死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL)   作:アニッキーブラッザー

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第23話 世界が知った日

エースたちがいるレアグローブ王国とは別の大陸に存在するフィオーレという国。

その国で、最も騒がしく、最も自由なギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)。

つい数日前まではその騒がしさも少し潜めていたが、ようやく少しずつ元に戻りかけてきた。

だが、それもまだ完全ではない。数日前に彼らに知らされた衝撃的な事件の影響から未だに癒えていない者たちもいたのだ。

 

「なあ、ルーシィ、エルザはもう大丈夫なのかよ~?」

「分かんない。今日も一人で任務に行っちゃったし・・・でも、塞ぎ込んでいるよりはずっといいと思うけどさ~」

「でも、オイラやっぱり心配だよ~。それに最近、オイラたち最強チームで活動してないじゃん。オイラなんだか寂しいよ」

「そりゃ~、私だってそうだよ。でも、肝心のエルザがああだし・・・」

「う~~~、イライラするぜ~、何か全然俺も燃えてこねーし、あんなエルザじゃ張り合いがねェ」

 

ギルドのテーブルに突っ伏している、ギルドの魔導士であるナツ、ルーシィ、そしてハッピー。

彼らも少し元気がない。

 

 

「よう、もう任務が終わったのか? 随分とダレやがって」

 

「あっ、グレイ、ジュビア、二人も今終わり?」

 

「はい。私も帰る途中で偶然グレイ様と会って・・・偶然・・・運命・・・運命! やっぱりジュビアはグレイ様と――」

 

「まあ、それは置いといて~」

 

「ルーシィがジュビアとグレイ様の仲を嫉妬してるッ!!」

 

「今の話の流れでどうしてそうなんのよッ!?」

 

「こらこらやめってんだよ、オメーらは相変わらず・・・いや・・・」

 

 

相変わらず・・・そう言おうと思ったがグレイはその言葉を最後まで言い終わらなかった。

確かに一見はいつも通りのような光景に見える。だが、やはり何か欠けている。

 

幼い頃からこのギルドの一員だったグレイだからこそ、その些細な違いも十分に気づけたのだった。

 

(まあ、ミラちゃんたちやエルフマンはまだ任務から帰ってきてねェし、エルザは俺たちの前ではクールだが明らかにいつもと様子が違ェ。ナツもジェラールが死んだ事と、今の心を痛めてるエルザに対して張合いを感じてねェ・・・)

 

何だかこの空気は居心地が悪い。どうしてこうなったのだと、グレイは頭を掻いた。

 

(ジェラールか~、つっても俺も話したこともねーし、顔もチラッとしか見てねェからあんまりよく分かんねーんだよな・・・楽園の塔のときも、ニルヴァーナの時も・・・)

 

ジェラール。彼が死んだ・・・いや、正式的には行方不明なのだが、その事実を評議院から知らされてからこうなった。

だが、ジェラールは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の人間ではない。素性としてはエルザの幼なじみという程度のもの。

あと分かっているのは、闇にとらわれて暴走し、エルザやかつての仲間や多くの人々を欺き、傷つけてきた男ということぐらい。

しかしそれでも今、彼が死んだというだけでギルドの象徴的な魔導士の一人でもあるエルザの心が傷つき、ムードメーカーのナツまでもが落ち込んでいる。

そしてその傷を仲間であり、家族でもある自分たちでも簡単に癒すことができない。

 

「せめてエルザの奴も・・・俺たちの前でぐらい弱音を吐けってんだよ」

「グレイ?」

「グレイ様?」

「なんでもねーよ」

 

多分グレイだけでなく、このギルドにいる大半のものは気づいているだろう。

エルザは人前で決して弱音を言わないし、実際ジェラールのことを聞いてもクールに押し通していた。

 

だが、それは心が強いからというわけではない。ただ、影でエルザは泣いているだけなのだ。それを本人に直接言っても、エルザはクールに躱す。それゆえ、ギルドの者たちもエルザの悲しみに踏み込むことができない。

 

結局自分たちにしてやれることがない。それがグレイには悔しかったのだった。

 

「誰が弱音を吐くだ」

 

