死に損ないの海賊たち(ONE PIECE✖FAIRY TAIL)   作:アニッキーブラッザー

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第1話 ダチとの出会い

――愛してくれて、ありがとう

 

 

 

その男はこうしてこの世を去った。

 

鬼の血を、悪魔の血を、歴史上最悪の血を引いたその男。

 

生まれて来たことすら呪った男は、笑顔で逝った。

 

 

それは彼の欲しい物が全て手に入ったからだ。

 

 

海へ出て、仲間と出会い、家族と出会い、そして父と出会い、最後は最愛の弟の命を守ることも出来た。

 

 

己の人生に悔いは無かった。

 

 

そしてその時、空が割れ、力尽きた男の肉体が消滅したのだった。

 

 

 

 

 

「「「「「エーーーーーーーーーースゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの時、世界は知らなかった。

消えたと思った男の魂は空に吸い込まれ、割れた空の向こうに広がる世界へと流れ着いた。

そしてその世界は、永遠の冒険へと続いていた。

 

 

「この波動・・・アニマか!? 珍しい」

 

「アニマ? 議長・・・アニマとは?」

 

「アニマ・・・超亜空間魔法のことだ。空に開けた穴を介して魔力を持つ存在を空間ごと吸収してしまう超魔法。だが、魔法といっても自然現象の割合も強く、時折こうして空間と別空間を繋ぐことがある。その空間に吸い込まれたものはこの世から姿を消し、神隠しの一種とも呼ばれていた」

 

「そんな魔法があったとは・・・知りませんでした」

 

「最近では滅多に見られなくなったのだが・・・どの空間と繋がったかは知らぬが、誰も巻き込まれなければよいのだが・・・」

 

 

アースランドの評議院にて、役人の者が空を見上げて不安そうにつぶやいた。

評議院。

そこは魔法界全体の秩序を保つためのルールを取り決めている機関である。

いかなる悪も見過ごさぬ信念を持つ彼らは、時折強硬な手段で犯罪者を捕えることがある。

だが、それは間違ったことではない。

このアースランドには多数の魔導士というものが存在する。

魔導士は、魔法の使えぬ一般人たちが出来ぬことを代わりに行い、その報酬として対価を受け取る。

魔導士が力を貸して、一般人が金を払う。そう言ったシステムがこの世界で成り立っていた。

そして、その仕事を受け入れる場所が、ギルドと呼ばれている。

その中で、今最も国を騒がせているギルドが存在する。

 

そのギルドの名は、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。そこは永遠の冒険者たちの集うギルド。

マグノリアに存在する名物ギルドは今日もにぎわっていた。

 

「勝負しろー、ギルダーツ!」

「ギヒッ、待ちな! 俺が先だ!」

「おうおう、またガジルとナツが争ってんぞ」

「おーい、リサーナ! 酒とってくれ!」

「ちょっと飲みすぎよ!」

「ミラちゃーん!」

「うおおお、姉ちゃんに手を出すなァァ!」

 

酒の臭いに馬鹿騒ぎ。ふざけた喧嘩のじゃれ合い。

賑やかであることが当たり前と化しているこのギルド。

まだこのギルドに入って間もないルーシィ・ハートフィリアは、相変わらずの騒がしさに苦笑した。

 

「あーあ。エドラスから帰ってきてから、みんな一層に騒がしくなったわね。ちょっと前までアニマとかエドラスとか、ミストガンのこととかで大変だったのにね」

 

だが、これこそがこのギルドのあるべき姿だと、苦笑しながらもどこかうれしそうなルーシィだった。

そんな時、こんな喧騒の中でやけに静かな背中が目に入った。

美しい緋色の髮を靡かせたS級魔導士、エルザ・スカーレット。

彼女はギルドのカウンター席で一枚の紙と睨めっこしていた。

 

「エルザ、そんな真剣な顔してどうしたの? 新しい依頼?」

「ル、ルーシィ!? いきなり驚かせるな。それにこれは依頼書ではない」

「えっ? それじゃあ・・・あっ・・・」

 

エルザの手にある一枚の紙。そこに書かれている文字を見た瞬間、ルーシィは気まずそうな表情を浮かべた。

紙にはこう書いてある。

 

