死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL)   作:アニッキーブラッザー

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第17話 罪の真実

「レアグローブ王国の元魔法科学技術局長・イゴール博士だな。俺のことを知っているな」

 

「ヒッヒッヒッ、ええ勿論ですよ。ジークレイン様・・・いいえ、ジェラール様。記憶の混乱の方はご無事で? おっとその前に、ヒッヒッヒッヒ、ドラゴン相手に生き延びたのはさすがですなー」

 

 

対面するイゴール博士とジェラール。その笑い声だけで醜悪だ。

 

「名のある研究者の割には随分と辺境にいるのだな」

「いえいえ、これぐらいの辺境の方が都合がよいのです。まあ、ワシの護衛もかねてこの町に滞在している二人の将軍と、この基地の責任者として任されている貴族の方には気の毒ですがね~、ヒッヒッヒッヒ」

 

こうして対面しただけでも気持ちが悪くなる。

 

「住民の評判も悪いようだな」

「いえいえ、住民には何も? ただワシの研究の実験に協力してもらうだけなのですが、ヒッヒッヒッヒッ、みんな耐えきれずに逃げ出すのですよ。根性が無くていけませんな~」

 

たとえ記憶になくても刻まれている。ジェラールはかつてこの老人と何度も会っていた。

 

「いやはや、ジェラール様が楽園の塔の計画の失敗、そしてオラシオンセンスの件で評議院に逮捕されたと聞いたときは驚きましたです」

「そうか・・・お前の耳にも届いていたのだな・・・」

「ええ。まあ、ワシはこうしてレアグローブ王国におりました故、ジェラール様が逮捕されても評議院の捜査が及ぶことはなかったのですが、ヒッヒッヒッ、ところで、今日は一体何用でこられたのですかな?」

 

これほど不快な敬語もない。

人と接しているのにもかかわらず、この男は人間の価値を研究に役立つかどうかでしか判断しない。

 

(なぜ俺は、こんな男と繋がっていた・・・)

 

記憶をなくす前の自分はどれほど最低な人間だったのか。ジェラールは改めて己の愚かさが身に染みた。

だが、ここで腐るわけにもいかない。今日ここに来たのはジェラールの過去の因縁に一つケリをつけるためでもあった。

 

「楽園の塔のことは、取り調べの際に評議院の者に聞いた・・・その時は思い出せなかったが、最近になって徐々に思い出してきた・・・その塔の・・・Rシステムの完成にお前の力を借りたことは間違い無いな?」

「ええ。ウルティアの紹介であなた様から私にコンタクトを取られました。ワシもその計画に喜んでお力をお貸しいたしました」

「・・・そうか・・・・・・ならば一つだけ聞きたい・・・」

「ヒッヒッヒッヒ、何か?」

 

どうやらイゴール博士がかつてのジェラールの企てた計画に脅されたりして力を貸していたわけではないようだ。

それが分かっただけで十分。

あとジェラールが知りたいのは、一つの確認だ。

 

「なぜ計画が最初から破綻していると当時の私に言わなかった?」

 

その瞬間、イゴール博士の肩が動いた。

と同時にこれ以上ないぐらい口元をつり上がらせた笑みを浮かべている。

 

「何を仰ってるのか分かりませんね。Rシステムは完璧でした。しかしあれは作動する前にどこかのバカギルドの魔導士に壊されてしまい、検証も何もなかったでしょう?」

 

ジェラールの背筋が寒くなった。だが、それでもジェラールは続ける。

 

「ゼレフがまだ生きているのに・・・か?」

「ッ!?」

「その反応・・・どうやら知っていたようだな・・・俺もつい最近まで知らなかった。たまたま逮捕されて俺と同じ監獄に居た闇ギルド、悪魔の心臓(グリモアハート)の者から聞き出すまではな」

 

Rシステム。通称「リバイブシステム」。またの名を「楽園の塔」という。

死者を蘇らせるという黒魔術的な思想を持った魔導師集団が完成を試みた人道に反する禁忌魔法。

かつてゼレフの亡霊に取り付かれて暴走したジェラールが完成させようとした魔法。

しかしそれは勇敢な魔導士ギルドに打ち砕かれ、計画も全てが消滅した。

だが重要なのは、ゼレフを蘇らせようと多くの血も犠牲も悲劇も繰り返されてきたのに、そのゼレフが実は最初から生きていたということである。

もしそうなのだとしたら、自分は何のために・・・

そしてイゴール博士は最初からそれを知っていた。ならば何故教えなかった。

何故協力した。

牢獄にいるままでは知ることのできなかった全ての真実を求めて、ジェラールは今日この場所へ来たのである。

すると・・・

 

「・・・ヒッヒッ、これはこれは・・・監獄で悪魔の心臓(グリモアハート)の連中に会われたのですか」

 

