死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL)   作:アニッキーブラッザー

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第5話 決死

「な、なんだあいつ・・・」

「分からねえ・・・だが・・・今のうちだ・・・逃げるぞ!」

「ごめんね・・・エースちゃん・・・あなたは逃げろと言った! それはあちしらと名前も知らないあいつらを逃がすため! ごめんね・・・あちしには分かってる! あちしが加わっても力になれない! だからあちしも逃げるッ!」

「キーーッシシシ、せいぜい足止めぐらいにはなれよ、火拳」

 

孤独な戦いを強いられるエース。逃げ出す者たちを背中に、単身でアクノロギアに戦いを挑む。

だが・・・

 

「グガアアアアアアアアアアアアア!!」

「ッ!? 鏡火炎!?」

 

その場で腕を振るう。それだけで風圧がエースの炎をかき消し、エースの背後に居る逃走者たちにも襲いかかった。

まるで鎌鼬のような鋭い刃が、エースを通り抜け・・・

 

「モリア、危ねえ!」

「なっ・・・ぐっ、影法師(ドッペルマン)! ッ・・・ぐおおおおおおおお、いでえええええええ!?」

 

影の分身体を盾にしようとしたモリヤだが、その盾を紙屑のようにアクノロギアの鎌鼬が切り裂き、モリアの胴体に痛々しい竜の爪痕が刻まれた。

 

「モリヤァ!」

「ぐ、いでえええ、血が・・・血が・・・この、クソ竜がァ!」

 

たった一撃。その一撃で致命的なダメージを負ったモリヤ。

 

「ひ、ひいいいいいい! 殺されるわよう! もう無理! あちしは全力で逃げる!」

 

白ひげ海賊団の隊長と七武海の二人を相手にまったく問題にしない化け物に、もはやボンクレーは振り返らずに一刻も早く逃げるしかなかった。

 

「モリア、生きてるかァ!」

「ぐぞ・・・火拳・・・足止めならもっとしっかりやれってんだ・・・」

「ああ、すまねえ」

「ちっ、・・・走る力が・・・くそが・・・くそがァ! キシシシシシシ、これで奴をぶっ殺すしか逃げる道はねえってことかよ!」

「モリア・・・」

「いいか? 奴の死体は俺がもらう! それでいいな!」

「モリア・・・・・・・ああ・・・・そうだな・・・」

 

七武海のモリア。その昔は己の能力を過信して、力の限り勇猛に戦う海賊であった。

 

(クソ・・・カゲカゲの実の力なら逃げられねえこともねえが・・・このトカゲやろう・・・)

 

しかし新世界での敗北からあらゆることを悟り、いつしか自身ではあまり動かず部下たちを使って楽に成り上がろうとした。

だが、この時、かつての血か、それとも海賊の意地かは知らないが・・・

 

(俺もいずれは新世界へ再び入り、海賊王に成り上がる! こんなカスに舐められてたまるかァ!!)

 

巨大なハサミを二本取り出して、咆哮するアクノロギアに向かってエースと共に構える。

 

 

「いくぞコラァ!」

 

「キシシシシシ、貴様の影をよこせ! その影を手に入れれば、俺は海賊王へと楽に駆け上がれる!」

 

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

爆音と振動で再び島全体が激しく揺れる。

一体どんな戦いが繰り広げられているのか。

一体自分たちはどうなってしまうのか。

二人の海賊を置き去りにし、人々はただ闇雲に走った。

 

「はあ・・・はあ・・・嫌だよ・・・死にたくねえよ・・・」

「くそ・・・俺・・・もう闇ギルドはやめる・・・真っ当な仕事に就くからよう」

「家族が・・・家族が居るんだ・・・俺の帰りを待ってんだよ・・・」

 

それぞれが帰る理由、そして弱音を吐きながら、なんとか島に停泊している船にまでたどり着く。

 

「おい・・・確か囚人たちがまだ・・・」

「見張りの仲間がまだ何人か居るんじゃ・・・」

 

港にたどり着いた彼らは辺りを見渡し、まだこの島に現在いる人間はこれだけでないことに気づいた。

まだ囚人や看守が山ほどいるはずである。

 