 

『監獄メガユニット・面会希望書』

 

 

その意味を知っているからこそ、ルーシィは複雑な表情を浮かべる。

 

「メガユニットって確かさ、評議院が所持している、どこかの島にある監獄だよね」

「ああ。流刑島とまで言われ、あいつもつい最近になってそこへ幽閉されたとの話を聞いた」

 

あいつ・・・

 

 

「ねえ、エルザ・・・」

 

「分かっている。あいつは超重要犯罪者。面会すらままならんということはな。現にこれで何度目か分からない。これまで全て面会は却下されている」

 

 

エルザは寂しそうにそう答えた。

ルーシィには分かっている。エルザが言う『あいつ』とは、『あいつ』のことなのだと。

だが、それは無理だ。会えないのだ。口にせずともルーシィはそう言いたげの複雑な表情を浮かべた。

 

「だったら、何で・・・」

 

だが、なんで? そう問われたエルザは、ルーシィに答えるだけでなく、まるで自分自身に言い聞かせるように答える。

 

 

「それでも生きてさえいればいつの日か・・・諦めなければいつの日か・・・私はそう思うようにしている」

 

「エルザ・・・」

 

「それにあいつはニルヴァーナやオラシオンセンスの件の功績もある。ひょっとしたら死刑や終身刑も免れて、何年かの刑期を終えれば出られるかもしれないではないか。だから私も諦めない。お前にはちゃんと待っている者が居るんだと、あいつに教えてやるまではな」

 

 

痛々しいぐらいの思い。だけど強い。ルーシィは同じ仲間として、同じ女として、エルザの一人の人へ対する想いの強さを感じ取った。

 

「何かあったら言ってね。私も何が出来るか分からないけど、出来るだけ協力するからね」

「ああ。ありがとう」

 

本日も快晴。

 

 

(そうだ・・・私は諦めない・・・お前の罪は許されないし、シモンのことがある限り私も簡単にお前を許すことはできないだろう・・・だが・・・それでも私はお前を待っているからな)

 

 

いつもと変わらぬ日々が妖精の尻尾で繰り広げられていた。

 

 

 

(なあ・・・ジェラール・・・)

 

 

 

だが、今日この日。世界に駆けめぐる一つのニュースが、緋色の髪の女に深く重い悲しみを与えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・」

 

 

薄暗い密室。かび臭いにおいが漂い、堅牢な扉が目の前に見える。

彼は悟った。

冥土かと思ったが、ここは違う。

ここは牢屋だ。慣れ親しんだというのはおかしいが、犯罪者でもある彼は直感で分かった。

 

「俺は・・・赤犬に・・・」

 

胸に手を当てる。だが、妙なことに彼は気づいた。

 

「って・・・あれ・・・ねえ・・・ケガが・・・あれ?」

 

死の直前貫かれ、焼き尽くされたはずの胸元は怪我一つなかった。

俺は生きているのか? 一命を取り留めて海軍に捕まったのか?

事態を把握できない男は冷静に頭を働かせようとする。

だが、冷静になった瞬間、すぐ彼の思考は別のモノへと移る。

 

「そうだ!? オヤジは・・・ルフィは・・・みんなは・・・どうなった」

 

本来男は処刑されるはずだった。それ自体は特に問題はない。彼は犯罪者。世界に名を轟かせる海賊団の一員だった。

それはいい。覚悟はあったし言い訳する気はない。だって自分は海賊なのだから。

ただ一つ気がかりなのは、そんな自分勝手で自由奔放に生きてきた上に、自分がヘマして勝手に政府に捕まっただけなのに、そんな自分を救うために多くのモノたちが立ち上がってくれたことだ。

そのために多くのモノが犠牲になった。

世界の歴史にすら刻まれる戦争にまで発展した。

全ては自分の問題だ。自分がみんなを巻き込み迷惑をかけた。

だが、だというのに、皆が自分を救えと命と魂を懸けて駆けつけてくれた姿が、うれしくてたまらなかった。

 

「だが、結局俺は死んだ。みんなのがんばりを無駄にしちまった。だが、悔いはねえ。あいつを・・・ルフィを守れたんなら・・・そう思っていたんだが・・・」

 

さて、そうやって悔いなく自分の人生の幕を閉じれたと思ったのに、ここはどこだ? 