イゴール博士は不気味な笑を止めない。

 

「オラシオンセンスの件以前の記憶をなくした俺だが、徐々に思い出しては来ている。お前は確か、悪魔の心臓(グリモアハート)の飛行船の動力を開発するなど、マスターのハデスとも繋がりがあったはず。ならばそのお前がゼレフ生存を知らないわけがない。ならば何故・・・ゼレフ復活のためのRシステムの開発に協力した!!」

 

真実を話せ。

既に破綻しているための計画に自分は何年もの時間を犠牲し、多くの悲劇を生みだし、罪を犯した。

もし、その計画が最初から失敗すると知っていたのならなぜ? ジェラールはその全てを知るためにイゴール博士に問いつめた。

すると、イゴール博士は必死に堪えようとしているが、堪えきれないほどの笑みを浮かべていた。

 

「ヒッヒッヒッヒッ、ええ、そうですよ。ワシはハデス・・・いや、ハデスではなく、ウルティアと契約をしていましてね」

「ウルティア!?」

「悪魔の心臓(グリモアハート)から評議院の注意を逸らすため、そのためだけに力を貸せとね」

「評議院の・・・注意・・・ただ・・・それだけの・・・ために・・・」

 

ジェラールの両膝・・・いや、全身が途端に震え出した。

幾多の悲劇を生み出し、決して償いきれぬ罪を犯してまで進めてきたもの全てが、ただの囮のような役割でしかなかった。

 

「おやおや、それだけとは違いますぞ! それだけのためにワシが協力する訳がないでしょう! ワシがなぜあなた様に協力をしたのか・・・それはあるモノを手に入れるためです」

「な・・・だ・・・・お前は何のために!?」

「ヒッヒッヒッヒッ、Rシステムをもし作動させるのなら必要となる、膨大な魔力・・・それを手に入れることです!」

「魔力ッ!?」

「27億イデア・・・大陸中の魔導士からかき集めても届くか届かないかの数値、ワシらはその問題を評議院にエーテリオンを楽園の塔に撃ち落とさせ、その魔力をラクリマで集める方法を実施・・・ヒッヒっヒッヒッ、ワシが最初から欲しかったのはその魔力です!」

「何故・・・そんなものを・・・お前は・・・」

「ワシの研究だけで世界を取るには、それが必要不可欠だったのですよ!! ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!!」

 

イカれた笑いだけが室内に響きわたる。

ただの博士から、何とも強烈な寒気をジェラールは感じた。

 

「ジェラール様、ワシはこの辺境の地で研究を進めている途中・・・史上最高の実験体の女を手に入れました」

「じ、・・・実験体?」

「その女には魔導士の常識を覆す能力を持っていました・・・それが・・・絶対魔法回避・無効化能力者です!」

 

ついに明かされるジェラールの犯した罪の裏で仕組まれていた闇の真実。

 

「この世は魔法が世界を支配しています。武力の有無も結局は、強力な魔導士や魔導兵器を所持しているのかどうか。ならばそんな世界でもし、大規模な範囲で魔力による攻撃を全て回避し、無効化できる兵器が誕生すれば? 答えは無敵! アースランドの軍事が根底から覆されるのですよ!」

 

その全てを聞き終えてジェラールは、己を保っていられるのか・・・

 

 

「もういい・・・それ以上しゃべるな・・・もう、全て理解できた・・・」

 

「何とか魔法回避と無効化能力を発動させられる装置は完成したのですが、強力ゆえに魔力も大量に必要とし、それを大規模に展開しようとすれば必要となる魔力量は計算しきれるものではない! だからこそ!」

 

「いい・・・やめろ・・・」

 

「だからこそ、エーテリオンを吸収した27億イデアという莫大なる魔力を蓄積させたラクリマが必要だったのですよ!」

 

 

ジェラールは全てを既に理解した。自分の行なったかつての罪の裏で動いていた・・・

 

「ワシの計画では絶対回避・無効化能力を、エーテリオンを吸収したラクリマを動力に発動させるつもりであった! それならば、レアグローブもシンフォニアも、フィオーレのような国なぞ簡単に陥落できた!!」

 

ジェラールはただの・・・

 

 

「Rシステムでゼレフ復活? 馬鹿な若造のおかげでようやく全てがうまくいきかけたというのに・・・」

 

「やめろ、イゴール!!」

 

「ジェラーーーールッ! この役たたずが! よくもくだらぬ魔導士ギルドに敗れただけでなく、ラクリマまで破壊されおったな! おかげで8年も付き合ったワシの計画が全て台無しになりおったわッ!!!!」

 

「ッ!?」

 

「エーテリオンを落とさせた後、Rシステム作動させる前に貴様をウルティアたちが始末して、残ったラクリマはワシがもらう・・・それが予定じゃった・・・その全てが台無しになったのじゃ!!」