「んなこと言ってる場合かよ! さっさと逃げねえと死んじまうぞ!」

「だが・・・見捨てていくわけには・・・」

「ちょっと待て、これは政府の船だ! 囚人たちを乗せるわけには・・・」

「おい、これは俺たち幻獣の牙の船だ! それ以外の連中は乗るんじゃねえ!」

「ま、待ってくれ! 生きて帰れたら金なら払う! いくらでも!」

「頼む、俺たちも乗せてくれ! 俺たちも死にたくねえ!」

「知るか! 人数多過ぎるとスピード出せねえんだよ! タラタラ逃げてるとあの竜が来ちまうだろうが!」

 

オロオロとしだす者たち。

我先にと船に乗り込んだり、押しのけようとする者たち。

まさに全員パニックだった。

しかしそこに大声で叫ぶ男が彼らに蹴りを入れた。

 

「何ごちゃごちゃ言ってんのよう! 生きている連中だけでも全員逃げなきゃ、エースちゃんたちが浮かばれないじゃない!」

 

ボンクレー。

 

 

「どーせそうやってモメると思ったから来てよかったわよう。こんなバカみたいなことでモメて全滅しましたじゃあ、いくらなんでもエースちゃんがうかばれない。あちしはそんなあんたらのケツを蹴っ飛ばしてでも逃がすために一緒に逃げた」

 

「て、てめえ・・・」

 

「おい、このオカマ野郎・・・なにを・・・」

 

「水知らずの馬鹿野郎が命懸けでテメェらのために戦ってんだよォ! その気持ちに報いたければ、一人でも多く逃げ出すことが先決だろうがよう!」

 

 

しーんと静まり返る船場。ボンクレーの怒鳴り声がどれだけ彼らに響いたか分からない。

だが、その次の瞬間・・・・

 

「おーい、船まだ行くなァァ!」

「俺たちも連れていってくれェ!」

 

まだ島に残っていた囚人や看守たちが一斉に駆けつけてきた。

 

「あ、あんたたち・・・」

 

ポカンとするボンクレーたち。するとそんな彼に、あの男が近づいてきた。

 

 

「アクノロギアの視界に入らないよう、かなり遠回りしてかけつけて遅れた」

 

「ジェ、ジェラちゃん!?」

 

「ボン・・・とりあえず監獄にいた囚人と看守はこれで全員だ」

 

 

どうやらジェラールが残された者たちを先導して連れてきたようだ。

残されていた同僚や、逃げ遅れが居ないことに敵味方問わずに安堵のため息が漏れた。

 

「だ、だが待てよ! この人数でもきついのに、そいつら全員まで乗せられるほど余裕はねえ」

 

停泊している船は数隻。闇ギルドの一人が言った。

 

「だが、詰め込めば乗れるだろう?」

「馬鹿、だからスピードが落ちてあの竜に追いつかれるって言ってんだよ!」

「ちょっと、だからつまらねえこと言ってんじゃないわよう!?」

 

海へ逃げても逃げ切れない。その恐怖を闇ギルドの者が叫んだことにより、再びその不安が彼らに押し寄せた。

だが・・・

 

「ならば奴は・・・絶対にこの島から逃がさない」

 

ジェラールが、決意を秘めた瞳でそう断言した。

 

「なっ!?」

「ジェラちゃん!?」

「ジェラール・フェルナンデス!?」

 

ジェラールの言葉に全員がどよめいた。

 

「だから頼む。一人も残さず船に乗せてやってほしい。そして、生き延びてくれ。俺は絶対にアクノロギアをこの島から出さない。お前たちが・・・安全な場所へと逃げ延びるまでは」

 

誰もが言葉に詰まった中、誰かが叫んだ。

 

「ジェ、ジェラール・フェルナンデス! なぜだ!? なぜお前のような大悪党がそんなことをしようとする!」

 

看守の一人がジェラールに言う。だが、ジェラールはどこか儚い笑みを浮かべて返す。

 