こうして結局話は振り出しに戻ってしまった。

もう一度改めて室内を見渡すと、相変わらず薄暗くてかび臭い。どう考えても監獄としか思えぬ場所。

自分は再び捕まったのかという考えが頭によぎると、彼は妙なことに気づいた。

この牢屋の中に幽閉されている者は、自分だけでないということだった。

全員ぐったりと寝ている。

自分を含めて合計4人。

 

「うーん、こいつらは・・・」

 

自分の足元に寝ている、おかっぱ頭で男のくせに口紅を付けて囚人服を着ている人物。

暗くてよく見えないが、奥の方にはこの部屋には狭すぎると感じるぐらいの体積を誇る巨大な大男。

そして最後に部屋の隅で寝ている男。よく見ると、唯一彼だけ手枷が填められていた。

そういえば、牢屋の中とはいえ、一人を除いて自分たちに手枷が填められていないことも妙だった。

 

「あ~、もしもし、寝ているところに誠に恐縮ですが、ちょいと俺の話を聞いてくれないか?」

 

とりあえず監獄の床に寝ているおかっぱの男に彼は話しかける。すると男は目を擦りながら、ゆっくりと起きあがる。

 

 

「もう、なによ~う。人がせっかく気持ちよく・・・・・・って・・・」

 

「よう」

 

 

「・・・・」

 

 

目を覚ましたおかっぱ頭の男は、呆然とする。そして牢屋の中を見渡す。

すると次の瞬間、先ほどまでぼーっとしていた目を一気に見開いた。

 

「って、ここはどぅーこなのよーう!? あちしはどぅこ? ここは誰? あちしは愛する麦ちゃんたちの礎になるために、マゼランに殺されたんじゃないのう? ならここは何? ひょっとしてヘブン?」

 

一気にまくし立てる男は、どうやら相当混乱しているようだ。

話の要領は得ないが、とにかく言いたいことは多少分かった。

 

「なんだお前さんは、マゼランにやられたのか?」

 

マゼラン・・・大監獄インペルダウンの署長。

ならばここはインペルダウンなのか? 彼がそう思った瞬間、おかっぱ頭の男がジーッとこちらを見てきた。

 

 

「あん? ってあらやだ、いい男。・・・ん? あんた・・・どこかで見たような・・・」

 

「ああ、まずは名前を名乗るのが礼儀だったな。初めまして。俺の名前はエース。ポートガス・D・エースだ」

 

 

柔らかな物腰で礼儀正しく。だが、その猛った瞳と、常人では計り知れぬオーラのようなものが男から・・・

そう、ポートガス・D・エースから溢れていた。

 

 

「ああ、そうそう。どぅこかで見たことあると思ったら、あんたは白ひげの・・・・・・」

 

 

一瞬の間・・・

 

 

「ジロヒゲえええええええええええええ!?」

 

 

一瞬の間が空いて、おかっぱの男は吹き出した。

 

 

「ああああ、あんたエースっておおおい!? って、どぅーしてこんなところで、って、どぅーしてるの!? って今戦争中じゃないのう!? って、あんたがここにいるんだったら、麦ちゃんは何してるのよう!?」

 

「ん? 麦ちゃんって・・・まさかルフィか? お前さんルフィを知ってんのか?」

 

「知ってる~? あー、やだやだ、もう知ってるとかそういうレベルじゃないのよう、あちしたち!」

 

 

おかっぱ頭の男は親指で自身を差して宣言する。

 

 

「マブダチよう!!」

 

「なに? ルフィのダチ?」

 

「そうよう! それで兄貴であるあんたを救うために麦ちゃんはインペルダウンで大暴れし・・・命を懸けて・・・それなのにそのあなたがどぅーしてここに居るのよう! 入れ違い!? 何それ!?」

 

「いやルフィとはマリンフォードで俺も会ったよ・・・でもそうか・・・それじゃああんたにも迷惑を掛けたんだな」

 

 

