死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL)   作:アニッキーブラッザー

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第15話 妖精の尻尾の大失態

「あっ、そういえば・・・」

「どうしたの、エルフマン?」

「Σの連中はどうするんだ?」

 

 

さて、落ち着いたところで本来の目的である海賊たち討伐の依頼はどうすればいいのだろうか?

だが、エルフマンが口にしたその疑問を、エースはアッサリと答えた。

 

「ああ。別に俺たちにはどうしようもねェし、俺たちじゃ賞金首の換金もできねェから、おめェらが好きにしろよ」

「えっ!?」

「その代わりと言っちゃなんだが、おめェらの船を俺たちにくれよ。俺たち移動手段がなくてな」

 

大型海賊団Σ44の船員を船ごとアッサリ引き渡すエース。

条件として、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が移動に使った小さい船と交換しろとのこと。

おいおい、いいのかよ、そんな簡単に。とミラジェーンが待ったをかけようとする。

 

「私たちには願ってもないけど・・・・・・いいの? 相当の報奨金がもらえるのに。少しぐらいは・・・」

「いいよ、そんなもん。俺は財宝には興味はあるが、現金には興味ねェからな」

「うわァ~・・・ロマンがあって素敵なのね・・・」

 

やっぱこいつ大物だ。

 

「やはりこいつ大物だな・・・男だ・・・」

「なんか恵んで貰ったかんがあるが・・・ずいぶんと太っ腹な奴だな・・・」

 

うわ~、という表情のミラジェーンに、エルフマンたちも複雑そうに頷いたのだった。

 

 

「あら、よかったわよう! こんなセンスの悪い海賊船で陸まで行くのは抵抗あったしねーい。それじゃあ、船交換ということでいいのう?」

 

「そうなるわね。ねえ、ガジル。悪いけどまだ目が覚めないリサーナとリリーを連れて操舵室に向かってくれない? 私たちはこの船で帰りましょう。残党には気を付けてね」

 

「ギヒッ、安心しろ。もうヘマはしねェ」

 

「それじゃあ、あちしたちは妖精ちゃんたちのお船に乗っていいのようね! がっはっはっは、妖精? それってあちし? あちしのこと? うれしいからあちしは回っちゃう!」

 

「いちいち回るな鬱陶しい!!」

 

 

ボンクレーにいらつきながら、ガジルは未だに起きないリリーとリサーナをかついで船を操縦するための部屋へと向かっていく。

その時・・・

 

「ん?」

 

誰かが横を通りすぎた。

 

「むっ、モリアとかいう野郎・・・それと・・・誰だ? あの横にいる奴」

 

船内へ向かおうとしたガジルの横をモリアが通り過ぎる。

ムカついたから無視しようとしたガジルだが、後ろ姿でモリアの隣に誰か見知らぬ男が一緒にいた。

エースたちの仲間か? と最初は思ったのだが、どこか引っかかった。

 

「ん? あいつ・・・どこかで見たことあるような・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガジルと入れ違いに再び船外に出て、怒鳴るモリア。

 

 

「って、なぜ仲良くしてやがるッ!!!!」

 

「「「「「うおっ!?」」」」」

 

 

寝ると言っていたはずのモリアが、今の和やかな雰囲気の彼らに怒りのツッコミを入れるのだった。

 

「んだよ、おめェ寝たんじゃねェのかよ」

 

エースのツッコミにどこからか「ぶちっ」と誰かがキレた音がした。

モリアからだ。

 

 

「うるせええ! べちゃくちゃべちゃくちゃいつまでカスどもとだべってんだァ! お前ら全員俺の意思次第で影を奪って殺すことも可能だってことを忘れてんのかァ!?」

 

「だから寝てたんじゃねえのかよ。別に無視してりゃいいじゃねェか」

 

「ああ、そのつもりだったんだがよ、こいつが起きて今後をどうするのかの話がしたいと言い出しやがってよ」

 

 

イラつくモリアが顎を下に向けると、そこにはこれまでずっと寝ていたジェラールが手を挙げていた。

 

「ジェラちゃん!! 起きたのう!」

「よう、もう寝てなくて大丈夫なのか?」

「ああ、心配をかけた。俺が寝ている間に面倒なことに巻き込まれたようだが、無事でよかった」

 

昨日の戦いで魔力という魔力を使い切って、完全にダウンしていたジェラールだが、ようやく目を覚まし、顔色もよさそうだ。

ボンクレーもエースもうれしそうに手を振り、一方でジェラールを見たミラジェーンとエルフマンは首を傾げた。

 