「大悪党? そうだ・・・だからこそ俺は・・・その罪を少しでも償うために・・・誰かを救いたい」

「なっ・・・」

「軍の者も闇ギルドの者も囚人にも・・・帰りを待つ人たちがいるのだろう? ならば俺はその道になれるのなら本望だ」

 

その言葉、そんな表情で、とても悪名高い大悪党のセリフには聞こえなかった。

 

「かつて俺の心を救ってくれた人が言ってくれた・・・死ぬ程度では俺の罪は許されない・・・生きて贖えと・・・だから・・・それでも死ぬというのなら・・・せめてこの命が尽きるまで、一人でも多くの人を救って贖いたい・・・俺が不幸にしてしまった人たちの分も」

 

いつの間にか、ジェラールの魔力を封じている手錠が外れていた。

彼の周りにだけ風が舞い上がり、徐々に魔力が開放されていく様子が目に見えた。

 

「それで誰かに許されるわけでもないが・・・今の俺には・・・それぐらいのことしか出来ないから」

 

ジェラールが振り返る。

 

(・・・・・エルザ・・・色々と・・・すまなかったな・・・)

 

そこでは未だに炎と爆音と振動が発生している、争いの震源地。

 

「シモン・・・まだ君のことは思い出せない・・・でも、今から君に謝りに行く・・・その頃にはきっと全部を思い出している・・・いや・・・俺は地獄に堕ちるだろうから・・・死んでも天国にいる君には会えないかな・・・」

 

未来のある者を守るため、ジェラールはそこに向かって駆け出したのだった。

そして・・・

 

 

「まったくもう。言っとくけどあちしはジェラちゃんと違って、あんたたちを救うためじゃなくて、エースちゃんの気持ちを無駄にしないためよう! 勘違いしないのよう!」

 

「お、おい、オカマ!?」

 

「あちしももう用事は済んだし行くわよう! 願わくば、麦ちゃん! あちしに力を貸して!」

 

「なに言ってんだ!? お前も逃げるために一緒に逃げて来たんじゃないのかよッ!?」

 

「さっきあの場に残ってもエースちゃんの足でまといになるだけ。やられたあちしに気を取られてエースちゃんも竜の足止めできず、あんたら全員も逃げ遅れる・・・それだけは避けたかったのよう。でも、その状況が避けられるようになったからこそ、あちしも遠慮なく戻れるのよう」

 

「馬鹿かお前! 死ぬ気か! なんでワザワザ戻って・・・」

 

お前も戻る気か!? 誰もがそんな表情でボンを見る。

だがボンクレーは・・・

 

「ダチが戦ってんのよう! 他に理由がいるかッ!!」

 

こうしてボンクレーは再び走り出した。

 

「今いくわよう、エースちゃん!」

 

その後ろ姿をこの場に居た者たちは全員心に焼き付けた。

正義も悪もない。この場にいた人間たちは忘れない。

 

エース

 

モリア

 

ボンクレー

 

そしてジェラール

 

島から無事に脱出した彼らは、この四人が居たからこそ助かったのだと、泣きながら世界中に語るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後・・・

 

評議院の一団が、激しく馬鹿騒ぎを繰り広げる妖精の尻尾(フェアリー・テイル)の扉を開けた。

 

「貴様らは・・・評議院!」

「んだと、評議院!」

「あの人、確か・・・ジェラールを逮捕した!」

「あのやろう!」

 

ギルドに突如現れた評議院の一団。

彼らが直接ギルドに赴くなど非常に稀であり、ギルド内に緊張が走る。

 

「ラハールです。いい加減に覚えてください」

 

一団の先頭で、メガネをかけた男が言う。

その男の顔を見て、このギルドの滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のナツは激しく睨みつけ、一気に飛びかかろうとする。

 

「うるせえ! てめえ、よくもジェラールを連れていきやがったなァ!」

 

