まるの風邪が治って数日…と一日。俺は一人で町内会を訪ねていた。
いつもは、隠居している老人たちがゲートボールや絵はがきなどの集まりを開いているが、毎年この時期になると若者たちも集まり、にわかに活気づくようになる。
その中の一人のTシャツには『夏祭り実行委員会』の文字。
そう。季節は夏。夏と言えば浴衣と花火と夏祭りである。
がやがやがや。いつもののんびりとした雰囲気はどこへやら。雑多な音があちらこちらから聞こえてくる。
十数名が段ボールを開いたり、各所に電話をかけている中、俺は大きな声で支持を出している老人のもとに案内された。
「こんにちは。あの、今度の祭りのステージでライブをさせていただきますAqoursと申します。今日は打ち合わせに参ったのですが。」
「ん?あぁ、兄ちゃんがあのスクールアイドルってやつかい。」
紹介されたその老人の肩書きは町内会長。この祭りの
…いやまぁここら辺ではかなり大きな祭りだから成功すれば有名になるってのは正しいんだが。
「いえ。私はマネージャーみたいなもので…。今日は皆都合が合わなかったものですから。また顔を揃えて挨拶には伺います。」
「それは良かった。俺もカワイイ女の子たちが踊ったり歌ったりするっていうから許可出したんであって、男の踊りを見ても何も楽しくねぇからなぁ。」
えらく正直なおっさんだな!……激しく同意するけれども。自分がステージでふりふりの衣装を着て踊っている姿を想像し、一瞬で消し去る。誰得だよ…。
こんな人が責任者で大丈夫なのかと思ったが、気にせずに打ち合わせに入った。
途中途中いろんな人が指示を仰ぎにくるところを見ると、どうやら信頼はあるみたいだし。
「そいで?打ち合わせに来たんだっけか?」
「はい。具体的な時間やステージの広さなどをお聞きしたいです。」
「おう。この紙に書いてあるんだがお前さんたちの出番はここからここでな………。」
その後20分程話し、大体の流れは掴むことが出来た。
この場にいるだけでもかなりの人数なのだが、それ以外の多くの人も、この祭りをより良いものにしたいと思っている。そんな大きな舞台に出させてもらえるんだ。あいつらにとっても良い経験だろう。
「ありがとうございました。自分たちのステージだけでなく、この祭り自体が成功するために私たちに出来ることがあれば何でも言ってください。」
「おう!毎年なんとかなってるから今年も大丈夫だろう!」
そう言いながら壁に掛けてある毎年の写真に目を向ける会長。
俺も釣られて眺めてみると一つの写真に目がとまった。
2年前と書かれた写真には俺もよく見知った3人の少女達が満面の笑みで写っている。そこに写る姿は今よりも少し幼く、そして眩しく見えた。
「…あそこに写ってる3人もスクールアイドルだったのですか?」
「ん。そうだな。お嬢ちゃん達はたった3人だったが、可愛らしい歌と踊りで大人気だったぞ。ステージは1日目の最後だったんだが、口コミで噂がすぐに広まったらしくてな。2日目には嬢ちゃん達見たさに遠くからも人が来たほどだ。おかげで祭りも大成功だったよ。」
そう…なのか。あいつらもこの祭りに出てたのか…。
意外なところで友人達の過去の姿を見てしまったことに少し戸惑ってしまう。
ダイヤさんから少し聞いてはいるが、一番仲が良いマリーからは何も聞いちゃいないのだ。松浦さんなんてスクールアイドルの話題をしたことも…。いや、なくはないか。
出来れば本人たちから詳しくは聞きたいし、でも地雷を回避するために会長さんから話を聞きたいとも思ってしまう。
……聞かないけどね!
