死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL)   作:アニッキーブラッザー

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第21話 受け継がれゆく意志

「神火・不知火!!」

 

エースの両手から発せられる炎の槍。

エースは炎の形を変えて自在に操り、そして鍛えて研ぎ澄ませている能力者だ。

だが、この世界も、そしてこの世界に浸透している力もエースにとっては未知。

 

「やはり不思議ですね。この基地内では我々以外は魔法を使えないようになっているのですが・・・」

「おい、ぼーっとしすぎじゃねェのかい!」

 

ディープスノーは両腕を大きく広げ、まるで舞をするかのように身の回りにある「流れ」のあるものを操る。

 

 

「無駄です」

 

「あっ!?」

 

 

その瞬間、エースの腕がまったく予期せぬ方向へ捻れ、ディープスノーに向かっていたはずの炎の槍が直前で曲がって当たらなかった。

 

「にゃろ、俺の腕を曲げて狙いをずらすなんてよ、そんな使い方がありやがったのかい!」

「重要なのは能力ではありません。それをいかに使いこなすかです」

 

ディープスノーは「流れ」のあるものを操る魔導士。

今のはエースの腕に流れている血液の流れを乱して、腕を捻らせたのだ。

 

(厄介な能力だな。いや、魔法か? つってもまあ、あんまゴチャゴチャ考えても仕方ねェ。要するに魔法使いだろうと能力者だろうと、未知のもんだと思えば、あとはなんとかならァ)

 

エースはシンプルに考える。魔法のことをよく知らないのに色々考えても仕方ない。

ただ単純に「初めて出会うタイプ」そうとだけ思っておけばいい。

 

 

「火銃!!」

 

「指先から炎の弾丸を? なんとも器用な」

 

 

未知との遭遇こそ海賊にとっては大好物。興奮すれども、怯えることは何一つない。だからエースは笑った。

 

(大して動じないとは、そこそこの自信家かそれなりの場数を踏んでいるということでしょうか。しかし、私の相手ではない)

 

一方で、大して慌てる素振りを見せないエースに対して、ディープスノーは冷静にエースを見定める。その力を測ろうとしているのだろうか。

しかしそれでも、エースを見下している態度は何も変わらない。

 

「エースですか。名前は聞いたこともありませんが、大したものです」

「おう、そりゃどうも」

「ですが、あなたの力は攻撃にのみ特化している様子だ。破壊にしか使えぬ力は応用力がなく、私のようにあらゆる状況下でも力を発揮する魔法の前には霞んでしまう」

 

再び両腕を振るうディープスノー。関節がねじれて軋む音が、エースの体から発生する。

 

「おっ!? こいつはさっきの・・・」

「あなたの血液の流れは私の意のまま」

 

だが、エースにとっては「またこの技か?」というところである。相手の全身の血液の流れを乱して、捻り、引きちぎるのがディープスノーの力の一つ。

しかしそれは肉体を自由に操作できるエースのようなロギア系の能力者には通用しないと証明した。

 

「そいつは効かねえよ!」

 

エースは再び炎と化して、ディープスノーの技を受け流そうとする。

しかし・・・

 

「いいえ、効きますよ。だからあなたが例え相当な強者でも、私にとってはザコなのです」 

「ッ!?」

 

その瞬間、炎化したエースの全身が強い力で締め付けられ・・・

 

「がっ、がっあああああああああああああ!? 俺の炎が!?」

「エ、エース!?」

 

そして、炎が破裂した。

 

「流動のゼロストリーム!!」

「――ッ!?」

 

まるで体内に爆弾を埋め込まれて一気に弾けたかのような衝撃と痛み。

 

「なァッ!? が、ハッ・・・ど、どういことだッ!?」

 

力が受け流せなくなった。

腕や足や首ではない。炎そのものが捻られ、破裂し、エースの全身に激痛が走った。

 

「エースっ!? ど、どうして!? さっきは大丈夫だったのに!?」

 

エースにディープスノーの力は通用しないはず。だからこそこの場にいた人魚のセリアもどこか安心してエースの戦いを見ていられた。

しかし実際は違う。炎と化して受け流そうとしたディープスノーの力をエースはモロに受け、やがて炎が収まり生身に戻ったエースが全身を腫れ上がらせて両膝を付いた。

 