そう、ラハールとは、かつてジェラールを逮捕して連行した人物だった。

ナツ、ルーシィ、グレイ、ウェンディ。エルザだけでなく、この四人も少しだけジェラールと関わりがあった。

最初は憎き敵として。そしてエルザを守るために。

だが二度目の時、ジェラールは記憶を失っており、その時の彼は難解な任務を行なっていた自分たちを助けてくれた。

ジェラールが必死に助けてくれなければ、きっと自分たちも今ここにはいない。

ジェラールと自分たちの関係はと問われても、なかなか簡単にはその関係は説明できないだろう。

許せない人物でもあるし、それでも恩もある。何よりも仲間であるエルザがずっと想い続けている人物だ。

だからこそ、ジェラールとの関係は簡単には説明できないが、ナツたちはそれでもジェラールを連れていったラハールたちに良い感情は持っていなかったのだった。

 

「やめんか、ナツ!」

「止めんなァ、じっちゃん!」

 

ラハールにナツは敵意剥き出しで怒鳴る。

ギルドマスターのマカロフが魔法で巨大化した手でナツを取り押さえているが、それでも今にも噛み付きそうなナツの瞳は、ラハールを睨んでいた。

 

「ちょっとナツ、相手は評議院よ!?」

「でも、ルーシィ!」

「・・・・いい加減にしろ! 少し黙っていろ、ナツ!」

「ッ!?」

 

未だにジタバタ暴れるナツに向かい、エルザの怒号が響きわたる。

その強烈な迫力に押されてナツどころかギルドも評議院の連中もビクついてしまった。

 

「失礼をした。それで・・・評議院がわざわざ何の用で妖精の尻尾(フェアリーテイル)に?」

 

そしてエルザも仕事とはいえ、ジェラールを逮捕して連行したラハールたちにいい感情を持っていないのも事実。

鋭い瞳で、ラハールたちを睨みつけた。

 

「あ、・・・はい、そうでしたね・・・はい・・・実はエルザ・スカーレット・・・今日我々はあなたに伝えることがあってここに来ました」

「・・・な、なに?」

 

襟を立たせて落ち着かせ、ラハールが言う。その言葉にエルザもギルドの皆も首を傾げた。

 

「エルザ・・・あなたはこれまで監獄・メガユニットに幽閉されたジェラールとの面会の希望書を提出していましたね」

「むっ・・・なんだそのことか・・・別にいいであろう。出すだけなら自由だ」

「はい。もうすでに何十枚と提出されましたが当然全て却下してきました・・・しかし・・・」

「しかし・・・なんだ?」

「そんな貴方に・・・いえ、貴方の耳にはどうしても伝えておくべきことが起こりました」

 

メガユニット・・・それはジェラールがいる場所である。

ラハールの言葉はエルザだけでなく、ナツたち、ジェラールが逮捕された時にその場にいた彼らも体が反応した。

 

「監獄・メガユニットが数時間前・・・闇ギルドに襲撃されました」

「なっ、闇ギルドに!? どうして!?」

「恐らくはバラム同盟のギルドの者たちを解放するためと言った所でしょう。しかし事態は・・・そんなことがどうでも良くなるほど、思いもよらぬ事態となってしまったのです」

「どういうことだ?」

 

次の瞬間、ラハールは淡々とナツたちに衝撃の言葉を告げた。

 

「・・・メガユニットに突如・・・巨大なドラゴンが出現したそうです」

 

次の瞬間、今まで話に加わっていなかった、ナツとウェンディと同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のガジルも、そしてギルド最強と噂されるS級魔導士のギルダーツまで身を乗り出して驚いた。

 

 

「「「「ドラゴンだとッ!?」」」」

 

「その現れた黒いドラゴンは監獄施設を滅茶苦茶に破壊し、闇ギルドも看守も囚人も全てを関係なしに襲い、島中を破壊して暴れまわったそうです」

 

 

声に出して驚いた彼らだけでなく、マスターのマカロフ始めとする、ギルド全員が驚きを隠せなかった。

 