「あら、彼もΣの人ではなく、エースたちの仲間なの? ・・・なんだかすごいかっこいい人ね。ロキみたいにモテそうね」

「うう~む、モリアとやらやボンクレーに比べて一番まともな男だ」

 

様々な反応を見せるギルドの諸君。

彼らが目に入り、ジェラールも少し戸惑う。

 

「エース、彼らは?」

「おう、えっ~と・・・さっき仲良くなった奴らだ」

「ちょっ、エース? なんなの、その紹介の仕方は!?」

「た、確かに仲良くなったと言われて俺もうれしいが、なんだか紹介の仕方がテキトーだし、違くないか?」

「まあ、いいじゃなーい? ちなみに彼はあちしらの友達のジェラちゃん。まだ会って間もないけど、共にイロイロと乗り越えた仲なのよーう!」

「だからなんでテメェらは仲良くしてやがる! 海賊なてめんのかァ!?」

「モリア・・・なんとなくだが気持ちは察するが、ここではお前が一番野暮のようだぞ」

「うるせェェェ!!」

 

星空の下でワイワイガヤガヤの話が盛り上がる。

つい先程までの空気が嘘のようだ。この環境の中でキレているのはモリアだけ。

いつの間にか彼らは古くから付き合いのある悪友のように、笑いあっていたのだった。

 

「んじゃあ、船内で寝ているその何とか海賊団とその船はお前らが持っていってくれるんだな?」

「え、ええ。でも、いいの? 本当に報奨金をいらないの?」

「ああ。別にいいよ。かわりにお前らの船もらったし」

 

少し小さめの船。これはミラジェーンたちが使っていた船だ。

Σの巨大船に比べれば遥かに小さいが、エース、ジェラール、モリア、ボンクレーの四人には十分すぎる大きさだった。

エースは予定通り、ミラジェーンたちに海賊を引き渡して船を交換してもらったのだ。

 

「しかしエース。お前たちが全員やったんだろ? 俺たちが全部もらうわけには・・・」

「ああ。でも、討伐しにきたのはオメェらなんだろ? それに賞金なんていらねェしな。まあ、その代わりだが・・・」

「分かってる。火拳のエースと七武海のモリアの名前を暫く伏せといて・・・でしょ?」

「ああ。・・・で、いいんだよな、モリア?」

「キシシシシ、ああ。ここがまだどこの海かも断定できねェ以上はな。もし全て俺の勘違いならいいが、政府の連中に火拳と俺が共に行動していると知られたら、そっちのほうが嫌だしよ。七武海の称号剥奪の恐れもある」

 

賞金も手柄も全部やる。しかしそれにモリアだけ条件をつけた。それは自分たちの存在を秘匿すること。

モリアもエースもこの世界と海に違和感があった。

しかし、その違和感が勘違いで、ここが紛れも無くグランドラインや自分たちの世界の海であった場合、海軍や世界政府が絶対に処刑しなければならない海賊王・ゴールド・ロジャーの実の息子であるエースと七武海であるモリアが共に行動していることが知られたら、それこそ世界政府への背信行為とみなされる。

万が一に備え、モリアはそれだけは避けたくて用心した。

ミラジェーンたちも助けてもらった恩もある以上、それぐらいのことはと快く了承した。

もっとも、「白ひげ」も「七武海」という言葉も知らない彼女たちにはどれほど重要なことかは分かっていないようだが、彼女たちが海賊を引き渡す連中は当然政府の筋の人間だと思うので、モリアは口止めをさせた。

 

「では、もう行っていいのだな?」

「こっちは準備万端よーう! ジェラちゃんも起き抜けに悪いわねん」

「俺の魔力ももう完全に戻った。モリアとボンの治療もあるし、俺の天体魔法で船の速度を上げて陸に到着させられる」

「す、すごいのね・・・エースのお友達・・・天体魔法を使えるのね」

「あいつ、サラっと天体魔法と言ったぞ・・・男だ・・・」

 

ボンクレーが船の帆を張り、ジェラールがマストの上に立って合図を待っている。

 

「んで、とりあえずどこ行きゃいいんだ?」

 

さて、じゃあ行くかというところでエースのその何気ない一言にミラジェーンたちはずっこけた。

 

「え、エース・・・行く場所決めてないの?」

「いや~、行きたい場所はあるんだが、どうやって行こうかと・・・ログポースもねェしな」

「ログポース? よくわからないけど、行く場所ないのなら私たちと来ない?」

「いやァ、遠慮しておくよ。おめェらはこれから政府の人間と会うんだろ? だったら一緒には行けねェよ」

 

大丈夫か、こいつらは?