「・・・っつ~、・・・・」

「エース!? い、いや、ダメ! しっかりして! エース!」

「いちち、こいつは予想外だ・・・・野郎・・・ずいぶんと厄介な能力じゃねェかよ」

「エース!?」

 

慌ててエースに駆け寄るセリア。しかし駆け寄ったところで何もできず、セリアは痛々しいエースの姿にただオロオロとするだけだった。

一方でエースは激痛の中で頭に疑問が浮かんだ。何故受け流せなかったのか。

炎化すれば全て無効化できたはず・・・

 

(いや、待てよ? 流れを操るってことは・・・)

 

ああ、分かった。そういうことか。エースは瞬時にこの原因を理解できた。

疑問が解けて皮肉めいた笑みを浮かべるエースを見下ろしながら、ディープスノーが口を開く。

 

「どうやら理解できたようですね。この世には、炎化、水化など、流動する肉体に変化させて一見物理攻撃には無敵となる魔導士が多いのですが、私には流動化は通用しません。何故ならば、流動するものを操るのが私の魔法なのですから」

 

そう、流動するものを操るディープスノーの魔法は、エースのように肉体を流動化させるロギア系の能力者にとっては最悪の相手。

 

「流れる炎そのものを操作して弾かせました。炎そのものに対する痛みは、あなたに直接襲いかかるのです」

 

ロギア系最大の強みが通用しないということである。

 

 

「へっ、覇気やティーチの能力でぶん殴られたことはあったが・・・、ごほッ!?」

 

「だから言ったでしょう? 所詮あなたはその程度なのだと。楽に死にたければ無理に動かぬように。全身がズタズタでしょうから」

 

 

そしてあくまでエースを見下す。

 

(ちっ、こいつ・・・ソコソコ強ェな・・・油断したわけじゃねェんだが)

 

ディープスノーの淡々としながらも冷酷な圧迫感がビリビリとエースに伝わる。

 

「さあ、人魚セリアよ、その男から離れて私と共に来なさい」

「い、嫌!? 私は海に――」

 

エースを抱き寄せ、涙を流しながら首を振るセリア。しかし、全てを言い終わる前に彼女の喉が締め上げられていく。

 

「セ、セリア!?」

「あっ・・・がっ、い、がっ!?」

 

ディープスノーの魔法だ。セリアが呼吸もうまくできずに苦しみに悶える。

 

 

「言っておきますが、所詮あなたはただの実験道具。これから先、鬼族との取引で人魚はいくらでも手に入ることになるでしょう」

 

「ッ!? っあっ、あ゛!?」

 

「もう一度だけ言います。私と共に来なさい。命令です」

 

 

セリアの表情が苦痛にゆがむ。

痛い。苦しい。どうして自分がこんな目に?

海で自由に生きてきた人魚のセリアは薄れゆく意識と痛みの中で、どうして自分はこんなことになっているのだと嘆いた。

 

(どうして? 私何も悪いことしてないのに・・・エースだって・・・いい人なのに・・・私をただ助けに来てくれただけなのに・・・)

 

そして何よりも嘆きたいのは・・・

 

(この基地の中では私は魔法が使えない・・・エースはこんなにボロボロになってまで戦ってるのに・・・私は何もできない・・・もう、ここで私は・・・死んでしまうの?)

 

自分の無力が一番悔しかった。

だが、現実は非情。

例え魔法が使えたとしても抗うことのできぬディープスノーの圧倒的な力と恐怖にセリアの心が折れかかる。

しかし・・・

 

「ってコラ」

 

完全にディープスノーは気を抜いていたのかもしれない。

 

「えっ・・・」

「ッ!?」

 

まさかの反撃。ディープスノーが殴り飛ばされ床に転がる。

 

「ちょっと怪我したぐらいで、俺を勝手に倒したと思ってほしくねェな」

 

既に反撃どころか全身ズタズタに痛めつけられたはずのエースが立ち上がり、反撃の狼煙、いや炎を上げた。

 

「エースッ!?」

 