「ドラゴンが!?」

「黒竜・・・まさかそいつ・・・あん時の・・・」

「ギルダーツ・・・何か知ってんのか?」

「ああ。俺もクエスト中にそいつに襲われた・・・」

「ドラゴンが・・・ドラゴンがやっぱ居たんだな! そいつイグニールのことを何か知ってるかも知れねえ! 俺、そいつを見つけてくる! 俺そこ行ってくる!」

「ちょっ、ナツ! なにいきなり言ってんのよ!」

「離せルーシィ! 俺はドラゴンに会いてーんだよ」

「わ、私も行きたいです!」

「ウエンディまで!?」

「ギヒッ、俺もだ!」

「ガジル!」

 

ドラゴンという言葉に過剰に反応するナツたちに、それを止めるルーシイたち。

そしてどよめくギルドのメンバーたち。

だが、騒然とするギルド内が、ラハールが次に口にした言葉で静まり返るのだった。

 

 

「メガユニットはもう・・・ありません・・・」

 

「えっ?」

 

「逃げ延びた者たちからの報告で、我らは武装した軍艦を引き連れて向かったのですが・・・・・・・メガユニットは・・・島の破片や残骸を海上に浮かべ・・・島そのものがもう消滅してしまったのです」

 

 

島が・・・

 

「しょ・・・消滅・・・だと!?」

 

島そのものが消滅した。一体それがどれほどとんでもない事態なのか・・・

 

「そ、そんな!? だって・・・だってあそこには今、ジェラールが!?」

「な、何言ってんだよ。そこにはジェラールが居るんだろ? だって、ジェラールだぞ? あいつ、あんなに強えーんだから」

 

ルーシィとナツが震える声でつぶやいた。

その時、エルザは瞳孔が開いた状態で、今にも両膝が崩れ落ちそうなぐらい震えて立っていた。

 

「逃げ延びた者たちの報告・・・と言ったな・・・ジェ・・・ジェラールは・・・その島にいた者たちはどうなった?」

 

ようやく絞り出せた言葉でエルザがラハールに尋ねる。

ラハールは少し顔を俯かせながら、その問いに答える。

 

 

「看守・・・闇ギルド・・・囚人・・・彼らはほとんどが無事です」

 

「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」

 

 

最悪の事態かと思いきや、ラハールから出たのは意外な言葉であった。

 

「じゃあ、ジェラールも!?」

「よ、よく助かったな・・・俺はてっきり全員死んだと・・・」

「おい、ギルダーツ・・・そんなにその竜ってスゲーのか?」

「うう、でも良かった・・・全員無事なんだったら、ジェラールも・・・」

「よかったじゃない、ウェンディ」

 

だが、ラハールの顔は俯いたままだ。

エルザはその瞬間、嫌な予感が心に襲った。

 

(お、おい・・・なんだ・・・なんだその表情は・・・)

 

ラハールはなぜ俯いている?

 

(い、今、無事だと・・・ほとんどの者が無事だと言ったではないか。ならばジェラールも無事なのだろう? あいつはしぶといからな。死んでいるはずがない。なのになぜそんな・・・)

 

聞いてはまずい。

ここから先は聞いてはまずい気がする。エルザの勘がそう告げていた。

 

「ただし・・・」

 

やめろ・・・

 

(な、なんだ!? いいからジェラールは無事だと言え! 他の情報は今どうでもいい! ジェラールの無事の報告が先だろう!)

 

エルザの心臓がバクバクと跳ね上がる。

違う・・・

嘘だ・・・

そんなはずはない・・・

今この胸に襲う強烈な嫌な予感は全て杞憂だ・・・

 

「逃げ延びた者たちの話によると・・・彼らを逃がすため・・・勇敢な数名の者たちがドラゴンの足止めのために島に残って戦ったそうです・・・」

 

ギルドが静まり返った。

 

(や、やめろ! 言うな! 言うな!)

 

「そして・・・その中に・・・」

 

「や、やめっ―――――!!」

 

「ジェラールは・・・その中に居ました。監獄にいた全員を救うため、命懸けでドラゴンに立ち向かったそうです」

 

 

もうそこから先は、エルザの耳には何も入らなかった。

 

「我々が駆けつけた頃には島は消滅し、ドラゴンの姿はどこにもありませんでした・・・当然・・・ジェラールの姿も・・・」

 

エルザは糸の切れた人形のように崩れ落ちたのだった。

 


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