 

 

その瞬間、イゴール博士は豹変し、手を前にかざしただけでジェラールが後方の壁まで吹っ飛ばされた。

 

「ぐっ!?」

「ふっ、ワシも魔法は少々使えるのじゃ。職業上、あまり魔法などと言いたくないがの」

 

いきなりの攻撃で壁に激突したジェラールは背中を強打し、思わずうずくまった。

だが、豹変したイゴール博士は再び元の寒気のするような笑を浮かべてジェラールのもとへと歩み寄った。

 

「しかしじゃ、ジェラールよ。本当は切り刻みたいぐらい憎い貴様じゃが、実は今のワシは非常に機嫌が良い。ワシはその全てが台無しになった計画を再び復活させられる、新たな実験体を手に入れたのじゃよ」

「なに・・・どういうことだ?」

「ヒッヒッヒッヒッ、人魚じゃ」

「人魚・・・だと!?」

「最近、ワシは鬼族と取引をしていてね。その鬼が・・・実にすばらしい実験体、人魚を売ってくれたんじゃよ! 少々値は張ったがのう!」

「人魚? バカな、人魚に関する売買は人身売買を遥かに超える重罪! 異種族間の均衡を破壊する重大事件だぞ!」

「ヒッヒッヒッヒ、楽園などという夢想に取り付かれた若造が言えることか!!」

「ッ・・・」

「人魚の魔力の源は海! この世界の7割は海で埋めつくされている! 魔法を使える人魚が海中では敵無しなのはそれが理由! もし人魚を使って世界中の海から魔力を掻き集めることができれば? ワシはそれに目を付けた!」

 

とどまることのない狂った思想と野望。

ジェラールはただただ悔しくて仕方なかった。

自分の過去は全て、こいつらのために支払われてきたのかと。

 

「ジェラールよ、今一度ワシと組まぬか! 貴様の知識と腕にワシの技術力があれば、大陸やましてや古臭いゼレフなどの伝説に頼らずとも、この世を掌握できるぞ!!」

 

ジェラールに差し出される手。

 

「絶対魔法回避・無効化能力者の『ベルニカ』! 今回手に入れた人魚族の『セリア』! この二人とワシの技術と貴様の力があれば、何も怖いものはないぞ!」

 

欲望と血にまみれ、一体この手でどれほどの悲しみを生み出してきたのか・・・

だが・・・

 

「人魚を使って海の魔力を手に入れる・・・恐ろしい計画だが・・・なんとも無謀なことだ・・・」

「ん?」

「だってそうではないか? 世界中の海から魔力を集めるということは、世界の海を支配することになる」

 

ジェラールは絶望に押しつぶされそうになりながらも己を保ち、そして苦笑しながら顔を上げる。

その様子にイゴール博士は首を傾げる。

 

「ヒッヒッヒッ、たかが海を支配して何になります?」

「何になる? 何もできないさ。お前如きに世界の海を支配するのは不可能だからだ」

「・・・なんじゃと?」

「お前は海を知らなさすぎる」

 

イゴール博士は知らない。だが、ジェラールは知っている。

 

「この世界の海に・・・あいつがいる限り・・・あの常識では語りきれぬ海賊が居る限り、お前に世界の海を支配できはしない」

 

ジェラールの瞳。それは真実を全て知って絶望した男の目ではない。

絶望に耐えながらも、決して押しつぶされずに歯を食いしばって耐える男の目。

 

 

「なんじゃと貴様ァ!! ヒッヒッヒッヒッ、ならば良し!! セイゼイ、貴様は貴重な実験体として使ってやるわい!! 天体魔法を操れる魔導士の実験体など入手しようとしてできるものではないからのう!!」

 

「俺がおとなしく従うと思うのか?」

 

「無理じゃ」

 

 

ジェラールは抵抗の意思を見せようとする。呪文を唱えてイゴール博士を攻撃しようとする。

だが・・・

 

「なっ・・・魔法が!?」

 

ジェラールの魔法が発動しなかった。

 

 

「ヒッヒッヒッヒ、住民の反逆やギルドの評議院対策で、この基地にはワシの開発した魔力無効化の装置を作動させておる!! まだまだ戦争で使える規模ではないが、この基地一つぐらいならこの通りじゃ!! ちなみにワシを含めた基地の兵士には、魔法回避能力を発動させるこの腕輪(リング)を使って相殺させることにより、魔力を使用できるようにしているがのう!」

 

「ッ・・・貴様・・・それを作動させるためにどれほどの魔力を・・・」

 

「ヒッヒッヒッヒッ、世紀の大偉業の前の犠牲じゃ! さあ、ジェラールよ! 魔法の使えぬお前はただの無力な若造! 大人しく牢の中におるがいい! 準備ができ次第、すぐに貴様を解体してやるわい! ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!」

 


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