悲しみは繰り返したくない。
ましてやジェラールのことがあったばかりなのだ。
ミラジェーンもどうやらそれに関係して自らも任務に参加することを決めたのだ。
「へ~、S級魔導士のミラジェーンが現場復帰か!」
「こりゃあ~、エルザ、ナツ、グレイ、ルーシィの最強メンバーにも匹敵するパーティーじゃねえか?」
「しっかりやれよ、エルフマン! 姉ちゃんにばっか活躍取られるなよな!」
ミラジェーン。かつては魔人と恐れられたギルド最強候補の一人。
妹が事故で目の前から姿を消して以来、二度と現場に赴くことはなかったが、こうして妹が帰ってきたことにより、再び彼女は現場に赴く。
ギルドの者たちは、その光景がどこか懐かしいのか、「おお~」と感慨深く唸っていた。
「へ~、ミラさんも付いてるなら本当に最強ね。でっ、どんな任務なの?」
しかし、逆に言えばS級魔導士のミラジェーンが簡単に許可の出せない任務だ。それがどういった内容なのか興味が湧き、ルーシィが尋ねると・・・
「海賊退治よ。今、西の海で頻繁に出没しては暴れ回っている・・・」
そう、これもまた廻り合せ・・・
「そう、この『Σ(シグマ)44海賊団』の討伐よ。大型海賊団のシグマ。船長のシグマを筆頭に幹部の44人は闘神と呼ばれている、武闘派の海賊よ」
「か、海賊退治~? わざわざミラさんが行くぐらいの? 闘神ね~、最近そういう肩書きだけ大げさなのがいっぱい居すぎよね~」
「確かに雑兵ならエルフマン一人でいいんだけど、少し相手の人数も多いみたいだしね。念のためよ」
たかが海賊退治・・・まるでそういう口振りだ。
そう、この世界では優秀な魔力や戦闘力を持っている者は大概が魔導士になり、ギルドに所属し、金を稼ぐ。
しかしそういった正規ギルドに所属できない者は闇ギルドに身を落とす。
言い換えれば、海賊や盗賊などをやる者は闇ギルドにも所属できない半端もの。
例え一般人たちは襲えても、優秀な魔導士などに勝てる道理はない。
「ギヒッ。そいつは良い運動になりそうだ。金はいらねえから、俺にも一枚かませろ。闘神とか偉そうな奴らはぶっとばしてやるよ」
「だ、そうだ。参加させてもらえないだろうか」
さらにメンバーも豪華と来ている。
「ガジル!? リリー!?」
「ちょっと待て! 俺のクエストに、ガジルとリリーが何でッ!? リサーナと姉ちゃんだけでも十分だぞ!」
「そう言うな。最近どいつもこいつもS級昇格試験に選抜されたくて良い仕事をみんな持っていきやがる。ここらで憂さ晴らしと、俺の相棒との絆を深めとかねえとな」
「ガジルはこう言っているし、俺もこのギルドに入ってまだ仕事をしてねえ。お試しの意味でも参加させて欲しい。報酬はいらないから頼む」
加わるのは鉄の滅竜魔導士・ガジル。
そしてここ最近になってガジルが無理やり相棒にしてフェアリーテイルに入れたパンサー・リリーだ。
リリーはナツの相棒のハッピー、ウェンディの相棒のシャルルと同じエクシードという種族。
普段は小柄でマスコットのような体格をしているが、その点リリーに関しては戦闘時には人型まで肉体を変化させ、驚異的な戦闘力を誇る。
こと単純な戦闘能力に関しては百名近いこのギルドの中でもトップクラスのコンビになるだろう。
「う~わ~、ミラさんたちに加えて、ガジルとリリーも入るの~? なんだかもう、相手の海賊が可哀想になるぐらいのメンバーね・・・」
「つーか、本来は依頼請け負ったはずのエルフマンが一番影薄いんじゃね?」
「う・・・うおおおおおおん、負けるかァァァ! 俺は男だァァァ!!」
ルーシィたちがこの壮観なメンバーに苦笑しながら、このメンバーの標的となる海賊に同情した。
それは他のギルドメンバーも同じだっただろう。
だが、彼らは知らない。
そしてガジルもミラジェーンたちもこの時はまだ知らなかった。
海賊は犯罪者。そこに本物も偽物も存在しないだろう。
だが、それでもこの事件の後に彼らは語る。
――本物の海賊に出会った・・・と