うれしいことに二話までにUA1000を突破しました!
今回は割とシリアス回。彼方の過去が明らかになります。
ドキをむねむねしながら見てください。
~前回のあらすじ~
果南と曜と千歌の三人とエンカウトした彼方。お互いに自己紹介が済んだところで彼方に変態の称号が与えられた。ざまぁねぇぜ。
淡島で色々あって、そろそろ帰ろうと思っていた矢先、後ろから元気な声が聞こえた。
「おーい彼方くーん!一緒に帰ろー!」
このアホっぽい声は高海だ。間違いない!
「別に構わんぞー」
高海と渡辺が追い付いたところで再度歩き始めた。
「…ねぇ、さっきなんか失礼なこと考えられた気がするんだけど」
「………………さて、なんのことやら」
なぜ心を読んできた!?恐るべき高海。
「それより彼方君って学校どこに通うの?」
「どこってそりゃあ当然…」
…そうだ。これから生活する上で一番大切なことを聞き忘れていた。
「もしかして…聞いてなかったり?」
「…渡辺。俺はこれから通う学舎のことを聞き忘れていた…」
「ちなみに私達はあの丘にそびえ立つ浦の星女学院って所に通ってるんだ♪」
「へぇ…随分でかいな。ってそんなことより学校のこと聞かなくちゃ!」
とりあえずかよねぇに電話をかけた。
『もしもし彼方君?』
「あ、かよねぇ。東京出る前に聞くの忘れてたけどさ、俺の通う予定の学校ってどこ?」
『あぁ教えてなかったっけ?』
『かよちん意外と抜けてるにゃー』
「その声は凛さんですか?」
『だいせーいかーい!勇気凛々、星空凛だよ☆』
「…大学生になってそのキャラはキツいんじゃないでしょうか?」
『…うん。なんか急に恥ずかしくなってきた…』
じゃあやるなよ!という突っ込みはあえてしないでおいた。
「…ってそうだ!学校だよ!かよねぇ、俺は一体どこへ行けば!」
『彼方君落ち着いて…えっと名前はね…』
浦の星女学院高校
それが俺の第二の学舎の名前だった。
………うん。おかしいよね!?どう考えたって女子高だよね!?俺男だよ!?
「待て待て待て待て!なぜ俺が女子高に行くことになってるんだよ!?」
『それがね、なんかおばさんがそこの学校の理事長の母親と知り合いだったらしくて…』
「あー…ハイハイわかった、ちくしょうめ」
大方母さんの遺言書に書いてあったのだろう。
もし自分の身に何かあって彼方が学校へ行けなくなったら浦の星女学院高校に入れてください、みたいなことが。まったく、母さんってば何やってんだよ… でも学費とかって考えてたからタイミングとしてはちょうどいい。そういう事情があるんなら多少肩身が狭くても今は亡き母さんに感謝しないとね。
『じゃあそっちが少し落ち着いたら連絡ちょうだい。遊びにいくから』
「…まさか九人で?」
『もちろん♪』
「くるなあああああああ!」
そう叫び終わったあとはもう既に電話は切れていた。今の俺の家じゃとても九人なんて入んないぞ……
「…二人とも。ちょっとまずいことになった。」
「もう電話の時点で色々まずかったよね、千歌ちゃん」
「本当だよ!一体何回叫んでるの?」
「だああそれはいいから!…俺の第二の学舎はとある事情から女子高になった………らしい。非常に不本意ではあるが」
そりゃね?いくら事情があるからって女子高は無いだろ!って心の底から叫びたいよ。だって俺はちょっと思春期が遅れてやって来た健全なDKなんだよ?乙女の花園に野郎が一人って流石にまずいっしょ?ちなみにDKは男子高校生の略であって決してド○キーコングでは無い。
「…一体どんな事情があると男子が女子高にこれるんだろ」
「これがわからないのは千歌がバカだからじゃないよね?曜ちゃん。」
「大丈夫。私もさっぱりだから」
「その疑問自体に異論は無い。まぁ遅かれ早かれ話さないととは思っていたが…」