そう言いたげなエルフマンたちの視線を感じるエース。するとジェラールが口を出した。

 

「お前たちがそれほど急いでいないのなら、先に俺も行きたい場所があるので、そこを優先してもいいか?」

「あら、ジェラちゃん行きたい場所があるのう?」

「ああ。『ハード・コア』という場所に行きたい」

「ハード・コア?」

 

ジェラールの口にしたその場所は、エースたちは知らない。すると、ミラジェーンが手を挙げた。

 

 

「ねえ、『ハード・コア』って確か『レアグローブ王国』の領土だったわね。でも、王国から離れた相当な辺境の場所のはずよ? そんなところに何があるの?」

 

「いやいや、それよりレアグローブってどこの国だ?」

 

「・・・エース・・・本当に世界をまたにかける海賊なの? レアグローブも知らないの? 『レアグローブ王国』。世界でも有数の武力国家よ。最近は、『シンフォニア王国』と和平条約を結んで平和そのものだけどね」

 

「レアグローブ? シンフォニア? 聞いたことねェな」

 

「そうなの? レアグローブ・・・キング国王とシンフォニアのゲイル国王が幼少の頃から仲良しで、彼らが王位を継いで以来両国はとても親睦が厚いそうよ。最近では、キング国王の息子のルシア王子とシンフォニアのハル王子が大陸一の踊り子をどっちの妻にするのかを巡って争っていたという微笑ましいニュースがあったわね」

 

「はァ~、国やら政治やら新聞やらは読まねェからな~」

 

 

ワリッ、知らね。

そんな軽い言葉でミラジェーンの説明を聞き流すエースであった。

 

「でも、ジェラちゃん。そんなとこに何の用なのう?」

「俺も記憶がバラバラで何とも言えないが、片隅にある。ハード・コアにはイゴール博士という人物がいる。その人物に会いたい」

「会ってどうするのよう? あなたの知り合い?」

「ああ・・・確か・・・ある研究施設の責任者でな・・・その人物に用がある」

 

ふ~んという様子で聞くエースたち。まあ、今は確かにどこかの陸へ上陸して情報を集める方が最優先か。

 

「いいんじゃねェか? 博士ってぐらいなら物知りだろ? オレらのことも色々聞けるだろうしな」

「キシシシシ、まあ、問題がまた起これば殺せばいいだけだしな」

「んじゃァ、決定ということでいいわよう!」

 

特に問題もないと感じたエースたちは特に質問もなく、ジェラールに頷くのだった。

 

「そうか。曖昧なことを言って申し訳無いな」

「気にしないわよう! あやふやが一番あちしの好きなこ・と♪」

 

そして、エースはミラジェーンたちに手を振る。

 

「んじゃあ、巡り会ったらまた会おうぜ」

「ええ、その時は・・・必ずあなたを更生させてみようかしら」

「はは、そいつは気を付けねェとな!」

 

エースとミラジェーン。

 

「がっはっはっは、妹ちゃんによろしくねーい」

「ふん、次こそ俺の本気で男を見せる」

 

ボンクレーとエルフマン。

それぞれの別れを告げて、エースはマストの上にいるジェラールに言う。

 

「おしっ、ジェラール頼んだ!」

「分かった。天体魔法・・・風のエレメントよ・・・我に従え!」

 

余談だが、今まで「ジェラちゃん」とか「おめェ」としか呼んでいなかったジェラールの名前を、ミラジェーンたちの前で初めてエースは叫んだのだった。

 

「な、なんなのう、これ!」

「うおお、すげェ! 風だ!」

「キシシシシ、おもしれェな」

 

ジェラールの魔法で吹いた風が、船を加速させる。

 

「じゃーな、おめェら!」

 

ミラジェーンたちに、最後の別れの声と手を振るエース。

ボンクレーも一緒になって、激しく声を出していた。

だがその時・・・

 

 

「えっ・・・・・・」

 

「ジェ・・・ジェラール?」

 

 

ミラジェーンとエルフマンが聞き間違えかと、思わず呟いた。

 

「おい、この船を移動させる準備はもうでき・・・」

 