エースはまくし立てるおかっぱの男に正座して姿勢を正した。そしてペコリと頭を下げる。

 

 

「俺の所為で迷惑を掛けた。すまなかった」

 

 

心からのエースの謝意。だが、それに対しておかっぱの男は・・・

 

 

「くるあああああ!」

 

「へぶッ!?」

 

 

グーでエースの頬を殴った。

何すんだよとエースが顔を上げると、肩で激しく息をしながら、怒りをあらわにした表情で男は立っていた。

 

 

「迷惑だと~」

 

「・・・・・・・」

 

「なにつまんねーこと言ってんのよう、ぐらああ!」

 

 

エースの胸ぐらをつかむ男。エースはポカンとした。

 

 

「命がけで愛する家族を救いに行くマブダチを、命がけで援護しねえマブダチがどぅこに居る!」

 

「・・・お、おめえ・・・」

 

「迷惑~? こちとら好きでやっとんじゃい! マブダチの迷惑ぐらい、何べんかかったって迷惑にならねーんだよう!」

 

 

ポカンとしたエースの脳裏には、少し前の光景が頭をよぎる。

 

 

 

――助けに来たぞ、エース!

 

 

 

――エースはやらせねえ!

 

 

 

――エースぐんは助げる!

 

 

 

頭が上らねえ。

それがエースの素直な思いだった。

 

 

 

――俺の愛する息子は無事なんだろうな?

 

 

 

俺は今、うれしくてたまらない。

震える拳をぎゅっと握りしめながら、今度は頭を下げるだけでなく、エースは額を地面に擦りつけた。

 

 

「もう謝らねえよ。その代わり、何遍でも言わせてくれ。俺は死ぬほど幸せもんだ」

 

 

先程のように礼儀正しい謝罪ではない。心からの感謝の表れ。

 

「ありがとう! こんな俺のためにありがとうな!」

 

本当に、それ以上の言葉が思いつかないぐらい、エースは心から感謝した。

すると頭をこすりつけるエースに、男は口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

「マブダチの愛するもんはあちしの愛するもんよ。あちしはボンクレー。麦ちゃんにはボンちゃんって呼ばれてるわよう」

 

「ああ。ありがとな、ボンちゃんよ」

 

 

「どぅーいたしまして! ってか、また監獄に逆戻りみたいだけど、死刑は回避されたのかしらん」

 

 

自分の知らない人も、自分の知らないところで命をかけてくれた。そんなボンクレーこと、ボンちゃんという男にエースはただただ感謝したのだった。

 

だが、そうやって話が盛り上がっていると・・・

 

 

「うるせえぞ、さっきから! ぎゃーぎゃーと俺の周りで」

 

 

のそっと、暗闇の中で大男が目を覚まして起き上がった。




皆さま、いつもお世話になっております。

この度、私事で申し訳ございませんが一つ報告があります。

実は、私は『小説家になろう』でも活動しておりまして、この度、オリジナルの小説がアルファポリス社様にて書籍化されることになりました。

二次創作小説から私の執筆活動が始まり、ある日、オリジナルでも作品を書きたいと思って自己満足でやっていたら、そのような事態になりました。ですので、私が突然エタッたり、webから姿を消していたのは、そっちの活動が忙しくて時間を使えなかったためでした。

ただ、どうしてこの場でそれを報告するのかと言うと、アルファポリス社様との契約上、「小説家になろう」での掲載版をweb用に修正なりをしないといけないのですが、それを今年の9月以降から「小説家になろう」では全面禁止となり、アルファポリス社様にて出版された作品は移行を余儀なくされたからです。

そこで、私は移行先として二次創作小説でお世話になっております、本サイトを利用させて頂こうと思い、運営者様にも許可を戴き、8月中に引っ越す予定です。

ですので、8月中旬にヘンテコなオリジナル小説が続けて投稿されますが、ご勘弁ください。

興味を持っていただいた方は是非、一読いただけたらと思います。

『異世界転生-君との再会まで長いこと長いこと』というタイトルで、既に1巻と2巻が書籍化されました。二次創作小説執筆での培った経験や熱い想いを活かしたものを目指しております。

関係ない話して申し訳ありません。
では、今後ともよろしくお願いします。

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