その時、グレイの背後から低い声が聞こえた。

 

「いっ!?」

「あっ!?」

 

振り返るとそこに居たのは、ちょっとジト目で睨むエルザがグレイを見下ろしていたのだった。

 

 

「エルザ、今帰ったの?」

 

「うむ、予定より早く片付いたのでな。それでグレイよ・・・誰が弱いだと?」

 

「弱いとは言ってねーよ、弱いとは!」

 

「ふん、見くびるな。お前たちにも相当心配をさせたようだが、別に私も落ち込んでいるわけではない。ただ、心の整理に時間が掛かっていただけだ」

 

 

長い緋色の髪をかき上げ、少しだけエルザは微笑んだ。それはまるで仲間を安心させるためのような笑みに見えた。

 

「じゃ、じゃあエルザ・・・」

 

少しぎこちなさそうに訪ねようとするルーシィだが、その前にエルザは頷いた。

 

「ああ、もう問題ない。いつまでも過ぎたことにクヨクヨしていても仕方ないからな」

「エルザ!」

「どうだ、ルーシイ、グレイ、それにナツもハッピーも。そろそろいつものメンバーで仕事を再開しないか?」

 

この感じはいつものエルザだ。強くてリーダーシップがあり、この問題児だらけの一団を見事に引っ張る。

いつものように微笑んでくれるエルザをようやく見ることができてルーシィはうれしくて、そしてよく立ち直ってくれたと涙が出そうになった。

そしてエルザ復活に喜ぶのはルーシィだけではない。

 

「なにーッ!? 本当か、エルザ! もうお前はなんともねーのか?」

「もうエルザは復活―ッ!!」

 

今の今までギルドのテーブルに突っ伏してダレていたナツとハッピーがガバっと起き上がる。この二人のこんな姿もルーシィにもギルドの者たちにも久々だった。

そんなナツとハッピーに、エルザもクスクスと笑いながら軽く拳を握り、ナツの胸をポンと軽く叩く。

 

「当たり前だ。なんなら、ナツよ。試してみるか? それにもうじきS級の昇格試験だからな、お前の力を試してみるのも悪くないだろう?」

 

自分が復活したかどうか、その手で確かめてみるか? エルザのその好戦的な誘いに、ナツはこれ以上ないぐらいうれしそうに飛び跳ねる。

 

「おおっ!!!! やっぱエルザはそうでなくっちゃよー、燃えてきたーッ!!!!」

「ちょっとちょっと、いきなり始めないでよーッ!!」

「オイラもーーーッ! やれ、ナツ!」

 

ああ、この感じだ・・・

 

(うんうん、これよこれ! これぐらい騒がしいのが私たちのギルドよ!)

 

今すぐにでもエルザに戦闘を仕掛けそうなナツを止めながらも、内心ではルーシィはとても嬉しかった。

これこそが妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ。これがこの国に誇るギルドの日常なんだと、ルーシィは久しぶりに笑った。

だが・・・

 

「・・・・・・チッ・・・」

「グレイ様? ・・・あの・・・どうされたのですか」

 

グレイは軽く舌打ちをした。

それは、エルザの復活にルーシィと同じように嬉しそうにしていたジュビアにだけ聞こえた。

 

「・・・ちげー・・・」

「グレイ様?」

「あんなんじゃ俺には・・・俺たちにはまだ誤魔化せねエ・・・」

 

誤魔化す? 一体何のことかとグレイの呟きに問いかけようとしたジュビアだがその前に・・・

 

「いくぞエルザーッ!!」

「ふっ、かかってこい!」

 

ナツがエルザに戦いを挑んだのだった。

 

「おいおいなんだ?」

「おお! ナツがエルザに戦いを挑んでやが・・・エルザ、もう大丈夫なのか!?」

「ナツさんとエルザさんが!?」

「おお! なんかスゲー久しぶりに感じるぜ!?」

 

二人が始めた戦いに気づき、ギルドの面々も雑談や酒を飲む手をやめてワラワラと集まってきた。

本当ならいつでも見れる日常の光景。だが、それも随分と久しぶりに感じ、みながうれしそうに笑っていた。

だが・・・

 