でも、彼女たちがかなりの人気者だったという話を聞いて、なぜか少し誇らしくなったりもした。自慢の友人たちである。
「今度来る女の子たちもちゃんと可愛いんだろうな?」
「可愛いですけど、セクハラとかしたらぶっ飛ばしますからね?」
…急に夏祭りの話に飛んだのにはちゃんと理由がある。安心して欲しい。久しぶりすぎて前回の話がどんな話だったかも忘れてしまっているだろうが、全く脈絡などないので大丈夫である。
話はつい先日。千歌ちゃん宅の旅館からスタートする。
_______________________
花丸の風邪が治ってから数日後。いよいよ夏が本気を出してきて冷房や扇風機が我が家でも稼働し始めた頃。
旅館『十千万』の一部屋を借りてAqoursの話し合いが行われていた。
なんでも地元で行われる夏祭りに出てくれないかと話が来たらしい。
着々と知名度も上がってきているようだ。夏祭りのステージで披露するなんてちょっとした有名人レベルだし。
ただ、そのオファーが来たのがつい先日。十分な準備期間は残されているとは言えず、考えなしに参加を決めるのはどうかという意見が出た。
これはネガティブな意見というか、ベストなパフォーマンスが出来ないのではないか、という気持ちなんだろう。
最終的な意見はリーダーである千歌ちゃんに委ねられたのだが………。
「私はやりたい…かな!」
千歌ちゃんはその意見に反対して、参加したいと言った。
……あまりみんなと反する意見を言ってこなかった千歌ちゃんがそう告げたのは…少し…意外だ。
どういう心境の変化なのだろうか。
「千歌ちゃんはどうしてそう思ったの?」
気になったのは俺だけじゃないらしく、梨子ちゃんがそう尋ねた。
「えぇとね。別にちゃんとした理由があるわけじゃないんだけどね。」
えへへと恥ずかしそうに笑いながら千歌ちゃんは続ける。
「せっかく声をかけてもらえたんだし、今の私たちをもっと知ってもらういい機会だと思ったんだ。ダメだったらその時はその時だよ。」
やっぱり少し変わったな。
たぶんこの前の一件からだと思うが、他人の顔ばっかり伺わなくなったというか。元々そうでもなかったけど、末っ子は他人の表情を読むのがうまいと聞くしね。
メンバーに自分の意見を言っても大丈夫なんだって分かったんだろうな。いい成長ですこと…!
「と、いうわけでAqoursがこの近所で一番大きい夏祭りに参加することになりました~!」
そう千歌ちゃんが言うと、周りから拍手が起こった。
梨子ちゃんや1年生組も千歌ちゃんが少し変わったことに対して気づいているようで、ほほえましい笑みを浮かべていた。曜ちゃんにいたっては「昔は引っ込み思案だったあの子が…こんなに大きくなって…。」と涙を流していた。その領域までの愛はちょっと引く。
理想の幼なじみとは『けいおん!』の唯ちゃんと和ちゃんくらいがちょうど良いと思う。異論は認める。
「よし!それじゃ本番に向けて練習頑張ろう!」
「「「「「おぉ~!」」」」」
__________________________
以上。回想終わり。
我らがリーダーの成長に目頭を熱くさせながら、Aqoursは祭りへの参加を決めた。今日は学校が早く終わった俺が代表として挨拶に来たということである。
「さてと、そろそろあいつらも練習始めてるころかな…ん?」
町内会を後にした俺は浦の星へと足を向ける。
打ち合わせが済んだことを連絡しようと思いLINEを開くとちょうどそのタイミングでメッセージが届いていた。
差出人は千歌ちゃんだったので、ちょうどいいと思い内容を見てみると
『助けて!ラブラ…じゃなかった。徳丸さん!助けてください!部室が大変なことに!』
一ヶ月。長いようで短かったですね。私は元気でした。
変わったことと言えばシャドウバースとかいう新たなゲームにはまったことでしょうか。
お待たせして申し訳ありませんでした。なぁに。字数も減らしましたし次は早くあげれますよがっはっは。
…頑張ります。