涙目のセリアの瞳に映るのは、ディープスノーを殴り飛ばした「白いヒゲを生やしたドクロ」を背中に背負う男の姿。

エースの拳が深々とディープスノーの顔面を撃ち抜いたのだ。

その拳に炎は纏っていなかった。

しかしその一撃はただの生身の拳とは思えぬ破壊力で、ディープスノーの顎の骨を砕いた。

 

「貴様・・・まだそんな力・・・ぬっ・・・」

 

たった一発。

 

「まだ・・・じゃねえ。これからだ。お前さんは何にも分かっちゃいねェ」

「な、なん・・・つっ!?」

 

それだけでディープスノーの両膝がバカみたいに揺れ、その瞬間にセリアを蝕んだディープスノーの魔法も解除された。

 

(馬鹿な・・・たった一撃で私が?)

 

たった一発で顎がイカれ、足にもきている。

ありえない。何だこの重さは? まるで肉体だけでなく心ごと破壊するかのような威力。

 

(・・・なんだ・・・この男は・・・)

 

そして何故・・・

 

(何故これほどボロボロのくせに・・・そうやって笑っていられる!? なんです、その目は!?)

 

既に重傷と見られるエースだが、その体でエースは笑っている。

その笑み、そしてただこうして対峙しているだけなのに、まるで自分が追い詰められていくかのようなプレッシャーに、ディープスノーは背筋がゾクリとなった。

 

「ごほっ・・・エ、エース!? だ、大丈夫なの!? か、カラダ・・・血が出すぎよ! そんなに無理をしたら・・・!」

 

首を締め付けられた魔法から解放されたセリアは直ぐに傷だらけのエースに向かって叫ぶ。

急に正常な状態に戻って咳き込むセリアだが、そんな弱ったセリアの頭を、エースは振り返って中腰になり軽く叩いた。

 

「バカ。俺がやられたと思ったのかよ」

「い、いた、エース!? な、なんでぶつの!?」

「うるせエ、お前は今俺が負けたと思っただろ!」

「えっ・・・えっ?」

 

叩かれたことが理解できないセリアはただ目を丸くした。

 

(ったく、確かに痛かったが、そんなに危なく見えたか?)

 

一方でエースは、「そんなにピンチに見えたのか?」とどうやら相当心配させたらしいことに気づき、少し自分のふがいなさに反省しながらも、もう二度と同じようなことはしないと心に誓い、そして笑う。

子供のころは泣き虫で心配性だった弟を安心させたときのように。

 

 

「いいか、俺はお前を助けるって言ったんだ。俺は約束はやぶらねエ。だから俺は絶対に負けねエし死なねエ! 覚えとけ!!」

 

「エ・・・エース・・・」

 

 

既に諦めかけたセリアに怒ったように言うエース。そのボロボロの姿でなんの根拠があるのか?

しかしセリアには、なぜか不思議とエースの言葉には説得力を感じた。

 

「随分としぶといですね・・・少し驚きましたよ・・・しかし、負けないし死なないとは、どこからそんな自信が出てくるのでしょうか?」

 

エースに殴られた顎を腫らしながら、ディープスノーもゆっくりと呼吸を整え、乱れた心を落ち着かせる。流石に一発でKOというわけにはいかない。

そしてディープスノーはかなり不機嫌そうだ。表情こそクールに保とうとしているが、それがビシビシとエースに伝わった。

だが、エースは笑う。

 

 

「俺の自信はどこから出てくる? まァ、自信とは言えねエが・・・」

 

「?」

 

「ただ俺は、俺の道に立ちはだかって、自由を妨げる奴には絶対に負けるわけにはいかねエだけだ。この背中のマークを背負っている限りはな」

 

 

エースの背中。そこには白ひげのシンボルが掲げられている。

この背中のシンボルは自分と仲間を繋ぐだけのものではない。親の名を背負っていることになるのだ。

 

 

「自由に海で暴れるどうしようもねエ俺だが、オヤジにだけは二度と馬鹿息子の所為で恥をかかせられねエ。敗北という恥をな」

 

 

そしてエースの体内から徐々に溢れてくる。

 

 

「それに、俺が負けた所為で仲間や家族にも迷惑をかけるのは二度とゴメンだからよ・・・」

 

 

それはただの炎ではない。

 

 