「ふむ・・・ギルダーツよ・・・どう思う?」

「ん? なんだよマスター?」

 

ギルドのカウンターに腰を掛けるマカロフとその隣でカウンターに寄りかかり、遠目にナツとエルザの戦いを眺めるギルダーツ。

 

「エルザなんじゃが・・・」

「ああ・・・動きがどうとかそういう問題じゃねーな。心が・・・・・・は~、見ちゃいられねーや」

 

グレイだけではない。マカロフやギルダーツ、それに他の者も気づくものはすぐに気づく。

まだギルドに入りたてのルーシィやジュビアやウェンディたちには別だろうが、エルザと幼少の頃から共にいる者たちのようにエルザを知り尽くしている者たちからすれば、今のエルザがいつもと違うことは一目で気づけたのだった。

 

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「ほう、やるではないか! 流石に実践を数多くこなしてきただけはあるな。だが、ナツよ。まだまだ私には勝てんぞ!」

 

 

ナツの炎をまとった拳を、エルザは軽くいなしてから、高速の剣技で応戦する。

鋭く研ぎ澄まされ、力強く、それでいて美しくも見える剣技だろう。

本来ならこれだけで並の実力者は手も足も出ないはずだ。

しかし・・・

 

「あれ・・・? おかしい・・・」

 

その時ようやくルーシィも異変に気づいた。

果たしてエルザの力は・・・・この程度だったかと。

 

 

「・・・・・おい・・・・エルザ・・・」

 

「なんだ、ナツよ! 戦いのさなかに会話とは私も舐められたものだな!」

 

「・・・・・・・・なめてんのはテメェじゃねエかよ・・・」

 

「ッ!?」

 

 

それはあまりにもアッサリと。

 

「なっ!?」

 

それはあまりにも容易く、そして一瞬だった。

 

「ちょっ、嘘でしょ!? ナナナナ、ナツが!?」

「あのエルザさんの剣を・・・」

「ナツさんがエルザさんの剣を片手で掴み取った!?」

 

驚いているのはルーシィ、ジュビア、ウェンディ。無理もない。ギルド最強候補の一人でもあるエルザの剣技を、ナツがアッサリと素手で掴み取ったのだ。

そんなもの誰だって驚くに決まっている・・・しかし驚いているのはルーシィたちの三人だけ。

他のギルドの者たちは、どこか複雑な表情で今のエルザを見ていたのだった。

 

「ナ、ナツ・・・・お前・・・」

 

エルザとて戸惑っている。まさか自分の剣がナツに・・・しかも素手で?

一体何がどうなっている? そして何だ? ナツの怒りと切なさの篭った瞳は。複雑そうに自分を見るギルドの仲間たちは。

 

「くっ、これしきのこと・・・うっ!?」

 

エルザが力づくでナツの手から剣を引き抜こうとする。だが、抜けない。ナツの握力で握られた刃はビクともしない。

どうなっている? なにがどうなっているのかが分からないエルザが動揺を隠せないでいると、ナツがようやく口を開いた。

 

 

「やっぱ燃えねェ・・・」

 

「な・・・」

 

「今のエルザを倒しても、俺は全然満足しねェ!! こんなの・・・こんなの俺がやりたかった戦いじゃねエ!! こんなの・・・俺が倒したいエルザじゃねエ!!」

 

 

ギルドに響きわたるナツの叫び。ただ皆は、その言葉に少し顔を俯かせていた。

 

「・・・黙れ・・・いいからかかってこい・・・」

「うるせエ・・・戦えねエよ」

「か、かかってこい!! いいから!! 私を倒してみろ。ナツよ!!」

 

ナツの叫びの意味が分からぬエルザは、あくまで戦いを続けようという。だが、その申し出をナツは拒否する。

いつもは自分から率先してかかってくるナツが拒否するのは初めてだ。

それも全ては・・・

 

 

「うるせェ!! お前こそ俺をみくびんじゃねェ! 泣き顔洗って出直してこいよ!!」

 

「だ、誰が泣くか! 泣いてなど・・・いない!」

 