この話は出来ればしたくないけどそういうわけにもいかない。腹を括るしか無さそうだ。
「二人とも、今からちょっと長くて真面目な話するけど時間大丈夫?」
「まぁ私は大丈夫けど…」
「私は終バスまでに間に合えば大丈夫だよ」
「そうか…じゃあよく聞いててくれ」
「俺んちは母子家庭だったんだ。俺が三歳のときに親父と母さんが離婚してね。そこからは俺と母さんの二人暮らしだ。まあその話は追々するけど今はあんまり重要じゃないからはしょるよ。
俺が中3の時。学費で母さんに負担を掛けたくなかった俺は都立高校に入るために死ぬ気で勉強した。でも夏休みにアクシデント…とでも言おうか。それが起きたんだ。」
「アクシデント…?」
さっきまでの和気あいあいムードから一転、随分真面目な空気になった。むしろそっちの方がこっちとしては助かる。
「…母さんが悪性腫瘍――癌で倒れたんだ」
「「――――――っ!」」
「気付いた時にはもうあちこちに転移してて手のつけようが無かったらしい…」
「……そ、それで?」
…なんでかな、こうして話してるとだんだん止まらなくなる。どこかで落とし所を見つけなきゃ…
「母さんがさ、言ったんだよ。『抗がん剤なんて要らないし手術もしなくて良いからね』って。今の時代可能性は低くても癌は治せるんだ。その時の俺だって当然抗議したよ。理由もわからずに『なんでだよ!』って言いまくった。」
…いかん、目頭が熱くなってきちまった。これはマズイ、早く話を切り上げろと本能が告げるのに口は勝手に動く。
「…母さんが手術も治療もしない理由なんてただ一つだった。『あんたを高校と大学に入れなくちゃなんないのにこんなところで金使ってられるか!』って笑いながら言ってくれた。…嬉しかったよ。その言葉を聞いて何も言い返せなかった。」
前を向けば高海が顔をうつむかせ、渡辺が手で口を覆ってる。俺もそろそろヤバいかな…
「…結局、母さんは半年持たなかった。もっと長生きできたかもしれないのに、俺の事を優先させた結果死んでしまった。だから今の俺に家族と明言できる人は……っ、い、なくて…!」
そこが限界だった。結局俺は母さんが死んだことより一人になったことの方がよっぽど辛かったみたいだった。とんだ親不孝もんだな俺…
不意に、前から抱き締められた。俺が呆然としてるとその人物は一思いに叫んだ。
「一人なんかじゃない!江口くんは、彼方くんには私達がいる!」
グレーの髪の毛に少し残った潮の香り。渡辺だった。
「だからさ、もう我慢しなくていいんだよ。辛いときに泣くくらいさ、恥ずかしいことなんかじゃないと思うよ?」
「わた、なべ…?」
「私にはお母さんがいる。お父さんがいる。だからきっと彼方くんが背負ってきた痛みや辛さをわかってあげることは出来ない。軽はずみにわかってるなんて言えるはずがないもん…!でもね、その辛さや苦しみを聞いてあげることはできる!」
今度は右手が暖かくなるのを感じた。
「そうだよ!これから私たちは友達なんだから溜め込む必要なんてないんだから!」
あぁそうか…俺は溜め込んでいたのか。
母さん、俺はこれから強く生きていく。もちろん母さんの分までだ。だから今日は、今日だけは弱くても許してくれ。会ったばかりの、自己紹介だってしたばっかりの友達が抱き締めてくれてるからさ。
「渡辺、たか、み……俺は…俺はっ……うああああああああ!!」
辛かった。母さんを失った俺はひとりぼっちだと思ってた。苦しかった。恩返しすら出来てないのにのうのうと一人生きていく事が。母さんを俺という枷に縛ってしまっていたことが。
結局俺の胸のうちにくすぶっていた苦悩をこの二人は日が暮れるまで聞いて、あやして、抱き締めていてくれた。
彼方うらやましいですね。特に曜ちゃんに抱きしめられるとか俺氏が変わって欲しいまでである。
いずれ彼方を死ぬほど恥ずかしい目にあわせます(にっこり)