「だから・・・・!」

 

 

覇気と信念を纏った炎だ。

 

 

「こんな所でやられてちゃァ、偉大なオヤジにも! 白ひげ海賊団にも!」

 

「ッ!? な、なんだこのプレッシャーは!?」

 

「それどころか、共に自由を誓ったサボにも!」

 

「な、・・・何ものだ・・・貴様は!?」

 

「高みで会おうと約束した、ルフィにも顔向けできやしねエ!!」

 

 

エースから発せられる極限まで高まった炎は、まるでエースの今の心を表しているかのようにどこまでも燃え上がる。

 

 

 

「覚えていろ! 俺こそ大海賊・白ひげの意志だ!!」

 

 

 

その強大さに、ディープスノーは対峙しただけで全身が震え上がった。

 

 

「化物めッ! だが・・・」

 

 

このエースという男を、ディープスノーには理解できなくて当然だ。

これがディープスノーの知らない世界の、偉大なる海の高みに駆け上がる男だ。

 

「だが・・・所詮はそれどまり! その肉体をもう一度ズタズタに引き裂いて差し上げましょう!」

 

だが、ディープスノーとてこれで終わる訳にはいかない。

 

「生身なら血液の流れを! 炎化ならば炎の流れを! どちらであろうと私の力の前には届きません!!」

 

再び両手を振るうディープスノー。痛む肉体に鞭を打ち、精神を集中させてエースにトドメをさそうとする。

そしてエースは今、全身に炎を纏っている。炎化だ。ならば、炎の流れを操り捻り殺す。それでディープスノーの勝ち。

そのはずだった・・・

 

「なっ!?」

 

しかし、エースに変化がまるでない。いや、変化はある。それは炎がさらに燃え上がっていることだ。

勢いまで増している。

 

「馬鹿な!? なぜ何ともないのです!? 私の魔法はちゃんと・・・な、なにを!?」

 

一体何をした!? どうやって自分の力を防いでいる!? 焦りがピークに達したディープスノーがそう叫ぼうとしたとき、エースはまるで悪戯小僧のような笑みを浮かべた。

 

 

「武装色の覇気さ・・・」

 

「?」

 

「要するに炎も体も強度がヨエーから捻じれたりするんだ。だったら、それ以上の力で強度を増して硬質化すりゃァ、どってことはねエ!」

 

「まさか、流れを自力で正常に戻しているというのですか!?」

 

 

ディープスノーの疑問の答えは、超シンプルな力技。超硬質な強度を誇る炎。

そして硬質であればあるほど攻撃に転ずれば破壊の威力を増す。

 

 

「そしてこれが・・・」

 

「くっ、流動の魔法が効かないのなら禁じ手ですが仕方ありません! イゴール博士が開発して私に埋め込んだ、魔水晶(ラクリマ)の力を開放します! これは人間の力では通常引き出すことのできない潜在能力を限界まで引き出す――」

 

 

次の瞬間、エースは地面を殴りつける。

 

(安心しろ・・・オヤジ・・・)

 

武装色の覇気を纏った炎の拳を地中に埋め込ませるほど本気で打った衝撃は、地下を、いや基地を、いや・・・大地を揺らす。

 

(オヤジたちが命を懸けて救おうとしてくれたこの命、誰にもくれてやらねーからよ!)

 

それはまるで、『地震』。そう、エースが最も尊敬すべきオヤジの力と同じ。

そしてそれは、エースが尊敬すべき男の意思を受け継いだという決意表明でもある。

 

 

「なにこれ!? エ、エース、何をしたの!? あなたは・・・一体何者なの!?」

 

「しっかりどっかに掴まってろよ、セリア」

 

「えっ、えええーーッ!?」

 

 

エースが殴って割った地面を中心に亀裂が円上に広がり、その割れた地面の穴に向かって、エースは埋め込んだ拳の先から炎を放出する。

地中を駆け抜ける炎は大地をさらに揺らし、やがて徐々に上昇し、ディープスノーの足元まで接近して一気に上空へと炎の柱を解き放つ。

 

 

 

「震炎戒!!」

 

 

 

その瞬間の衝撃は、『ハード・コア』という町をも揺るがすほどのものであった。

 


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