「じゃあ、なんだよさっきまでのは! 剣をぶんぶん振り回してるだけでちっとも心が篭ってねエ! あんなもん単なる投げやりだ!」

 

「ッ!?」

 

 

なげやりで剣を振るっていた・・・・・・そのことをナツだけでなく、昔からエルザと共にギルドで育った者たちは皆気づいていた。

 

「ち、違う・・・私がいつなげやりになった! 私は真剣に・・・」

 

違う。自分はいつもと同じように戦おうとした。いつものように剣を振るっていたはず。

そう叫ぼうとしたエルザだが、ナツとエルザの間に、マカロフが立った。

 

「真剣であるのなら、そこまで戸惑ったりはせんぞ・・・エルザよ・・・」

「マ・・・マスター・・・」

 

どこまでも深くエルザの心を見透かすかのように、マカロフはゆっくりとエルザに歩み寄る。

 

 

「心のモヤモヤを吹き飛ばしたかった・・・今のふ抜けた自分を力いっぱい殴り飛ばして欲しかった・・・そんなことのために勝負をダシにナツを利用するなど、らしくもない真似を・・・」

 

「ち、違います! 私は、ただいつものようにナツと――」

 

 

途端にエルザの肩が跳ね上がる。慌てて否定しているが、今の彼女の様子で誰もが気づけた。

エルザが周りを見渡す。自分を見つめる仲間たちのその眼差しは、まるで哀れんでいるようにも見えた。

 

(違う・・・私はもう・・・)

 

もう、大丈夫。そう言おうとした彼女の心は、マカロフに看破された。

 

「悲しみに押しつぶされぬ方法は人それぞれ・・・時間が解決するという方法もある・・・」

「マスター・・・いえ、・・・私は・・・」

「死んでしまったものは死んでしまったもの・・・悲しいじゃろう・・・辛いじゃろう・・・しかしどこかで割り切らねばならんのじゃ」

「・・・・・・・・・・・しかし・・・私はッ・・・」

「強くて強いエルザ・・・しかしじゃ、エルザが悲しいと思ったときに胸を貸してやれない・・・ワシらはそんなに浅い絆なのかのう?」

「マスター・・・み、・・・・みんな・・・」

「言いなさい、エルザよ。ジェラールとやらを失ったことを・・・その悲しみを・・・」

 

その時、エルザが己の心に纏っていた鉄の鎧が剥がれた。

両膝から崩れ落ちたエルザは、気づけばこの数日で流しつくしたはずの涙が再び両目から溢れ出た。

 

(私は・・・・私はもう十分泣いたはずなのに・・・ッ)

 

泣き言も弱音も出し尽くしたと思っていた。しかし、それを人前で出さなかったエルザは自分の心の中に悲しみがまだ残っていることに気づかなかった。

辛いこと、苦しいこと、それを仲間と分かち合え。まるでマカロフがそう言っているように聞こえた。

その事が心に響いたからこそエルザは・・・

 

 

「マスター・・・・・・私は・・・仲間を・・・家族を・・・みんなを愛している」

 

「知っておるよ」

 

「ジェラールのことは・・・正直のところ分かりません・・・あいつはやはり許されないことをしたと思っています・・・でも・・・・でも・・・」

 

 

もう、いつまでも鉄の心を保つことはできなかったのだった。

 

「こんなのは・・・い・・・やだ・・・」

 

その日、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちは泣き崩れるエルザをはじめて見た。

 

「ジェラールに・・・・・・・・・・・私は・・・・・・・・・もう一度、あい・・・たかった・・・!」

 

愛するものを失った悲しみ。もう二度と取り戻せぬ時間。

 

「そうじゃ、全て吐き出すのじゃ、エルザ。ワシらが全てを受け入れよう」

 

死んでしまえばもう二度と和解することも、相手といがみ合うことも、何もできない。

 

「ありがとうございます・・・マスター・・・みん・・・なッ! 明日から・・・はっもうだいじょうぶだ・・・だから・・・だから・・・今日だけは・・・」

 

もうジェラールはこの世にはいない。

だからエルザは泣く。

 