その時、船内にリリーとリサーナを寝かしにいって、船の操縦の準備もしていたガジルが船外へ報告に来たとき、今まさに出航しようとしている船のマストにいるジェラールを見て叫ぶ。

 

「なななな、あの野郎は・・・ミストガン!!!!」

 

その瞬間、船は一気に加速して、エースたちの船は海の果てまで行ってしまったのだった。

 

「え・・・ガ、ガジル・・・」

「お、おい・・・今・・・ミストガンって・・・」

 

顔をギギギギギとブリキのように動かす姉弟。

ガジルは既に遠くへ行ってしまった船を凝視しながら頷いた。

 

 

「ああ、間違いねェ。ありゃァ、エドラスで見たが間違いなくミストガンの野郎だ!」

 

「えっ? えっ? ええええッ!?」

 

「つか、ミラジェーン、テメェもミストガンと同じS級魔導士だろうが! なんで知らねェんだよ!」

 

「だ、だって、ミストガンはいつも顔を隠していたし!」

 

「い、いや、でもおかしいぞ。確かもうエドラスとアースランドは行き来できないようになってるはずだ。ミストガンの野郎はもうこの世界にはこれないはずじゃ・・・」

 

「待て待て、その前にだ、エースはあの男のことをジェラールと呼んでいたぞ! ジェラールって確か・・・」

 

「う、うん・・・・・・エルザが言っていた・・・」

 

 

ミストガン。かつて妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいたS級魔導士。

エドラスというこの世界の平行世界から来た男。

その世界ではこの世界で同じ顔で同じ名前の人物が違う人生を歩んでいる。

そしてミストガンは、エドラスという世界ではジェラールという名前であった。

しかしエドラスの人間はもう二度とアースランドには来られない。

ならばあのジェラールというミストガンと同じ顔の男は・・・

 

「そういや姉ちゃん・・・確か評議院は、監獄を襲ったドラゴンに立ち向かった奴らがいて・・・その中にはエルザの幼馴染のジェラールって奴を含めた4人って・・・」

 

ラハールが先日ギルドに訪問して報告した言葉を思い出す。

評議院が所持する監獄がドラゴンに強襲され、囚人や看守たちを逃がすためにドラゴンの足止めのため立ち向かった4人がいた。

 

 

「4人・・・エース・・・モリア・・・ボンクレー・・・そして・・・ジェラール・・・あら、不思議。4人ぴったりね!」

 

「おう、ホントだ! 偶然ってすげーな! 男だ!」

 

「ギヒッ、不思議なこともあるもんだな」

 

 

あっはっはっはっはっはっ、と笑い合う三人は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒後・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「「「あいつらかアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」」」

 

 

すべての衝撃的な真実にようやく気づいたのだった。

 

「じゃ、じゃあ、行方不明とか言ってたけど、ジェラールとかいう奴を含めて生きてたってことなのかよ!」

 

「確かに奴らならドラゴンと戦って生き延びても不思議じゃねェ・・・」

 

「なんてことなの・・・それじゃァ、エースたちが行方不明になったと言われたドラゴンと戦った勇敢な戦士達で、あの青髮の人がエルザの幼馴染のジェラールなの?」

 

 

ああ、なんてこった。今更知ってしまったこの事実に三人は頭を抱えて混乱した。

 

 

「うう・・・気付かなかった・・・エルザになんて言えば・・・」

 

「そ、そうだ・・・確かにエルザには言わねェと」

 

「そうか、さっき見た後ろ姿はミストガンに似ていて・・・くそっ気付かなかった。っていうかよ、お前らさっきまで普通に話してたけど、ミストガンはまだしもジェラールって奴の顔は知らなかったのかよ」

 

「お、おお」

 

「うん。私も。ジェラールって人の噂は聞いても、直接会ったことはなかったし・・・」

 

 

なんという失態。

 

「ジェラール・・・評議員に潜入していた時の名前はジークレイン。エルザから多少の容姿については聞いたことがあったのに・・・・」

 

ミラジェーンはガックリと項垂れる。

彼女は自分の失態に、口元に手を当てながら、ヨヨヨと涙を拭くのであった。

 

 

「ジェラール・フェルナンデス・・・青髮で・・・信じられないぐらいかっこいい男の人で・・・右目の周りには刺青のような紋章があって・・・天体魔法を操ると・・・」

 

 

―――ビシッ

 

 

「「いや、気づけよッ!!!!」」

 

 

今宵、エルフマンとガジルの今日一番の綺麗で鋭いツッコミがミラジェーンに入るのであった。

 


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