「今日だけは皆の胸を貸してくれ!!」

 

そして、もう堂々と悲しんでいいのだ。堂々と泣いていいのだ。

このギルドにいる仲間たちが、全てを包み込んでくれるのだから・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・と、このエルザの悲しみを仲間たちが包み込んでいる光景を、ギルドの入り口の扉で恐る恐る覗き見ている者たちがいた。

 

「どうしよう・・・姉ちゃん・・・」

 

扉の影から顔だけ出して今のギルドの様子を見ながら、エルフマンは汗をダラダラと流していた。

いや、他にも表情を強張らせている者たちがいる。

 

 

「う・・・う~ん、あんなに弱弱しく泣くエルザって初めて見たわ。なんだか新鮮ね♪」

 

「ミ、ミラ姉・・・現実逃避しない」

 

「ギヒッ、あのエルザもあんな風に泣くとはよ。所詮は女だな」

 

「だが、ガジルよ・・・俺たちが今から言わねばならんことを言ったら・・・どうなるだろうか・・・」

 

 

背中に冷たい汗を流して震えるのは、ミラジェーン、リサーナ、ガジル、そしてリリー。

海賊討伐というクエストから帰ってきて、そしてジェラールの真実を知るものたちだ。

 

 

「やばいよ、ミラ姉ェ~、エルザはすごいプライド高いから・・・今回泣いたことを・・・」

 

「姉ちゃん・・・たぶん、ジェラールが生きてたことを教えればエルザは元に戻るだろうが・・・」

 

「つ、つーか・・・俺たちはジェラールのことには気づかなかったうえに・・・野郎が海賊の仲間みたいになってたのを見過ごしていた・・・それがバレたら俺たちは・・・」

 

「くっ・・・俺があの時にモリアという男の妙な魔法にやられて気を失っていなければ、気づけたものを!」

 

 

なんかまずい気がしてきた・・・

彼らが堂々とギルドの中に入れない理由はそこにあった。

 

 

「なんだろう・・・最初はエルザは多分すごい喜ぶだろうなって思ったのに・・・なんだか・・・ものすごい悪いタイミングで帰ってきちゃったかしら?」

 

 

 

 

 

そして数分後・・・

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

心温まるギルドの仲間たちがエルザの悲しみを包み込んでいた光景から僅か数分後。

さっきの涙は? と疑問に思うぐらいに瞳が乾き、それどころか無表情でありながら相手を威圧するようなオーラを出しているエルザ。

数分前に帰ってきたミラジェーンたちが少し申し訳なさそうに告げた報告を聞いたまま、エルザは動かなかった。

 

「ね、ねえ・・・ハッピー・・・あれって、エルザ怒ってると思う?」

「多分・・・ルーシィ・・・下手なことは言わないほうが良さそうだよ~」

 

緊張漂い、空気がギスギスと重い。

ギルドの椅子に座って腕組して黙ったままのエルザは、ようやく口を開き、今ミラジェーンたちから聞いたことを要約する。

 

 

「つまりお前たちは、シグマという海賊団を討伐しに行ったら既にやられた後であった。しかも、既にその海賊船を占拠していたエースという者は自分を海賊と名乗っていたため、勘違いして戦っていた。そしてその中に、青髪で容姿端麗で右目の周りに刺青が施されて天体魔法を操るジェラールという名の男もいた・・・そう、つまりそいつらは監獄メガユニットで囚人や看守に闇ギルドたちをドラゴンから守るために島に残って戦った者たちであった。つまり生きていた。ジェラールも死んではいなかった。それどころか海賊たちの仲間になっていた。しかし、お前たちはそのことに気づかず、これまたウッカリ取り逃がした・・・というわけか?」

 

 

ヤバイ・・・

エルザの言葉が一言一言が重い。

エルフマンとリサーナにいたっては体が自然とその場で正座をしていた。

 

「ふう~・・・」

 

そしてエルザは一呼吸。

 

「けっ、生きてたんだからいいじゃねーかよ。俺らだって最後の最後に気づいたんだよ! さっきまでビービー泣いてやがったくせに、凄んでんじゃね――ふごっ!?」

 

あっ、馬鹿・・・

 

 

「「「「「「「「「「ガジルゥゥゥゥゥッ!?」」」」」」」」」」

 

 

誰もがガジルにそう言いかけたとき、ガジルはエルザのアッパーで宙を舞った。

 

「ふふふ・・・ふふふふふ・・・・」

 

僅かに間をおいて突如笑い出すエルザ。

久々に戻ったはずのエルザの笑顔は・・・やけに怖くてギルドの者たちは皆恐怖で震えた。

 

 

「ジェラールめ・・・生き延びていたと思ったら海賊に身を落としたか? やはり貴様はこのまま野放しにしていいはずがない。そもそも監獄なんぞで更正できるというのが間違いだ・・・」

 

「ま、待ってよエルザ。エースたちは確かに海賊だけど討伐するほど悪い人じゃ・・・」

 

 

なんだか一人でブツブツと呟きだしたエルザにまずいと思ったのか、ミラジェーンがエースたちの人間性を伝えようとする。

彼らは海賊だけど悪い人たちではない。

だから何も心配するような問題は・・・

 

 

 

「号外―――――ッ!!!! レアグローブ王国のハード・コアにある軍事施設が何者かに強襲されたー! 犯人は海賊! エースと名乗ったその海賊が、あのレアグローブ六将軍の一人、ディープスノー将軍を倒して逃走! 同じく六将軍のハジャ将軍とイゴール博士は消息不明! 基地は倒壊! 犯人のエースは青髪の仲間とともに基地内から女性二名を連れ出して逃走したそうだ!! 詳しい内容は現在王国軍が調査中!」

 

 

 

超最悪のタイミングと詳細の欠ける情報が号外新聞となってマグノリアの街に大量にばら撒かれた。

 

「エース~~! あなたって人は・・・うん、でも信じてるわ・・・あなたにはきっとわけがあるのでしょう? でもごめんなさい・・・今の時点でエルザを説得できる材料が何もないのよ~~~~」

 

テーブルに突っ伏して泣き出したミラジェーン。

 

「お、女を連れだして・・・ふふ・・・逃走犯のくせに良い身分だな~、ジェラール」

 

そしてエルザは・・・・

 

 

「ナツ、ルーシィ、グレイ、ハッピー、行くぞ! 海賊の討伐の任務だ! ギャラは私のポケットマネーから払う!!」

 

「「「「ちょっ!?」」」」

 

 

エルザは幸か不幸か……

 

 

「ジェラーーーーールゥッ!! よもや海賊に身を落とすとは、もう許せん! お前たち、私はジェラールを引きずってでも連れ戻す! そしてもう監獄に入れても無駄だとわかったから、私が直々にあいつを力ずくで更正させるからな! 私が一生あいつのそばにいて更生させる! 文句あるか!」

 

 

文字通り完全復活したのだった。

 

 

「ねー! つーか、ジェラール生きてたんだ! さっすがだぜ! エルザも元のエルザに戻ったし、く~~、燃えてきた!」

 

「やっぱこうでなくっちゃね! それにしても一生そばにいて更生だなんて・・・うふふ、エルザも素直にもう二度とジェラールから離れたくないって言えばいいのにね~」

 

「私もジェラールに会いたいです!」

 

「へっ、ようやくらしくなってきたじゃねえかよ!」

 

「ジュ、ジュビア、グレイ様が行くならジュビアも行きたいです!」

 

「よーし、海賊退治だ!いくぞお前たち!」

 

 

大陸にばらまかれた新聞記事がキッカケとなり、ついに妖精の尻尾が大きく動き始めた。

 

 

 

だが、この時、大陸も、妖精の尻尾も、エースたちも未だ知らない。

 

 

 

動き始めたのは、彼らだけではないということを。

 

 

 

 

 

 

 

とある海域に存在する島。

 

 

 

「ジハハハハハハハ!! 海賊か。実に良い。大歓迎するぜ。特に、『本物』の海賊はな! 俺がこれから作り上げる、海の支配者たちの時代にな!」

 

 

 

世界の果てで、金色の獅子のような男が笑っていた。

 


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